【#544】保護犬・保護猫の命をつなぐ。福祉と仕組みづくりで、寄付に頼らず築く持続可能な社会|CEO / 代表取締役 伊東 大輝(株式会社ANELLA Group)

株式会社ANELLA Group CEO / 代表取締役 伊東 大輝
株式会社ANELLA Groupは、寄付や募金に頼らずに保護犬・保護猫の命をつなぐ新しい仕組みを構築しています。保護活動と就労継続支援B型事業を掛け合わせ、動物と触れ合いながら働ける「保護シェルター兼/福祉型ふれあいカフェ」を全国に展開しています。寄付に依存しない持続可能な保護の形をどのように実現してきたのか、そして今後目指す社会の姿について、代表取締役の伊東大輝氏にお話を伺いました。
保護と福祉をつなぎ、命を守る仕組みをつくる
事業の内容をお聞かせください
保護犬・保護猫の命をつなぐ保護団体「ANELLA(アネラ)」を運営しています。私たちは寄付に頼らない持続可能な保護を目指しています。
また、ペット関連事業も幅広く展開しています。事業として利益を生み、その利益を医療費や保護活動費に充てることで、安定的に動物たちを守れる仕組みをつくっています。
さらに当社では、保護された犬や猫と触れ合える、ふれあいカフェ型シェルター「ANELLA CAFE」を全国に展開しており、動物たちとのふれあいの時間を提供しています。
また、すべての店舗で就労継続支援B型事業所を併設し、障がいのある方々が動物のお世話や接客業務に携わっており、社会進出のお手伝いをしています。犬や猫と過ごす時間がアニマルセラピーにもなり、福祉事業としての役割も果たしています。
保護する犬や猫たちは、保健所からの引き取り、一般家庭での飼育放棄、ブリーダー崩壊や多頭飼育崩壊、など、さまざまな事情を抱えています。全国に店舗があるため受け入れ体制も広く、フォロワー約8万人を超えるSNS発信を通じて、多くの方に活動を知っていただいています。これまでに3,000頭を超える犬猫たちが新しい家族のもとへ巣立ちました。
譲渡の流れは、来店での触れ合いやSNSでの出会いをきっかけに、公式LINEからの申し込み、社内審査、電話面談、そして店舗での譲渡面談と、丁寧なステップを踏みます。縁を逃すことのないように譲渡までの流れが厳しくなりすぎないように配慮しつつ、責任をもってお渡しする仕組みです。
譲渡後も定期的なオリジナルフードの配送、専属獣医師や専門チームによるサポートを行い、卒業した子たちのその後の暮らしを見守り続けています。

就労支援を取り入れたきっかけについて教えてください
私たちは、一般企業で働くことが難しい方々に、社会参加の一歩目として働く場を提供しています。多くの就労支援事業所では、作業単価が低いため、利用者様の工賃も上がりにくい現状があります。
精神的に負担を抱えた状態で、黙々と同じ軽作業を繰り返すのは大きな苦痛を伴うため、私はその仕組みにずっと違和感を持っていました。
そこで、犬や猫と一緒に働ける就労支援の仕組みをつくりました。動物のお世話やブラッシング、トリミングの補助、来店されたお客様への接客などに携わることで、犬や猫との時間がアニマルセラピーにもなりながら、仕事を覚えることが可能になります。
このモデルは他の就労支援事業と大きく異なります。そのため、従来の就労支援施設よりも数倍高い工賃を支払うことができ、国保連からの報酬も上がります。このようにして、結果的に、犬猫の医療費や活動費にもしっかりと還元できる好循環が生まれています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
もともとは飲食や不動産、シェアハウスの開発など、まったく異なる分野の仕事からの起業でしたが、転機となったのが、現在の妻との出会いです。
妻は15年以上前から保護犬・保護猫の活動を続けており、保健所からの引き取りやお世話ボランティア、看取りボランティアなど、長い間、小さな命と向き合っていました。その姿を見て衝撃を受けたのがきっかけです。
私は犬猫アレルギーがあるので、元々はペットショップで眺める以外に動物と関わることがありませんでした。しかし、皮膚病を抱える子や、生まれつき手足が不自由な子など、ペットショップでは出会えない命の現実を知り、何かできることはないかと思うようになりました。
最初は自宅で妻と数頭の保護を行っていましたが、より多くの命を救うため、2019年にトリミングサロン兼保護施設を立ち上げました。
ある時、ふれあいイベントを開催したところ、一千人を超える方が来場してくれました。そこに大きな手応えを感じたことで、ふれあいカフェを展開することを決めました。
活動を続ける中で偶然福祉業界のパイオニアのような方と出会い、日本では人口の約1割が何らかの障がいを持ちながら、一般企業で働けていない人がほとんどだという現実を知りました。
そこで、ふれあいカフェで働く場を提供してみたところ、驚くほど良い相性を見せました。障がいのある方々が動物のお世話や接客を通して働くことができ、同時に犬や猫との時間がアニマルセラピーにもなります。
保護活動としても福祉としても機能し、さらに事業としても自立できる、三方良し、四方良しの仕組みが生まれました。

救える命を一頭でも多く。信念を貫くスピード経営
仕事におけるこだわりを教えてください。
何事も早く動くことを意識しています。出店スピードもその一つで、通常20年かかるような全国展開を、わずか数年で実現しようとしています。
早いことが正義ではありませんが、時間をかける分だけ、その間にも救えない命が増えてしまいます。助けられる命を一頭でも多く救うために、スピード感を持って動くようにしています。
もう一つのこだわりは、犬や猫にとって本当に良いことを優先することです。全般的に犬や猫を扱う事業は、残念ながら手を抜くほど利益が出やすい構造があります。
安いフードを使えば原価が下がり、狭い空間に多く詰め込めば家賃も抑えられます。しかし、それでは動物たちもそこで働く人も幸せになれません。
当社では、全店舗に高品質な空間や空気清浄、消臭設備等を導入し、獣医師を社内に置き、さらにはフードも自社製の良質なものを提供しています。照明や床材、細かい備品まで、犬や猫、働く障がい者の方々全てが安心できる設計にこだわっています。
また、就労支援を利用する方々だけでなく、誰が見ても安心して働ける職場環境を整えることは、譲れない部分です。
起業から今までの最大の壁を教えてください
一番の壁は資金繰りでした。保護活動というのは、助ければ助けるほどコストがかかる構造です。ペットショップであれば1頭売るごとに利益が出ますが、私たちは売らないことに加え、更にその何倍もの医療費をかけて保護をしていますし、ANELLAでは寄付募金を受けていないので、1頭譲渡が決まるごとに赤字になっていきます。
今ではずっと模索してきた持続可能なビジネスモデルも確立し、外部資本も入り、ようやく安定してきましたが、これまでに何度も倒産の危機を経験しています。
また、犬や猫の生体管理はものすごく難しいです。中核メンバーは、獣医師よりも詳しいと言えるほど知識を積み重ねてきました。それでも正解はありません。常に仮説検証を続けています。
また、創業当初は人のマネジメントにも苦労しました。今では支えてくれるメンバーがたくさんいますが、当時は本当に手探りだったため、僕自身の経験不足や力不足ではありましたが社員やスタッフとのコミュニケーションにとても時間がかかり、大変だったことを覚えています。
全国1,000店舗を目指し、やると決めたらやり抜く
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
正直、モチベーションの概念はあまりありません。やると決めたことを、やるだけです。たとえば、100店舗を出すと決めたら、店舗を展開できる方法を探して確実に実行。
1店舗で20頭を引き受ければ、常時2,000頭の犬や猫を助けられる環境がつくれますし、全国の就労支援を必要とする障がいを持つ方々にも働く場所を提供できます。だからこそ一日でも早く実現したいです。
この事業は自分がやりたくてやっているので、モチベーションを保つという感覚はなく、常に全力で走り続けています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください
まず目指しているのは、ANELLA CAFEを全国に1,000店舗を展開することです。広告やメディア発信よりも、「圧倒的な店舗数」こそが、社会を変える最大のインフラになると思っています。
そうなれば、「保護犬って何?」という会話もきっと日本からなくなるはずです。
同時に、殺処分ゼロも目指していますが、それはゴールではなくスタートラインです。ゼロを実現できた先には、高齢になった犬や猫、飼い主を失った子たちのケア、そして支援が必要な子どもたちへの取り組みなど、次に向き合うべき課題がいくつもあると思っています。
そのためまずは、この仕組みを全国に広げることに全力を注いでいます。
「いつか」ではなく「今」動く
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
今すぐ始めるべきだと思います。お金を貯めてからやろうと思っても、簡単には貯まりません。例え100万円あっても実際はほとんど何もできないので、すぐ始めるスピードのほうが重要だと思います。
それから、経営の勉強は必須です。経営を体系的に学べる場は多くありませんが、本を読むこともできますし、今はChatGPTをはじめとした様々なツールもあります。
また、当たり前ですがお金の流れや数字の意味を自分で掴めるようになることが大切です。
私自身、もっと早く管理会計や財務を理解していれば、事業を軌道に乗せるスピードはもっと早かったと感じています。まずは全力で走りきることが大事だと思います。
フランチャイズ加盟店の募集についても教えてください
現在、フランチャイズ加盟店を拡大しています。加入にあたって特別な経験は必要ありません。この事業はしっかり利益も出ますが、大切なのは「保護犬・保護猫の現状を変えたい」という想いです。
何かしたいけれど方法がわからないと思う方にこそ、私たちの理念に共感いただき、ご加盟いただけたらと思っています。もちろん経営の視点も欠かせませんが、年齢や職業は問いません。興味をお持ちの方は、ぜひ一度お話しできたら嬉しいです。

本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:伊東 大輝 氏
1994年1月19日生まれ。東京都世田谷区出身、神奈川県鎌倉市育ち。曽祖父は日本画家の伊東深水。「テラスハウスseason1」に最後の加入メンバーとして出演。20代前半はプロウィンドサーファーとして世界中を旅する。現在はANELLA GroupとWAN TIMEの両社の代表として、累計譲渡数3,000頭(2025年時点)を誇る国内最大級の保護団体ANELLAを中核に、保護犬猫カフェ×福祉を複合した施設、「ANELLA CAFE」を全国展開(準備中含め約50店舗)、全席ペット同伴カフェや海沿いのドッグラン付きペットサロンなどを運営。
企業情報
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法人名 |
株式会社ANELLA Group |
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HP |
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設立 |
2017年11月 |
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事業内容 |
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