株式会社MISOVATION 代表・栄養士 斉藤 悠斗

株式会社MISOVATIONは、「味噌汁で世界の予防医療にイノベーションを起こす」をビジョンに掲げ、フードテックを活用した次世代型の味噌汁を開発しています。完全栄養食として味噌汁が持つ価値を再定義し、日本のみでなく世界中にその素晴らしさを伝えることが使命です。同社の創業者であり代表の斉藤悠斗氏に、事業内容や起業の経緯、今後の展望などをお聞きしました。

 

フードテックを駆使した次世代の味噌汁を開発

事業の内容をお聞かせください                 

当社はフードテック技術を活かした味噌汁を開発し、自社のECサイトで販売しております。我々が提供しているのは、厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」に基づいて栄養価を計算した、完全栄養食の味噌汁です。

 

味噌汁には、野菜や豚肉など15種類の具材をバランスよく使用し、国産の煮干しを中心とした出汁に味噌、甘酒、枯節などの発酵食品をブレンドしています。瞬間冷凍することで美味しさと栄養を維持できるようにし、化学調味料や保存料などを一切使用していないのが特徴です。

 

現在、日本全国の味噌蔵と提携し、毎月味噌の種類を変えながら商品をお届けしています。日本には約1200の味噌蔵が存在しますが、残念ながら産業の縮小により廃業する蔵も少なくありません。クラフトビールのように味噌にもその地域や蔵特有のユニークなものが何百種類もあるのですが、その存在や魅力は世の中に十分に伝わっていません。そこで我々は全国から希少な味噌を買い集め、それらを使用した味噌汁をカスタムメイドでお客さまにお届けする「パーソナライズ味噌汁 MISOBOX」という新しいサービスも始めました。

 

「パーソナライズ味噌汁 MISOBOX」では、まずお客さまにWEB上でいくつかの質問にお答えいただき、それに基づき我々がお客さまに不足しがちな栄養素を分析します。そして、お客様に不足している栄養素を補い、味の好みに合った味噌汁をお届けしています。このサービスを通じて、新たな味噌に出会え、さらにパーソナライズされた栄養が届くという「新しい味噌汁体験」をお楽しみいただけます。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

学生時代から食で予防医療を推進したいという思いを持っていたことが、起業の大きなきっかけです。当時認知症を患う祖父の介護を自宅でしていたのですが、認知症は治療薬もなく基本的には治らない病気のため、想像以上に介護は大変でした。

 

この経験を通して病気になってから健康を意識するのではなく、病気を事前に予防する予防医療の大切さを痛感しました。私は予防医療の中でも特に食に興味があったことから、大学では栄養学を学び卒業後はカゴメ株式会社に入社しました。

 

働き始めてからも「食で予防医療を推進したい」という想いがあり、健康食品についても幅広く調べたのですが、市場にある商品は特定の栄養素に特化したものや、味・手軽さにおいて課題があるものが多く、多くの人が自分に最適なものを選び、それらを継続的に摂取することは難しいと感じました。たとえば、プロテインはタンパク質を効率的に摂取できますが、他の栄養素は不足しがちです。また、365日、朝昼晩プロテインを飲み続けられる人は限られているのではないでしょうか。

 

そこで目を付けたのが、味噌汁です。味噌汁は誰もが手軽に食べられ、しかも美味しい。豆腐や野菜などを入れることで、タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取でき、手を加えなくてももともと完全食に近い料理です。

 

さらに、日本人にとって馴染み深く、味や調理方法のバリエーションも豊富なことから大きなポテンシャルがあると感じました。

 

起業を決意したのは、転職先の株式会社リクルートキャリア(現・株式会社リクルート)に在籍していた時です。仕事での成果が目に見えてきて自分のキャリアについて深く考えるようになった時期に、20代後半までに「この道で行く」という軸を決めたいという思いが強まりました。

 

学生時代から抱いていた起業への夢が社会人経験を重ねるにつれて大きくなっていき、2021年に起業を決意しました。

こだわりは「美味しくて栄養価が高く、毎日続けられる味噌汁」を提供すること

仕事におけるこだわりを教えてください

このサービスを立ち上げたのは、美味しくて栄養価が高く、毎日食べ続けられる健康食品が市場に存在しなかったからです。我々は美味しさ、栄養、継続性の3つを満たす商品を提供することを重視しており、それが意思決定の基盤となっています。この3つ全てを兼ね備えた質の高い商品を提供し続けることが、ひとつのこだわりです。

 

もうひとつのこだわりは、商品を通じて味噌の価値を世の中に伝えていくことです。
この事業を展開していく中で、たくさんの味噌蔵さんと出会いました。味噌蔵さんから学んだ知識や経験は計り知れず、その伝統を未来の世代へと継承し、広めていくことの重要性を深く感じています。

 

しかし、世の中に味噌の価値が十分に認知されていないのが現状です。



我々は味噌汁以外の商品を開発することもできますが、あえてその道を選びません。なぜなら私たちが味噌汁を提供するのは、衰退傾向にある日本の味噌産業に少しでも貢献したいという想いがあるからです。日本各地にある1,200もの味噌蔵が生み出す味噌の多様性と栄養価値を伝え続けることが、我々の使命だと思っています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

味噌汁を食べる生活や文化を「カッコいい・クールだ」と思ってもらえる文化をどう築くていくかが、最大の壁だと考えています。

 

私たちが提供する味噌汁は、美味しく、健康的で、日常的に楽しめるという点で非常に合理的です。しかし、人は合理的だからといって行動を変えるわけではありません。いくら身体に良い食べ物でも価格が高ければ敬遠されがちですし、ダイエットしている人でも、帰宅途中に人気のラーメン店を見かけたら入らずにはいられませんよね。

 

人間の本能と、合理的な選択は時に衝突します。私たちの商品は合理的といえますが、だからといって簡単に人々が受け入れるわけではありません。まずは、健康的で美味しい味噌汁の良さを心から理解し、日常的に楽しむ人を増やしていく必要があります。時間はかかりますが、取り組む必要のある過程だと思っています。

 

その壁を乗り越えられたら売上も自ずと上がるはずです。しかし売上を上げることを最優先として、我々のポリシーに反する商品を販売することはしません。これからも、美味しくて栄養価が高く、毎日続けられるというこだわりに沿った商品を提供し続けます。

 

お客さんと味噌蔵さんからの感謝の声が大きな原動力に

進み続けるモチベーションは何でしょうか?          

商品を長く購入いただいているお客さまや味噌蔵の皆さんからのポジティブなフィードバックが、一番のモチベーションになっています。

 

注文数が少なかった時期は、我々がお客様に直接電話して購入の動機やニーズを伺っていたんです。その際、老老介護を行っている女性のお客様から両親が安心して食べられる贈り物として、「MISOVATION」を選んだというお話を聞きました。また、「他の健康食品も試したけれど、MISOVATIONが一番美味しかった」と言っていただくことも多いです。

 

また、娘さんを持つお母さんからの声もありました。その方は独立した娘さんとのコミュニケーションツールとして美味しい食べ物を定期的に送っているそうなのですが、当社の商品を送った時に初めて「美味しかった」という返信を娘さんからもらったと聞きました。その方も長期的に購入してくださっています。こうしたお客さまからの声は売上よりも嬉しいものです。

 

味噌蔵さんからも有難い言葉を多くいただいています。中には「MISOVATIONさんは味噌業界の期待です」と励ましてくださる方もいらっしゃいました。味噌蔵さんが丁寧に造った味噌を多くの方にお届けする当社のサービスを評価していただき、大変嬉しく思います。

 

お客さまと味噌蔵さんからのそうした声を耳にする度に、モチベーションが沸いてきます。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください          

「食を通じて予防医療を推進する」という想いを胸に、私は「MISOVATION」を立ち上げました。この会社を通じて、予防医療を意識し実践する人々を増やしていくことが、起業当初より変わらず持ち続けている目標です。

 

具体的には、お客さま一人ひとりに合わせてカスタマイズされた味噌汁の開発や、海外市場への展開を進めています。既に、海外の展示会への出展やシリコンバレーの企業への輸出販売などをおこなっています。味噌汁の評価は海外でも高まりつつあるため、味噌汁の栄養価の高さや味の素晴らしさの啓蒙活動を進め、ヘルスケアの一部として味噌汁が認知されるよう活動を続けていく計画です。

 

そして売上が味噌蔵さんに還元されることにより、味噌の多様性と価値が受け継がれ、文化資産として世界的に認められる未来を実現することが我々の展望です。

 

すぐに行動することと、自分の中の「正しさ」を貫くことが大切

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします  

私自身、起業家としての道を歩み始めたばかりなので大きなことは言えませんが、過去の自分にアドバイスするとしたら、大きく二つあります。

 

一つ目はやりたいと思うことがあれば、躊躇せずに挑戦すべきだということです。何事も行動に移してみないと、その決断が正しかったかどうかはわかりません。

 

二つ目は、自分の正しさを貫くことです。私は決して一攫千金を目的に起業したわけではありません。確かに収益を上げ、IPOを目指し顧客数を増やしていくことは素晴らしいことです。しかし私は、自分がやりたいことで、かつ社会的にも正しいことを手掛けたいという思いで起業しました。いくら売上があがるとしても、自分が納得できないことは絶対にやりたくないと思っています。

 

私にとっての起業はニーズがあるサービスを生み出すこと以上に、自分自身が「こんなものがあればいいな」と思ったことを実現する手段でした。事業をしていれば、批判されることももちろんあります。私自身も周りの人やお客さまから「こんなものは売れない」「美味しくない」などの否定的な意見をもらったことがあります。

 

しかし、そういった意見に振り回されずに、自分が正しいと思うことや、やりたいことを本気で貫けばそれが事業になるのだと学びました。自分の中の正しさ優先順位を大切にし、進み続けることが大切だと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

起業家データ:斉藤悠斗 

大学在学中に栄養士免許を取得。東京農業大学応用生物科学部卒業。卒業後はカゴメ株式会社、株式会社リクルートキャリア(現・株式会社ルクルート)に勤務。味噌を通じた食の予防医療推進を行うべく、2021年に株式会社MISOVATIONを創業。

 

企業情報

法人名

株式会社MISOVATION

HP

https://misovation.com/pages/company

設立

2021年3月2日

事業内容

フードテック技術を活かした高機能味噌汁の企画・開発・販売

 

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