Craif株式会社 代表取締役CEO 小野瀨 隆一
Craif株式会社は、がんの早期発見および一人ひとりに合わせた医療を実現するため、独自の検査技術の開発に取り組んでいます。主力製品であるマイシグナル®︎シリーズは、自宅で簡単に尿や唾液を採取し、体への負担なく包括的ながん対策を可能にするものです。
世界市場、とくにアメリカでの成功を視野に入れて進み続ける同社の代表取締役CEO、小野瀨隆一氏に詳しくお話を伺いました。
最先端技術を駆使した高精度検査で、がんの早期発見をサポート
早速ですが事業内容を詳しくお聞かせください
我々はマイシグナル®︎シリーズという、がんの早期発見に繋がる検査セットを提供しています。マイシグナル®︎シリーズには2種類あり、生まれ持った体質を調べられる「マイシグナル・ナビ」では、遺伝的にがんが発生しやすい部位を知ることができます。
もう一つの「マイシグナル・スキャン」は、尿のマイクロRNAをAIで解析し、がんリスクを判定する検査です。
がん研究において最先端の物質として注目されているマイクロRNAは、細胞間のコミュニケーションを担う伝達物質です。がん細胞は、周囲に細胞のマイクロRNAを送り込んで環境を変えることで、増殖、転移します。
私たちは数千種類のマイクロRNAを持っているといわれており、健康状態によって人それぞれ持っている種類が違うんです。
がん細胞が発するマイクロRNAは普通の細胞のマイクロRNAと異なるため、たとえば膵臓がんの患者さんだったら、他の人と比べて特定のマイクロRNAが多く存在したり、逆に少なかったりすることがあります。したがって、マイクロRNAを詳しく見れば、がんの活動が早期からわかるのです。
まず一生に一回の検査「マイシグナル・ナビ」で体質に基づいたがんのリスクを明らかにした上で、「マイシグナル・スキャン」で半年から1年に1度定期的に現在のがんリスクを検査していただくことを推奨しています。
両方とも7つのがん種別に調べることができ、自宅で簡単に検査できるため痛みもありません。
また、新たな領域への挑戦として北海道大学病院と前向き観察研究を開始しました。この研究では、喫煙などの理由から肺がんのリスクが高い方を対象に検査を実施し、肺がんの診断率を調査します。北海道の岩内町と余市町の皆さんに「マイシグナル・スキャン」を100セット無償で提供し、肺がんの罹患率や予後への影響を年単位で追跡調査する予定です。
このように地域医療機関と連携して社会課題に取り組む活動もおこなっています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は新卒で三菱商事に入社し、エネルギー輸送、簡単に言うと船の事業に携わっていました。
会社員時代にディープテック領域での起業を考えていたのですが、ちょうど同じタイミングで祖母が大腸がんで亡くなってしまいました。そしてその直後に祖父も肺がんの診断を受けました。
立て続けに身内ががんになってしまったことから、がんという深刻な問題に挑む事業をやりたいと思い始めたんです。
しかし文系出身で研究者でもない私にとって、この分野は未知の世界でした。それでも「何かできることはないか」と模索している時に投資家を通じてがんの研究者と出会い、共に事業を立ち上げることになりました。
正直、起業当初は不安がありました。研究開発に重きを置く分野なのに、研究者ではない自分が会社の代表で本当に良いのかと。
しかし社長のバックグラウンドが何であれ、会社の代表としてやるべきことは結局同じです。それは、チームを作り、お金を集め、進むべき方向をビジョンとして提示していくことです。
必ずしも社長が革命的なプロダクトを生み出す役割を担っている訳ではありません。今となっては自分のバックグラウンドを気にする必要はなかったと思っています。
仕事におけるこだわりを教えてください
我々は世界を変える事業をおこなっています。それは世界を相手に勝負し、世界的な課題に取り組むという意味でもあります。
日本のマーケットのみに焦点を当てれば、事業成功の確率を高めることは可能かもしれません。しかし、我々は世界を見据えているため、日本だけで事業をするつもりはありません。
世界を目指すとなると、事業の難易度が上がることは避けられません。それでも挑戦し続けるのがこだわりです。
徹底的に取り組んだ企業カルチャーの形成
起業から今までの最大の壁を教えてください
壁はこれまでにたくさんありましたが、ひとつ挙げるとしたら企業カルチャーを形成するまでの過程がかなり大変でした。
そもそも人を採用しようにも、日本にはバイオ分野のスタートアップが少なく、経験者を見つけるのが難しい状態でした。そこでアカデミアの研究者を採用したのですが、研究者の多くは研究したものを実用化した経験がありません。
しかし我々は探索的な研究を続けるのではなく、研究結果に基づいたものを形にして世に出さなければなりません。とにかく社会に出す、実用化する、価値提供をする、という意識をチームに根付かせるのに2〜3年かかりました。研究者のマインドセットを変えるのは相当難しかったです。
サイエンスには終わりがないため、研究者は「なぜそうなるのか?」の理由を追求するのですが、そこに時間をかけていると永遠にプロダクトは出せません。そこで我々は「この状態では出せない」「この状態は出していい」という線を意識的に引くようにしました。
また、チーム内で共通認識を持つために、5つのバリューを行動指針として決めました。日頃のコミュニケーションやフィードバック、半年に1度の人事評価、昇給・昇格もすべてこのバリューに基づいて判断しています。
現在は採用活動においても、独自で作ったバリュー発揮傾向アンケートを実施しています。候補者の方のバリュー発揮傾向を把握し、ミスマッチが無いか、また入社いただく場合には補強ポイント等を把握できるようにしています。入社後も、マネージャー以上の役職者全員が参加する会議で、一人ひとりのバリューの発揮度や課題のモニタリングを実施しており、ディベロップメントニーズを本人に直接フィードバックすることによって、パフォーマンスの最大化に向けた取り組みに注力しております。また、全社員が採用時は無期契約ではなく、半年間の契約からスタートします。上記モニタリング会議を通じて、Craifへのカルチャーフィットをお互いに見極めながらコミュニケーションを取る大切なシーズンになっています。また、バリューとは別にR&Dポリシーも作りました。これは、実際に難しい問題に取り組み、物事を前に進めた人だけを評価します、というポリシーです。「ここが駄目」「難しいからできない」などと言うのは簡単ですが、実際に問題を解決するために行動するのは簡単ではありません。しかも、最後までやり切るのはもっと難しい。
批判はするけれど物事を前に推し進めることに消極的な人には、徹底的にフィードバックしています。そうしたフィードバックを繰り返しているうちに研究者のマインドが変化していき、今では半年に1度の頻度で新しいプロダクトを出せるようになりました。
なぜここまでやるのかと言うと、一時期チームに負け癖がついていた時があったからなんです。
人は自信がなくなった時、できない理由を並べて「なぜそれができないのか?」を証明しようとしがちです。「できません」という言葉が何度もメンバーから出てきた時、この負け癖を直さないと会社は終わってしまうと感じました。
そうしたマインドを変え、会社の方向性をしっかりと社内に浸透させるためにも、時間をかけてカルチャー形成に取り組みました。
同じ志を持つチームと世界一の企業をつくる
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
大きなモチベーションになっているのは、ビジョンとミッションを実現することです。がんで人が亡くならない世界を作り、さらには認知症や糖尿病を始めとした生活習慣病も解決していきたいと思っています。
将来的にはヘルスケアを超えた壮大なテーマに取り組み、世界一の企業になることを目指しています。
自分たちが世界一の企業を作ると考えたら、わくわくするんですよね。同じ志を持つメンバーが揃っているこのチームなら、成し遂げられると確信しています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
目下の目標は、アメリカでの成功を実現することです。そのためにアメリカでチームを作って、ナスダックでの上場準備を現在進めています。
アメリカで大きな成功を収めた日本発のスタートアップはまだ現れていないため、我々がその先駆けになりたいと思っています。
私は2000年から2005年までアメリカに住んでいました。当時はMade in Japanの全盛期で、トヨタ、ソニー、パナソニック、東芝などの製品がアメリカでも高い人気を得ているのを子どもながらに実感していました
しかし、今の日本企業にかつてのような存在感はありません。正直、すごく寂しいと感じています。
昔はディープテック分野の先駆者であった日本ですが、現在はその立場が変わりつつあります。最先端のテクノロジーを駆使しているスタートアップの多くは、今やアメリカや中国の企業です。
私はMade in Japanを復活させたい。日本は技術の国ですから、その技術力で世界と戦い、再び世界に誇れる日本を築きたいと考えています。
なぜアメリカを目指すのかと言うと、ヘルスケア分野では世界市場の40%がアメリカだからです。つまり、アメリカで勝てたら世界でも勝てるわけです。
まずはアメリカで結果を出すために進み続けます。
リスクではなく「本当にやりたいこと」にフォーカスを
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
私自身もそうでしたが、起業する時は周囲からネガティブな問いをたくさん受けます。
たとえば「リスクがあるのではないか?」「今の会社でそれは出来るのではないか?」「本当に覚悟はあるのか?」など。
しかし、覚悟は立場と共に徐々に芽生えてくるものだと思います。
今、大活躍している大谷翔平選手も野球を始めた時はリスクばかりを考えていた訳ではないでしょう。単純に楽しいからやる。それに尽きるのではないでしょうか。
これから起業しようという人に「イーロンマスクのような覚悟があるのか?」と聞くのはおかしな話だと思います。そもそも立場が違い過ぎて、同じような覚悟がある訳がないからです。
起業する時はリスクや覚悟よりも「自分が本当にやりたいこと」に向き合うことが、重要だと思います。
自分がやりたいことであれば、自然と事業が形になり、覚悟も後から付いてくるものです。必要なものはすべて後から付いてくるんです。
私もリスクに関しては散々周りから言われましたが、ベンチャーの成功確率はそもそも高くありません。もし上手くいかなかったとしても、ベンチャーキャピタルから資金を得ていれば、個人に借金が残ることはありません。
違う事業で再度起業することになれば、過去の失敗から学んだ経験は価値あるものとして評価されます。また、他の会社への就職を選んだ場合でも、起業に挑戦した経験は肯定的に評価されるでしょう。ですから、リスクばかりに囚われる必要はないのです。
また、自分がその事業に必要なスキルを持っているかどうかは関係ないと思います。社長1人で事業をする訳ではないので、必要なスキルを持っている人を採用すればいいんです。
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
当社は「とにかく早くやる」を重視する会社です。社会的な信頼を失うことでない限り、何か問題が起きたらその時に修正したらいいと思っています。
予防線を張り過ぎて時間を無駄にするより、素早く行動して形にすることが大事です。実際に世に出してみないと分からないことも多いですからね。
性格面では、オープンで失敗を恐れない方を歓迎します。
現在は事業開発、財務、経理、内部監査、法務、PR、エンジニアなど幅広い部署とポジションで人材を募集しています。文系の方も大歓迎です。ご興味がある方はぜひ採用情報をご確認ください。
採用情報▼
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:小野瀨隆一
早稲田大学国際教養学部在籍時にカナダのマギル大学に交換留学。 大学卒業後は三菱商事に入社、シェールガスを日本に輸入するLNG船事業に従事する。 2018年に三菱商事を退職し、Icaria株式会社(現在のCraif株式会社)を創業。
企業情報
法人名 |
Craif株式会社 |
HP |
|
設立 |
2018年5月22日 |
事業内容 |
その他の医療に附帯するサービス業 |