kanata株式会社 代表取締役 滝内 冬夫

 

診察中の会話を音声認識でカルテ化するAIツール「kanaVo」を提供するkanata株式会社。代表取締役を務める滝内 冬夫氏は最愛の息子さんを病気で亡くしてしまった過去の経験から、「お医者さんに恩返しをしたい」との想いでこの事業に取り組むことを決意。

AIを活用した音声解析ソリューションで、医療機関の働き方改革を推進する滝内氏に詳しくお話を伺いました。

 

診察中の会話に特化した音声認識サービスではNo.1 

早速ですが、事業内容を教えてください 

弊社が提供する「kanaVo」は、診察室での会話を記録できるAIツールです。会話をテキスト化することに加え、その内容を要約する機能や、会話の気になる部分は音声をきき直せる機能があります。

診察が終わったドクターは次の患者さんの診察までの間、処方箋の内容を入れるなど、会計に関わる業務を優先的に行います。カルテの記入は後回しになりがちで、全ての診察が終わったあとになることも多く、大きな負担になる業務です。ドクターの負担を軽くするためにも、カルテ入力の作業をITを使って効率化したいと思っています。

 

録音の機能もあるので、「言った、言わない」で患者さんとトラブルになるのを防げます。ただ全ての会話の音声やテキストだと、すごく量が多い。なので、このツールを使ってくださるドクターが日頃主にチェックしているのは、要約の部分です。作られた要約をコピーして、カルテに貼り付けて…という感じで使っていただいています。

 

「kanaVo」に搭載しているAIが深層学習するので、使えば使うほどツールとしての質があがっていきます。使っていただいた方からも精度の高さに「驚きました」という声をいただくことも多く、診断中の会話に特化した音声認識サービスとしてはNo.1の質だと自負しています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

 2018年、息子が6歳のときに白血病を発症して入院しました。長期間の入院で、私は妻と交代で息子に付き添っていたのですが、そこで目にしたのは、ドクターや看護師さんのハードな仕事状況でした。昨日いた人が、今日も病院にいる。夜中にも作業をされていたりして、まるで、病院に住んでるんじゃないかと思ってしまうほどでした。

 

息子は天国へ行ってしまいましたが、息子のために力を尽くしてくれたドクターや看護師さん達には非常に感謝しています。息子を助けようとしてくださった皆さんの力になって恩返ししたいと思い、もともと前職の関係で知見があった「電子カルテ」をもっと使いやすくしようと、関連する事業を始めました。

 

ドクターや看護師さんたちが笑顔になるサービスをつくりたい

 仕事におけるこだわりを教えてください

弊社の社員の想いはみな同じで、「ドクターや看護師さんたちが笑顔になること」を最優先に考えています。会社として収益を上げることも、もちろん大事だと思っています。ですがそれよりも、第一線で働く医療関係者の悩みや辛さを解消して、喜んでいただけるサービスを提供したいと思っています。

 

我々がこのサービスをローンチした当初は「そんなSFみたいなことできるわけない」と言われることが圧倒的に多かったんです。しかし今では、似たようなサービスを目にすることも増えてきました。こういうサービスが役に立つことを実感してもらえるようになったのは、非常に重要だと思っています。 

 

それからこれは私自身のこだわりですが…。社名の「kanata」は、亡くなった息子の名前に由来しています。本来だったら息子が病院の皆さんに恩返ししたかっただろうことを、代わりにやっているようなイメージで仕事に取り組んでいますね。

 

社名に子供の名前を付けたこともあり、天国にいるあの子に見られても恥ずかしくない仕事をしたいと思っています。そこは本当に自分の中だけでのこだわりなので、社員に理解するよう押し付けたりはしないですが、社名の由来をきいてくれたりするとこの話をするので、共感してもらっているかなと思います。

(お隣は取締役の永井規靖氏)

 

kanaVoの導入で、医療現場の働き方改革を

大変なことも多いと思いますが、進み続けるモチベーションは何でしょうか?

本能的に人間誰もが「世の中の役に立ちたい」と思っているはずなんです。何らかの形で世の中の役に立ち、次の世代にバトンを渡して、未来へ繋いでいく。でも息子はそれができなかった。途中で終わりになってしまった。そういう、息子が気付かせてくれたテーマを自分が代わりにやっているという想いがモチベーションになっています。

 

ドクターが雑務に忙殺されることなく、患者さんを救うということだけに注力できる環境を作りたいです。そのためにまだまだやるべきことや課題がたくさんあるので、今後しばらくはこの分野を切り開いて進み続けます。 

 

反対にこれまでに直面した壁を教えていただけますか?

当初は、今の「kanaVo」の形ではなく、音声認識でカルテ化できる「電子カルテ」を売っていました。が、新型コロナウィルスが流行して、衛生面から業者が病院に入ることが難しくなった時期があり、コロナの蔓延と共にサービスがパタッと売れなくなってしまって。

 

「このままだとまずいね…」と社内でも話していた時、とある女医さんから突然電話があり、「御社の電子カルテから医療秘書の機能だけ切り出して、いま使っている電子カルテに繋げられないかしら」と言ってくださったんです。

 

その言葉を聞いて、衝撃が走りました。その瞬間に「これが僕らの生きる道なのかな」と思いついたんです。

 

電子カルテはドクターによってこだわりがあったり、すでに使っているものがあるとなかなか変えづらかったりします。今使っている電子カルテに、「これがあったらもっといいのに」という機能をピンポイントで追加できるサービスが求められている。そう感じて、「できます!」と即答し、今のサービスを3ヶ月ぐらいで形にしました。

 

ある意味、コロナでの最大のピンチが最大のチャンスとなりましたね。

事業を展開するうえで今後計画していることや野望を教えてください

 「kanaVo」については、さらに便利なツールにするために、今はPCで使う仕様ですがタブレットでも簡単に使えるようにしたり、今は少し時間がかかる要約が”秒で”戻ってくるように改良していきたいですね。どちらも現場のドクターや看護師さんからリクエストがきているものです。

 

野望と言うと、患者さん側のサービスも展開したいなと思っています。病院に行くと、問診票を書いたり、「何日前から症状があったか?」などいろいろきかれますが、しんどい中で書いたり思い出したり、大変だと思うんです。例えば日々の様子が記録されていれば、ドクターがそれを見て診察できるとスムーズじゃないですか。

ドクター側のkanaVoと、患者さん側のkanaVoが連携できるとなると、お互いより快適になるだろうと思っています。

 

また少し視点は違いますが、全国の優秀な医療事務経験者とドクターを繋げられるサービスも構想しています。医療事務の人を雇うとなると費用が嵩みますが、業務委託のような形にすればその問題は解決できるし、医療事務の人たちも働きたい時に働ける。事務員さんは自由に働けて、ドクターもスキルだけで欲しい人を選べる。みんなが満足するサービスを展開したいです。

 

今までの概念を変えるのは、情熱と強い意志

最後に今後起業しようとしている方へアドバイスをお願いします。 

強い想いがあれば、起業に年齢は関係ないと伝えたいですね。私は50歳を過ぎていますが「50過ぎても起業できるんだ!」と、私の存在が他の方の希望になればいいですね。

 

新しいことにチャレンジするときはスピード感が大事なため自ずと働く時間も長くなりますし、楽しいことばかりではありません。ですが、起業したい人は自分の使命や内側にある熱い想いに気付いているのだと思うんです。なのでその気付きを活かして、大企業が追い付けないスピードで事業を形にして欲しいですね。

 

最初は不安も多いと思いますが、自分の使命や想いに忠実に行動していると不思議とお客さまが見つけてくれるものです。我々も同様で、サービスのプロモーションを大々的に打たなくてもプレスリリースだけでお客さまに見つけてもらえたんです。想いを形にして、そのサービスがお客さまに届くまで諦めないことが大事ですね。

 

「kanaVo」について

診察中の会話を音声認識でカルテ化するAIツール。医療の専門用語の認識精度も高く、単なる音声認識だけでなく、電子カルテ用に会話内容を要約してくれるのが大きな特長です。週刊東洋経済「すごいベンチャー100」、「Startup Academy: AgeTech 高齢化社会を支えるスタートアップのためのプログラム」に選出されるなど、注目を集めている。

サービスページ:https://www.kanatato.co.jp/kanavo/

 

 

起業家プロフィール:滝内 冬夫 氏

1970年3月生まれ。

慶應義塾大学経済学部卒業。 シンクタンク勤務を経て、2004年より医療法人における電子カルテの制作に参加。 2008年 メディカリューション株式会社に取締役として参画。 2015年 同社より電子カルテの事業譲渡を受けて独立。 2017年 音声認識及び自然言語処理に関する研究に着手。 2018年 kanata株式会社を設立。同社代表取締役に就任。

 

企業情報

法人名

kanata株式会社

HP

https://www.kanatato.co.jp/

設立

2018年11月

事業内容

構文解析の研究開発

構文解析に関連するソリューション

声をカルテ化するAIツールkanaVoの開発・運用・販売

医療秘書機能付き電子カルテVoice-Karteの開発・運用・販売

​その他病院情報システムに関連するコンサルティング

沿革

2004年から医療ITに携わってきた代表を中心に、2018年11月15日に設立。

以降、自然言語処理技術をバックボーンに、患者と向き合った医療を支えるIT環境を探求。

技術力は高く評価され、2021年には「すごいベンチャー100」(週刊東洋経済)に選定されるとともに、世界発信コンペティション(東京都主催)においてベンチャー技術特別賞を受賞。

2022年7月にリリースした「声をカルテ化するAIツールkanaVo」は医師にも高く評価されており、日本経済新聞、「Live News α」(フジテレビ)等のメディアにおいても紹介されている。

 

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