Milk.株式会社 代表取締役 中矢 大輝
Milk.株式会社は、目に見えない光の波長を見る「ハイパースペクトル解析技術」を基盤としたカメラを用い、医療や食品衛生分野で革新的なソリューションを提供しています。「ハイパースペクトル技術で世界一を目指す」をミッションに掲げ、技術の進化と社会への貢献を追求しています。「日本にNASAを超える研究室をつくる」と意気込む代表取締役の中矢大輝氏に、事業内容や今後の展望を詳しく伺いました。
ハイパースぺクトルカメラで人間の目に見えない光を捉え、新たな世界を可視化
事業の内容をお聞かせください
当社はハイパースペクトルカメラを中心に、がん診断、食品検査、建物や道路の点検など、さまざまな分野での応用を目指しているスタートアップです。
ハイパースペクトルカメラは元々、人工衛星用に開発されたカメラで、光を波長ごとに分光して141原色で捉えることができます。従来のカメラでは見えない、微細な色合いの違いまで識別できるのが特長です。我々はこの特殊な性質を持つハイパースペクトルカメラを中心に、大手企業や大学の研究室と提携しながら、さまざまな開発に取り組んでいます。
たとえばこのカメラは、内視鏡や顕微鏡にも取り付けることができ、医療や工業分野など、幅広い領域での活用が期待されています。現在は、光や電磁波を利用した研究が進められており、将来的にはがん診断や食品の鮮度測定や異物検知などでの応用も見込まれています。
がんの発生メカニズムについては、まだ多くの謎が残されており、遺伝子変異と腫瘍化の関係についても探求を続けているところです。
がんは遺伝子変異によって引き起こされますが、毎日約5,000個のがん細胞が体の中で生成されているにもかかわらず、がんが腫瘍化して増える人と、そうならない人がいます。たとえ遺伝子変異が起こっても、その変異が発現しなければがんには至らないこともあります。
こうした現象を解明するため、光を使って細胞の内部を観察し、がん細胞と正常細胞の違いを詳細に分析する研究を進めています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は元々研究者を目指し、アメリカの大学に留学していました。最初は2年制大学に通い、その後4年制大学に編入する予定でした。
3年生から研究室に配属されることになるため、2年制の大学を卒業するタイミングで、ノーベル賞に近づける研究ができる研究室を見て回ったのです。当時は、常温核融合の研究やリニアコライダーを使った素粒子実験をしている研究室など、多くの大学を訪ねましたが、どの研究室も競争率が高く、教授の指示のもとで学生が動くというスタイルが主流でした。
しかし私は教授の考えを実行する役割にとどまるのではなく、自分で発想して自分の研究を進めたいと考えていました。行きたいと思える研究室がなく悩んでいたところ、祖母から「面白い研究室がある」と連絡がありました。
ちょうどNHKで紹介されていた研究室で、「目に見えないものを見せるカメラ」を開発しているという話を聞きました。その技術のユニークさに強く惹かれ、私はすぐに学校を辞め、1週間で手続きを終えて帰国し、佐鳥教授が率いる研究室に参加することを決めたのです。
当時の私は学歴にこだわる必要はないと感じていたため、大学には通わず、研究室にのみ所属する道を選びました。研究室では学会発表や展示会への参加を重ねながら、成果を積み上げることができ、いくつかの特許も取得することができた時に「あとはもう事業化するのみ」と思い、起業したのが経緯です。
原則原理を理解した「ゼロからのものづくり」
仕事におけるこだわりを教えてください
「ゼロからのものづくり」という理念を大切にしています。これは佐鳥教授から教えられたことで、自分たちで全てを理解し、発想し、世の中にまだ存在しないものを生み出すことを目指す考え方です。
どんなことにも基本的な原則があり、それを完全に理解するまで探求し続けることが重要です。理解が深まったら、その知識を活かし、社会に役立つ形にするまで追求しますが、こうしたプロセスには多くの時間と忍耐力が求められます。特に、アイデアを具体的な形にする段階では、さまざまな人々の協力や説得が不可欠です。
そのため、プロジェクトがすぐに利益につながらないことも少なくありませんが、時間をかけて全容を理解しようとする姿勢が信頼につながり、現在では大手企業とも直接取引を行えるようになりました。
また、「純白な愛のこころで世界に奉仕する」という根本理念もこだわりのひとつです。これは、従業員や役員だけでなく、会社の枠を超えて多くの人々と繋がり、共に仕事をしていきたいという想いを表したものです。この理念に共感してくださる方々と取引を進め、信頼関係を築くことを大切にしています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
壁として思い浮かぶのは、大きな組織崩壊を2回経験したことです。
会社設立前の研修室時代には、約50人のメンバーを率いていたのですが、当時の私はリーダーとしての権限移譲がうまくできず、また自分の研究に集中しすぎていたため、組織全体をうまくまとめることができませんでした。その結果、メンバーが次々と離れ、組織が崩壊してしまいました。
その後、再び人を集めましたが、今度はチームの8割が女性という構成になりました。女性メンバーとのコミュニケーションの仕方に戸惑うことが多く、同じ内容を伝えても人によって受け取り方が異なるなど、情報伝達の難しさを感じることもありました。
さらに、当時は会社を設立していなかったため、メンバーに十分な給与を支払うことができず、金銭的な問題も発生しました。多くのメンバーが就職活動を優先して次々と離れていき、結果的に残ったのはたった一人でしたが、その彼とは今でも一緒に働いています。
この経験を通じて私は、「会社」という形にこだわらなくなりました。会社を作ることも壊すことも、それ自体に執着しなくなったのです。それよりも人との関係性や、周りの人の成長を支えるための環境を提供することの方が大切だと感じました。
会社という土台があることで、自己実現の場が広がるのは確かです。しかし、方向性が変わったらその場を離れても良いし、共通のビジョンを持つ人とは一緒に活動を続ける、という柔軟な姿勢を取るようになりました。
起業前後の時期は大変なことが続き、組織崩壊のみでなく、資金がなくて私は家賃も払えないほど経済的に厳しい状況が続いていました。当時の私にとってはそれが非常に大きな壁でしたが、本当の意味での大きな壁はこれから来るのかもしれません。
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションを言葉で表現するのは難しいですが、経営者として前に進み続けられているのは、周囲のサポートがあるからだと思います。
会社を立ち上げ、多くのメンバーが集まってくる中で、彼ら彼女らの夢や自己実現への強い意欲に触れるようになり、皆が成長できる場を作ることを私も意識するようになりました。
当社は平均年齢24歳という若いメンバーが多く、私自身も皆と一緒に成長しています。たとえ落ち込んだ時でも、周りの支えや信頼してついてきてくれるメンバーの存在が、私を前に進めてくれる大きな力になっています。
こうした切磋琢磨し合える仲間たちがいるからこそ、常に前向きな気持ちで挑戦し続けられているのだと感じます。
日本にNASAを超える研究所をつくり、研修者を育成する
今後やりたいことや展望をお聞かせください
目標は、日本にNASAを超える研究所を設立することです。そのためにまず必要となるのが、資金の確保です。会社の規模を拡大していくことはもちろん重要ですが、同時に研究者としての実績も求められます。研究者を育成する立場である以上、私自身が理想的な研究者像に近づくことが大切だと感じ、現在は大学院に通い博士号の取得を目指しています。
以前は学歴にこだわらないと思っていましたが、ノーベル賞にノミネートされるためには博士号が必要だと知り、大学院で勉強することにしました。今後は、研究者としての成果を上げつつ、事業資金を集めるため経営者としての経験も積んでいきたいと考えています。
もうひとつの目標は、人材育成です。現在、若手メンバーをゼロから育てることに力を入れており、プログラミングの経験がゼロのメンバーがアプリ開発を行ったり、人工衛星を作ったりするのを見守りながら、皆が技術を身につけるサポートをしています。私が直接教えるというよりは、皆が自ら考え、行動し、成長できる環境を整えている形です。
才能や情熱を持つ人が成長するためには、適切な環境が必要です。たとえば、栄養豊富な土壌に水を与え十分な日光を当てれば、どんな植物も健やかに育つように、人もサポートや機会があれば成長できます。しかし、現実にはそのような環境が整っている場所は少なく、人を育てるのではなく、消耗させるだけの構造が多いと感じています。
また、リーダーシップを持つ人材や起業家もまったく足りていないのが現状です。今後は、若い人が活躍できる環境をもっと作り出し、次世代のリーダーを育てていきたいと考えています。
起業は若ければ若いほど良い。やりたいのならすぐに行動を
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
やろうと思ったら、すぐに行動に移すことが大切です。迷っている時間があるのなら、とりあえず行動を起こしてみた方が良いと思います。もちろん、やってみて初めて気づくことや、「こうしておけばよかった」と後悔することも出てくるでしょう。しかし、それも含めてすべてが大切な経験です。失敗しても構いません。大事なのは、行動することです。
起業して社長になると、それだけで周りの人が話を聞いてくれたり、手を貸してくれたりすることもあります。やってみる前は不安でいっぱいだと思いますし、私自身もどうやってお金を集めるのか、商品をどうやって売るのかも分からない状態からスタートしました。
起業したいと思っても、親や友人、上司から「無理だ」「やめた方がいい」「失敗するぞ」といったネガティブな意見を言われることもあるかもしれません。しかし、そうした意見に流されず、自分がやりたいことに挑戦してみて、その結果を見てから考えればいいのです。仮に失敗しても、それは貴重な経験になりますし、もう一度やり直せば良いだけです。
私は現在30歳ですが、正直もっと早く起業しておけばよかったと思います。早くスタートすれば、その分たくさんの経験を積むことができ、たとえ失敗してもその経験をもとに次の挑戦ができます。
今の日本は少子高齢化が進んでいるため、若い人たちに対する期待や注目も高まっており、若い方が資金援助を受けやすい環境が整っています。だからこそ、若ければ若いほど挑戦する価値があると思います。
採用を強化されているそうですね。一緒に働きたい人の人物像を教えてください。
素直で熱意がある方であれば、特に条件は問いません。
私は、さまざまな国や文化の人と協力しながら成長していきたいと考えており、現在アメリカ出身のメンバーやインドの学生を迎え入れて、グローバルなチームを作っているところです。
今月は(2024年9月時点)台湾にも会社を設立しますし、今後はアジア市場に特に力を入れていく計画ですので、こうしたグローバルな環境で柔軟に活躍できる方とぜひ一緒に働きたいと思っています。
社名の「Milk.」も、グローバルに通用する覚えやすい名前を意識して名づけました。最初は「白」というイメージをもとにコーポレートカラーを決めたことがきっかけですが、誰もが覚えやすく、世界中で認知される企業を目指して、この名前に決めました。
一緒に働くと言ってもすぐに正社員になる必要はなく、1年、2年、あるいはもっと長いスパンで、少しずつ会社に関わっていただく形でも問題ありません。そのため、フリーランスや業務委託での参加も大歓迎です。実際、いま働いているメンバーの多くもフルタイムの正社員ではありません。
「出会いは宝」だと考えていますので、出会った方々にそれぞれの形で協力していただけることが理想です。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:中矢 大輝氏
愛媛県松山市出身 高校卒業後、ノーベル物理学賞の受賞を志し、アメリカ進学。「がんのメカニズムを物理学的に解明したい」と考え、8年前よりハイパースペクトルカメラによるガン細胞研究を北里大学と開始。約50件の学術成果と特許2件取得し、Milk.株式会社を創業。恩師である佐鳥教授の遺志を継ぎ、研究者であり起業家である人材を育てるべく教育事業にも力を注いでいる。
企業情報
法人名 |
Milk.株式会社 |
HP |
|
設立 |
2019年12月17日 |
事業内容 |
ハイパースペクトルカメラの販売、ハイパースペクトル画像の解析、アプリ開発 |
関連記事