株式会社MEME 代表取締役 齋藤 舞

株式会社MEMEが提供する「スクペイ」は、現金での集金や口座振替に代わる新しい仕組みとして注目を集めています。代表取締役の齋藤舞氏は、教育現場のリアルな課題に向き合いながら、社会全体の仕組みを変える挑戦を続けています。今回は、スクペイ誕生の背景や事業に込めた想い、そして今後の展望についてお話を伺いました。

お金の学びを家庭から学校へ。学校の集金課題を解決

事業の内容をお聞かせください

学校向けの集金サービス「スクペイ」を主軸に事業を展開しています。

 

もともとは親子向けの金融教育アプリ「manimo(マニモ)」を開発しており、親が自分の口座から子どもにお小遣いを送る機能を提供していました。

 

その仕組みを応用し、親の口座から学校への集金に特化したサービスとして誕生したのがスクペイです。システムの基盤は共通していますが、提供先と利用目的を教育機関向けに最適化した点が大きな違いです。

 

スクペイは主に公立の小・中学校に導入いただいています。教職員が集金管理を行い、保護者は支払い時に専用のアカウントを登録して利用します。

 

これまで学校での集金業務は現金が中心で、当社の調査では約7割の学校が現金での徴収を行っていました。口座振替を導入している学校もありますが、保護者が特定の銀行口座を開設し、印鑑照合を経て学校が手作業で確認するなど、手続きの煩雑さが課題でした。

 

しかし、スクペイを導入することで、こうした手続きがアプリ上で完結します。料金体系は主に学校単位の年間利用契約としており、公立・私立によって条件を調整しています。学校側が予算を組みやすいよう、年単位での導入を基本としています。

 

学校現場では、年間を通して十数回にわたる集金が発生します。中には一度の集金で数百万円単位の現金を扱うこともあり、紛失や誤差といったリスクが潜んでいました。スクペイは、そうしたリスクを根本から解消し、安心・安全な集金環境を提供しています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

思い返すと、原点は幼少期からあったと思います。

 

中学生のときにカナダへホームステイをした際、安全のために親からトラベラーズチェックを持たされていました。現地では想定外のトラブルがあり、滞在中の食事や送迎が提供されないことがありました。

 

限られた現金とトラベラーズチェックで1か月をやりくりする中で、お金の管理の大切さを痛感しました。当時クレジットカードさえ使えれば、安心して過ごせたかもしれません。しかし、現金を自分で管理し、やり遂げた経験が金融リテラシーの芽生えにつながりました。

 

その後、社会人となり親となった今、改めてお金と向き合う力の重要性を感じました。子どもたちには、自分のように苦労しなくて済む金融教育を届けたい。そうした想いが、起業のきっかけになりました。

 

最初の事業はコロナ禍で一度断念してしまいましたが、その後にテクノロジーを活用して家庭の中で完結できる教育方法を模索しました。それがmanimoを創業したきっかけです。

 

スクペイは、manimoを利用する保護者の方から学校の集金などのキャッシュレス化にも対応してほしいという声を多くいただいたことがきっかけでした。同時に、学校での出前授業を通じて教職員の方々からも、「親から子へ、子から学校へとつながる仕組みがほしい」という意見を伺いました。

 

家庭と学校、双方の課題をつなぐ形でスクペイの開発に踏み切りました。

 

もともと、学生の頃から起業したい思いはありました。両親も事業を営んでおり、身近に経営者が多かったことからも影響を受けていたと思います。

 

また、結婚や出産を経ても、家庭と仕事のどちらかを選ぶのではなく、両立できる環境を自らつくりたいという想いが、起業を通じて実現したい社会の姿につながっています。

 

 

ギブの精神で、教育現場の課題に向き合い続ける

仕事におけるこだわりを教えてください。

当社のバリューにもなっている「Be a giver」という考え方です。与え続けることをカルチャーとして捉えており、私自身もこの価値観を最も大切にしています。

 

目先の利益を追うのではなく、まずは誰かに価値を与え続けることを重要視します。その積み重ねが結果的に信頼を生み、自然と返ってくる環境こそ、理想のビジネスのあり方だと考えています。

 

教育や学校の現場には、私自身ができる限り足を運び、課題やサービスの使い心地を直接ヒアリングしています。社員に対しても、必ず現場を見ることを伝えており、これが当社の一貫した考え方になっています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

大きく二つあります。

 

一つ目は、最初に手がけたtoC向けサービスでの課題です。私自身、直接的に顧客へ価値を届けたい思いが強く、子育て世帯や保護者、子どもたちを対象としたサービスを立ち上げました。

 

しかし、限られた資金の中で認知拡大や顧客獲得を進めるのは容易ではなく、大きな壁となりました。

 

二つ目は、現在取り組んでいる教育分野そのものへの社会的理解です。少子高齢化が進む中で、子ども向け市場は縮小していくと見られがちで、投資対象として理解を得ることに苦戦しています。だからこそ、デジタル化やAIの推進を通じて、新しい価値を生み出す余地があると考えています。

 

また、toC向けの事業もまだ諦めていません。スクペイは現在約18万人の方にご利用いただいており、この基盤を生かしてtoC事業の展開にも挑戦を続けています。

 

全国の学校や保護者との関わりの中で見えてきた課題に向き合いながら、新しい価値をエンドユーザーに届けられるよう取り組んでいます。

 

 

人との出会いを原動力に、教育の未来を切り拓く

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私は基本的に、モチベーションで動くタイプではなく、メンタルも比較的強い方だと感じています。

 

そんな中でも、一番の原動力は、目の前で困っている人の存在です。困っている誰かがいれば、その人と向き合い続けたいという気持ちが自然と湧いてきます。

 

昔から新しいことを考えるのが好きで、その発想の源は常に人との関わりにあります。人からもらった言葉や体験から新しいアイデアが生まれ、それがサービスや機能拡張につながっていくことも多いです。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

当社の目標は、教育現場における本質的な課題を解決するサービスを確立することです。そのためには、まず導入校をさらに増やし、市場全体の約30%をカバーすることを目指しています。

 

スクペイの導入が進むほど、学校の課題だけでなく、自治体や取引業者が抱える課題も見えてきます。今後は、自治体DXや教育周辺のデジタル化にも力を入れていきたいと考えています。

 

最終的には、学校や自治体といった組織を超え、エンドユーザーである保護者や子どもたちに新しい価値を届けることが目標です。

 

教育の現場には、まだまだアナログな仕組みが多く残っています。お知らせや配布物が紙中心で、日々の連絡も手作業のままです。授業の進め方や生徒の学習・心理状態に関するデータも十分に可視化されていません。

 

また、教材発注の現場では、いまだに電話や口頭でのやり取りが行われています。発注内容が記録に残らず、トラブルが起きることもあります。

 

長年の慣習として続いてきた仕組みですが、今後教員数が減少していく中で、こうした非効率な業務をどのように減らしていくかにも取り組んでいきたいと考えています。

 

 目的と手段を取り違えないこと

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業において一番大切なのは、目的と手段を混同しないことだと考えています。

 

これは私自身が常に意識していることであり、社内のメンバーにも日々伝えています。会話の中で少しでも違和感を覚えたときは、本来の目的は何かなどを確認するようにしています。

 

サービスをつくるときや、顧客に何かを伝えるときも、必ず目的を明確にし、その目的を実現するための手段としてスクペイが存在しています。目的を見失うと、たとえ手段を失っただけでも、方向性そのものが分からなくなってしまいます。

 

起業の現場でも、サービスをやりたくて起業すると手段が目的になってしまうことがあります。サービスはあくまで手段ですが、手段がなくなったときに何を目指していたのかが分からなくなってしまう人を多く見てきました。

 

だからこそ、何のために起業するのか根本の目的を常に意識し、手段が変わっても志を忘れないことが何より大切だと思います。これは、今も自分自身に言い聞かせていることです。

 

採用において、求める人物像を教えてください

会社に求める人材は、ギバーの精神を持つ人です。人に与えたい気持ちが強い方に来ていただきたいと考えています。

 

子育てや教育の分野は、少子化の影響で縮小していく市場だと言われていますが、もしこの市場を諦めてしまえば、子どもがいない日本になってしまうかもしれません。だからこそ、どうにかしたいと本気で思う人たちが集まれば、社会を変えられると信じています。

 

現在は営業、カスタマーサクセス、管理部門、開発、デザインなど、すべてのポジションをオープンにしています。リソースが足りていない部分も多いので、まずはカジュアル面談でも構いません。

 

私と話してみたい方が一人でもいれば、ぜひお話しできればと思っています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:齋藤舞

1992年生まれ。テンプル大学国際経営学部に在学中にインターンにて商社へ入社後、そのまま大学を休学し就職。貿易業務、プロダクトマネージャー、海外新規事業のプロジェクトに従事。海外事業部の責任者の経験を経て、2019年にコンサルティング会社を設立。中学三年時に一人で行ったホームステイでの経験をもとに、2021年3月に株式会社MEMEを創業。2022年に一般社団法人「日本金融教育推進協会」理事に就任。

 

企業情報

法人名

株式会社MEME

HP

https://memetech.co.jp/

設立

2021年3月

事業内容

  • 親子でお金を管理しながらお金について学べるアプリ「manimo」
  • 学校の集金業務サービス「スクペイ」の開発運営
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