Spiral.AI株式会社 代表取締役 佐々木雄一
「人類の技術進化を推進する」をミッションに掲げるSpiral.AI株式会社は、生成AIとLLM技術に特化した日本でも数少ない企業です。サブカルチャーの聖地である秋葉原にオフィスを構え、AIキャラクター事業にも従事するなど、幅広い事業を展開しています。
代表取締役の佐々木雄一氏は、人間と楽しく会話できるEQの高いAIキャラクターの作成にも力を入れていると話します。事業内容や今後の展望なども含めて、詳しくお聞きしました。
世界でも珍しい、EQを重視したAIを開発
事業の内容をお聞かせください
当社は巨大言語モデルに特化し、サービスの企画から開発、提供を一貫して行っています。
ChatGPTが世に出たのが2022年11月30日で、我々はそのすぐ後の2023年3月に会社を立ち上げました。比較的早い段階でこの領域に参入し、現在でも同業他社は国内に10社も存在しないと思います。
競合は少ないものの他社と差別化を図るため、我々は方向性を若干ずらし「楽しくお話ができるAIキャラクター」の開発に力を入れています。AIと聞くと、仕事の効率化や難しい数式を解くことに使いたいと考える人が多いのですが、我々はあえてその領域ではなく、会話の相手としてAIを活用することに着目しました。
現在のAI技術は、人間と自然に対話が可能なレベルまで進化しており、これほど高度なレベルに達したのは歴史上初めてのことです。以前はAIと会話していても途中で話が噛み合わなくなることが多かったのですが、今ではAIがテレフォンオペレーターや店舗スタッフとして人間と対話できるようになりました。
その中でも我々が力を入れているのは、楽しく会話ができるAIです。知能指数を表す「IQ」との対比で、こころの知能指数を表す「EQ」という概念があります。我々は単に賢いAIを提供するのではなく、感情豊かで人間味のあるEQを重視したAIの開発に重点を置くという、世界的に見ても珍しい取り組みをおこなっています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は長年にわたってスタートアップ界隈で働いてきました。
2016年〜17年頃に働いていた会社は、AIの受託開発を専門に行う会社でした。その後、創業メンバーに近いポジションでAIの画像認識を得意とする会社に転職し、その会社が上場するのを見届けた後、起業しました。
スタートアップで働き始める前は、コンサルタントや研究職に就いていた時期もあります。会話を重視したAIの開発に至ったのは、この時の経験も関係しています。
物理学の研究者として働いていた頃は、言葉の重要性にほとんど気付いていませんでした。しかし、コンサルタントとしてのキャリアをスタートさせた時、人を惹きつける秘訣はロジックだけでなく、どれだけ上手に話せるか、つまり人間味があるかなのだと気付きました。コンサルタントはロジカルさで戦うイメージが強いと思うのですが、実際は頭の賢さより人間味も含めて勝負する世界です。
研究者だった私は、当時大きなカルチャーショックを受けました。その時の気付きが賢さだけではなくEQを重視したAIの開発に繋がっています。
多様性のあるチームで多角的な視点を養う
仕事におけるこだわりを教えてください
私たちの強みは、多様性を重んじるチーム構成にあります。
生成AIや巨大言語モデルが社会に革命をもたらす核心技術であることは間違いないのですが、その発展の道のりや普及の形はまだ謎に包まれています。不確かな未来を見据えながら、様々なスキルセットや経験を持つ人材を集め、事業を展開し続けなければなりません。
現在当社には、経験豊富なエンジニアや歴戦のマーケター、BtoB営業が得意な人など、多様性溢れるメンバーが在籍しています。
多様なスキルとバックグラウンドを持つメンバーを迎えると共に、チームには左脳型・右脳型の両方の人を入れるようにしています。なぜなら、左脳型のメンバーだけではロジカル思考に偏りがちで、革新的なアイデアを生み出すのが難しくなるからです。そのため、突発的なアイデアを生み出すことが得意な右脳型のメンバーもバランス良くチームに入れるようにしています。
多様な視点を組み合わせることで、予測不能な未来への適応力を高め、革新的なアプローチを生み出す土壌を育めると私は考えています。生成型AIと巨大言語モデルの登場は、産業革命やインターネットが歴史に与えた影響と同様に、大きな変化を世の中にもたらします。不確実要素は多いですが、私一人ではなく多角的な視点を取り入れながら判断していくことで、事業の持続可能性を高められると信じています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最初に直面した大きな壁は採用でした。新しい分野である巨大言語モデルに関心を持つ人がまだ少なく、この分野ではGAFAのような大企業の方がスタートアップよりも優位にあるという先入観が広がっていたため、人材を集めるのに苦労しました。
しかし、蒸気機関車、電気、インターネットが登場した時と同様の、大きな革新の波が到来しています。「勝ち目がないから戦わない」というスタンスで、この変革の波に乗り遅れるのは非常にもったいないことです。
特に生成AIは現在、インターネットの黎明期に似たタイミングを迎えています。当社のCOOは採用の際「今のタイミングでこの業界に入らないのであれば、一生関わらない方がいい」といった力強いメッセージを伝えています。
未来がどうなるのかは誰にも予測できません。しかし、今この瞬間にこの業界にいることに価値があるのだと私は確信しています。現在は求職者に我々の考えをしっかりと示せていますが、以前は説得力が足りなかったこともあり採用に苦労しました。
もう一つ直面した壁は、企業文化や働く人々のマインドセットに関するものでした。
多くの日本企業は生成AIなどの新技術を導入する際、業務効率化への応用を最優先に考えます。そのため、DXや業務改善を成功させるためには、技術そのものよりも人間が中心であるべきだという点が見落とされがちです。
私も昔、生成AIを活用し社内業務の効率化を図る提案をしたことがあります。しかし、効率化によって社員の残業代が減ることや、担当者の仕事がなくなるのではないかという懸念から、導入がスムーズに進まないことがよくありました。
会社を創業してからも最初の半年間も、DX関連のプロジェクトを多く手掛けていました。その中で強く感じたのは、DXの成功はテクノロジーそのものではなく、そこで働く人々のマインドセットの変革に深く関わっているという事実です。我々のみでなく、多くの企業がDXを進めようとする際に、従業員の慣習や思考パターンを変えることができず、最新技術を活かしきれていないという課題に直面しています。
AIで新キャラクターを創造し、偉人を現代に甦らせる
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
現在は組織や社員の成長が、モチベーションのひとつになっています。特に、新卒で入社した社員が目覚ましい速さで成長する様子を見ると本当に嬉しくなります。
起業して初めて気付いたのですが、組織や社員が成長していく過程を見守るのは、予想以上に楽しいものです。
また、前向きなお客さまと一緒に働けることも大きなモチベーションになっています。我々はお客さまからのアイデアを取り入れながら製品を共に作り上げているのですが、「これは面白い。楽しんでやりましょう」などといった言葉をくださるお客さまが多く、そうした前向きな反応がモチベーションの源になっています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
中期と長期の目標がそれぞれあります。
中期目標は、AIを内蔵したキャラクターを数多く生み出すことです。いま人気のあるキャラクターの多くは基本的に喋らないか、あるいは「中の人」が限られているため、いつでも自由に話せるわけではありません。
しかしAI技術を取り入れたら、どんな時でもキャラクターが自由に話せるようになります。たとえば、我々が生み出したキャラクターが年末年始にYouTube番組の司会として活躍している。そんな未来がきたら面白いなと思います。
視聴者から「このAI、結構面白いじゃん」と思われるような、そんなキャラクターを多く生み出すことが中期目標です。
私は学者としてのバックグラウンドを持っていることもあり、アインシュタインを始めとする偉人の思考プロセスをコピーし、現代に復活させることにも大きな関心があります。
現在の技術を活用すれば、私の構想を実現するのは決して夢物語ではありません。これは長期目標として取り組んでいきたいと計画中です。
また、教え方が上手い先生やセールストークが上手い営業をコピーしたAIキャラクターを生み出すアイデアにも興味がありますので、そうしたプロジェクトにも取り組んでいきたいと考えています。
人生の最期に後悔しない選択を
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業を考える人の多くは、自分の人生で何かを成し遂げたいという強い願望を持っているのではないでしょうか。こうした前向きな気持ちが少しでもあるのなら、人生の最後に「やってよかった」と心から思えるような挑戦をぜひしてみてください。
人生の最期に「あの時、もう少し勇気を出して挑戦しておけばよかった」と後悔することほど悔いの残ることはありません。スティーブ・ジョブズのような偉大な起業家も、死ぬ時に後悔しない選択を心がけていたようです。
もし起業に迷っている方がいらっしゃれば、自分の感情と一度しっかり向き合ってみてください。「後悔したくない」という想いが強ければ、起業する勇気も湧いてくるはずです。
スタートアップでのキャリアを考えている方へのアドバイスもお願いできますか?
今の時代、スタートアップで働くのはすごくいい選択だと思います。伝統的な日系企業に比べ、スタートアップでは時間の流れが速く、特に若い人は短期間で多くの経験を積むことができます。
最近、ネット上でキャリアパスに関する悩み相談を目にしました。それは、最初の2年を日系企業で過ごした後にスタートアップに移り3年働くパスと、スタートアップで3年働いた後に日系企業で2年働くパスのどちらがキャリア形成において有利かというものです。
人によって意見が違うのは当然ですが、私はスタートアップでの経験を先に積むべきだと強く感じました。
今は日系企業でも、リーダーシップを発揮する人物が評価される傾向にあります。時代と共に文化や社風が変化し、新しい取り組みを進める機会も増えていると聞きます。
スタートアップでは、リーダーシップや実行力などの日系企業でも評価されるスキルを速やかに身につけられます。
働くリスクを考えると、スタートアップの方が倒産する可能性が高いのは事実です。しかし今や大企業の業績が傾いたり、伝統的な会社が倒産してしまったりするのは珍しくありません。そういう意味では、どの企業で働いていてもリスクはあるのです。
結局、自分の名前だけで仕事ができる人材になるのが一番安全なキャリア設計なのではないでしょうか。キャリアの早い段階からスタートアップで働くことで市場で評価されるスキルが早く身に付き、自分の名前だけで仕事を獲得できる状態に早く近づけると思います。
採用を強化されているそうですね。募集されているポジションを詳しく教えてください
現在、各ポジションで人材を募集しています。
当社のように、エンターテイメント領域や「EQ軸×言語モデル」に力を入れている企業はほぼ存在しませんので、特にこの分野に関心を持つエンジニアにとっては非常に魅力的な職場環境といえます。さらに、スーパーコンピューターなどの高性能な設備を整えており、エンジニアが自由に使える環境を整備しています。
性格面では「僕はこういう世界観を描いてるから、そのために会社のリソース使わせてくれ」といった情熱に溢れる人が理想です。主体的に考え、動く人を我々は採用したいと考えています。
エンジニア以外にも、デザイナーやYouTubeの企画職など多方面で人材を募集しています。ご興味がある方は、以下よりぜひ詳細をご確認ください。
採用情報▼
https://spiralai.notion.site/Spiral-AI-EntranceBook-5320bf2d93d04b2db9e7056aca4c177e
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:佐々木雄一
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻卒業。理学博士。ビッグデータ分析と機械学習が専門。スイスCERN研究所にて、ブラックホール研究やヒッグス粒子・超対称性粒子の探索に携わる。
ビジネスを通して技術を広め、世界を大きく変えたいという思いから、マッキンゼーに入社。クライアント企業の戦略策定等を支援。
XCompass株式会社にて研究開発をリード。画像・映像・文書・音声の深層学習モデルを開発。
ニューラルポケット社(東証グロース)の初期メンバー・CTOとして、AI開発と社会実装を主導。AI開発におけるPDCAサイクルを武器に、全国あらゆる環境下で安定稼働するAIシステムを構築
2023年よりSpiral.AI社を立ち上げ
企業情報
法人名 |
Spiral.AI株式会社 |
HP |
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設立 |
2023年3月1日 |
事業内容 |
1.AIキャラクター事業 個性を再現した次世代AIキャラクター作成・運用プラットフォームを構築。現在は、Instagram / X / TikTokのSNSフォロワーが180万人超えの「真島なおみ」さん所属事務所公式のAIチャットサービス「Naomi.AI」を提供。音声とテキストでやり取り可能。芸能人・IPコンテンツを公式で許諾取得した、AI音声チャット商用サービスは日本初(当社調べ) 2.AIソリューション事業 生成AI/LLMを活用して かんたんに業務支援・効率化ができるプラットフォームを構築。現在は、音声認識と質問内容の抽出を行い、関連するQA項目を自動で提案するオペレーター支援ツール「Dial Mate」を提供。 3.巨大言語モデルソフトウェア開発 |
沿革 |
2023年 3月
6月
8月
9月
10月
12月
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