【#558】2500人超の候補者から選抜。食品業界専門の外国人材採用プラットフォームで現場の人手不足を解決|代表取締役 井潟百之威(株式会社スキルディッシュ)

株式会社スキルディッシュ 代表取締役 井潟百之威
株式会社スキルディッシュが手掛けるのは、食品業界に特化した特定技能外国人材の採用プラットフォーム『SkillDish』の開発・運営です。代表取締役の井潟百之威さんは大手食品メーカーに在籍中、食品業界の人手不足や外国人材の定着といった問題を目の当たりにし、起業を決意。「食品企業と外国人材、弊社が一致団結して日本の食品産業の魅力を向上させることが目標」と語る井潟さんに事業への思いや今後の展望を伺いました。
特定技能外国人材とのベストマッチで人手不足課題を解決
事業の内容をお聞かせください
弊社は、食品業界に特化した特定技能外国人材の採用プラットフォーム『SkillDish』により、日本全国の食品企業の人手不足を解決する事業を展開しています。
特定技能とは、国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野において一定の専門性・技能を有する外国人材を受入れることを目的とする制度です。日本人と同様の雇用体系で、現場での幅広い業務にフルタイムで従事することができる特徴があります。
国内の人口減少および少子高齢化による食品業界の人手不足に対応するため、政府は2028年度末までに飲食料品製造業で13万9000人、外食業で5万3000人の特定技能外国人材の受け入れを予定しています。
しかし既存の採用構造では、多くの食品企業が求職者の「数・能力・定着率」に課題を抱えています。企業1社がリーチできる食品業界で働きたい特定技能外国人材の割合は全体の13%に留まり、入社3年以内の離職率は38%に上ります。
特に地方中小企業は「少ない候補数から採用せざるを得ない」「食品教育が不十分で就業後に自社で教育が必要」「雇用条件が正しく伝わっておらずトラブルになり離職する」といった課題に直面し、自社に適した人材を雇用できていないのが現状です。
これら課題に対し、『SkillDish』は求人から就労までの採用プロセスをDX化することで、採用手段が乏しかった地方中小企業も自社に適した人材を採用できるようにします。さらに、食品業界特有の雇用条件を求職者に的確に伝えられる機能設計と入国前教育により採用後のミスマッチを防止して、長期雇用を実現することで課題を解決していきます。
なぜ『SkillDish』ならば、課題を解決できるのでしょうか?
『SkillDish』は、雇用企業が自社に適した特定技能外国人材と繋がれない課題を、下記3点を実現することで解決しています。
①【地方中小企業も採用可能】
既存の採用構造では、人材会社が対面で求職者を紹介するため、離島を含む僻地に拠点がある地方企業は限られた求職者からしか採用できませんでした。それに対し、本プラットフォームでは雇用企業と求職者がオンラインで繋がるため、世界中の求職者を対象に採用活動ができるようになります。
さらに、外国人専門の支援機関とも連携しており、雇用した人材の定着に不安を抱える中小企業も利用できます。
②【食品業界専門の機能設計】
特定技能は16分野に渡りますが、従来の人材会社は全ての分野の求人を幅広く扱うため、食品業界特有の雇用条件である季節労働、月別残業時間、就労現場の室温、日本語での接客頻度など、求職者が知りたい情報を十分に伝えきれません。
飲食料品製造業と外食業の2分野を専門とする本プラットフォームは、企業が項目に沿って求人を入力するだけで雇用条件を漏れなく開示できるよう設計しています。これにより、認識不一致による早期離職を防いで長期雇用を実現しています
③【人材候補の選抜性】
海外在住の求職者は現地の教育機関で就労分野ごとの教育を受けたのちに求職活動を行いますが、各会社によって食品分野の教育が得意だったり、介護分野の教育が得意だったりします。そこで、本プラットフォームを利用できる求職者は、弊社が現地へ赴いて運営体制を審査した教育機関経由に限定しています。
これにより、食品分野の教育を適切に受けた人材のみが候補となるため、雇用企業は現地に赴かなくてもオンラインで安心して採用活動を行えるのです。
さらに、本プラットフォームから採用された人材は「食」に関する知識や経験を有しているため、グローバルなトレンド把握により自社製品の海外展開の一助となったり、接客やメニュー開発面でインバウンド対応の一助となったりと付加価値も見込まれています。
2024年10月のサービス提供開始以降、順調に規模を拡大し、現在では5ヶ国2,500人以上の日本の食品業界で働きたい特定技能外国人材が求職者として登録しています。既に都市部・地方ともに活用実績があり、採用した食品企業からはここまで食品に理解が深く、日本語力が高い人材は初めてだと好評を頂いています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は大手食品メーカーでキャリアをスタートし、国内外で製造工場の管理や製品販売に携わってきました。その中で直面したのが先ほど申し上げた、食品業界における人手不足と外国人材の定着の問題です。食品企業が外国人材の採用を行う際に、なかなか採用したい求職者に出会えなかったり、採用してもすぐに辞めてしまったりする場面に遭遇しました。
繁忙期などはバイトアプリを使って一時的に人を確保する食品企業もありますが、一時しのぎにすぎません。地方になると、時給を上げても人が集まらないこともあります。
この現状を改善すべく、「飲食料品製造業」と「外食業」の食品2分野を専門とした特定技能外国人材の採用プラットフォーム『SkillDish』を開発・運営するに至りました。
食品業界にこだわり、業界ニーズに寄り添う
仕事におけるこだわりを教えてください。
大切にしているのは、採用する企業側にも就労する外国人側にも使いやすいサービスであることです。誰にとっても負担が少なく、ミスマッチの起こらない仕組みという視点から逆算して、サービスを構築しています。
たとえば、収益性だけを考えれば、特定技能16分野すべてを対象にしたほうが市場は広がります。しかし、食品企業からは特化したサービスの方が使いやすいとの声が多く寄せられます。
そして、特化したサービスをつくるには、食品業界の現場の仕組みを理解している人間が設計しなければ成立しません。その期待に応えられるよう、弊社は食品分野に焦点を絞り、一点突破の戦略でサービスを展開しています。
競合企業は存在しますが、いずれも部分的です。食品業界に特化し、特定技能人材の採用から定着支援に至るまでをプラットフォームで一貫して行えることは弊社の唯一無二の強みです。
食品領域でのトップシェアという目標を掲げ、これからも業界のニーズに寄り添いながら価値を提供し続けていきたいと考えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
会社員時代にも役割や責任はありましたが、最終的には会社の看板があり、業績がともなえば評価していただける環境でした。
一方、起業はまったく異なります。サービスづくりから認知拡大まで、すべてをゼロから自分で築いていく必要があります。
とくに、食品業界の方々に『SkillDish』を知ってもらい、使っていただくことが重要であり、それがもっとも難しい部分です。今もなお、これは大きな課題であり、向き合い続けている壁だと感じています。

人の人生に直接影響する仕事だからこそ
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
自分が立ち上げたサービスを使ってくれる人がいて、それが社会の役に立っていると実感できることが、私にとって最大のモチベーションです。
弊社の事業は採用に関わる領域ですから、利用してくれる方々の人生に直接影響します。
たとえば、食品工場の事業拡大を目指したいという企業経営者のもとに、よい人材が集まれば、会社や地域に活力が生まれます。将来母国で寿司店を開きたいという外国人材が、日本の水産加工の現場でキャリアを積むことができれば夢の実現が近づきます。
私たちのサービスを通じて、理想の人生をつかむことができたなら、それほど嬉しいことはありません。こうした価値を今後も創出し続けることが、事業の成長につながりますし、社会がいい方向に向かうカギだと感じています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
私たちの事業は「社会課題を解決する」という使命からスタートしました。だからこそ、課題が解消されるまで、事業を着実に成長させ続ける責任があります。
現在は、特定技能で日本に来る外国人材の8〜9割を占める5か国(ベトナム・インドネシア・ミャンマー・カンボジア・ネパール)を対象としています。今後も情勢の変化にあわせ、インドやバングラデシュなどニーズが高まる国への展開も視野に入れていきたいです。
さらに、民間企業はもちろん、地方自治体との連携も強化したいと考えています。地方では、地元企業の人材確保と地域活性化が大きなテーマです。採用から定着、その後のフォローまで一貫して支援できれば、企業・人材・地域がともに発展できます。行政としてもメリットが大きく、こうした取り組みを共に進められるパートナーシップを築いていきたいと考えています。
また、たとえばですが、外国人材を雇用する食品企業が将来海外に進出するとなったとき、日本で技能を磨いた外国人材が現地でパートナーとなり力を発揮してくれる可能性は十分にあります。将来的には、次のステップにいったときにも弊社がお手伝いできるような循環型のモデルを築きたいです。

アンテナを張り、起業のベストタイミングをつかむ
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
これから起業を考えている方には、「急ぐ必要はないけれど、タイミングを大切に」とお伝えしたいです。
私の場合、会社員として働きながら国内外の状況を見極め、今が最適なタイミングだと判断して起業に踏み切りました。特定技能外国人材の事業は、10年前では早すぎたでしょうし、10年後であれば遅いはずです。
起業を視野に入れるならば、自分が本当にやりたいことは何か、どこに勝ち筋があるのかにアンテナを張り続けることが重要です。そして、「ここだ」と感じる瞬間が訪れたときに、まずは一歩を踏み出すことがいちばん望ましい形だと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:井潟 百之威 氏
東京海洋大学を卒業後、株式会社ニッスイに新卒入社。
食品事業部門にて国内外での製造工場マネジメントや製品販売に携わる中で、日本の飲食料品製造業・外食業の深刻な人手不足課題を実感。
2024年6月:株式会社スキルディッシュを設立。
2024年10月:食品業界に特化した特定技能外国人材の採用プラットフォーム『SkillDish』を開発・運営開始。
2024年11月:全国47都道府県へサービス展開拡大。
2025年2月:農林水産省フードテック官民協議会主催「令和6年度フードテックビジネスコンテスト」ビジネス部門本選選出。
2025年3月:埼玉りそな銀行等主催「埼玉リーディングカンパニーと共に創る「食」のビジネスコンテスト」優秀賞受賞。
2025年6月:『SkillDish』に登録する「日本の食品業界で働きたい候補者」が2,500人を突破。
企業情報
|
法人名 |
株式会社スキルディッシュ |
|
HP |
|
|
設立 |
2024年06月 |
|
事業内容 |
|
関連記事
RANKING 注目記事ランキング
- 【#337】電話・LINEの常識を覆すテキスト通話アプリ「Jiffcy」世界150 カ国以上に広がる次世代コミュニケーション|代表取締役社長 西村 成城(株式会社穴熊)起業家インタビューインタビュー

- 【#122】栄養の専門家にスポットライトを当てる|代表取締役 福澤 龍人(株式会社Nwith)起業家インタビューインタビュー

- 【#368】"Made in Japan"に新価値を。伝統工芸×デジタルで切り拓く世界市場|代表取締役CEO 五十嵐 勇(物語運輸株式会社)起業家インタビューインタビュー

- 【#468】意見が政策につながる社会へ。市民参加型SNSと自治体向けAIで「デジタル民主主義」を推進|代表 伊藤あやめ/谷口野乃花(Polimill株式会社)起業家インタビューインタビュー

- 【#552】「楽しい」が人を成長させる。組織に一体感を生む体験型研修を提供|取締役 相川 達也(株式会社Qand)起業家インタビューインタビュー
