株式会社OUI CEO 清水映輔

ベトナムでの眼科ボランティア中、スマートフォンの光だけで診察を行う現地医師の姿に衝撃を受け、「もっと簡単に、もっと多くの人に適切な眼科診療を届けたい」との思いで「Smart Eye Camera」を開発した清水映輔氏。現在は60か国以上の医師と連携し、遠隔診療やAI活用による未来の眼科医療を目指し、「世界の失明を半分に減らす」ことをミッションに活動を広げています。

 

眼科医が生んだ診断デバイス「Smart Eye Camera」で医療を変える

事業の内容をお聞かせください

当社は、「Smart Eye Camera」と呼ばれる、スマートフォンに取り付けることにより目の診察が可能となるデバイスを開発し、販売を行っています。

 

通常、医療現場で行う眼科医の診察は、目に光を当て、跳ね返ってきた光を拡大して見ることで行っています。この仕組みを小型化したものが「Smart Eye Camera」です。スマホの光をスリット状にさせて目に斜めに入るようにすると、目の中を立体的に見ることができます。すると、「この人は手術で目の中にICLが入っている」などといったことが分かるわけです。

 

面白いことに、「Smart Eye Camera」で得られる画像は、医療機関にある大きな機器を使って得られる画像とほぼ同じ品質となっています。

 

さらに、スマホを活用するメリットとして、画像のファイリング機能が容易にできる点も挙げられます。ID別、撮影者別、日付別で撮影を分類できますので、診察への応用範囲が大きく広がります。

 

また、遠隔診療も可能となります。事実、現在200台ほどが日本で使用されていますが、ユーザーの半数が眼科医ではなく、プライマリケア医となっている状況です。

 

例えば、離島や眼科医の居ない環境においてプライマリケア医が撮影を行い、我々眼科医が遠隔診療にて診察と診断を行っているわけです。日本には33万人の医師がいると言われていますが、眼科医は12,000〜15,000人ほどしかいません。離島にはいない場合も多く、この遠隔診療が代わりを担っている状況です。

 

これは、スマホを活用する「Smart Eye Camera」だからこその技術とも言えます。

 

他、AIの可能性も広がります。スマホによる診療が広がり、より多くの画像データが集まれば、AI診断の開発にも繋がっていくものと考えます。現時点では課題が残るところではありますが、AIと眼科医の着眼点の可視化など、高い診断精度のアルゴリズムができていけば、実際の診断の補助として使っていくことが可能だと思っています。

 

ただ、このように魅力的なデバイスではありますが、勘違いをしてはいけないのは、「Smart Eye Camera」が病院にある機器のリプレースメントではないということです。なぜなら、本デバイスはあくまでも病気の診断を行うためのものであり、治療するものではないからです。つまり、診断に特化した私どもが、病院へと繋がる新しい入り口となることが目的なのです。

 

そのため、医療機関と競合することなく、パイの奪い合いになることもありません。むしろ、眼科医へ多くの患者様を繋げていけますから、相乗効果が生まれると考えています。

 

私は眼科医なのですが、今後は医師として、「Smart Eye Camera」をはじめとする医療機器を起点とした展開を考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

「Smart Eye Camera」発案の経緯につきましては、ベトナムでの診療がきっかけです。私は以前より、毎年ベトナムへ行き、ボランティアにて眼科手術を行っているのですが、ベトナムの診療現場を見るにつけ、医療機器が少ないと感じています。現地の医師はスマホを片手に、その光だけを頼りに診察を行っていまして、そのシーンを見た時に、「今あるスマホの光を応用できる医療機器が作れるのではないか」と考えました。

 

これはベトナムに限ったことではなく、同様の環境下で診察を行う国や地域は他にもありますから、「Smart Eye Camera」の世界ニーズはとても大きいと感じています。

 

事実、zoom会議などの場において、世界中の眼科医にデバイスを見せて感想を伺ったことがあるのですが、画面越しであっても価値を十分に分かってくださり、皆様からとても良い反応をいただくことができました。

 

そして現在、世界60か国以上の医師に協力をいただき、共同研究を進めている最中でもあります。医療機器の開発における第一ステップは論文の発表となりますが、既に26本の英文論文が出されており、日本を含めた7地域において「医療機器」登録が叶い、セールスを行っている最中となっています。

 

限界を設けず、“できる”を証明し続ける挑戦者マインド

仕事におけるこだわりを教えてください。

「限界を設定しない」ことが私のこだわりです。事実、私は今でも「自分は何でもできる」と思っています。

 

「Smart Eye Camera」を自社開発した一番のメリットは、自由になんでもできることができることでした。例えば、「仕様を変える」「ニーズに合わせた形にする」「アプリを修正する」といったことが、全て自分たちでコントロール可能です。

 

逆に言えば、すべてが自分たちの努力次第で決まります。限界を決めつけ、断る理由を探すのはとても簡単ですが、だからこそ、断る理由は作らない方がいいと思っています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

業界的なこともあり、規制も多いのですが、そういったことに関しても調べたり、分かる人に尋ねればいいだけのことなので、「壁」と言うほどのことではないでしょう。

 

強いて言うのであれば、「Smart Eye Camera」は、完成までに2年ほどの歳月を要しています。一つには、開発当時の私は医師になって2、3年目で、通常業務が終わった後に作成に取り組んでいたという事情があります。

 

また、「Smart Eye Camera」のような医療機器の開発には、エビデンスファーストであることが求められます。ひとつずつ、作りながら進めていく必要がありますから、やはり多くの時間を要してしまう印象があります。

 

Smart Eye Camera」と共に描く未来の診療

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

やはり、このデバイスを見せた時の反応が、大きなモチベーションとなっています。

 

「Smart Eye Camera」を突き詰めた先にあるのは、すごく素敵な未来であると強く信じていますので、全世界に広めていきたいという思いが、一番大きなモチベーションになっていると思います。

 

また、医師というよりも研究者として、弊社で行っている分野を一つの学問として確立させたいという思いもあります。今後開発を進め、事例を積み重ねていくことでこの分野を学問にしていく過程も面白いと感じており、やりがいの一つかもしれません。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

日本では、多くの方が眼科を受診できる環境にあるにも関わらず、実際に受診されているかと問われると、そうではありません。もっと多くの方に、眼科を受診していただきたいです。

 

そのためには、皆様に正しい知識を持っていただくことも重要ですから、啓発活動も必要だと感じます。例えば、企業などでの健康診断に弊社の検査をアドオンできれば、適切なタイミングでの眼科受診に繋がると思います。人々と眼科のタッチポイントを増やし、もっと眼科に興味を持ってもらいたいと思っています。

 

他にも、眼科のない地域においては、プライマリケア医が「Smart Eye Camera」を用いた診察を行い、眼科医による遠隔診断ができるようになることを目指しています。こういったスタイル、アイデア、そしてデバイスを、広く世界にも広めていきたいと考えています。

 

今は、個人のご家庭に血圧計が普通にあると思います。しかし50年ほど前だと、血圧は内科医に測ってもらうことが当然の世の中でした。「Smart Eye Camera」も同様に、最終的には血圧計のように気軽に使用できる世界観を目指しています。

 

もちろん、私たちのターゲットは日本に限定していません。現状、7地域での医療機器認定が取れていますが、弊社のターゲットは「すべての国」です。と言いますのも、弊社のミッションは「世界の失明を半分に減らす」ことであり、どのような環境下の人も取り残しがあってはいけないと考えているためです。

 

導入について

導入は、ホームページからのお問い合わせより受け付けています。


買い取りの他、レンタルのご用意もありますが、眼科医には買い取りが多い印象です。それ以外の場合には、レンタルが多く利用されています。レンタル料金と診療者数を比較することで費用対効果が図れますから、レンタルであることがモチベーションにも繋がっているものと思われます。また、レンタルの場合には、最新版へのアップデートが容易に行える点もメリットで、使いやすさも感じていただけると思います。

 

ただ、トータルでみるとレンタルはコストがかかってしまいますから、どちらを選択されるかはお好みとなります。

 

限界は超えるためにある

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

限界などありません。自分で限界を設定せず、がんばってください。できない理由を探すのは本当に簡単なので、「そんな大人にはならない方がいい」と思っています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:清水映輔

慶應義塾大学医学部卒。日本語と英語のバイリンガル。眼科専門医・医学博士。専門はドライアイ・眼科AI。2016年にOUI Inc.を創業、国際医療支援活動の際に発展途上地域における眼科診療の問題点を発見し、その解決策としてSmart Eye Cameraを開発・実用化。慶應義塾大学医学部眼科学教室 特任講師。

 

企業情報

法人名

株式会社OUI

HP

https://ouiinc.jp/

設立

2016年7月15日

事業内容

医師のアイデアをもとにした、医薬品・医療機器の開発と実用化及び同コンサルティング業務

 

送る 送る

関連記事