【#170】助産師の働く環境と全ての産前産後ケアのニュースタンダードへ確立に向けて。助産師とのつながりをきっかけに自身の体と向き合う人を増やしたい|代表取締役 渡邊 愛子(株式会社Josan-she’s)
株式会社Josan-she’s 代表取締役 渡邊 愛子
株式会社Josan-she’sは、助産師と妊産婦をつなげるサービス事業を展開しています。新生児は保育園に預けることができませんが、Josan-she’sであれば0歳0ヶ月から助産師のサポートを受けることが可能です。また、産院向けに、産前産後ケアを拡充できる「産院連携サービス*」は妊産婦だけでなく、助産師の”働く”に関わる課題解決の側面も持ち合わせています。
*ただ産後ケアのみを外注するのではなく、産院さんのスタッフさんと密に連携(レポート等を共有)をしながら産前産後ケアを拡充する「産院連携サービス」です。
今回は妊産婦と助産師にとって新たな基盤を提供する株式会社Josan-she’sの代表取締役である渡邊 愛子氏に、具体的な事業内容や事業を始めた経緯、今後の展望について伺いました。
助産師の”働く”問題を解決しながら、妊産婦の子育てをサポート
さっそくですが、事業内容をお聞かせください。
私たちは「妊娠子育てをポジティブにしていきたい」というミッションの下で、助産師の「働く」を解決しながら子育て世代向けのサービスを展開しています。
実際に展開しているサービスとしては、助産師の特色や強みを生かして退院直後から使える「低月齢のベビーシッターサービス」、助産師のサポートを受けられる「産後ケアホテル」、産院と連携しながら産前産後のサポートをしていく「産院連携サービス」の3つがあります。
私には2人の子供を育てながら、長く助産師を続けてきたというバックグラウンドがあります。そのため助産師サイドの”働く”という部分と、赤ちゃんを産んで退院したあとの妊産婦の”生活の大変さ”の両軸を解決したいと思いサービスを展開しています。
助産師さんと妊産婦さんを繋ぐサービスは、他社でも取り扱っているところがあるのでしょうか?
やはり助産師さんが代表の会社でいくつかあるかと思います。
ただ、私たちもこのようなサービスを個人の方向けに展開してきましたが、情報を届ける先というのは限られてしまいます。世の中にはたくさんの情報があるので、欲しい情報に辿り着くのは本当に難しくて、お母さんたちも忙しいのです。
日本では99%が病院で出産しています。お母さんたちが必要な時に、その病院から情報を正確に伝えてもらえれば、専門的な人に育児を支えてもらうことができると思います。そのような世界を目指したくてまさに「産院連携」というところに取り組んでいますね。
「産院連携サービス」ができた背景やメリットなどを詳しく教えていただけますか?
日本では出産して5日〜1週間ほどで退院して、大体1ヶ月後に健診を受けます。出産後は先生たちとの関わりが少なくなってしまうのですが、
産院としても”本当はもっと出産後も寄り添いたい”と思っている方がほとんどです。
しかし、私も現場にいたから分かるのですが、出産の現場は慌ただしく、ゆっくりと産後の患者さんに寄り添う時間を持つことができません。そのようなジレンマを抱えている産院はたくさんあるので、それであれば私たちが提供する「産院連携サービス」を例とした外部サービスと、出産後のお母さんたちをつなげようという発想に至りました。
私たちのサービスを利用することで、産院はお母さんたちの状況を把握できるので、よりお母さんたちに寄り添うことができます。そして、お母さんたちにとってもかかりつけの産院とずっと接点を持ち続けられる、という安心感が得られます。
また、近年は出産自体が減ってきているので、最悪お客さんの取り合いになってしまう部分もあると思いますが、どれだけお母さんたちに寄り添えるかといった新たな価値提供が、とても求められてくる部分だと感じています。
他の外部サービスが提供していない、プラスアルファの価値を届けられればと考えているので、そこを産院と共に進めていきたいと思っています。
さらに、私たちが提供しているサービスは病院によってカスタマイズが可能です。例えば、産院と併設して美容医療をしている施設では、出産後に自分自身の時間を大切にしてもらいたいとの願いを込めて、助産師によるケアシッターと美容プランを組み合わせたサービスを提供しています。
先生たちの思いや地域によって提供サービスは異なります。その為、できるだけ先生たちが希望するサービスをカスタマイズし、地域の特色とも組み合わせながらプラスアルファの価値を提供しています。
助産師は病院で出産のお手伝いをしているイメージがあったのですが、産後ケアも行っているのですね。
そうですね。助産師という職業自体、あまり知られていないかもしれませんね。一般的には出産に携わる人というイメージが強いでしょう。
実際、助産師は女性のみが受けられる資格で、まず看護師の国家資格を取り、それから専門的な資格を取得する必要があります。
助産師の役割は出産のお手伝いだけでなく、女性の一生をサポートすることにあります。性教育や産前産後のケア、更年期など、本当に女性の一生に寄り添う存在なのです。
「産院連携サービス」で潜在助産師の活躍へ
そうなると助産師の数が不足するのではないでしょうか?
そうなのです。需要はあるのですが、看護師と比べると圧倒的に少ない状況です。私たちもこの問題を深刻視していて、「潜在助産師」と呼ばれる人はたくさんいますが、実際に働いているのは半数以下とされています。
現場ではいつも人手不足なので、今回この「産院連携サービス」といったところを糸口に、また助産師がキャリアを積めたり、復職できたりするようなところの導線も作りたくて、産院さんとつながっていくことを選択しています。
渡邊さんご自身も復帰された経験がございますよね。
そうなのです、1人目を産んでから4ヶ月で現場に戻りました。
やはり一度離れるとすごく不安になります。これは多分女医さんにも言えることだと思いますが、高度な技術も判断も求められるので、復職することにハードルを感じます。
しかし、復帰するときに産院が適切なプログラムを提供してくれるかというと難しく、常に即戦力を求められる中で復帰するのは本当に大変なのです。だから、なるべく早めに復職しました。
この事業自体は何かコンテストで立案されたと聞きましたが、詳しくお聞かせいただけますか?
そうですね、会社を立ち上げる前の話ですね。2021年に会社を設立したのですが、その2年前の2019年頃だったと思います。
東京都主催の400文字から世界を変えるスタートアップコンテスト「TSG」が開催されていて、そこに最初に応募してみました。そしたら、なんだかんだで次々と進んでいったのですが、そのとき下の子供がまだ1歳くらいだったのです。
現実的に保育園に預ける場所もありませんでした。下の子が生まれたときに助産師として産院に戻れなかったのは、子供を保育園に預けられない事情があったからです。
助産師は現場で働くことがほとんどです。その為、預け先がなかったら仕事ができません。その時に起業を決意しました。
この経験から、日本中で眠っている助産師さんが家で仕事ができるような仕組みを作る必要があると考えたので、Josan-she’sでは助産師によるオンラインでのサポートサービスも提供しています。少し脱線しましたが、確かに構想自体はコンテストがきっかけですね。
それから、下の子が幼稚園に入った1年後くらいのタイミングで起業しました。上の子も小学生になっていたので、手はかかりますが、預け先ができたのは大きかったです。
と言いつつ小学生になってもまだ手がかかるので、少し時間を調整しながら仕事をしています。子育てと仕事を両立できているのは強みですし、登録してくれている助産師たちもお子さんを育てながら隙間時間で働いている人がいます。そういう人たちの選択肢を作りたかったので、今後も少しずつそこが浸透していくといいなと思いながら頑張っています。
ミッション「妊娠子育てをポジティブにしていきたい」の実現には、たくさんの助産師が必要に
妊産婦さんだけじゃなく助産師のためにもなっているサービスなのですね。
私のバックグラウンドがあるので本当に両軸が大切だと思っています。「妊娠子育てをポジティブにしていきたい」というミッションを実現するには、たくさんの助産師たちが手を差し伸べられる環境が欠かせません。
今後もたくさんの助産師たちが世の中に出てきてくれれば、それだけたくさんの手を差し伸べられると考えています。助産師たちの”働く”といったところも変えたくて、「産院連携サービス」もそうですし、「産後ケアホテル」などはそれらの思いにつながっています。
ちなみに、子どもの預け先に関して「倍率が高くて預けられなかった」というお話を聞くことがありますが、現在その辺りは改善されつつあるのでしょうか?
都内は改善されていると思います。保育園は都知事の小池さんがたくさん対策をしてくれたので、充実していると思いますね。
当社ではまだ導入できていませんが、ベビーシッターサービスの補助が出て保育園に入るまでの間、安く使えたりするように東京都や市区町村が力を入れていると思います。子育てをしやすいように環境が整ってきていると感じています。
妊娠子育てをポジティブに捉えてほしいからこそ、「ポジティブな変換」を大切に
仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。
こだわりは「ポジティブな変換」です。私たちの日常をお見せしたいくらいにはポジティブな会社だと思います。
もちろん心折れることや苦しいこともありますが、それでも「この出来事はこういうチャンスのきっかけだったよね」という風にポジティブに変えられるメンバーが揃っていますし、この考え方を大事にしています。
なぜなら私たちは、「妊娠子育てをポジティブに捉えてほしい」という思いから事業を展開しているからです。時にはネガティブな言葉も出てくることはありますが、ずっとネガティブな状態にはなりたくないので、基本的にはポジティブに、失敗しても学びになったと捉えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください。
一番大変だったのは最初に一人で会社を立ち上げることでした。その一人の間は、チームもお金も何もないので、一番不安でした。最初は本を読んで学んでいくしかなかったですね。
VCと繋がろうという情報を得ても「VCって何?」というところから始めている企業だったので、苦労しましたね。でも結局は面白いが勝っていたと思います。
2人目を採用するまでの時期は採用や資金繰り含め、何が大変でしたか?
大変というか乗り越えた話になるのですが、チームメンバーが入る直前に、実はYazawa Venturesの矢澤さんに出資していただいています。このことは自信のなかった私にとってはとても大きくて、先ほども伝えたとおり何のビジネス経験もない私をゼロからサポートしてくれたのです。
矢澤さんは「今こういうチームが必要だよね」、「こういう人を採用できるといいよね」といったことも手取り足取り一緒に考えてくれました。そして出資を受けた翌月に現在COOになった中 陽子がジョインしてくれました。
正式にジョインを完了させたのは今年ですが、この2年間もずっと一緒に事業を手掛けてきました。
新しい時代に合わせて産前産後サポートもアップデートすべき
進み続けるモチベーションはありますか?
やはり、変えたいという気持ちがとても強いです。何を変えたいのかをお話する前に、まず日本の出産環境がとても恵まれていることを知ってほしいです。
世界と比べても母子の死亡率がとても少ない傾向にあります。それは母子手帳によって妊娠管理がきちんとなされていたり、医療体制が整っていたりするから実現できていることです。これは日本の誇りであり、医療チームのおかげなのです。
しかし、その産前産後のサポートはどうでしょう。お母さんたちの気持ちのケアが足りなかったと思います。現在、7割ぐらいの人が共働きだと思いますが、かつての専業主婦が当たり前だった時代と同じような産前産後を、新しい時代に合わせてアップデートしていくべきだと思うのです。
せっかく医療体制が整っているので、メンタルサポートや物理的な安全対策をもっと充実させて、ポジティブな出産や子育てをサポートしたいと思っています。それが私たちの原動力です。
「産院連携」で産前産後をもっとポジティブにしつつ、潜在助産師の現場復帰へ
今後の展望をお聞かせください。
冒頭でもお話したとおり「産院連携サービス」に力を入れています。昨年末に検証を終わらせ、現在始動しています。
なぜこの「産院連携サービス」に取り組んでいるかと言うと、せっかく医療体制が整っている中で、産前産後をもっとポジティブに整えられるようにするには、もう少し仕組み作りが必要だと思うからです。
また、助産師の働く側面も関係しています。やはりしばらくの間仕事を離れていた助産師が医療現場に即戦力として復帰するのは容易ではありません。私たちのサービスを使っていただければ報告業務などで産院と関わりを持てるので、助産師が少しずつ現場に復帰することは可能だと考えています。
具体的には、最初は訪問という形で産後ケアを行い、そこで産院とのやり取りをしてもらいます。信頼関係を作りながら次第に病院に戻るといったイメージですね。
起業家へのメッセージをお願いします。
私自身、助産師という、特殊な仕事に就いているなと感じています。技術経験もないですし、新規事業計画を立てたり、営業したり、経理をしたりしたこともありません。
1人で会社を経営する方法もあるとは思いますが、全部自分が得意ということはほとんどないと思います。私は自分の得意不得意が何かを考えながらチームを作っていったので、そのような私もできたからこそみんなできると思います。
行動力と気持ちさえあれば起業はできるので、ぜひ挑戦してみてください。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:渡邊 愛子 氏
企業情報
法人名 |
株式会社Josan-she’s |
HP |
|
設立 |
令和3年10月6日 |
事業内容 |
産後ケア事業・低月齢ベビーシッター事業・産院連携事業 |
沿革 |
2021年10月 創業 2024年01月 BEYOND MILLENNIALS 2024 選出 |
関連記事