株式会社フェアワーク 代表取締役 吉田健一
従業員サーベイやストレスチェックシステムの開発及び提供を行う株式会社フェアワーク。2023年2⽉にはオンライン社内診療所「フェアクリニックオンライン」をリリースしました。ポストコロナの新しい働き⽅、テレワークと出社のハイブリッドワークが⽇常化するなかで、全ての従業員に医療の⽀援を届けることができる仕組みです。今回は代表取締役会長の吉田健一氏に、起業したきっかけや仕事における原動力、今後の展望などについてお聞きしました。
産業医が開発した労働生産性改善に特化したサービス
事業の内容をお聞かせください。
りんかい豊洲クリニックで勤務するスタッフたちと。
従業員のエンゲージメントや健康状態を可視化できるツール「従業員サーベイ」の開発と提供をしています。また、2023年2月より、オンライン診療のシステムとして「フェアクリニックオンライン」を開発し、提供を開始しました。
「従業員サーベイ」では、業務・人間関係・健康状態に加えて、エンゲージメントやモチベーション、心理的安全性など、仕事の進め方の悩みや社内での人間関係の状態が可視化され、定点観測することができます。
私は参議院事務局を始めとした中央官庁や上場企業を中心に、これまで50団体以上の産業医を務めてきました。これらの経験のなかで、病院に行く時間がなく、「会社に出社しているものの、調子が悪い」症状を放置、または我慢しながら働いている人を多く見てきました。
この状態は「プレゼンティーイズム」と呼ばれ、経済損失は国内で年間19.2兆円といわれています。「プレゼンティーイズム」の例としては。頭痛、肩や腰の痛み・花粉症・眼精疲労・不眠症・睡眠時無呼吸症候群のほか、女性特有の健康課題(PMS・更年期障害)などがあります。
「プレゼンティーイズム」の当事者は、見た目には問題なく出社しているため、上司や同僚が早期に気がつくことは難しいです。そこでプレゼンティーイズムを可視化する有効な施策の1つとして、従業員サーベイがあります。フェアワークの「従業員サーベイ」は、この「プレゼンティーイズム」の可視化を実現したサービスです。
そして、2023年にオンライン診療サービスを開発したことで、サーベイやカウンセリングに留まらず、医療的な観点からの予防や治療も一貫してできるようになりました。
フェアワークのオンライン診療サービスで対応している疾患は、先ほどご説明した「プレゼンティーイズム」の原因となる疾患です。この「会社には来ているけれども、ちょっと調子が悪い」程度だと、多くの方は受診を我慢してしまうのではないでしょうか。しかし、これら「ちょっとした不調」が積み重なることで、仕事の生産性が知らない間に下がってしまい、後々には「びっくり休職・退職」にもつながるとフェアワークでは考えています。
例えば、私の産業医先にはIT系の企業さんが多いのですが、皆さんずっとパソコンの前で仕事をしているので、眼精疲労に悩まれている方は多いと思われます。薬局で販売されている市販薬ではなかなかよくならないので眼科に行こうとしても、混んでいると診察まで60分以上待たされるときもあります。さらにそのあと、薬局でも待ち時間がありますよね。目薬を数本もらいたいだけなのに、病院への往復、待ち時間をトータルで見ると少なくとも2~3時間くらいかかってしまうこともあるのではないでしょうか。
これでは、忙しいビジネスパーソンは、病院に行きたくても足が遠のいて、症状が悪化するまで放置してしまうかもしれません。また働き方の多様化によって在宅勤務も増えており、あえて都会ではなく、郊外で働くことを選んだフリーランスの方もいます。郊外だと病院が少なく、病院にいく際に通院時間が多くかかってしまうこともありますよね。
その点、オンライン診療であれば、スマホ1つで診察と薬の処方まででき、薬も自宅まで郵送されるので薬局にいく手間もありません。忙しくて病院にいく時間がないビジネスパーソンほど、このオンライン診療の便利さは実感いただけるのではと思います。
事業の強みを教えてください。
メンタルクリニックの外来診療では、毎週100件ほど外来診療を受けている。
労働者が健康に社会参加できるよう、日々支援している産業医の私がサービスを開発したことが、強みと言えます。
私は今でも、メンタルクリニックの外来診療では、毎週100件ほど患者さんの外来診療を受けています。これら臨床現場を多く見てきた経験を、フェアワークで開発しているサービス設計に生かしています。
例えば、当社には臨床心理士やカウンセラーが多数在籍していることから、弊社のシステムでストレスが高いとわかった人には、すぐにフェアワークグループの産業医や臨床心理士、カウンセラーとの面談やカウンセリングを受診できる体制を用意しています。
同業他社でも、ストレスチェックや従業員サーベイ(調査)のサービス提供までは行っていますが、その先の現場経験の豊富な専門家からの面談やカウンセリング、さらに適切な薬の処方までを一貫して行えるのが他社との大きな違いであり、差別化のポイントです。
当社「従業員サーベイ」で一番評価をいただいているところは、記名式の自由記述欄がある点です。他社の「従業員サーベイ」では無記名のものもありますが、フェアワークの従業員サーベイを導入されたお客様には、この「記名式」であることを評価いただいています。
この自由記述欄には人間関係や仕事の悩みなど、なかなか声に出していいづらい「小さなSOS」があがってきます。記名式だからこそ、これらのSOSをきっかけに、その社員さんに声かけをすることができます。
もちろんどこまでアプローチするかはクライアント様が決めることができます。また、どのように社員に声がけをしたらいいのかわからない場合でも、当社は産業医面談やメンタルクリニックでの診療で豊富な事例・ノウハウがありますので、声かけの具体例やタイミングなどを直接アドバイスできます。
これらのコミュニケーションは「びっくり休職・退職」を防ぐ効果があります。従業員サーベイが「お互いの相互理解を深めて仕事をしやすい、風通しの良い関係性を作っていく」ためのツールになれば嬉しいですね。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
大学を卒業後、千葉県の幕張で精神科の救急医療に携わっていました。その中には重い精神疾患を抱えている人もいらっしゃいました。
その方たちは会社員であれば、出勤できず休職している方が多く、その後なかなか復帰できないケースが多かったのです。会社員が職場に復帰するには、医学的なアプローチから疾患そのものを治す必要があるのですが、それ以上に、会社の受け入れ体制も整っていないと、スムーズに復職することができないんですね。
せっかく会社に復帰しようとされているのに、うまく復帰できなかった患者さんのケースをたくさん見て、働いている人がメンタル不調に陥っても、再び社会に参加できるようなサポートをしていきたいと考えました。
そこで、IT関連を中心とした大手企業が増えていたものの、メンタルクリニックは当時無かった東京都の豊洲で、精神科クリニックを開業しました。
豊洲はいろいろなカルチャーや所得階層、年齢階層がミックスして構成されている街です。このいろいろなバリエーションがある患者さんを対象にするということに、非常に価値があると考えましたし、それまでメンタルクリニックがなくて不便であったところに、精神科医の専門性を提供する、ということにチャレンジしたいという気持ちが強く、豊洲を開業の地として決めました。
次にクリニックを開業した月島では、リワーク施設を併設しました。これはうつ病リワークプログラムというものが東京を中心にでき始めていたので、私が精神科の救急医療に携わっていた経験からも、うつ病の職場復帰に力をいれるべきではという思いから始めました。リワークプログラムを利用されて、これまで1000人以上の方が職場に復帰されています。
年齢、性別などに関わらず、意思と能力によって参加できる社会の実現
仕事におけるこだわりを教えてください。
「お客様のためになっているかどうか」を常に心がけていることです。
お客様とは狭い意味でフェアワークのサービスを購入している企業です。しかし広い意味では、社会全体も含まれると考えています。フェアワークの直接のお客様はもちろんのこと、社会全体のためになることをしたいですね。
さらに、フェアワークの事業で、長く健康に働ける世の中の実現に貢献したいと思っています。私は、年齢、性別などに関わらず、意思と能力によって社会参加(=働くこと)がなされるべきだと考えています。そのため、働く意思と能力があるにも関わらず、定年で一律に「さようなら」となるのは、望ましい世の中ではないと思うのです。働く意思と能力があるのであれば、年齢や性別などに関わらず社会参加できる世の中を実現したいですね。
起業から今までの最大の壁を教えてください
2023年6月から代表取締役として迎えた橋本篤志(写真左)。
壁という言葉で思い浮かんだのは、自分で仕事を抱えてしまいがちなところですね。
私は、産業医や経営者としての仕事も続けながら、毎週100件以上、年間約5000人の外来診療を続けています。患者さんは信頼できる精神科医じゃないと相談したくない、という気持ちがあるのでしょうか、開業前の病院勤務時代から20年以上、私が担当している方もおられます。
診療と平行しながら、フェアワークを創業した2019年から、3〜4年間は従業員サーベイサービスの作りこみと磨きこみに時間を費やし、結果として経済産業省から表彰されるぐらいの革新性のあるシステムになりました。しかし、人手が足りず、私も診療と並行してフェアワークの経営をしていることから、サービス拡大にまで手が回っていませんでした。
そこで2023年6月から橋本篤志を代表取締役として迎え入れ、2人体制で経営しています。引き続きサービスの作り込みは私、サービス拡大のためのマーケティング・営業・組織や人事は橋本という役割分担でやっています。2人体制になったことで、お互いの強みを生かした組織体制になったと思っています。
フェアワークのサービスは世の中に必要とされている
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
フェアワークの提供しているサービスが、世に必要とされていると実感できているというところです。
先日、ある地方自治体の市長さんと話をする機会がありました。「人口が少なく、お医者さんの数も減っている現状があり、遠隔診療をしたい」との理由で、フェアワークの話を聞かせてほしいとのことでした。その経験から、オンライン診療は社会から求められているのだなと体感できました。
また、橋本が入社してから組織がうまく回り出したと感じています。他のスタッフも入り追い風をうまく捉えているような動きがでてきており、先日も大きな企業から問い合わせが入りました。このような機会をしっかりと掴み、大きな契約を取っていきたいと思っています。この新しい流れも私も含めて社内全体のモチベーションになっています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
多くの人にとって使いやすく、様々な領域をカバーできるオンライン診療サービスを作っていきたいです。それに付随して、オンライン診療をベースとしつつも、リアルクリニックを大阪や福岡など、全国的に展開していきたいですね。
オンライン診療は現在、病気と定義はされてはいない領域や、AGAの診療などでよく使用されています。「医療」というより広い視点から、病気とみなされていない領域も包括的にカバーできるオンライン診療サービスを作っていかなければと思っています。
それを実現させるには、ITを通して使いやすいシステムを構築し、幅広い層の人に使っていただくサービスにしなければなりません。オンライン診療をしたいなと考えた際に、「フェアワーク」の名前が真っ先に思い浮かぶ状態が理想です。
社会の幸せや健康課題に取り組める分野を見つけてほしい
医療系で起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
医者になる目標を持って医学部に入ったとしても、臨床医だけにこだわる必要はないと考えています。広く世の中の幸福や健康課題に取り組める分野を見つけたら、前が開けるのかなと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
- 起業家データ:吉田健一
京都市出身・洛星中学高等学校・千葉大学医学部を経て、千葉県精神科医療センター・千葉県がんセンターにて医長。2008年より順次、豊洲・築地(のちに月島へ移転)にメンタルクリニックを開設し、理事長に就任。2019年、現社を創業。
企業情報
法人名 |
株式会社フェアワーク |
HP |
|
設立 |
2019年9月 |
事業内容 |
パルスサーベイ事業、ストレスチェック事業、 健康経営支援事業ならびに 医療情報サービス事業 |
沿革 |
2011年7月 株式会社フェアワーク・ソリューションズ 設立 2019年9月 株式会社フェアワーク 設立 2019年10月 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社との業務提 携 2020年7月 SmartHRとのAPI連携を開始(フェアワークパルス) 2020年10月 一般社団法人 社会健康戦略研究所への事業者ユ ニット加入 2021年4月 健康経営支援サービス「FairWork survey」の提供開 始 2021年5月 PHC株式会社との協業開始 2021年7月 「FairWork survey」が第6回HRテクノロジー大賞で注 目スタートアップ賞を受賞 2021年10月 日経リサーチが「FairWork survey」の代理販売を開 始 2021年11月 住友生命との実証実験をスタート(プレコンセプショ ンケア領域でのソリューション開発) 2022年5月 カゴメ株式会社との協業開始 2023年2月 オンライン診療サービス「フェアクリニック」サービス開始 |
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