【#066】広告代理店を介さず企業と直接やり取りにこだわったイベント制作が強み。主催者としての顔を持ち、コスト管理もサポート|代表取締役 前野 伸幸(株式会社ホットスケープ)
株式会社ホットスケープ 代表取締役 前野 伸幸
イベント企画・制作会社として培った実績や経験から、会場の提供だけでなく提案型の営業展開も実施。自社主催イベントや会場運営、コスト管理をサポートするなど、ほかのイベント会社にはない強みが豊富です。今回は、イベント企画・制作のほか、会場の管理運営、コンサルティングも行う同社の前野 伸幸 氏に、具体的な事業内容や事業を始めたきっかけ、今後の展望や起業する方へのアドバイスなどを伺いました。
イベント制作の枠に収まらず、主催者目線でのイベント活用
さっそくですが、事業内容をお聞かせください。
通常は、広告代理店経由でイベントの仕事を受託することがほとんどです。しかし、弊社は広告代理店を介さないでイベントをしているという特徴があります。
新しい車を出した会社が世の中に認知してもらうときは、テレビCMを使用したり今だとSNSを使ったりして車を宣伝していくと思います。そのなかで、展示会の出展ブースを構えるというのがイベント屋さんの仕事になるわけです。
イベント会社が広告宣伝費を取りに行こうとすると、直接企業とやり取りするのは難しいので実現性が低くなります。先ほどの話でいうと、車のブランディングをしなければいけないのに対してイベント会社がそこまで関与するのは難しい、といったイメージです。
弊社は創立してから32年経つのですが、独立したときから企業と直接取り引きがしたいと考えていまして、そのためには広告宣伝費は捨てる覚悟でいました。企業が開催しているイベントのなかで、広告代理店を介していない広告宣伝費ではないイベントというのはまだまだたくさんあります。
具体的には、入社式や表彰式などの社内行事です。私は最初そこにこだわって仕事を頂いていました。また、人事の方にとって4月はとても忙しいと思うのです。入社式はもちろんですが、次の年の採用に備えた準備もすでに始まっていますし、加えて社内の人事異動もあるので、人事の方は入社式や表彰式などがオーバーフローになってきます。そういった仕事を弊社が受注していたのが始まりで、今も95%以上は企業と直接取り引きにこだわって仕事をしていますね。
弊社は、イベントを年間に100~150程度受けているのですが、そのために会場を借りに行くことになります。企業がイベントをやるとホテルやカンファレンス施設、大きな会議室などを使用するのですが、その際会場によってはイベント会社が苦労することがあるのです。
みなさんも経験があるかもしれないのですが、お弁当の選択肢が少なくて食べたいものを食べられないとイベントは良かったのにお弁当がマイナスポイントになってしまい、総合評価が下がってしまいます。
私はせっかく来場してくれたお客様に残念な思いをしてほしくないので、よく使う会場にはお弁当の種類を増やしてもらったり、人員の配置人数を変えてもらったりするなど、極力提案するようにしていました。
森ビルさんが六本木ヒルズで展開していた会場には特に希望を伝えていた結果、虎ノ門ヒルズ内に設置するカンファレンス施設の設置の際に最初から携わってくれないかとお話をいただきました。イベント会社から見たイベント会社が使いやすい会場を一緒につくれるということで、ありがたいお話でしたね。
今もいくつかコンサルもしているのですが、弊社が施設の所有者に代わって会場の営業・運営も担当しています。問い合わせの対応や打ち合わせの参加、見積や図面作成など弊社の社員がやらせていただいています。会場をお借りする立場と会場の運営を両面で担当しているというのはとても珍しいことです。
他の会場をお借りするからこそ良し悪しが分かりますし、良いところは弊社で運営管理する施設でも応用できるのも弊社の強みといえます。
現在のイベント業を始めた経緯を教えてください。
もともとは音響の技術者をしていました。弊社が今は扱っていないコンサートの音響をやりたくて、音響系の専門学校に通っていました。また、今はこんなに話していますが、昔は人と話すのが苦手でした。
今ほど楽しみがない私の世代はギター抱えている若者が多かったので、「音楽の仕事がしたい」とかっこいいことを言いながら、音響さんでした(笑)。その当時はコンサートしか見えていなかったのですが、音響の仕事をしているとコンサート以外の仕事もすることになります。大きな展示会の仕事をすると、指示系統で考えると音響さんのポジションが川下にあることに気づきまして。
存在自体が下とかではないのですが、お金の流れで見たときに末端にいることに気が付くんです。車を宣伝したい会社がいて、その下に広告代理店がいて、グループのイベント企画会社がいて、イベント制作会社がいて、その他にもいたうえでやっと音響さんのポジションがあります。
それを知ったときに、「もう少し世の中に影響を与えられるように上流のポジションにいかなきゃな」と思い始めたのです。たまたまとある時計メーカーさんのイベントに1ヶ月関わることがあったのですが、このときに担当されていた方が広告代理店を通さないでイベントをするといってそれを実現させたのです。
この時のイベントをプロデュースしていたのが、マーケティングリサーチの会社の方だったのですが、この方が私のメンターでもあります。音響以外に視野を広げて、イベントも楽しそうだなと感じたのがイベント業に興味を持ったきっかけです。
そこから独立したのは、たまたま私がいた会社が解散になったのが理由です。イベント会場を貸し出す仕事をしていたのですが、その会社はバブル崩壊が見えてきたときに解散することになりました。
いつか独立したいとは思っていたのですが、会社がなくなることと商法改正のタイミングに背中を押された形で、予定よりも3年くらい早く独立せざるを得なかったです。事業計画も立てていなかったので、今の私がその当時の私を見たら止めると思います(笑)。
遊び心を反映させて、自分自身もワクワクすることを忘れない
仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。
直接企業さんと取引をするのもこだわりの1つですが、イベントを計画していくなかで遊び心を入れることにもこだわっています。誰も気づかないかもしれないのですが、”花を1個置いて、花言葉に意味があってここに置きました”といったことなどです。何か遊び心を反映することで私自身もワクワクします。
起業から今までの最大の壁を教えてください。
現在、社員数51名いるのですが、最初3、4人の時代が長かったのです。壁になったのはリーマンショックや東日本大震災でして、イベント業界は大きく影響を受けていました。震災直後は資金繰りが厳しい時期にいたのですが、そのタイミングで先ほど紹介した森ビルさんのお話がきたので、「いま、辞めてはいけない」と感じたことを覚えています。
最初はコンサルに入ったので少ない人数でも対応できていたのですが、新しくできるカンファレンス会場が20人程度が必要となる規模の運営を弊社に任せてもらえることになりまして。そうすると20人もの採用には多額のコストがかかるので、銀行から融資を受けながら森ビルさんに迷惑をかけないようにしました。この資金繰りがひとつの壁でした。
新型コロナウイルスの影響で2020年2月に政府からイベントの規制がかかったのですがこちらは意外と壁にならなくて。実は、すでに配信関連の機材を持って経験も積んでいたのでオンラインイベントを受託するようになりました。今まで関わりのなかったクライアント企業さんからも受注などもあり、売上に多少の影響はありましたが赤字にはならなかったので、良い経験になったと思います。
イベントづくりから「街づくり」へ
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションを考えたことはあまりないです。イベントをやっていて楽しいのは、バタフライ効果といって目の前で開催されているイベントを通じて、何か大きなことにつながるのではないかと考えることですね。例えば、表彰式では表彰を受けた理由や感動の言葉などがたくさんの社員さんを前にして行われます。
その参加している社員さんが感化されて営業成績が上がったり、もしかすると日本を元気づけることにつながっていたりすると思えたら、とても面白いですよね。森ビルさんや三菱地所さんとの提携は街づくりという大きなことにつながっているので、そこに私が関われるのは楽しいです。
ところで、Coral Capitalさんとスタートアップ企業のイベントを始めているとお伺いしたのですが、開催の経緯と、どのような点に期待しているかお聞かせください。
Coral Capitalさんは、スタートアップ企業に出資・支援をするベンチャーキャピタル(VC)です。VCは基本金銭面の支援だけをしているところが多いですが、Coral Capitalさんは採用もサポートしています。
Coral Capitalさんが支援しているスタートアップ会社と、Coral Capitalさんが集めた転職希望者とで、マッチングしてもらう仕組みです。その際に、Coral Capitalさんが企画していたイベントの規模が大きくなってきたこともあり、イベントを支える会社として弊社にご依頼いただきました。Coral Capitalさんからは、スタートアップ企業が会社をアピールする場を設けたいとご相談をいただいたことがこのイベント開催の経緯です。
スタートアップ企業はまず資金調達に苦労しますが、そこを乗り越えると次に苦労するのは人材集めだと思います。そこにイベントの力を活用できるのであれば、弊社も応援させていただけるのは光栄です。また、今回のイベントを通して、スタートアップ企業に弊社のことを認知していただけたらと考えています。
Coral Capitalさんと連携するからこそ実現できることはありますか?
企業さんはどこにイベントを頼めば良いのかもそうですし、イベント会社にたどり着く方法も分からないことが多いです。インターネット上でイベント会社を探すとたくさんヒットしますが、スタートアップ企業に強いことを売りにしているイベント会社は多くはありません。
先ほどお伝えした社員総会や表彰式、入社式をかわりに開催しますというのはありますけど、スタートアップ企業に強いイベント会社は検索してもなかなかヒットしないのです。そのため、スタートアップ企業を支援しているCoral Capitalさんと連携することで、弊社もスタートアップ企業のイベントを開催していると多くの方に認知してもらえます。
ビジネスチャンスがあるところにはイベントが必要
Coral Capitalさんと連携する前からスタートアップ企業を支援していたお伺いしたのですが、スタートアップ企業をサポートしようと思った理由を教えてください。
イベント経験のない企業さんが1,000人規模のイベントを開催しようとすることが多いのですが、イベント会社としては100人、200人、300人という風に段階を踏むものなので、何かが欠ける傾向にあります。
例えば、集客に自信はあるけどお金の管理ができない場合や、展示ブースをつくりたいけどそのためのメニュー作りはできないなど、どこかが欠けている会社さんが多いのです。弊社はそこを全面的にサポートできるので、助け船を出しやすくなっています。
日本経済に明るい未来が期待できないなかで弊社が注目しているのは、観光や地域創生、社会課題の解決などです。これらの動きのなかにビジネスチャンスはあるものです。ビジネスチャンスがあるところにはイベントが必要だと思っているので、そのなかでスタートアップ企業を支援するのは私が注目しているものと合致していました。
今後の展望をお聞かせください。
自分の会社を大きくすることも大切ですが、イベントの仕事の魅力を世の中に広げることをしたいと考えています。大学生の方とお話する機会があるのですが、マーケティング業や広告業を就職先にしたいと希望している方はいますが、イベントの仕事に就職したいといっている方は稀で。近いところでホテル業や観光業に携わる仕事をしたいと希望していても、イベント業をしたい方はなかなかいないのです。
イベント業があること自体認知されていないのは、残念に思います。恐らく、イベント業には辛いイメージを持たれているのかもしれませんが、弊社は働き方改革も積極的に取り組み業界内であっても改善されているので。そういう部分のイメージも払拭して、イベント業を仕事にしたい方を増やしたいですね。
「判断力」と「情報量」は小さい会社ならではの強み
起業しようとしている方へのメッセージをお願いします。
会社経営をするうえで役立つ要素や能力を経営資源といいますが、その経営資源として必要なのは、ヒト・モノ・カネだといわれています。大きい会社に比べると小さい会社は勝てない要素ばかりなんです。
しかし、小さい会社だから勝てる要素があって、それは「判断力」と「情報量」だと思います。情報量は人脈に基づくのですが、デキる人とつながっていれば仕事を受注できるので、ここは大きい会社にも勝てる要素です。
起業時にある程度のお金は必要かもしれませんが、判断力と情報量さえあれば何とかなると思っていて、新型コロナウイルスが流行したときはまさに1番の財産だと感じました。起業する際は、小さい会社だからこその強みを活かして経営していくのがいいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:前野伸幸 氏
1991年、独立起業当初より、多くの大手企業からのミーティング・カンファレンスなどイベントを直接受注。企画・進行・運営を数多く手掛けている。その一方で、イベント・MICE 施設のコンサルタント・運営でも多くの実績を残す。COVID-19の影響後は、いち早くオンライン配信に取り組み、現在はイベントの DX 化を牽引している。趣味は旅行・映画鑑賞。座右の銘は「越えられない壁はない」。愛読書は『じょうずなワニのつかまえ方』。
【企業情報】
法人名 |
株式会社ホットスケープ |
HP |
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設立 |
1991年3月 |
事業内容 |
イベントプロデュース ファシリティマネジメント プロジェクトコンサルティング |
沿革 |
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