株式会社MATCHA 代表取締役 青木 優

日本に訪れる観光客向けに、日本各地の文化の魅力を発信するメディアプラットフォーム「MATCHA」。運営元の株式会社MATCHAでは、ただ情報を発信するだけでなく、インバウンドに期待をかける各地の自治体や企業へのマーケティング支援も行っています。今回は代表取締役の青木優氏に、事業を始めた経緯や仕事へのこだわりについてお聞きしました。

 

海外向けメディアによる情報発信と、インバウンドのマーケティング支援

事業の内容をお聞かせください

弊社には大きく2つの事業があります。1つが訪日観光客向けのメディアプラットフォーム「MATCHA」の運営、そしてもう1つが自治体や企業向けのインバウンドのマーケティング支援です。

 

まず「MATCHA」は、10カ国語に対応した多言語のメディアプラットフォームで、各国の傾向に合わせてコンテンツを発信しています。弊社は従業員やライターに外国籍の人材も多く、海外の読者目線でコンテンツを作成していることが強みです。

 

さらに「MATCHA Contents Manager」という、各地の自治体や企業の方々が自由にコンテンツを投稿できるサービスがあり、我々だけでは収集しきれない地元ならではの情報や魅力が集まってくる仕組みになっています。

 

現在、「MATCHA」は世界各国から月間最大340万人以上が訪れる、日本最大級のインバウンドメディアに成長しました。

 

そして、もう1つが企業・自治体向けの、海外の観光客の方々に対するマーケティングに関する支援を行っています。

 

まずは顧客の現状を現地での生の声やデータから分析し、それに即したターゲットや訴求価値を決定、そしてプロモーション方法を確定していきます。こうした流れ自体は対日本人のマーケティングと同じですが、海外の方をターゲットにできるのが我々の強みです。

 

たとえば、ただ「台湾の人向けにインスタで発信する」だけでは、インバウンドの成果は期待できません。具体的に台湾のどの層に向けて、どの施設の魅力を訴え、実際に来訪したときのアクションを設計していく必要があります。

 

このとき、各国の観光客の嗜好や特性を理解している我々のノウハウが効果を発揮します。

 

また、今はオーバーツーリズムが問題になっている地域もありますが、観光業は本来それぞれの地域のためにあるものです。観光客が増えれば地域社会の経済が潤い、雇用が生まれ、結果としてその地域が持続していく未来につながります。

 

そうしたインバウンドの効果についてお伝えしていくのも、我々の重要な役割だと認識しています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は大学のときに、国際日本学部に在籍しており、ある時教授から日本の文化は世界で流行しているのに、ビジネスにつながっていない現状を聞き、「これはチャンスだ」と感じました。

 

そこでこのビジネスチャンスを探ることを旅の軸に、世界一周をすることを決めました。

 

実際に自分の目で様々な国を見てみると、日本は世界で受け入れられているのに、日本人がその状況をビジネスに活かせていないということを強く実感できました。

 

そこで旅から戻った後に、今度は国内のあらゆる場所を巡って、日本の魅力を探ってみることにしました。そうすると、全国各地で、まだ自分が気づいていなかった日本特有の素晴らしさを見つけることができました。

 

日本は、接客やサービスのクオリティ、美味しい日本食、温泉や銭湯などが注目されています。私はそれらも含めて、日本の魅力を抽象的に表現すると「心身が安らぐ」ということだと思っています。

 

私は、自分自身がこれらに関与することで、これらの魅力的な日本文化の数々を後世に残していきたいと思いました。さらに、これから日本を訪れる世界中の人に適切に情報を届けることも重要であると考えました。

 

特にこれからインバウンドが盛り上がっていくことには確信がありました。そのため、このビジョンは必ずビジネスになるはずだと考え、今の「MATCHA」の事業立ち上げを決意しました。

あえて仕事とプライベートに境界線を引かない

仕事におけるこだわりを教えてください。

我々の事業は紛れもない観光業です。ただ、従来の観光業界に囚われることなく、もっと広く日本全体を見て、その魅力を引き出していきたいと考えています。

 

観光業界というと大手旅行会社や航空会社などのイメージが先立つと思いますが、世界の人々から見ると、日本にはもっと豊かな価値があります。

 

たとえば漫画やアニメのような知的財産など、我々日本人が日常の中で当たり前に触れている娯楽や文化が、海外の人にとっては非常に魅力的なのです。そうした価値を組み合わせて、新たな観光業に取り組んでいきたいというのが、私の仕事の軸になっています。

 

そのためには、仕事とプライベートに区切りをつけないことも大切だと思っています。遊びに行った先で誰かと親しくなって仕事につながったり、反対に仕事だと思って取り組んでいたことが、自分の人生そのものを豊かにしてくれたりするケースもあります。

 

社内のメンバーにも、そうした活動で養われる原体験を大切にしてほしいと伝えています。ニュースで見聞きしたことは単なる事実でしかありません。一方で、目の前の旅行者の人が困っていれば、その人に喜んでもらいたいというエネルギーが湧いてきて、そのために何をすればいいか自発的に考えるようになります。

 

そうした経験を多く積めるように、現場を大切にしてほしいということは、日頃から社内で話すよう心がけています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

一番苦しかったのは、やはり新型コロナウイルスの感染拡大のときでした。

 

我々の事業の意義は旅行者に情報を提供することです。その旅行者がゼロになってしまったので、事業そのものの価値もなくなってしまう恐れがありました。

 

実際にアクセスも売り上げも半分ほどに減少し、この時期は、経営面だけでなく、精神面でも大変でした。

 

しかしどんなに苦しくても、とにかく今やれることをやろうと考え、行動し続けました。コロナの脅威が過ぎ去った後には、もっと海外の旅行者を受け入れようとする流れが必ず来ると確信していたため、自治体や企業向けに情報発信のためのプラットフォームの開発も始めていました。

 

色々と手を尽くすなかで幾つもの学びがありましたが、特に強く感じたのが自分たちだけで頑張らないのが大事だということでした。

 

この時期にインバウンドに関係する人たちのオンラインコミュニティを立ち上げたのですが、約4,000人もの人が集まってくれました。

 

そのコミュニティがきっかけとなって、観光のサミットやカンファレンスも開催されました。多様な意見を交換し、アイデアが生まれる中で、観光というものの幅が大きく広がったと感じました。

 

それもすべて我々だけでなく、色々な人と企業が集まったからこそ実現できたと思っています。苦しい時期でも、他の人たちと手を携えて諦めなければ、必ず道は開けるということを再確認できました。

このビジョンを実現してみたいという、好奇心

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

一番は、私自身の好奇心だと思います。我々は、「日本の価値ある文化が、時代と共に残り続ける世界に。」というビジョンを掲げていますが、それを自分の手で実現してみたいという好奇心に動かされて、ここまでやってこれました。

 

加えて、メディアの読者や地域の事業者の方はもちろん、社内のメンバーも含めた、「MATCHA」の事業に関わってくれた人が喜んでくれる瞬間というのが、私のやりがいになっています。

 

事業に取り組むうえで、「MATCHA」を支えてくれる、それらすべての人の存在は私にとって非常に大きいと思っています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

まずはもっと「MATCHA」が旅行者に使ってもらえるようにし、ナンバーワンのインバウンドプラットフォームとして認知されるようにしていきたいです。

 

目指すのは、単純にWebサイトとしてのアクセス数を増やすというよりも、1人の旅行者に対する「MATCHA」の関与度を、もっと深めることです。

 

「日本に行くなら『MATCHA』だよね」と言われるようなブランドを確立し、それによって日本が好きになったと言われるような価値を創出していきたいです。

 

それと並行して、ただのメディアによる情報発信だけではなく、我々にもしっかりと利益が還元されるような仕組みを強化していきたいと思っています。

マーケットの中でのプロダクトアウト

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

事業のテーマを決めるときには、「これからの時代の方向性」と「自分がやりたいこと」という2つの線が重なるところを見定めるのがいいと思います。

 

今の時代は、市場や顧客ニーズのマーケットインを事業にフィットさせていくのが基本です。自分が好きな仕事でも、人が求めていなければただの趣味になってしまいます。

 

しかし、自分の好きなことであれば、何度でも考え続けられて、挑戦できます。好きな仕事に本気で取り組んでいれば、周りの人にもポジティブなエネルギーを感じてもらえて、人が集まってくるでしょう。

 

ですので常に私自身も、時代の方向性を見定めようとしながら、その中で自分が本当にやりたいことは何かと問い続け、その2つが重なるところはどこか常に考えています。

 

起業に関してはやってみないと分からないことだらけですから、これから事業を立ち上げようとしている人は、早く何か1つでも形にすることが大切だと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:青木 優

明治大学国際日本学部卒。大学在学中に1年間休学をし、世界一周の旅に出る。2012年ドーハ国際ブックフェアーの運営に従事。大学卒業後、デジタルエージェンシー augment5 Inc.に所属。2013年に株式会社MATCHAを設立し、代表取締役社長に就任。

 

企業情報

 

法人名

株式会社MATCHA

HP

https://company.matcha-jp.com/

設立

2013年12月3日

事業内容

訪日外国人向けメディアを起点としたインバウンド支援サービス

訪日・在日外国人向けインバウンドメディア「MATCHA」の運営

 

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