株式会社ファンダム! 代表取締役会長 保手濱 彰人

 

株式会社ファンダム!は、日本発のコンテンツを通じて人々に希望や勇気を与える多彩な事業を展開しています。同社が目指すのは、日本のマンガやアニメを通じて「人々に生きる希望を与えていく」こと。

 

代表取締役会長である保手濱 彰人氏は、この世界観の実現に日本の漫画やアニメが大きな力を持っていると確信しています。20代での失敗を活かして現在の事業を立ち上げたと話す保手濱氏に、事業の詳細や今後の展望などを詳しくお伺いしました。

 

ファンとコンテンツをつなぐ新しい場を創出し「ファンダムエコノミー」を最大化

 事業の内容をお聞かせください                

我々は、アートソリューション事業、ライブエンタメ事業、そしてキャラクターDX事業の3つを主な軸として展開しています。それぞれの事業に共通しているのは、日本の漫画やアニメを通じて人々に希望を与えるという使命を持っていることです。



1つ目のアートソリューション事業は、キャラクター商品に特化したデザイナーが直接オペレーターとして関わり、文化財である高精細複製品などを制作しています。この事業では、日本で最も腕の良い職人とのネットワークを活用しています。最高の品質を保ちながらも制作コストを他社よりも大幅に低く抑え、競合に対して圧倒的な優位性を確保しています。

 

2つ目のライブエンタメ事業では、漫画やアニメをアートとして楽しんでいただくことを目的に、複原画などのアート作品の展示を開いたり、キャラクターグッズを販売したりしています。過去には、2週間で5万人の来場者を記録した人気イベントもありました。とくに最近は推し活の人気が高まっていることもあり、「腐女子」に人気の作品をテーマにしたイベントは毎回大盛況です。

 

3つ目のキャラクターDX事業は、アート作品をECサイトで販売したり、Web3に特化した「コンテンツマーチャンダイジング」を軸に次世代のプロダクトを開発したりしています。また、オンラインサロンに似たコミュニティを構築し、ファンとコンテンツの運営者や版元が気軽にコミュニケーションを取れる場も提供しています。

 

我々はこれらの事業を通じてファンが継続的に自分の好きな作品を楽しみ、生きる力を得られる機会を多方面で提供しています。そうした機会を創出し続け、「ファンダムエコノミー」を最大化することが我々のミッションです。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私はこれまでの人生で、アニメや漫画に何度も救われてきました。その経験があるからこそ、アニメや漫画を通じて人々に希望や自信を与えられる事業を創りたいと強く思ったのがきっかけです。

 

これまで、漫画に救われたと感じた大きな出来事が2つありました。

 

1つ目は、高校時代のことです。当時の私は全く勉強ができず、3年生の時には学年で最下位の成績でした。自分に対する絶望感に打ちひしがれていたある日、ふと大好きな漫画のセリフを思い出しました。

 

「何があっても決してあきらめずに、柔軟に考えて周りを見渡してみなさい」

 

その言葉に励まされ、冷静に状況を見直してみたところ「自分が大好きな漫画を使って勉強すればいいんだ」といった考えに至りました。

 

そこから勉強に役立つ漫画を読み漁った結果、現役で東京大学に合格することができました。まさに、「漫画から希望をもらった」と強く感じた瞬間でした。

 

2つ目の出来事は、20代でソーシャルゲームの事業を創業した後のことです。当時のソーシャルゲーム市場は非常に競争が激しく、会社の売上が伸び悩んでいました。30歳を迎える頃には、個人保証の付いている借金が3億円にも膨れ上がり、経営は深刻な状況に陥っていました。

 

会社にはエンジニアを中心に約70名の社員がいましたが、2014年の3月末には組織が崩壊し、多くの社員が会社を去り、最終的には売上も社員もゼロになってしまいました。

 

しかし、そのような絶望的な状況でも生きる励みになったのが漫画でした。特に、借金を抱えながらも決して人生を諦めない主人公の物語に深く励まされ、その漫画からどのような絶望的な状況でも必ず抜け出せる道があるのだと教えられました。



その教えを胸に暗闇の中で必死にもがき続けていると、やがて助けてくれる人たちが現れ、私はなんとか会社を倒産させずに持ちこたえることができました。その時の経験から「漫画やアニメを軸にした事業を創ろう」と思い立ち上げたのが、株式会社ファンダム!です。

 

自分の好きなことで人の役に立つ

 仕事におけるこだわりを教えてください            

こだわりとして持ち続けているのは「自分の好きなことを通じて人の役立つ」という軸です。

 

私がこの事業を始めたのは、自分の好きなことで誰かの役に立つことをやりたいと考えたからです。好きなことだからこそ、どんな困難があっても続けられると思っています。決して儲けることを目的に始めたわけではありません。

 

一方、20歳の時に立ち上げたソーシャルゲームの事業はまさに「儲かりそう」という理由で始めたものでした。当時のソーシャルゲーム市場は、開発費に2000万円を投資すれば、すぐに収益で開発費を李クープできるような状況でした。しかし参入障壁も低く、多くの優秀な人材が次々と参入したことで、市場は急速にレッドオーシャンとなりました。

 

振り返ってみると、私の事業が失敗に終わったのは「自分が儲かりたい」という利己的な精神で進めていたことが大きな原因であったと感じています。当時は短期的な利益に目がくらみ、本当にやりたいことや、長期的に続けられる事業の本質を見失っていました。

 

ソーシャルゲーム事業が失敗したことで、自分の好きなことを追求することがどれだけ大切かを痛感しました。だからこそ現在は「自分の好きなこと」かつ「人の役立つこと」を軸に事業を展開しています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

これまでに感じた壁は、自分に合った経営スタイルを見つけることでした。



人間は誰でも、本当に苦労しないと変わるのは難しいものです。私自身も過去に、個人保証付きの借金を3億円も抱えながら、売上も社員もゼロになるという大変な経験をして、それを実感しました。当時は多くの債権者を抱えて、精神的に追い詰められる日々が続きました。

 

このようなプレッシャーの中で、私は自分の才能や能力に限界を感じ、「そもそも自分は経営に向いていない」と思うようになりました。そして同時に、私には別の分野で強みがあることにも気づいたんです。

 

そこで私は、自分が全ての経営を担うのではなく、経営に長けたプロに経営を任せることが最善策だと判断しました。そして、自分は得意分野に集中するスタイルに切り替えた結果、会社は急成長を遂げることができました。

 

自分に合った方法を見つけるまでは模索が続きましたが、組織崩壊という辛い経験をしたからこそ、得られた貴重な学びだったと思います。

 

日本の漫画やアニメが広まれば、世の中はさらに良くなる 

進み続けるモチベーションは何でしょうか?          

私のモチベーションは「世の中をより良くしたい」という信念に支えられています。この思いは単なる願望ではなく「自分がやらないと世の中は良くならない」という使命感から来ています。

 

この思いを支える大きなきっかけとなった出来事が「明日のジョー」の作画を担当された、ちばてつや先生との出会いでした。

 

先生とお会いした際に、私は漫画やアニメがいかに人々に希望を与え、人生において困難を乗り越える力になるか、私自身の経験を交えて話しました。すると先生は、アンパンマンの原作者である、やなせたかし先生が以前話していたことを教えてくれました。やなせ先生は「日本の漫画やアニメが世界中に広がれば、戦争が起こらなくなる」とおっしゃっていたそうです。



私自身の思いに通じる部分があり衝撃を受けたのと同時に、この言葉は心に深く響きました。そして、漫画やアニメが持つ道徳的なメッセージを世界に広めることで、戦争をなくし平和な世の中を作ることができると確信したのです。この役割を果たせるのは、自分しかいないと感じています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

日本のコンテンツが世界に広がり、ポジティブな影響を与えて世の中を良くするために、ウォルト・ディズニーカンパニー(以下、ディズニー)のような企業を創りたいと考えています。ウォルト・ディズニーは年間で7兆円もの売り上げがあり、営業利益は1.5兆円に達しています。営業利益率は20%以上と、日本の同業界の会社に比べて非常に高く、ビジネスの規模と収益性で他を圧倒しています。

 

一方、日本のコンテンツ業界の大手企業の売り上げは例えば、年間1,000億円、営業利益は100億円弱などにとどまっています。規模に関してはディズニーの70分の1以下であり、利益率でもディズニーの半分以下です。「ドラゴンボール」や「ワンピース」という作品は世界中で愛されており、ディズニーキャラクターに匹敵する人気を誇っているにもかかわわず、会社の収益には大きな差があるのが現状です。

 

この違いの原因は、日本のコンテンツホルダーや制作会社が制作部分に特化しすぎている点にあると考えています。日本のクリエイターは作品作りに対して高いプライドを持ち、素晴らしい作品を生み出しているものの、マーケティングやマネタイズには弱さが見られます。制作に集中することは大切ですが、収益化の戦略が欠けていると大きなビジネスチャンスを逃してしまいます。

 

対照的にディズニーはM&Aやコングロマリット化を通じて、ビジネスを大きく拡大してきました。コンテンツ制作から流通、マーケティング、販売までを一貫して行い、ディズニープラスという自社メディアを運営するのみでなく、ファンに体験を提供するテーマパークも所有しています。このように、上流から下流まで一気通貫でビジネスを展開することで、収益を最大化しているのです。

 

我々もディズニーのように上流から下流まで一貫して運営する事業を構築することで、同様の規模感を目指せると考えています。

 

こうした戦略を取ることで日本のコンテンツが世界中に浸透し、人々に希望を与え、より良い世の中を築く一助になると確信しています。

 

人の役に立つことをするのが事業継続の鍵

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします     

「人の役に立つことをする」という精神を持って進んでいただきたいと思います。自分のためだけに事業をやっていると、困難な状況に直面したときに続けることが難しくなるでしょう。しかし「人のためになることをやろう」と思えたら、自然とエネルギーが湧き、困難も乗り越えやすくなります。

 

私自身、大変な時は「人の役に立つことをやっている」という思いが支えとなっています。この考えに立ち返ることで自分の苦労も意味があるものに感じられ、「少しでも他の人の役に立てるなら、自分が苦労しても構わない」と思えました。

 

もちろん、収益を上げることやビジネスをスケールさせることも重要です。しかし、それだけでなく「いかに人の役に立つか」といった視点を持つことが、長期的な成功の鍵だと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:保手濱 彰人氏

1984年生まれ。駒場東邦高校を卒業後、東京大学理科I類に現役合格。

在学中に経済産業省後援のビジネスコンテストで優勝し起業(東大中退)。

その後、複数の事業立ち上げを経て2014年にダブルエル(現ファンダム!)を創業。

 

企業情報

法人名

株式会社ファンダム! Fundom, Inc.

HP

https://fundom.jp/company

設立

2014年6月4日

事業内容

キャラクターを含むIP(著作物)を使用した次の事業。

  1. アートソリューション事業
  2. ライブエンタメ事業
  3. キャラクターDX事業

 

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