株式会社NaLaLys 代表取締役 長谷島 良治

株式会社NaLaLysは、不正調査の知見とAIでコンプライアンスの高度化と効率化を実現する企業です。社内のメールなどを自動分析し、不正行為や不適切行為の兆候を早期に検知します。文脈まで理解する高精度な分析で、予防的なコンプライアンス対応を可能にし、企業の不正リスク軽減に貢献しています。代表取締役の長谷島 良治氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

 

年々複雑化する企業のコンプライアンス管理を高度化・効率化

事業の内容をお聞かせください

プロダクトを通じてコンプライアンスの高度化と効率化を提供する事業を展開しています。

 

現在リリースしているのは、社内コミュニケーションを分析するモジュールです。メール、チャット、音声といった社内のやり取りを生成AIで分析し、不正行為や不適切行為を示唆する兆候を検知・検出します。具体的には、会計不正、ハラスメント、贈収賄といった事案を早期に発見することができます。

 

私たちが提供する価値は2つあります。

 

1つ目は「効率化」です。膨大なデータ量を短期間で処理し、さらに自動化することでお客様の業務負担を大幅に軽減します。

 

2つ目は「高度化」です。コンプライアンスやフォレンジックといった分野が、日本のビジネスに本格的に入ってきたのはここ10年ほどの話です。お客様も「何をすればいいかわからない」「これで十分なのか」といった悩みを抱えています。

 

情報があまり共有されない領域でもあり、ノウハウも蓄積されていません。そこで、私の前職での経験やノウハウをAIやプロダクトに落とし込んで提供することで、高度化も同時に実現しています。

 

具体的な支援の流れとしては、SaaSでツールを提供し、お客様にデータを投入いただくだけです。データの処理から分析まですべて私たちのシステムが自動的に行い、結果をそのままご覧いただけます。

 

お客様には、その結果を見て「これは問題がある」「これは大丈夫」といった最終確認をしていただくだけです。お客様側で複雑な作業をしていただく必要はなく、AIが自動的に処理を完結する仕組みになっています。

 

 

AIでコンプライアンス対応を行う利点は何ですか?

1つ目の大きな利点はAIを活用することで、社内に蓄積している大量のデータを処理できるようになったことです。

 

メールやチャットは従業員が日々使っており、何万件、何十万件、何百万件といったデータが飛び交っています。これを人の目でチェックするには、同じ規模の人員が必要になります。現実的ではありませんし、膨大な量のデータは人の手では処理できませんでした。

 

2つ目は、分析の精度が向上したことです。これまでデジタルで処理する場合、特定のキーワードがあるかないかといった単純な判定しかできませんでした。AIであれば、メールの本文全体を読んで文脈やニュアンスを理解し、「キーワードはないけれどこれはおかしい」「キーワードはあるけれど普通の会話だ」といった判断ができるようになりました。

 

3つ目は、プライバシーとセキュリティのバランスです。仮に人の手で処理できたとしても、仕事のメールとはいえ、人に見られるのは気持ちの良いものではありません。AIがリスクが高いものだけに絞り込んだ上で、最後に人の目で確認する。この仕組みであれば、問題のない行動をしている限り、人の目に触れることはありません。このバランスが取れるようになったことも、AIを活用する大きなメリットです。



私たちのツールは、人の仕事を奪うものではありません。限られた人数でどれだけのことができるかといった点で、レバレッジを効かせるために活用していただくものです。

 

どのような課題を持つ企業に導入されているのでしょうか?

企業が抱えている本質的な課題は2つです。1つは、コンプライアンス違反者を実際に見つけられる仕組みがないことです。

 

もう1つは、「違反があれば社内で発見できます」といった抑止のメッセージを社内に発信できないことです。

 

これまでのコンプライアンスは、ルールを定めて「守っていますか?」と確認するだけの世界でした。社内規定は存在しますが、実際に守られているかを確認する方法がありませんでした。だから不正が起こるのです。

 

「コンプライアンス疲れ」も、ここに原因があります。「守れ、守れ」と繰り返し言われる一方で、大半の人はすでにルールを守っています。100人中1人いるかいないかレベルで守らない人がいるだけなのに、守っている99人全員が厳しく管理され、研修を受けさせられる。守っている側も管理する側もハッピーではありません。

 

お客様の課題は「リスクの確率を少しでも下げたい」ということであり、私たちのソリューションは「その確率を確実に下げられる」というものです。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は前職で約10年間、不正調査に携わってきました。不正調査が行われると会社は大変な状況になりますが、対応に追われるのは不正を行った人ではなく、真面目に働いてきた人たちです。



証拠や資料の提出など膨大な対応を求められ、経営陣や行政からは厳しく追及されます。何も悪いことをしていない人たちが大変な目に遭うことに対して、おかしいと感じていました。

 

さらに、再発防止策としてルールが厳しくなりますが、不正を行った人はすでにいません。真面目に働いてきた人たちが、より厳しいルールの中で働きにくくなることに対し、ビジネス的にも理不尽だと思いました。

 

調査の過程でメールなどをチェックすると、多くの証拠が出てきます。しかも、昨日今日起きたものではなく、5年前、10年前のものです。お客様からは「もっと早くわかっていればこんなことにならなかったのに」といった相談を何度も受けました。

 

困っているお客様のために解決策を探しましたが、そのようなソリューションは存在しませんでした。ニーズはあるのに、サービスがない。これはビジネスになるのではないかと思ったのです。

 

そう考えている中で、生成AIが登場しました。AIを組み合わせれば解決できるのではと思ったのが、起業を決意した大きなきっかけです。

 

お客様の期待値を超えるのは当然のこと

仕事におけるこだわりを教えてください。

全力で取り組み、手を抜かないことです。強いこだわりであり、一緒に働くメンバーにも求めていることです。

 

そしてもう1つは、お客様の期待にしっかり応えることです。私たちはノウハウも含めてサービスを提供すると謳っています。それは、自分たちが満足するものではなく、お客様が満足するものを届けるということです。そこには全力で応えたいと思っています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

正直、壁を感じたことがありません。それには2つの理由があります。

 

1つ目は、ほとんどのことが想定の範囲内だったことです。社会人として様々な経験をしてきた中で、プロジェクトがうまくいかなかったり、取引が成立しないピンチもありました。起業する前からハードな経験もしてきたことで、起業してからも大概のことは「こんなものだろう」と思える範囲でした。



2つ目は、事前準備を徹底したことです。起業前に、起業した知り合いやスタートアップで働く人たちから失敗談を聞き、「こうすると失敗する」といった情報を集めていました。失敗を避けて準備できた点は大きかったと思います。

 

 

真面目に取り組む人が辛い思いをする現状を変える

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

「義憤」に近いものだと思っています。

 

前職で不正調査をしていた頃、その仕事が面白いと感じる一方で大きな矛盾を感じていました。会社の売上の大半は不正調査から生まれるため、業績が良いことは不正が多発したことを意味します。「不正を防ぎましょう」と言いながら、不正がなければ仕事がなくなる。この構造に違和感がありました。



そして何より、ルールを守って真面目に取り組んでいる人たちがいる一方で、一部の人たちが不正を行っていることに対し、「なぜ正々堂々とビジネスで勝負しないのか」といった、やり場のない苛立ちを感じていました。不合理さや不都合さに納得がいかないという思いが、大きなモチベーションになっています。

 

加えて、今も同じように悩んでいるお客様がいらっしゃいます。私の経験が力になれるのであれば、還元したいといった思いも強いです。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

現在リリースしているサービスは、1つのモジュールに過ぎません。私たちが目指しているのは、コンプライアンス部門の業務を包括的にサポートするプラットフォームの構築です。



コンプライアンス担当者が出社してログインし、退社時にログアウトするまでの間、全ての業務を私たちのプラットフォーム上で完結できる状態を実現したいと考えています。それが達成できて初めて、プロダクトとして完成したと言えるでしょう。

 

マーケットについては、日本国内はもちろんですが、コンプライアンスといった概念自体が海外から入ってきたものです。そのため、海外にも大きなポテンシャルがあると考えており、早い段階で展開を進めていく予定です。

 

実際、すでに日本企業の海外子会社から問い合わせもいただいています。現時点ではリソースの関係でお断りしていますが、お客様からのニーズを強く感じています。

 

成し遂げたい目的があるなら起業を

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私自身もまだまだ成長途中ですので、偉そうなことは言えませんが、起業は目的を実現するための一つの手段だと思っています。

 

起業は本当に大変なことが多いのですが、起業しないとできないこともあるのも事実です。大企業では、私たちが今取り組んでいることをすぐに始めるのは難しいでしょう。私も前職で挑戦しましたが、うまくいきませんでした。それで起業を選択したのです。

 

起業でしか実現できないことに出会ったなら、挑戦してみる価値はあります。起業はいつでもできると限らないので、できる時にチャレンジしてみるのも良いのではないでしょうか。

 

そして、起業で大切なのは事前準備をしっかり行うことです。ノリや勢いだけで始めるのではなく、色々な人の話を聞いたり、一緒に働くメンバーを集めたり、会社というものを理解しておくことも重要です。

 

私が今も事業を続けられているのは、起業前に大企業を経験し、良い部分は取り入れ、課題は工夫して改善しながら進めているからです。準備を全力で行うことで、成功の可能性は高まるでしょう。

 

貴社のサービスに興味がある企業へのメッセージをお願いします

現在、コンプライアンスに対する社会的な要求は高まり続けています。相次ぐ不祥事を背景に、ステークホルダーや行政からの規制は年々厳しくなっており、緩和されることはないでしょう。

 

「具体的に何をすべきか」「どこまで対応が必要か」といったお悩みに対し、私たちは豊富なノウハウを活かし、コンプライアンス体制を支援しています。

 

問題発生後の対応では、手遅れになることが大半です。一度起きた事実は取り消せず、発覚すれば企業の存続に関わる事態となり、リカバリーは非常に難しいです。

 

早め早めのの対策こそが、企業を守る方法になりますので、ご不明な点やお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:長谷島 良治

ルネサスエレクトロニクス株式会社の資材調達統括部を経て、2015年にPwCアドバイザリー合同会社のフォレンジック部門に入社。PwCアドバイザリーでは契約コンプライアンス監査、eDiscovery体制の構築支援、会計不正や品質不正に関する調査、入札に関わる談合・競争法違反等の調査において幅広い経験を有する。PwCアドバイザリー在職中に丸紅株式会社コンプライアンス統括部へ出向し、贈収賄防止の社内実務を経験。2023年にNaLaLysを設立し代表取締役に就任。

 

企業情報

法人名

株式会社NaLaLys

HP

https://www.nalalys.com/

設立

2023年1月6日

事業内容

  • 自然言語処理AI等の先端技術を応用したソフトウェア・ハードウェア・ネットワーク技術の研究、企画、開発、配信、管理、運営及び販売
  • 不正防止ソリューションの企画、開発、配信、管理、運営及び販売
  • コンプライアンス、ガバナンス、有事・危機対応、不正防止に関するコンサルティング業務
  • システム及びソフトウェアの開発受託
  • 前各号に付帯又は関連する一切の事業

 

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