株式会社Closer 代表取締役 樋口 翔太
食品、化粧品、医薬品(三品産業)を中心とした製造現場が直面する、人手不足や生産能力といった課題をロボットの力で解決していきたいと立ち上がったのが、ロボティクスベンチャーの株式会社Closerです。そこで今回は同社の樋口社長に、企業の売上や利益の向上、競争力強化、働きやすい環境の実現を促すロボット事業について伺いました。
ロボットを身近な存在にして人手不足の解消や売上の向上に貢献したい
事業の内容をお聞かせください
弊社は茨城県つくば市を拠点とする、筑波大学発のAIロボティクスベンチャーです。日本を代表するスタートアップに対して政府機関と民間で集中支援を行う経済産業省の「J-Startupプログラム」に選出され、そのほか様々な受賞や助成事業等に採択いただくなど、2021年の創業以来、順調にステップアップしてきました。
掲げるビジョンは「ロボットを当たり前な選択肢へ」です。大変な単純作業や重労働はロボットに任せ、人はよりクリエイティブな活動やコミュニケーションに注力し、また充実したオフタイムのある暮らしを実現するサポートを目指しています。
特に食品、化粧品、医薬品(三品産業)を中心とした自動化を進展させづらい業界において、ロボットを身近な存在にしていきたいですね。自動車業界などはオートメーション化が進んでいますが、そこには自動車産業の発展に伴いロボット産業も発展した背景があります。しかしそのようなロボットを食品や化粧品の業界に転用することは難しく、それでいて多くの単純作業が求められる現場では人手不足が起きています。
たとえば「食品工場を自動化できないか」というオファーをいただいたことがありました。そこで実際に工場を見に行くと、コンビニやスーパーでよく見られる商品が手作業で作られているなど、想像以上に自動化が進んでいない様子があり、衝撃を受けました。
私たちは、こうした今までは活用できなかった業界でも使えるロボットを創造して職場環境を改善しました。人手不足を補い、生産量と売上の向上を促したいと思っているのです。
では、なぜロボットの導入が進まないのか。この点においては課題がいくつかあります。1つめは、工場が非常に小さいということ。対して現在の技術ではロボットがそれなりの大きさになってしまい、物理的に稼働させにくいのです。2つめは、超がつくほどの主力製品でない限り大型の投資はしづらく、生産ラインを専用化しがたいということです。売り上げが伸びなければ生産はストップします。すると新たな商品開発の必要性が生まれ、生産ラインの環境も変わることになるのです。
このように従来のロボットは、大型、据付、投資額は数千万から数億円、対応品種が基本的に単品のみ、といった汎用性のなさが特徴でした。しかし我々が開発するロボットには、小型、移動可能、人件費と同程度で導入可能、類似する多品種に対応可能といった、従来のものとは異なる特徴が備わっています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
ロボット開発そのものを始めたのは小学生の頃でした。元々空き箱などで何かを作るのが好きで、モーターを含めた工作キットを手にしたときに“自動で制御する”という世界に興味を抱いたのです。それがロボットの世界への入り口でした。
その頃の携わり方はまだ趣味と呼んでいいものです。ただ、当時から数学オリンピックのロボットバージョンのような国際大会「RoboCup」の優勝を目指し、実際に2017年に優勝できたのですが、その頃になると「勝つために生み出した技術を社会課題の解決に活かせないか」という視点を抱くようになっていました。
というのも、単純作業のアルバイトをした経験がありましたし、そのときには「これらの仕事はどうすれば自動化できるのだろう」と思考を巡らせました。トマト農家の自動収穫ロボットの研究をしていた際には、平均年齢が高く、けれど農家の後継者がいないという社会的な課題を前に、ロボット技術に問題解決の糸口があるはずだという思いを強くしました。
大会で勝つためのものから、社会に役立つものへと転換を図るためには、持続可能性を獲得する必要があります。ロボットをビジネスとして回していかなければならない。そう思い、事業化を考え始めました。
常に壁だらけ。組織をどう大きくさせていくべきか悩みは尽きない
仕事におけるこだわりを教えてください
「ロボットを当たり前の選択肢へ」というビジョン、「大変な作業をAIロボティクス技術で補完する選択肢が当たり前にある世界の実現」というミッションの達成を、ブレずに行っていくということでしょうか。
そのためにも、私自身は「やり切る」ことが仕事上の重要な要素だと考えています。小中高と陸上をやっていて、長い距離を走るのは得意でした。辛いけれど最後まで走り抜くというマインドを持っているのは、陸上部時代が影響しているのかなと思ったりします。
起業から今までの最大の壁を教えてください
常に壁だらけですが、ビジネスとしてランニングさせられるロボット事業の在り方や、ターゲットの選定などについて模索していた創業時は、光の見えない日々で大変でした。
資金調達をし、きちんと売上を出せていけるようになってからも、分からないことは多々あります。組織も大きくなりますから、人材採用などをはじめ、どのようにスケールアップさせていくかなど、頭を悩ますことは多いですね。とはいえ、分からない問題にぶつかったときには、知っている人に聞くしかないかな、と。自分で考えて悩み続けても仕方がないので、知り合いの起業家に聞いたり、本を読んで調べたりして解決するようにしています。
確固たるビジョンに向かって邁進するのみ
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
達成したい確固たるビジョンがあるので、それがモチベーションとなっています。加えて、同じ思いを抱いて加わってくるメンバーにも良い経験をしてもらいたいと思うので、そのために良い環境を用意する、会社を成長させていくといったことは、常に向き合うべき課題だと思っています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
直近は、シードラウンドで調達した資金を運用して、弊社が開発する小型の包装箱詰めロボット「PickPacker」の導入事例を作っていくことです。実際に秋頃の本格導入を目指してカップ味噌汁製造工程の開発を進め、また大手食品メーカーの工場への導入も予定しています。
やはりロボットスタートアップは、現場に導入して実際に稼働する状況へ持っていくことが一番大変で、達成できずに撤退する企業も少なくありません。稼働の実例ができれば、それを横展開していく形での事業拡大が考えられ、また他のお客様への説明もしやすくなります。
ですから、まずは導入事例を作り、そこをファーストステップにして、将来的にはあらゆる工場に我々のロボットが導入されていくような仕組み、体制作りをしていきたいですね。
とりあえずやってみることは、とても重要
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業したいのであれば、起業するのが良いと思います。とりあえずやってみることは、とても重要なことだと思いますから。
私自身についていえば、起業したいとは思っていませんでした。スタートアップ界隈でエンジニア的なことをしていて、その仕事が単純に面白いと感じていたこと、ロボットを社会に活かしたいと考えたこと、この2つがリンクして起業という形になったのですが、もし追及したい何かがあれば、それに全力で向き合っていけばいいのではないかな、と。
ただ孫正義育英財団に選ばれたことは起業のきっかけになっています。すごい人たちが身を置き、一方で、支援金で研究費を賄えると感じ応募したのですが、結果としてロボットの研究・開発ができましたし、それが今の事業の源泉になっていることを思えば、とても大きな存在です。実際、財団で出会ったメンバーとスタートアップを立ち上げようと事業開発に着手したこともありますし、そのような経験すべてが現在に繋がっているのは間違いありません。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
( 株式会社Closer様の制作するロボット)
起業家データ:樋口翔太 氏
筑波大学大学院所属。長岡高専卒。小学生のときにロボット開発を始め、2017年にはRoboCup世界大会優勝、Asia-Pacific大会優勝を果たす。孫正義育英財団3期生。高専機構理事長特別表彰を2度受賞等、IPA未踏アドバンスド2021採択等。
企業情報
法人名 |
株式会社Closer |
HP |
|
設立 |
2021年11月29日 |
事業内容 |
ロボット等の開発、販売、導入及びコンサルタント |
沿革 |
2021年11月 株式会社Closerを法人化 2022年7月 NEDO NEP 採択 2023年3月 シードラウンドにて1億円 資金調達 2023年4月 J-Startup採択 |
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