EXest株式会社 代表取締役 中林 幸宏
自社開発した5つのプラットフォームを通じて、人が人を豊かにする世界の実現を目指す、EXest株式会社。観光、テレビ、一次産業などさまざまな分野のプラットフォームを手掛け、これまで出会えなかった人と人の出会いを創出しています。
代表取締役を務めるのは、今回が2社目の起業となる中林 幸宏氏です。大学卒業後はテレビ局で働いていたという同氏。その経験から得たヒントが今回の起業につながっています。詳しくお話しを伺いました。
さまざまな領域で人と人をつなぐプラットフォームを提供
事業の内容をお聞かせください
弊社は「誰かと誰かをつなげる」仲介型のプラットフォームビジネスを中心に事業を展開しています。最初に立ち上げたのは、外国人観光客と国家資格を持つ日本在住のガイドさんをマッチングする「WOW U」というプラットフォームだったのですが、コロナで海外から人が来なくなりマーケットそのものが消滅してしまいました。
その中で、打開策の一つとして誕生したのが、ローカルテレビ局が撮影した観光地や地域の魅力的な場所の動画を誰でも自由に活用できる「DOGADOZO」です。私自身、テレビ局で働いていたのでよく分かるのですが、テレビ用に撮影される動画の大半は日の目を見ることなく終わってしまいます。そこで、テレビの放送に使われなかった動画を自治体や旅行代理店など観光誘客をしたい人たちに観光プロモーション動画として活用してもらおうと考え、このサービスを作りました。
また、テレビ局と広告主を結ぶ「Publicity Showcase」というサービスも手掛けています。テレビ局側は、広告を募集したい番組の企画書やセールスシートをデジタル化し、プラットフォーム上で公開できるようになっています。これまで紙だった企画書がオンラインで簡単に見られるため、広告主は自社のマーケティングに適している番組を簡単に見つけられるわけです。デジタルではよく活用されるコンテンツマーケティングをマス広告に応用するイメージです。
ほかにも、一次産業の従事者とその方々を応援したい人をマッチングするプラットフォーム「Pocket Owners」も提供しています。具体的には、日本各地の農産物、水産品、畜産物などをはじめとした生産者を応援したい人が、特定期間のみ権利上のオーナーになることができ、さらに色々な特典も得られるサービスです。
すべてバラバラに見えるかもしれませんが、これまでつながりのなかった人たちを私たちのプラットフォームを通じてつなげる、という意味で根本的には同じ目的を持っています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
以前、広島テレビで働いていた際に「テレビ局で働けてよかった」と思えたのが、人とのつながりが広がることでした。
広島テレビは地方局ではそこそこの規模があるテレビ局ですが、、同期が3人しかいませんでした。テレビ業界、広告業界全体が、そもそも人数が少ないので、同じ年に入社した他局の人も全員同期と呼んでいました。さらに和が広がって、同じ年に社会人になった広告代理店の人も同期となって、皆すぐに仲良くなっていったんです。
たとえば以前、長崎に行った際に長崎の同期に連絡をしたことがありました。そしたら、その同期がホテルを探してくれて、さらに1人で気軽に行けるご飯屋さんのリストも送ってくれたんです。そこでリストにあったお店に行ってみると、私が来ることをお店に連絡してくれていて、お店の人がちょっとしたサービスをしてくれました。
そうした経験から、人と人が出会い、つながることに価値があると改めて気付きました。この素敵な関係値を観光客とガイドでつくれないかと思い誕生したのが、「WOW U」です。
コロナで収益がゼロに。でもリストラは絶対に避けたかった
仕事におけるこだわりを教えてください。
一番大切にしているのは、人との出会いを大事にすることです。あと、自社に関することは積極的に、何事も隠さずに話すようにしています。
やりたいことやアイデアを周りに話すと真似されるのではないかと心配する人もいるのですが、僕自身の考え方としては、話すことで共感してくれる仲間が集まりやすくなると思っています。もし真似されて我々が負けたとしても、それは僕自身の実力が足りなかっただけの話だと考えているからです。
あと、死なない意味のある失敗をたくさんするようにしています。スタートアップが大企業に勝てるのはスピートだけではないでしょうか。社員にもスピード感を持って仕事をし、「意味のある」失敗をし続けるよう伝えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大の壁だったのは、経営判断に関する意見が株主と大きく食い違った時です。大前提として、支援してくださっている株主には本当に感謝しています。
当時は観光をターゲットにした「WOW U」が主な収益源だったのですが、コロナで大幅に利益が減ってしまいました。利益はないのにオフィスの家賃や人件費は出ていく。そんな状況で一気に赤字になっていって…。
非常事態だったこともあり、コロナ前は月に一度だった株主との定例会議が週に1度になり、会社の財務状況を毎週説明していました。株主からは色々なアドバイスがありましたが、一番言われたのは「まずはリストラをするしかない」という意見でした。
株主の多くはすでに事業で成功しているため、彼ら自身の成功法則があるわけです。しかし、リストラは「人を大事にする」という私の理念と大きくかけ離れています。当然、私の選択肢にはありませんでした。
最終的には収益源となる他の事業を作るという形で乗り越えました。
人を大切にしながら、理想の事業をつくっていく
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
続けるモチベーションは、やはり「人」です。プラットフォームの先にいる人もそうですし、一緒に働いていてくれている社員の存在も大きいです。
社員には比較的自由に働いてもらっていて、私は苗字ではなく「ゆっきーさん」と呼んでもらっています。その方が社員との距離が縮まり、話しやすい雰囲気がつくれるかと、、勝手に思っています。
社員が新しいことにも積極的に挑戦できるよう「失敗していいよ」と普段から伝えています。もちろん意味のない失敗や、同じ失敗を何度もする時などは怒りますが。
ここで楽しく皆に働いてもらい、仮に将来転職したとしても「ここで働いた経験があるからこうなれた」とステップアップとして捉えてもらえると嬉しいですね。もちろん、EXest社で働き続けてもらうことが一番ハッピーなので、そのためにも企業として成長を続けて、会社で働き続けてもらうことで、社員が加速度的に成長してくれたらいいなと思っています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
今後も自分たちがやりたいと思う事業を、しっかり作りあげていきたいですね。弊社は少人数ですが、5つのプラットフォームをすべて自社開発し、運営も自分たちでおこなっています。
取締役会では「選択と集中」に関してよく質問されるのですが、私の中ではすべてのプラットフォームがつながっていて、それぞれがドライバーとなっています。どれかを辞めたら劇的に何かが伸びるというわけでもない。なので、やりたいことを全部やり、結果を出すことで株主にも納得してもらう。
せっかく経営者になったのですから、やりたいことをやる。人に言われてやるのは嫌ですよね(笑)
社会に付加価値を提供できる事業をつくって欲しい
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
まず何より大事なのは、なんのために起業するのか?ということです。最近は学生起業なども流行っていますが「起業するのがかっこいいから」という理由で起業するのはおすすめしません。起業はやりたいことを実現するための手段であって、目的ではありませんから。
私はこの会社を立ち上げる前にも起業したことがあり、創業1年目からある程度はうまくいっていたと思います。しかし、シリコンバレーで活躍されてらっしゃる先輩起業家から「中林さんは儲かっているかもしれないけど、社会に何も価値を提供していないよね。アントレプレナーは新しい産業をつくらないといけないと意味がない。新しいことを生み出して、それがあることで幸せになる人を増やすことが大事なんだ」といった意味の、強烈な言葉をかけられました。
もしかすると自分の中で言葉が変化してしまっているかもしれませんが、その言葉に動かされ、私がやりたいこと、社会に対して価値を出せることは何か、と考えた結果「人をつなぐこと」にたどり着いたんです。起業したいと思っている人は「自分は社会にどう付加価値を提供できるのか」を一度突き詰めて考えてみてください。
以下、多分に私見もあるので、個人的な意見として聞いてください。僕自身は、スタートアップとは、、ゼロのものをプラスにできる、すなわち今あるもの、もしくはないものを生み出し、社会に付加価値を付ける企業だと思っています。暮らしの中にある、よく「ペイン」と呼ばれるようなネガティブ要素をゼロにする事業は、実は、大手企業の方が向いているんじゃないのかなと思ったりもしています。
スタートアップの強さはスピード感を持って、失敗し続けられることです。「ペインがあるのに失敗し続ける」という状況はダメですよね。なので、ペインにアプローチするのはペインをしっかり分析し、豊富なアセット(ヒト、モノ、カネ、時間)をかけてシステム化できる大手企業の方が合っていると思います。
スタートアップの役割は「このサービスがあることで、誰かに少しハッピーになれる」と思ってもらえる事業をつくることかと。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:中林 幸宏氏
早稲田大学を卒業後、広島テレビに入局。 スポーツディレクターを経て、大阪支社、東京支社で外勤営業。大手クライアントの広島における広告宣伝活動に携わる。 2013年、早稲田大学ビジネススクールに入学し、2015年MBAを取得。 2016年12月に二社目となるEXest株式会社を設立。
企業情報
法人名 |
EXest株式会社 |
HP |
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設立 |
2016年12月1日 |
事業内容 |
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