株式会社chipper CEO 十時悠径
株式会社chipperは、クライアントと共に事業を創り上げることをポリシーとし、部分的な支援に留まらず、多角的な事業を展開しています。なかでも生成AIを活用したマーケティングSaasツール「CreativeDrive」は、最近大きな注目を集めています。同社のCEOの十時悠径氏に、詳しい事業内容や企業における生成AI導入の現状、そして起業の経緯などを伺いました。
SaaSサービスからコンサルティングまで、幅広い支援を通じて事業を共創
早速ですが、事業内容を教えてください
我々は幅広い事業を展開していますが、主に3つの領域に注力しています。まず、生成AIを活用したマーケティングソリューションのSaaSサービス、次に法人向けの生成AI活用支援ソリューション、そしてワークフローツールの提供です。
マーケティングソリューションのSaaSサービスでは、生成AIを活用したSEOライティングツール「CreativeDrive」を提供しており、現在5,000名を超えるお客さまにご利用いただいています。このツールはChatGPTが登場した直後にベータ版をリリースし、2023年7月に正式にローンチしました。「CreativeDrive」を活用すればSEO記事を大量に作成できるため、リライトや校正に人間が入る場合でも、1記事あたりのコストを下げることが可能です。
■「CreativeDrive」への問い合わせはこちらから
https://creative-drive.jp/
現状、企業での生成AIの導入はどのくらい進んでいるのでしょうか?
最近のデータによると、生成AIを活用できている企業の割合は9.1%に過ぎません。多くの企業が導入を検討しているものの、具体的なユースケースを見つけられず、導入まで至っていないのが現状です。
導入した企業でもそこで止まってしまい、結局、業務に活用できていないという声も少なくありません。生成AIの導入にあたり大切なのは「どの課題を解決したいのか?」というゴール設定です。ゴールがないままツールのみを導入しても、活用できないのは当然の結果と言えます。
また、生成AIツールを取り入れた企業では、人間のアウトプットと比べて品質が劣るとの意見があり、その結果うまく活用できていないケースも見受けられます。しかし、それは「業務全体を生成AIに代替させよう」と考えることに原因があると感じています。
我々は発想を転換し、人間の作業を完全にAIに置き換えるのではなく、AIと人間で役割を細かく分担し、業務プロセスにAIをうまく組み込むことが大切だと考えています。「CreativeDrive」も、人間がクリエイティブな仕事に集中するための手段として設計しており、SEO記事に必要な業務全体をAIが代替するものではありません。ライティング業務に生成AIを取り入れる本質的な意味は、記事を量産することではなく、より効率的に集客につなげるという点にあります。
現在、多くの企業が「生成AIでどのように業務を効率化できるのか」「どういったユースケースがあり得るのか」といった答えを探している段階です。その答えを一緒に見つけるために、我々は提案型のコンサルティングサービスも提供しています。単なるツール提供にとどまらず、独自データの活用やAIを取り入れたカルチャーの構築など、全体的なソリューションを提案し、企業の業務改善までコミットしていることが我々の特長です。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
もともと起業したのは、絵描きだった父の存在が影響しています。絵描きの家庭は経済的に不安定で、それを見ていた私は高校生の頃から「絵描きの人が安定した生活を送るのは難しい」と考えるようになりました。そこで、絵を生業にする人たちが経済的な余裕を持てれば、生活環境も改善するのではないかと考え、最初はアートの分散投資事業で起業しました。
事業を運営していく内に、次第にアーティストの思考プロセスに興味を持ち始めました。ちょうどその頃、世の中では広告代理店がアート思考を提唱し始めており、私も「アート思考」という概念に引かれていました。
アート思考の根本は、世の中に対して問題提起をすることです。アート思考をもとに事業を設計した際、プロダクトをアートに絞る必要はないと気付きました。自分の能力を最大限に活かすためには、メーカーにフォーカスし、上流設計からブランディングまでを手掛けるアプローチが最適だと考えるようになりました。そこで、D2C(Direct-to-Consumer)のコンサルティングを始めました。
当時、私が目指したのは、ゼロから新しいものを生み出す「ゼロイチ」の部分を有機的に創造するコングロマリット型の企業です。最初はコンサルティングを起点に事業を展開していましたが、現在は生成AIを起点としたコングロマリットにシフトしています。その一環として、我々の強みを発揮でき、かつ世の中のニーズもあるマーケティング領域に特化した「CreativeDrive」というツールをリリースしました。
新しいイノベーションを「ビジネスハック」し、いち早く世の中に広める
仕事における譲れない軸やこだわりを教えてください
こだわりとして「ビジネスハック」の精神を重視しています。「ビジネスハック」とは、ビジネスの課題を解決するための創意工夫や、リソースを効果的に活用することで成果を最大化する手法や考え方です。これには、予算を先行投資し、ビジネスの勝ちパターンを見つけるための試行錯誤や戦略的なアプローチも含まれます。我々の組織の中でも、このハック思考を持つ人材は非常に重要だと感じています。
また、企業カルチャーとして、バリューに掲げている「Next Innovationを民主化する」という姿勢も大切にしています。
世の中では常にイノベーションが起こっていますが、我々はマーケティングをメインとする会社のため、イノベーション自体を生み出すことはできません。しかし、革新的なイノベーションをいち早く取り入れ、「ビジネスハック」の文脈で戦略を構築し、使いやすい形にして世の中に広げていくことは可能です。その担い手として、今後も事業に取り組んでいきます。
起業してからこれまでの最大の壁を教えていただけますか?
2年前にコンサルティング事業を拡大した際に30人規模の組織に成長したのですが、いわゆる「30人の壁」にぶつかり、組織崩壊を経験しました。
私はイノベーションが起きるのは、論理的思考とアート思考がうまく組み合わさったときだと考えています。そのため、マーケティング部門とクリエイティブ部門の両方を立ち上げ、D2Cのコンサルティングを主軸としながら業務を内製化し、全体のバリューチェーンを強化しようとしました。
しかし、次第にメンバーの考え方の違いから部門間でハレーションが生じるようになりました。マーケティングチームが売上を追求する一方で、クリエイティブチームはブランディングを重視するため、商業的な要求とクリエイティブの質の間で対立が生まれたのです。
この対立は組織全体に悪影響を及ぼし、社員の離職が続く時期がありました。当時の私は曖昧性を重視する考え方を持っており、多面的に物事を見て多様な意見を許容することが重要だと感じていました。しかし、結局はこの方針が会社の方向性をブレさせ、意思決定のスピードを遅らせていました。
私が期待を捨てきれず、チームの関係修復を待つ間に問題が深刻化していき、結果として売上を作ることに集中できず、営業利益が赤字に転じたこともあります。
組織の立て直しには時間がかかりましたが、会社としての方向性を固め、評価面談で厳しく判断することで、マーケティング支援に特化した組織に変えていきました。その結果、クリエイティブ部門の多くのメンバーが退職しましたが、組織としての生き残りと成長を図るためには必要な決断だったと感じています。
経営者として描いた大きな夢を必ず実現する
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
経営者として大きな目標を描いているからこそ、必ずそこに到達しなければならないと思っています。少しでも諦めの気持ちを持ってしまったら、ビジネスマンとして失格です。自分が描いた夢を実現させるまで進み続けなければならないという、使命感を持っています。
また、起業してからこれまでに億を超える金額の借入もしています。この事業を成長させることは、もはや私一人の問題ではありません。中途半端な成長ではなく「上がりきる」という覚悟をもって経営しています。
採用を強化されているそうですね。求める人物像をお聞かせください
いま求めているのは、ハック思考を持ち、タスクを細かくこなし、効率を重視する人です。これが非常に重要だと考えています。また、コツコツと真面目に取り組み、目の前のことに興味を持って「面白い」と感じられるタイプの人は、必ず当社で成果を出せると思います。
現在のフェーズではこのような人物像を求めていますが、組織が大きくなるとまた求める人物像も変わるかもしれません。しかし組織が30名以下の現段階では、同一性を高めて一丸となって戦える人材が必要です。そうでなければ、強い企業カルチャーを作ることはできません。
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業は本当に大変です。私自身、起業してから何度も困難を乗り越えてきました。厳しい状況の中でも、事業の継続性をどう保つかを考え抜くことが重要です。
以前、楽天で働いていたときは毎日楽しく、苦労も少なかったように感じます。それに比べて、スタートアップでの苦労は比ではありません。
起業してからは特に、組織形成の部分で苦労することが多いと思います。
本質的にスタートアップは損切りをしながらピボットを繰り返し、「当たり」を探すゲームのようなものです。うまくいかなかった場合、すぐに方向転換する役割を代表は担っていますが、現場はそう簡単に方向転換できません。
一般的に中間管理職がトップの指示を翻訳し、現場のメンバーをまとめますが、トップから100の指示を受けたとしても、現場に伝わるのは30ほどです。その後、また方向転換があれば、再び翻訳し直さなければなりません。このプロセスで必ずハレーションが生まれます。それでも組織を回し続ける覚悟が必要です。
また、「How」にこだわり過ぎず、何を成し遂げたいのかという大きなビジョンを持つことも重要です。その上で、流動的に事業を調整していける柔軟性を持つことが、起業家として成功するための鍵だと考えています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:十時 悠径 氏
企業情報
法人名 |
株式会社chipper |
HP |
|
設立 |
2017年2月 |
事業内容 |
CreativeDrive事業、新規事業プロジェクト開発 |
沿革 |
楽天株式会社にてECコンサルタントに従事。’12年新卒新人賞・楽天賞受賞。 静岡支社立ち上げや神奈川でのマネジメント経験を経て’17年にchipperを創業。 EC、D2C領域を中心にブランド立ち上げ、新規事業開発、販売戦略立案、運用まで一気通貫したモデル構築が得意で、これまで累計1,000企業以上のグロース支援を行う。 生成AIがもたらすコンテンツ革命に着目し、世の中への問題提起の観点から、ChatGPT登場の翌月にはCreativeDriveをリリース。現在は、ただのAI活用によるコンテンツ生成ではなく、独自性を担保し、クライアントのリード獲得に繋げることを目的としたサービスにアップデートした上で、5,000名を超える方にご利用いただいております。 |
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