ファミリーツリー株式会社 代表取締役 安藤仁希

果樹園のマイクロサービス「ファミリーツリー」や、農産物の品種改良などを手掛け、農業を夢のある仕事にすることを目指しているファミリーツリー株式会社の安藤仁希氏。「ないなら、つくろう」の精神で、もっといい品種や商品を作り農産物に付加価値を付与すべく、品種改良や商品開発を行い、販路の開拓や農家と消費者の新しい関係作りを構築しています。代表取締役である安藤氏に、業務内容や農業に着目したきっかけ、仕事におけるこだわりや起業家へのアドバイスをお伺いしました。

 

「10年後には果物が食べられなくなるかもしれない」と起業を決意

事業の内容をお聞かせください

「ファミリーツリー」という、果樹園のマイクロサービスを事業の核としています。

消費者に1本の果物の木のオーナーになっていただいて、1年を通した果樹園体験を提供しています。果樹園のマイクロオーナーになることで、果物で心を豊かにするだけではなく、その年に収穫出来る成木からスタートする物語で四季を感じ、1年を通して食育のアプローチができます。

 

とはいえ農業は天候に左右されることも珍しくありませんし、病気や災害の可能性もあります。そのため、オーナーになっているエリアの木がダメになってしまった場合、他の産地の同じフルーツで補填したり、翌年に会費の繰り越しをさせていただくなどの措置を取ることで、消費者のリスクを軽減しています。

 

それと、農家さんの収入を上げるためには今ある果物だけで単価を釣り上げるのではなく品種改良を行う事業を通じて、高付加価値の農産物を開発する事業を手掛けているんです。「ないなら、つくろう」の精神で、もっといい品種や商品を作り農産物に付加価値を付与することで、農業を稼げる仕事にしたいと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は静岡県浜松市の出身で、高校を卒業後大手自動車メーカーの下請け会社で物流の仕事を3年間経験しました。その後、ワーキングホリデーでオーストラリアに7ヶ月滞在しました。

 

日本にいると当たり前の常識にとらわれてしまいますが、海外では多様性がベースにあり色んな人がいて、「自分はどんな人間なのか?」と、アイデンティティを見つけるために自問自答を繰り返していました。

 

そんな中で、自然の美しさや日本文化の良さ、そして日本の果物の品質の高さを実感し、農業にフォーカスしました。帰国後は静岡県浜松市でみかん農家の見習いとして1年半働き、農業の苦労だけではなく面白味や奥深さに触れました。

 

しかし、実際に農家になろうと思って畑を探したのですが、良い条件の畑が見つからなくて。農地が空くと農業法人などの資本が、大きな企業がどんどん入ってくるので、空いている農地はあまり良い農地ではありませんでした。

 

そこで一旦農家を諦めて、友人が立ち上げたベンチャー企業に参画し、SEO系のメディアを運営する会社で2年半ほど働き、webマーケティング領域の経験をしました。それらの経験を活かして、農業への思いや後継者不足に対して、強い感情を持っていたことからファミリーツリーを創業しました。

 

農業の後継者不足は深刻で、平均年齢が67歳、そして60%以上の農家に後継者がいないというデータがあり、「10年後に果物が食べられなくなるかもしれない」という強い危機感もある中で起業を決意しました。

「ないなら、つくろう」の精神で農業に向き合い続ける

仕事におけるこだわりを教えてください。

今の⽇本の農業というのは、農家の皆さんの犠牲の上で成り立っているといっても過言ではありません。農作物が低価格で提供されているのを、当たり前だと思っている消費者の方も多いと思います。

 

しかし、生産者の方も、消費者のニーズを深くとらえて、付加価値の⾼い農産物や商品を提供できているかというと、まだ改良の余地があると言えます。

 

「農家は稼げない」というのは仕方のないことではありません。

 

私たちは農家さんと手を取り合い、付加価値のあるものを開発しその作り手が報われるところを目指しています。

 

そこで重要なポイントになるのが、「ないなら、つくろう」の精神です。もっといい品種や商品を作り農産物に付加価値を付与する。そして、市場やニーズがないのであれば市場やニーズを創出する。

 

また、前例や道がないのであれば自ら作ってしまう。農業界に資本や資金が足りないのであれば、新しいお金の流れ(ビジネスモデル)を造ってしまおうと思っています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

今は果物全般を扱っていますが、当初はみかんだけで勝負をしていたんです。そのため「みかんを売っている人」になってしまって、どう発展させていくかが大変でした。

 

苦労は確かにありましたが、色んな農家さんと関わらせていただく中で、農家さんの苦労を目の当たりにすると頭がさがります。

「稼げる農業」のために、高付加価値の商品開発を目指す

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

先ほども触れましたが、日本の農業は農家さんの犠牲の上に成り立っている部分があります。ニーズを深くとらえた付加価値を与えた商品を提供して、農家さんが世の中に自信を持てる農作物を提供するのがモチベーションですね。

 

「ファミリーツリー」という社名は、日本語に訳すと家族の木という意味ですが、この「家族」には2つの意味があります。1つ目は、このサービスを通して農家の方と手を取り合うのを重要視しているので、家族の方々にも農業の大変さを味わって貰って一緒に汗をかいていく、利用している家族の方と農家の方が「家族の様に手を取り合う」という意味です。そして2つ目が、「農家も消費者も家族」という意味でファミリーツリーと名付けました。

 

そのためにも、常識や従来の商習慣に捉われず、販路開拓・新しい農作物の開発だけではなく、消費者との新しい関係作りにも力を入れています。

 

今年の6月には、福利厚生や贈答に使える法人向けプランをリリースします。法人向けプランでは、1本の木を家族の様に大切に育て、従業員・家族・お客様に最高の笑顔を届けると共に、持続的な経営と組織力の強化をサポート。従業員の福利厚生だけではなく、収穫した果物をお取引先へのオリジナルギフトにしたり、常連やファンの方々に向けた取り組みの発信をしたりと多彩な用途にご活用いただけます。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

品種改良に目を向けると、量産が見えてきたのが糖度が21度ある甘いラズベリーですね。

 

このラズベリーが量産できて贈答用になると、1反あたりの収入が大きくあがります。1反130万円だったものが300万円になったら、農家さんも報われますよね。

 

ラズベリー以外にも、イチジクやメロンなど、新しい特産品になるような品種を開発しています。

 

新しい品種を開発しつつ、最終的にはそれで「地域の町おこしが出来れば」と構想しています。地方は今人口減少が進んでいますが、地方にしかない良さを求めている方もいらっしゃると思います。例えば、都会で頑張りすぎたエンジニアが地方で仕事の合間にラズベリーを育てて、農業でもエンジニアでも生計をたてられる様な仕事をしていきたいんです。

 

描いている夢はとても大きいですが、きちんと地に足をつけて、農家さんと一緒に私たちも覚悟を持って取り組んでいき、農業を夢のある仕事にしていきます。

 

夢は大きければ大きいほど良い

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業家として偉そうなことを言える立場ではないですが、私は農業に従事していたものの1回離れて、そして農業に戻ってきています。色んな経験をして今のところに辿り着いているんですね。

 

起業では全てが上手く行くわけではないですが、「夢は大きければ大きいほど良い」と思います。そのうえで、関わる人や自分の決断に対する覚悟をしっかりと持つことができればと。

 

前向きに挑戦してみてください。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

起業家データ:代表取締役 安藤 仁希氏

大手自動車メーカー関連会社に就職後、物流生産管理の業務に従事。

オーストラリアで出会った自然や農業に魅了され、帰国後は浜松市のみかん農園で働く。

農家支援を行うためにウェブマーケティング会社に就職してマーケティングノウハウを習得する。

それらの経験とノウハウを活かし、「日本の農家を救い、国産の果物を次世代につなぐ」ためにファミリーツリー株式会社を設立。

企業情報

法人名

ファミリーツリー株式会社

HP

https://familytree.co.jp/

設立

2020年1月24日

事業内容

1 農園サービス事業

2 農産物、レトルト食品の生産、加工及び販売事業

3 イベント、PR活動の企画、立案、実施及びコンサルティング

4 インターネットメディア事業

5 前各号に附帯する一切の事業

沿革

 

送る 送る

関連記事