Venture Café Tokyo エグゼクティブ・ディレクター 小村 隆祐

CIC(Cambridge Innovation Center)の姉妹組織である非営利団体Venture Caféは、人と人を繋げることでイノベーションを加速させることを目的とした、日本最大級のコミュニティです。2010年にボストンで始まったVenture Caféは世界中にネットワークを拡大し続け、2018年にアジア初の拠点としてVenture Café Tokyoが設立されました。

Venture Café Tokyoにてエグゼクティブ・ディレクターとしてコミュニティの成長を支える小村隆祐氏に、詳しくお話を伺いました。

 

人と人を繋ぎ、イノベーションを促進

Venture Caféについて詳しくお聞かせください   

     

Venture Caféは、“Connecting Innovators to Make Things Happen”(イノベーター同士を結びつけて何かを起こす)というミッションのもと、人と人を繋ぎ、イノベーションの創出を後押しするコミュニティです。

我々は人との偶然の出会いや、小さな交流からイノベーションが生まれると信じています。そのため、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が自由に交流できる場や機会を提供しています。

その主な活動となるのが毎週木曜日に虎ノ門で開催している、Thursday Gatheringです。

参加者は毎回約400名にのぼり、誰でも参加できることもあり2018年3月の開始以来、累計参加者数が10万人を超えるほどの賑わいを見せています。

拠点に虎ノ門を選んだ理由をよく聞かれるのですが、たしかに以前はスタートアップシーンの中心といえば渋谷の名前がよく挙がりました。他方、虎ノ門で大規模な再開発が進んでおりこの地でイノベーション・エコシステムを作るんだという関係者の方々の強い思いを感じましたし、再開発が進む虎ノ門だからこそウェルカムな感じが伝わりやすいですし、これまでにない新たなエコシステムをつくることができる可能性を強く感じました。

 

Venture Caféはボストンで生まれたそうですね。拠点のひとつに東京が選ばれた背景をお聞かせいただけますか?

東京が選ばれた大きな理由のひとつは、この都市が持つ大きなポテンシャルにあります。

以前はスタートアップの地と言えばアメリカのシリコンバレーやボストンが有名で、東京は大企業の本社がある場所というイメージが一般的でした。

しかし、東京は大手企業のみでなく政治の中心地でもあり、教育機関が集まる都市としても知られています。人口も1000万人を超えており、スタートアップを育てるための豊かな土壌が存在することから新拠点として選ばれたのだと思います。

 

コミュニティは人とつながり、安心感を得られる場所

スタートアップにとってコミュニティが果たす役割とは何でしょうか?

コミュニティとは、人と人のつながりの総和です。人々の出会いや、それによって築かれる信頼関係がコミュニティを形成していきます。

スタートアップは新しい分野に挑戦する新参者ですから、知らない人同士で淡々とビジネスを進めることもあるのですが、イノベーションの源は人との出会いや交流にあります。我々の役目はこのコミュニティから新たなイノベーションが出来るだけ多く生まれるよう、人々をつなぐ場所と機会を提供することにあります。

また、我々のコミュニティは社会保障のような役割も果たしています。企業に勤めていれば社会保険の恩恵を受けられ、大企業だと終身雇用による職の安定も期待できます。

しかし、スタートアップはそのような社会保障や安定的な職が保証されていない世界です。終身雇用は期待できず、IPOを果たせるスタートアップはごく一部に過ぎません。不安的かつ社会保障が乏しい環境で人がチャレンジし続けるのは簡単ではありません。

だからこそ、スタートアップの世界で生きる人にとってコミュニティは非常に大きな価値を持ちます。コミュニティに属している安心感やそこで生まれた信頼関係が、新たな挑戦を後押しする支えとなってくれるからです。

実際にコミュニティの中には職を失ってしまった後に、コミュニティを通じて新たな職やキャリアを見つけた人もいます。キャリア面においても、こうした助け合いの文化がメンバー同士の間で育まれています。



コミュニティからどのようなつながりが生まれているのか、他にも事例をお聞かせください。               

我々は年に2回、CIC Tokyo及び森ビルと共催で「ROCKET PITCH」というプレシード/ シードに特化した大規模なピッチイベントを実施しているのですが、このイベントを通じて新たな仲間を見つけたり、資金調達に成功したスタートアップの事例もあります。

また、Venture Caféがスタートアップ界への入口になっているケースもあります。たとえば、かつてボランティアスタッフとしてコミュニティの運営に携わっていた人物はここでスタートアップの世界を深く知り、それまで勤めていた商社を辞めてスタートアップの支援会社に転職しました。現在はアップサイクルをコンセプトにした事業を立ち上げ、起業家としての道を歩んでいます。

もうひとつ例を挙げると、自分のアイデアを形にできずにいた人がVenture Caféで出会ったエンジニアの協力を得てプロダクトを完成させたというケースもあります。

仕事上のパートナーシップが生まれるのみでなく、プライベートでの友情に発展することももちろんあります。仕事とプライベートの境界が曖昧な環境で、さまざまな新たな出会いが生まれているのです。

 

他にもスタートアップを対象にしたコミュニティがあるなかで、Venture Caféの強みはどのような点にありますか?

我々の強みは参加者の多様性です。Thurseday Gatheringは誰でも参加できる場として開かれており、年齢層の幅が広いことが特徴です。また、参加者の10%は大学生です。

一般的にコミュニティは、共通の興味や目的を持つ人々が集まることで均質性が生まれがちです。しかし、我々はそのような均質性とは真逆の多様性を重視しています。

 

Venture Caféには様々なバックグラウンドを持つ多様なメンバーが集まっていますが、それでも一体感のあるコミュニティとして機能していることが非常に興味深いと思います。

 

可能性を秘めている福岡を第二のスタートアップ拠点に

福岡にもVenture Caféの拠点ができるそうですね。福岡を選ばれた理由を教えてください。 

        

東京と同じく、福岡にも都市としての大きな可能性を感じたからです。

福岡市は2012年ごろから都市成長の核としてスタートアップ支援を位置づけ、スタートアップエコシステムの発展に注力してきました。現在福岡はスタートアップ都市としての地位を確立しつつあり、2022年には資金調達額で東京に次いで国内第二位という成果を達成しました。さらに、アントレプレナー教育への取り組みを強化している九州大学の存在もあることから、豊かなスタートアップエコシステムを構築するための強固な基盤があると思います。

 

福岡でVenture Caféがどのように発展していくことを期待されていますか?

我々がこれまでに培ってきたノウハウを福岡にも根付かせ、新しい文化をコミュニティとして共に創り出していくことを目指しています。しかし、これを達成するには私たちだけの力では不十分です。コミュニティは皆で築き上げていくことが重要だと私は考えています。

そのため、近々福岡拠点の新たな責任者を採用する予定です。責任者には自らのビジョンを掲げてコミュニティを牽引し、福岡拠点の発展を促してくれることを期待しています。

また、国内のスタートアップシーンでは、グローバル化が大きなトレンドになっています。Venture Caféは福岡を含む世界14カ所のグローバルネットワークを持っており、このネットワークを活かして福岡のエコシステムのグローバル化に貢献したいと考えています。

 

失敗の許容範囲を考えることが何より大切

将来起業しようとしている方への応援メッセージをお願いします。

 

やりたいことがあるなら挑戦すべきだと思いますが、新しい挑戦にはリスクが伴います。一番大切なのは「自分がどれだけ失っても大丈夫なのか?」という範囲を見極めることです。

起業を含め、新しいことに挑戦することは不確実性との戦いを意味します。試してみないとわからないことが多く、行動する以外に道はありません。

しかし、多くの人はリスクを考えると行動できない。そして行動しないから何も変わらない。ここで皆、袋小路に陥ります。

ただ、行動が大切といっても無謀な行動で致命傷を負ってしまうのは避けるべきでしょう。

ここで考えるべきなのは、どれほどのリターンが得られるかのROI(Return on Investment)ではなく、「一体どこまでだったら失っても大丈夫なのか?」という点なのです。

それを突き詰めて考えるのが、不確実性との正しい付き合い方だと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:小村隆祐氏

同志社大学経済学部卒業、Babson College F. W. Olin Graduate School of Business(MBA)。大学卒業後はメーカー系IT企業にて、主にマスコミ業界におけるアカウント営業業務や映像伝送に関わるクラウドサービスの立ち上げプロジェクト等に従事。MBA留学を経た後、グロービスにて人材育成・ 組織開発コンサルティング部門に参画。大企業の次世代経営者育成やスタートアップの組織開発等を手掛けつつ、起業分野のコンテンツ・教材開発も行う。その後、現職。ボストンに拠点を置くNPO 「Binnovative」立ち上げメンバー。

 

企業情報

法人名

Venture Café Tokyo 

HP

https://venturecafetokyo.org/

設立

2018年11月

 

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