株式会社ヤマシタ 代表取締役社長 山下 和洋
株式会社ヤマシタは創業以来60年以上にわたりリネンサプライ事業を手掛けており、追いかけるように介護用品のレンタル事業も始めています。取締役社長を務めるのは、25歳の時に会社を引き継いだ山下和洋氏です。 3代目として会社をさらに発展させるべく、山下氏は同社を1兆円規模に成長させるという壮大な目標を掲げています。今回はその展望を含め、事業内容や家業を引き継いだ経緯についてお話を伺いました。
創業60年の伝統を誇る、介護用品レンタルとリネンサプライの事業展開
早速ですが、事業内容を教えてください
当社は介護用品のレンタル事業とリネンサプライ事業を主に展開しており、昨年で創業60周年を迎えました。
我々の事業はどちらもレンタル事業という特性から、ストック型のビジネスモデルであり、安定している分、堅実に展開していくことが大切です。このビジネスモデルではレンタル品の回転率が高まると利益率も向上し、シェア拡大とともに物流やレンタル品の投資回収効率も上がるため、地域に根ざしたドミナント展開が基本的に効果的です。
また、介護用品レンタル事業では、1人ひとりのニーズに合わせた提案をベースに、業界大手では唯一の365日対応やチーム制による高いサービス品質の提供を行うことで、ソリューション型のサービス業として差別化を図っています。これが他社との大きな違いです。
さらに、当社では社員が付加価値を創出しやすい仕組みを重要視しています。具体的には生成AIをはじめとするデジタル技術を活用することで、生産性を大幅に向上させ、労働集約型のビジネスモデルでも高い付加価値を出せる環境の構築を進めています。その結果、1人当たりの売上高が増加し、より良いサービスを提供できる基盤を整えていくことを目指しています。
我々は、社員が生み出す付加価値が企業の成長に欠かせない要素であると考えています。そのため、HPでも「人材」ではなく「人財」と表現しています。
家業を引き継ぐに至った経緯を詳しくお伺いできますか?
私は生まれてからずっと、「お前は将来経営者になれ」と家族から言われて育ちました。その影響もあり、自分が家業を継いで経営者になることに疑問を持っていませんでした。
小学6年生の時に書いた卒業論文のテーマは「介護保険制度」でした。周りの人には驚かれることが多いですが、私にとってはそれほどまでに家業が幼い頃から生活の一部となっていました。
大学入学後、インターンで内定をもらったコンサルティング企業に就職しようと考えていた矢先、ハーバード大学でビジネスプログラムを受けている最中に父から電話がかかってきました。「今どこにいるんだ」と聞かれ、「海外にいる」と答えると、「2ヶ月後に新卒の採用試験があるから戻って来てくれ」と当然言われました。そうして急遽計画を変更して、ヤマシタに新卒として入社することになったのです。
入社後は、当時新規出店したばかりの香川営業所に営業担当者として配属されました。新たなエリアでの新規開拓は重要な役割ではありますが、社長であった父の健康状態などの状況からできるだけ早く社長の役割を果たせるような状態になりたいと考えていた私にとっては、物足りなく感じていました。そこで、父に「仕事をもっとください。でなければ転職させてください」と直訴しました。
結果、仕事が増えることになり、1年目の途中からホームページの刷新などの広報活動や、採用フローの改善、戦略フレームワークの導入など、さまざまな業務を経験しました。さらには父から与えられた課題として、子会社のDD(デューデリジェンス)情報を貰い模擬買収判断や、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を担当し、150人規模の会社を立て直すCOOの役割も担わせてもらいました。いま振り返ると、1年目でこうした経験を積める機会を得られたのは、非常に貴重なことで父には心から感謝しています。
質の高いサービスを提供し「一番良いもの」を追求する
仕事における譲れない軸やこだわりを教えてください
「やるからには一番良いものを作る」という軸をいつも大切にしています。これは当社の企業理念である「正しく生きる、豊かに生きる」を私流に体現するものです。
こだわりに関しては、CX(顧客体験)と同じくらいEX(従業員体験)も大事にしています。私はCXとEXのバランスがうまく取れないと、持続的な経営は難しいと考えています。
この考えは、当社の4つのバリューである「お客様を原点に」「チームヤマシタ」「挑戦」「やり抜く」にも反映されています。お客様だけを優先しすぎると、社員が疲弊し、結果的に事業が行き詰まることにもなりかねません。
しかし、しっかりとセグメンテーションを行いつつ優れたサービスを提供し続ければ、こちらがターゲットとするお客様を選ぶことも可能になります。それは会社にとっても社会にとっても非常に有益なことだと考えています。
常に人一倍努力して、質の高いサービスを提供することが、最終的にはEXとCXの好循環を生み出すと信じています。
代表取締役社長に就任されてからこれまでの最大の壁を教えていただけますか?
壁というより「チャレンジ」といった方が近いかもしれませんが、就任当時は会社を立て直すことに必死で、体力勝負の日々でした。2013年に先代社長であった父が交通事故で急逝し、私は25歳で代表取締役社長に就任しました。さらに、当時の会社のNo.2であった方も末期がんで亡くなり、会社全体を見渡せる人がいない状況でした。
そこで私が経営を任されることになり、弟(現:専務取締役)と共に知恵を絞りながら会社を支えるために全力を尽くしました。25歳から27歳の間は、平日の睡眠は3時間程度のことも多く、体力の限界に挑むような生活を送っていました。当時は決裁権限が私に集中していたため、年間6〜7万件の社内承認を行い、正社員だけでなくパート社員も含む1500人以上の報酬までも確認しつつ、殆どの正社員の採用面接も担当していたため、土日も休むことなく仕事漬けの毎日でした。
経営の立て直しと日々の業務に追われる中で、もう一つの大きなチャレンジが待ち受けていました。それは、私が人事制度を大きく変えたことで一部の社員から反発があったことです。給与制度も見直し、年齢に関係なく個人の成果に基づいて昇給・昇格する仕組みにしました。
一時的には痛みを伴う改革でしたが、こうしたチャレンジを乗り越えることで、会社は中長期的に良い方向へ進むことができたと感じています。
家業の発展に尽力する強い責任感で進み続ける
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
私のモチベーションの源泉は、強い責任感にあります。私がこの家に生まれてきた意味は「会社の発展に貢献すること」に尽きると考えています。会社は私個人の所有物ではなく、私の意志や自由は「会社を発展させる」という使命の上に成り立っています。実際、私の人生の多くは先代から受け継がれたものによって築かれており、その基盤のおかげで自分がとても恵まれていると感じることも多いです。
また、当社には誠実で素晴らしい社員が多くいます。彼らの努力や信頼に支えられ、私自身も彼ら、彼女らから素晴らしいEXを受け取っています。こうした相互の支え合いと、社員との良好な関係が、前進し続ける原動力に繋がっています。
今後の展望をお聞かせください
私の目標は、会社を1兆円規模に成長させることです。この大きな目標は、弟の結婚内祝いで一緒に飲んでいた時、生まれました。弟と未来について語る中で、私はその時飲んでいたボトルに「1兆円を目指す」と書き込んだのです。その時の野望は、今も変わっていません。
この目標を達成するためには、規模の経済を追求し、事業を拡大し続けることが大切です。1兆円という大きなインパクトを実現するためには、国内市場だけでなく、中国をはじめとする海外市場にも進出していくことが不可欠だと考え、2020年には中国上海に進出しました。
また、現在のビジネスモデルを基盤に、EXとCXのデータ化を進めることが、さらなる発展への鍵になると信じています。
「1兆円」という大きな目標を掲げていますが、この目標に信憑性を持たせ、企業としての信頼を得るためには、実績を社会に示し続けることが重要です。そのためにも、まずは在宅介護のプラットフォーマーとして業界で確固たる地位を築き、2030年までにその基盤を固めることが第一の目標です。その上で、次なる飛躍を目指していきたいと考えています。
採用を強化されているそうですね。採用にあたって理想的な人物像を教えていただけますか?
当社が求める人物像には、おもに3つのタイプがあります。
1つ目は、「変革型」の人です。マルチタスクが得意で、合理的な思考を持ちつつ、人の気持ちを理解できるタイプの人です。私自身もこのタイプであり、シングルタスクでは物足りなく感じてしまいます。変革型の人は常に新しいことに挑戦し、変化を推進する力を持っています。このタイプの人に、次々に新たな挑戦と幅広い仕事を任せるのが私の得意技でもあります。
2つ目は、「実践型」の人です。ロジカル思考は得意ではないかもしれませんが、行動力があり、売上を上げるために積極的に動くタイプの人です。体育会系に近いイメージで、リーダーシップを発揮しながら自らの行動を通じて学び、成長することができます。実践型の人はチームに良い影響を与え、周囲を鼓舞する存在です。
3つ目は、「提案型」の人です。高い傾聴力を持ち、全体を理解しながらも、行動に移す前に慎重に準備を進めるタイプの人です。提案型の人は問題の本質を捉え、的確なアドバイスや提案を行うことが得意です。自ら積極的に前に出て行動することは少ないかもしれませんが、社内の調整役として根回しなどを上手く行い、スムーズなコミュニケーションを進展させる力があります。
いずれのタイプも、当社の発展に不可欠な役割を果たしてくれると期待しています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:山下 和洋 氏
2010年慶應義塾大学法学部を卒業後、株式会社ヤマシタ入社。2013年、先代社長であった父が急逝し、25歳の若さで代表取締役社長に就任。以降、経営基盤の強化や事業の選択・集中などの変革を推し進め、就任から4年で約4倍の利益を稼ぐ会社に成長させる。小学校で社会保障制度に関する卒業論文を執筆。高校時代には、福祉用具専門相談員の資格を取得。2020年にはダイヤモンド経営者倶楽部「Management of the year」を受賞。
企業情報
法人名 |
株式会社 ヤマシタ |
HP |
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設立 |
1963年3月6日 |
事業内容 |
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