【#554】地方路線の拡大で地方に人の流れを作る!地域と共創する新たな航空会社|代表取締役 白根清司(株式会社ジェイキャスエアウェイズ)

株式会社ジェイキャスエアウェイズ 代表取締役 白根清司
JAL出身で、運航部門の責任者としてスカイマークの立ち上げにも参加した白根清司氏。航空業界での長いキャリアを通じて、白根氏は地方路線の拡大による地域経済の発展を目指してきました。そのビジョン実現のために白根氏が新たに立ち上げたのが、2026年秋に就航を予定している株式会社ジェイキャスエアウェイズです。今回は白根氏に事業の展望や、進み続けるモチベーションについてお聞きしました。
小型の旅客機が、地方から地方への空路を実現
事業の内容をお聞かせください
地方路線に特化した航空事業を行っています。関西空港を起点として、まずは富山と米子へと移動する空路実現のために準備を進めています。
現在の日本社会が抱える問題の一つに、地方の移動が都心と比較して圧倒的に不便であるということが挙げられます。この「人の行き来ができない」という現状が、日本全体の発展を阻害しているのです。
例えば欧米では、まるでバスのような気軽な感覚で、地方から地方へと航空機で直接移動しています。ところが日本は地方同士を結ぶ空路が乏しく、多くの場合は一度東京の空港を介して目的地に向かわなくてはなりません。このような二度手間を無くせば、地方でも人の流れを作ることができ、経済が発展していくはずだという狙いがあります。
これまで、このような地方路線が日本で広まらなかった背景には、大都市の幹線で使用されるような大型機では座席が埋まらず、採算が合わなかったという問題がありました。
そこで我々の事業では、ATR 72-600という座席数70席程度の小型旅客機を採用しました。これは最新鋭のターボプロップ機で座席数は大型機の半分以下であり、さらに非常に燃費が良いのが特徴です。それだけ運用のコストが下げられますし、都心ほど乗客数が見込めない地方路線であっても、この機体なら搭乗率60%で採算がとれる計算になっています。
また、この機体は通常よりも低空を飛行するため、人間の身体への負担も少なくなります。さらに低空からの景色は見応えがあり、翼が窓よりも上に付いていて視界を遮るものもありません。乗客には、より価値の高い飛行体験を提供できるでしょう。
現時点では、ATR 72-600を操縦できるパイロットが国内に限られているという課題もありますが、我々が目指す航空事業を実現するためには、この機体はベストな選択肢であると考えています。
我々は大手航空会社と競合することはなく、地方路線の拡大で地域活性化につながる事業を手掛けていく予定です。それでいて既存の地域航空会社のように、自治体に紐付けられた組織ではありません。経営においても路線選定においても自由度が高く、柔軟に事業を展開していくことができます。
我々が経営の自由度を重視するのは、ただ「人を運ぶ」だけではなく、拠点となる各地域と強い結びつきをもって、一緒にその地域の活性化につながる新しい事業を手掛けていきたいと考えているからです。ジェイキャスエアウェイズでは、航空事業を通じて地域と共創していくという、航空会社の新しいスタイルを確立するつもりです。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は長年航空業界に身を置いてきました。かつては大手航空会社に勤めていましたし、独立後は20年近くコンサルタントとして活動して、複数の航空ベンチャーの立ち上げに携わった経験もあります。その経験の中でずっと感じていた業界に対する課題意識が、今の事業を始めようと考えた理由です。
私が勤めていたような大手航空会社は国際線が中心で、ジャンボジェットで大都会の幹線を中心に路線を組むのが一般的でした。その頃から私は地方路線こそが日本経済の発展の鍵だと考えていたので、独立後に新しい航空会社の立ち上げに関わったときには「今度こそ地方路線をやれる」と期待していました。しかし、実際にはそこでも私が目指していた地方路線は実現しませんでした。
結局のところ、都心の幹線で使用するような一つの機種を地方路線にそのまま持って行くと、どうやっても採算がとれないという問題に直面するのです。いくつもの会社立ち上げを支援してきたものの、地方の人の行き来がいつまでも実現できない状況を目の当たりにし、最終的には「自分でやるしかない」と考えて起業を決意しました。

航空会社としての原点「安全」を最重視
仕事におけるこだわりを教えてください。
航空事業を手掛ける者として、何よりも「安全」を最優先に考えています。
私は若い頃に御巣鷹山の事故直後の現場に立ち会い、そのときのショックは未だに尾を引いています。こうした事故というのは本当に悲惨なもので、間違っても自分が引き起こしてはいけないという強い思いがあります。
やはり航空会社の原点は「安全」です。そのため、この意識は全社に徹底していきたいと考えています。まずは合宿形式で安全研修を行う予定です。会社としての行動指針について、皆で策定していくワークショップも実施しようと思っています。
弊社は新規の航空会社ですから、様々なバックグラウンドを持った人々が集まっています。研修などの取り組みにより、「安全」という共通の軸を作り上げるのが狙いです。
まだ本格的な運航を開始する前ですが、今の準備段階から組織全体に安全文化を根付かせておきたいと思います。
起業から今までの最大の壁を教えてください
起業においては「壁」という言葉よりも、乗り越えていくべき対象である「ハードル」という表現のほうが適切だと考えています。事業を立ち上げると、次から次へと新たな課題が生まれるものです。それらをハードルと捉え、一つひとつ乗り越えていく姿勢が求められます。
これまでに直面している課題は、大きく分けて「人材確保」「機体の手配」「資金調達」の3つです。その中でも特に人材の確保がハードルとして高く感じられました。
現在は航空業界全体で人材不足の問題を抱えています。そのためどうしても年輩の方や他の会社で長い経験のある方にお願いせざるを得ませんが、若い人たちを増やしていかなくては事業は継続できません。会社は人が財産です。今後はもっと若い人たちに入ってきてもらえるよう、事業の意義を積極的に伝えていきたいと思っています。
事業立ち上げの当初は、機体をいかに確保するかが大きな課題でした。機体はリース会社との交渉によって調達するのですが、そこで問われるのが「会社としての信用」です。つまり、相手側にとってこの取引が投資として成立すると判断してもらう必要があります。しかし国土交通省の許可を得ておらず、資金面も不十分な状況だったため、リース会社に相手にしてもらうことすら難しく、非常に苦労しました。
それでも諦めずに複数のリース会社と交渉を重ねた結果、日本市場への進出を検討していた会社と偶然出会うことができ、昨年11月に無事契約を結ぶに至りました。とはいえ、現在も許可はまだ得られておらず、資金面の課題も続いています。この取り組みは、道半ばだと捉えています。
そして3つ目のハードルとして取り組んでいるのが、資金面の問題です。人材や機体を確保するうえでも資金は重要ですし、これはベンチャー企業として避けては通れないハードルです。
ベンチャーキャピタルや投資家の方々には、弊社の事業を面白い投資先だと興味を持っていただければ嬉しく思います。IT産業のように株価がいきなり急上昇する分野ではありませんが、日本経済の発展に大いに貢献する事業です。そのため、ぜひ長期的な目線で投資をご検討いただけますと幸いです。

「自分の人生を賭けた仕事」という意識
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
自分の人生を賭けた仕事だという意識が根底にあるからです。だからこそ、目の前にいくつものハードルが現れてもひるまず進み続けられるのです。
私が今の事業を立ち上げたときにはもう60歳を過ぎていて、決して若くありませんでした。それでも、長年取り組んできた地方路線実現の夢と、それによる地域の発展という事業を完成させなくては死んでも死にきれない思いがあります。私はその思いに支えられて、今も仕事に取り組んでいます。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
今の段階で最も大切なのは、まず無事に就航することです。これが当面の第一目標であり、すべてはその先の話になります。
中期的な目標としては、5年間で15路線・7機体制という事業計画を立てています。毎年1機ずつ機体を増やしていく計算で、それに伴ってパイロットの確保はもちろんのこと、必要なリソースを段階的に整えていく必要があります。こうした体制の拡充を、次なる重要なステップとして位置づけています。
最終的に我々が目指しているのは、「日本のどこにいても、目指す目的地に3時間で行ける路線網」を構築することです。3時間という目安は、空港までの移動やチェックインに1時間、フライトに1時間半から2時間と想定して算出したものです。
こうした路線網を整備することで、欧米のように国内を気軽に航空機で移動できる社会の実現を目指しています。

継続こそが力、信じてやり抜く
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
大切なのは、決して諦めないことだとお伝えしたいです。
どこかで諦めてしまえば、それまで積み重ねてきた努力が、すべて途絶えてしまいます。特にベンチャー企業にとっては「継続こそが力」です。やり続けていれば、いつか必ず、明るい兆しや可能性が見えてくると信じています。これから起業を目指す皆さんにも、ぜひその思いを胸に、信じてやり抜いていただきたいと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:白根清司 氏
JAL出身。運航技術部にてDC10の導入準備からキャリアをスタートし、DC8、767、747のパイロット関連規程設定に携わる。新運航方式であるカテゴリーIII運航の導入時には、航空局のサーキュラー策定プロジェクトに参加。その他、2エンジン機の洋上飛行を可能とするETOPSの導入を実現。30代後半には747-400導入準備のため、ボーイング社に出向し、コックピット設計に従事。帰国後、運航技術部においてマニュアル作成システムを導入し、いち早くIT化を推進。その後、技術部時代は整備関連規程設定に従事。40代後半にスカイマーク立ち上げに参加し、運航部門責任者として就航を実現。この経験を活かし、2017年より地域を結ぶ航空会社の立ち上げを開始し、現在に至る。
企業情報
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法人名 |
株式会社ジェイキャスエアウェイズ |
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HP |
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設立 |
2023年6月21日 |
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事業内容 |
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沿革 |
2023年6月 当社設立 2024年9月 プレシリーズAラウンドにて3億円の資金調達を公表 2024年11月 同ラウンドにて追加で2億円の資金調達を公表 2024年11月 機体リースに関する正式契約を締結 2025年11月 プレシリーズAラウンドにてさらに4億円の資金調達を公表 |
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