【#443】「モノ・サービス・ケア」の困りごとをスマホで解決。人と人をつなぐ3つのプラットフォームを展開する|代表取締役 大槻 久慶(株式会社Enably)

株式会社Enably 代表取締役 大槻 久慶
家具、大型商品の売買、ペットの預かり、子育て支援。こうした日常における困りごとを解決する3つのデジタルプラットフォームを運営する株式会社Enably。海外でのビジネス経験を重ねた大槻 久慶代表取締役に、サービス誕生の背景や今後の展望を伺いました。
「あったらいいな」を形にする、3つのプラットフォーム
事業の内容をお聞かせください
モノ・サービス・ケアの分野で人々の課題を解決する、3つのプラットフォームを展開しています。
1つめは、家具や家電など、大型商品の売買に特化した「Kaguru」です。私自身、海外生活が長く、引っ越しのたびに家具の処分や売却に悩まされてきました。中古品を取引できるプラットフォームは数多くありますが、大型商品はなかなか売れません。大型商品の取引が盛んなサービスでも、直接の受け渡しが基本で、配送のサポートはないのです。
「Kaguru」では配送込みで取引を完結できる仕組みにより、売り手・買い手双方の利便性を高めています。一定地域内でのマッチングを前提としているため、車を手配する労力や時間を考えると非常に良心的な価格設定を実現しました。
2つ目のサービスは、ペットを預けたい人と預かることができる人をつなぐ、ペットの世話をお手伝いしてほしいときに世話のできる人と繋げるマッチングプラットフォーム「Otegari」です。私自身もペットを飼っており、旅行が好きなのですが、急な外出時に預け先を探すことに課題を感じていました。
「Otegari」では、預けたい人が条件や価格を比較しながら柔軟に預け先を選べる一方、預かる側も空いた時間を活用して収益を得ることができ、双方にとってメリットのある仕組みとなっています。
そして3つ目が、子育て支援や産後ケアなどのサービスを必要とする人と、提供できる人をつなぐ「Carelu」です。私自身、初めての子育てを経験する中で、産後ケアやベビーシッターを探す手段がアナログであることや、時間に余裕を持った予約が必要であること、ベビーシッターのミスマッチがあり、また料金が高く気軽に利用できないことに不便さを感じていました。
そこでスマホから直接予約できる仕組みを提供し、より便利で身近なサービスを実現しています。また、サービスを提供する方々も、スマホ一つで提供可能サービスから予約、報酬の口座入金まで全て管理が可能で、提供する側にとっても身近に利用できるサービスを実現しています。
「Carelu」の特徴に、自社でスタッフを抱えるのではなく、資格を持つ方が個人として登録する点があります。介護・保育業界では、待遇の低さから離職する方や、資格を持っていても業界に戻れない方も少なくないため、自分のスキルを生かして、空き時間に自由に働ける機会を提供できると考えました。
資格を持たない方も登録できるため、「価格を抑えてちょっとしたお手伝いをしてほしい」との要望にも応えることができます。トラブルがあった際には責任の所在が明確になるよう、適切な情報を登録していただき、事前の審査体制も万全です。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私自身、引っ越しを何度も経験したり、ペットを飼っていたり、子どもが生まれたりといったライフステージの変化の中で、「こんなサービスがあると便利だ」と感じたものを実際に自分で作りたいと思ったことが事業の出発点です。
一つのアイデアを進めているうちに、「あれもあったらいいな」「これも必要だな」と、他の課題も次々に思い浮かんできて、「それなら全部まとめて作ってしまおう」と一気に3つのサービスを立ち上げました。
若い頃から起業を考えていたわけではありません。ただ、子どもの頃から型にはめられる生き方が得意ではなく、学校でも会社でも自由に動くタイプでした。海外の大学院を卒業後、社会人になってからはアメリカでの勤務を皮切りに、シンガポールやオーストラリアなど、海外で複数回ビジネスを立ち上げました。
2010年代の海外はスタートアップブームでした。投資からIPOに至る流れを間近で見る中で「こうした世界で何かやってみたい」との思いが徐々に強くなりました。始めはアイデアはあっても形にする方法が分からず、なかなか踏み出せませんでしたが、さまざまな組織での経験を通じて仕組み化の方法が見えてきたところで起業に至りました。
できる方法を考え抜く
仕事におけるこだわりを教えてください。
「どうすればできるか」を考える姿勢です。できない理由を並べるのではなく、どんなステップを踏めば実現できるかを前向きに考えることが私の働き方の根本にあります。
昔から負けず嫌いな性格ではありますが、自分のやりたいことを無理に押し通すよりは、その取り組みが長期的に見て意味のあることかどうかを見定めたうえで、達成すべきことは粘り強く実現する。そのために必要な手段を一つずつ丁寧に組み立てていくようにしています。
これは、海外のスタートアップの環境に長く身を置いてきたことが大きく影響しています。日本は既存の枠組みの中で改善しようとする傾向がありますが、海外ではその枠組み自体を壊そうとします。現状に満足せず、何かを変えることに非常に前向きです。
その姿勢に私もとても共感しており、その信念を貫きたいと考えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
理想と現実のギャップを感じたことです。
サービスそのものは、自分たちのアイデアを開発者とすり合わせ、イメージに近いものを形にすることができます。そこまではある意味、自分たちの努力次第です。
ただ、サービスが完成してユーザーを増やすフェーズに入ると、必ずしも理想通りに進むわけではありません。「広告を出せばユーザーは増える」と思っても、費用対効果が見合わなかったり、コンバージョンにつながらなかったりします。
広告を出して終わりではなく、どこでブロックされているのか、なぜ離脱されるのかなどの細かな要因を洗い出して分析し、改善につなげる必要があります。
資金調達に関しても同様です。サービスに共感してくれる人が現れても、資金調達となるとそう簡単には進みません。どれだけ成長の兆しが見えるかが問われるからです。
限られたデータや数字の中から傾向を読み取り、仮説を立てて挑戦し、理想の成長曲線に近づけるまでの道のりこそが、最大の壁だと感じています。
「あってよかった」を世界中に届けたい
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
負けず嫌いな性格と、一度始めたからには絶対に成功させたいとの強い思いが、私にとって最大のモチベーションです。
「成功」といっても、その定義は人それぞれだと思います。私にとっての成功は、単に会社として売上や利益を上げることではありません。
自分たちがつくったサービスが多くの人に受け入れられ、実際に使っていただき、「このサービスがあって本当によかった」と感じていただけることが私にとっての本当の「成功」です。
そうしたサービスを多くの方に届けることができれば、収益はおのずと後からついてくると考えているので、事業の成長にも自然とつながると信じています。
だからこそサービスを世の中に届けるために、何があっても諦めずに走り続けます。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
グローバルに展開したいとの野望があります。まずは日本のユーザーに受け入れられるために、日本ならではのやり方を意識する必要があることは理解していますが、将来的には国内にとどまらず、世界中で使われるサービスを目指します。
そのため、サービスの設計段階から海外展開を視野に入れ、柔軟性を持たせた構造にしています。ゼロから作り直すのではなく、既存の仕組みの一部を海外仕様に切り替えるだけで対応できるようにすることで、グローバル展開に求められるスピード感にも対応できると考えています。
踏み出す一歩が、未来を切り開く
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
何より、一歩踏み出す勇気が大切です。
私自身も、その一歩を踏み出すまでにはかなり時間がかかりました。色々なアイデアが頭に浮かんでも、あの時の「一歩」を踏み出せていなかったがために、そのようなアイデアがそ既にサービス化されてしまったケースもあり、「あのときやっておけばよかったな」と思うこともありました。
「失敗したらどうしよう」といった不安があるのは当然ですが、実際に一歩踏み出してしまえば、それを形にする経験ができますし、次につながるヒントや選択肢も見えてきます。
たとえうまくいかなかったとしても、その経験自体が次のチャレンジの土台になります。むしろ近年は、挑戦して失敗した経験を企業側が評価するケースが増えていると感じています。
自分のストーリーとすることで、共感を得たり、採用や協業につながったりする可能性もあるでしょう。
「失敗=終わり」ではなく、「失敗=成功へのプロセスの一部」との視点を持ち、まずは勇気を出して一歩を踏み出してほしいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:大槻 久慶 氏
シンガポール・オーストラリアにて、APAC・オセアニアのクラウド営業チームの立ち上げ・統括を経験した後、アメリカにて地図サービスの北米地域エンタープライズセールスチームの統括。その後、シンガポールに戻り、米国発スタートアップ企業のアジア営業を統括。その後日本に帰国し、韓国発のデリバリービジネスの日本市場参入を国内営業の統括責任者として統括し、大手PCメーカーにて、ダイレクト営業の事業開発責任者としてビジネスの成長に貢献。その後、営業・事業開発統括責任者として、米国発の免税サービスの加盟店拡大と新規事業の創出、欧州発の多通貨決済サービスの日本国内金融機関へのサービス拡大に大きく貢献したのち、Enablyの創業に至る。
企業情報
法人名 |
株式会社Enably |
HP |
|
設立 |
2022年7月 |
事業内容 |
「Carelu」「Otegari」「Kaguru」のマーケットプレイスの運用・管理 |
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