社内コラボレーションを促進し、新たなイノベーションを生み出す | 原 邦雄  久米 雅人 Beatrust 株式会社

Beatrust 株式会社 共同創業者 ・CEO 原 邦雄  共同創業者 久米 雅人

社員のスキル・経験・バックグラウンドなどを可視化し、社内人材の検索とマッチングを可能にする、タレントコラボレーションツールを手掛けるBeatrust 株式会社。同社のツールは、限定的になりがちな部署間のコミュニケーションを活性化し、組織のシームレス化を後押しします。ありそうでなかった“社員同士をつなげるツール”を実現させた、共同創業者のお二人にお話をうかがいました。

社員同士がつながることができるツールでオープンイノベーションを促進

久米氏:弊社は「Beatrust」という、個人の経験やスキルを可視化して社員同士の協業を促進するクラウドソフトウェアを開発・提供しています。社員同士のコミュニケーションを活性化させ、イノベーション創出につなげることを目的に開発しました。 

 

特に大企業では組織が細分化されていて他部署にどんな人がいるのか、どういったスキル・経歴を持っている人たちがいるのかを知る機会が少ないのが現状です。さらに近年は人材の流動性が高まり、中途社員も多くなってきています。そんな中、社内にどんな人がいるのかを知る術がなければ、社内イノベーションは生まれません。そのような現状を打破するために、誰でも簡単に同僚を検索でき、人と繋がることができるツールを開発しました。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

原氏:一緒に起業した久米はGoogleで一緒に働いていた時に知り合いました。当時は同じプロジェクトメンバーとしてスタートアップ支援に携わっていたのですが、その中でさまざまな課題が見えてきて、そこで得た気付きが今回の起業につながっています。

 

たとえば、非常に大きな課題に感じたのがグローバルマインドを持った起業家の少なさです。今はマーケットが変わってきていてグローバル展開を見据える人が増えましたが、その当時は本当に稀でした。特にDX領域でいうと、日本はあらゆる分野でDX化が遅れているため、わざわざグローバル展開を目指さなくても国内でビジネスチャンスがいくらでもありました。

 

また、国内スタートアップのエコシステム全体が内向きになっていることも課題に感じました。具体的に言うとスタートアップの多くがまず目指すのは、東証マザーズでの上場です。投資家も早くマザーズで上場するよう後押しするため、起業家の多くはグローバル展開を考えないですし、冒険もできません。そういった要因もあり、日本からグローバルを目指すスタートアップあるいはそうした志を持つ人が増えていくことが重要だと感じました。

 

日本経済は縮小傾向にあり、「この先の50年100年を見据えるとやはり世界に出ていかないと新しい産業は生まれない。」その課題に関して久米と2人でディスカッションしている時に、そこに挑戦できるスタートアップを探すのもいいが、自分たちでやってみればいいのではないかという話になったのが、そもそもの起業のきっかけです。

 

起業テーマに大企業に向けたソリューションを選んだのは、日本の大企業の多くが「イノベーションのジレンマ」を抱えていると感じたからです。Googleで働いていた時、大企業の幹部と話す機会がよくあったのですが、イノベーションを促進させるGoogleの取り組みを説明しても「うちでは真似できません」と皆さん、おっしゃいます。

 

Googleでイノベーションが起きているのは、2つの大きな要因があります。1つは風土と文化、もう1つは社員のイノベーションを促進する仕組みや、社員同士をつなげるデジタルインフラが整っていることです。日本企業がシリコンバレーで生まれたGoogleをそのまま真似るのは簡単ではありません。しかし「変わりたい」とは思っている、それなら我々がそうした企業を後押しできるような、デジタルインフラを作ろうと考えたのが大きな理由です。

 

また、グローバル展開を目指すスタートアップが少ないという課題に立ち向かうために、世界に通用する事業を作りたかったため、日本企業に限らない普遍的な課題を解決できるテーマを選びました。

確立されていない領域だからこそ、壁や挑戦がある

仕事におけるこだわりを教えてください。

原氏:「すべての人がリーダーである」という考えのもと、プロフェッショナルが集まり、

それぞれが責任とコミットメントを持って働ける環境を大切にしています。これはこれから進む、個の時代に合った働き方だと思っています。業務に対してのこだわりは「日本の大企業のイノベーションを促進させたい」という大きなコンセプトをぶらさず、事業を推し進めていくことです。

 

久米氏:我々のツールはこれまで閉ざされていた情報を開示していくものです。そこに

アレルギー反応を持つ人も少なくありません。すべての人に我々のサービスの魅力をすぐに理解してもらうのは難しいかもしれませんが、自分たちに共感してくれる人と伴走しながら実現したい世界を作っていく、という軸はぶらさないようにしたいと思っています。マーケットとの対話を怠らず、ただ自分たちの創業理念をぶらさない。そうしないと起業した意味がありませんから。

 

働き方の面では、一緒に働く人がポジティブな影響を与え合える環境にしたいと思っています。将来、誰かが新しい選択をする時に「あんな人がいたな」「あの人とこんな経験をしたな」と思い出して、それが次の選択にポジティブな影響を与えるような思い出の引き出しをたくさん作っていきたいですね。

2020年に起業してからこれまでに直面した、最大の壁を教えてください

久米氏:「真実は複雑でつまならい」という言葉を耳にしたのですが、本当にこれに尽きると思います(笑)。というのも、起業してから毎日が小さな壁の連続で、ドラマにあるようなエキサイティングな瞬間を乗り越えるよりも、小さい壁を乗り越えることの積み重ねが起業だと感じているからです。

 

ただ、あえて大きな壁を挙げるとしたら、まず「自分の心の中にある壁」を乗り超えるのが結構大変でした。私は起業する前「失敗したらどうしよう、失敗したら恥ずかしいな」「大企業を辞めて起業するなんて、周りの人はどう思うだろう」といった思いが自分のなかにありました。原は過去に2回起業した経験があるので、彼にも相談し背中を押してもらいましたが、結局心の中の壁を乗り超えるのは自分自身なのだなと感じています。

それ以外にも、立ち上げフェーズからこれまでにさまざま壁があり、1つの壁を乗り超えたら、次の壁が出てくる。結局、先程も言うように大小様々な壁の連続だと思います。

 

原氏:「タレントコラボレーション」という領域はこれまでに存在していなかったため、まずは弊社サービスの概念をお客さまに理解してもらうという、土俵作りから始めなければなりませんでした。そもそも受け入れてもらえる土俵がないというのは、スタートアップに共通する壁と言えるでしょう。

 

日本の大企業に我々のツールを紹介しても、使うメリットは理解していただけるものの、彼らの多くは保守的ですぐに新しいツールの導入には至りません。そんな中、コロナで社内間のコミュニケーションが活発に取れなくなってしまった。研究開発部など、コラボレーションやイノベーションが生まれないと仕事が進まない部署にとっては致命的です。コロナで潮目が変わり、社内コミュニケーションを活性化する我々のツールが徐々に受け入れてもらえるようになりましたが、土俵作りはまだまだ続いています。

社内イノベーションを後押しできている、と感じられるのがモチベーションの源

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

原氏:我々のツールを導入した後に、組織内で新たな繋がりやイノベーションが生まれているのを目の当たりにするのが、一番のモチベーションになっています。お客さまに喜んでいただけて、さらに会社の風土を変える後押しもできている。そういった結果が出た時が一番うれしいですね。

 

久米氏:私のモチベーションは2つあって、1つ目は私自身に関する話なのですが、これまでに仕事をするなかで「部門を越えて働きかけをした方がいいのではないか」と感じることや、「ここがもっとこうであれば、これができたのに」と悔しい思いをすることもありました。その後、自分が思い描いていたことがすでに実現されていると感じる職場に出会えたこともあり、その事実にある意味ショックを受けました。「やっぱりできるんだ。自分が動くことで部門を越えた新しい仕事は創造できるんだな」と。

 

「ここを変えたい」と思っても、さまざまな事情ですぐに変化を起こすのはどの人・企業にとっても難しいのは理解しています。だからこそ、変わりたいと願う企業を我々のツールで後押ししたいという想いがあり、そこに関しては心の中に小さな赤い炎がいつも燃えています。

 

もう1つは、先ほどの原の話にもありましたが、実際にツールを導入した後に変化した人の顔を直接見させていただくことができる点です。我々のツールを紹介しても、最初は導入するのを不安に思う人が多いんです。しかし、実際に導入したら社内のイノベーションが進むといった変化が起こり、皆さん非常にうれしそうな顔をされます。なかにはツールの導入が社内で評価され社長賞を受賞した方もいて、そういった結果を見ると「やっていてよかったな」と思います。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

原氏:大きく3つあります。1つ目は日本の大企業の組織風土を変えるサポートをしながら、イノベーションを後押しすることです。そのためには我々のプレゼンスをさらに上げて、サービスを知ってもらわなければなりません。その次に目指しているのが、創業時から視野にあったグローバル展開です。日本から世界に通用するサービスを我々が作りあげていきたいと考えています。まずはアメリカ、そして次はヨーロッパ進出を狙っています。

 

3つ目は、企業の枠を越えてプロフェッショナル同士が自由に繋がれるサービスを提供することです。社内の人だけでなく外の人とも繋がれると、そこからさらに新しいイノベーションやプロジェクトが生まれていく、その器となるようなサービスを作りたいと考えています。

自分に正直に。ワクワクできる起業テーマを選んで

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

久米氏:この議論があまりされていない気がするのですが、起業する・しないの前に大切なのは「何で起業するか」だと思います。起業は大変ですし、自分の周りの人にも少なからず影響を及ぼします。

大変なことが多い中、長く事業を続けるためには「何で起業するか」がすごく重要です。たとえば「これが流行っている」「かっこいい」といったことよりも、自分が好きなことや、どうしても変えないと気が済まないことを土台にしたテーマを選んで欲しいと思います。そういった想いを皆さん何かしら持っているはずです。外部要因に惑わされず、自分に正直なテーマを軸に事業を育てて欲しいと思います。

 

原氏:まず、起業が目的であってはいけないと思います。一番大事なのは、自分が本当にワクワクできるテーマを見つけること、なぜなら、ワクワクできないと100%コミットできないからです。スタートアップは上手くいかないことの方が多いので、自分がワクワクできるテーマでなければ、ポジティブにチャレンジし続けられません。

 

あと、長期的な目で考えると自分がやりたいというだけでなく、社会貢献のエッセンスも入っている事業のほうがいいと思います。その方が周りからの協力を得やすくなるからです。

 

性格面でいうと、起業は0→1を楽しめる人が向いていると思います。ですがこればかりはやってみないと適性がわからない、逆に年齢は関係ないと思っています。私自身50代で3回目の起業をしましたが、年齢を重ねているからこそ人脈や経験を若い人より多く持っています。また、私と久米のように年の差がある人と共同創業すれば、お互いの強みを補完し合い、世代を越えた相乗効果が生まれると思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:原 邦雄氏

住友商事や初期のソフトバンク及びシリコングラフィックスに参画。二度の創業を経て、直近では日本マイクロソフト、及びグーグル日本法人で執行役員を歴任した後、2020 年、Beatrust を共同創業。

 

久米 雅人氏

アサツー ディ・ケイを経て、2011 年よりグーグル日本法人に入社。デジタルマーケティングの実行支援及びスタートアップ投資やパートナーシップ業務を担当後、2020 年、Beatrust を共同創業。

 

【企業情報】

法人名

Beatrust 株式会社

HP

https://beatrust.com/

設立

2020 年 3 月(令和 2 年)

事業内容

社員の情報を自動で構造化する組織内協働のための検索プラッフォーム Beatrust の提供

沿革

※サービスリリース、資金調達、採用、移転など

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