エンジェルラウンド株式会社 代表 大越 匠

エンジェルラウンド株式会社は、従来のVCとは異なるユニークな投資方針で業界の注目を集めているベンチャーキャピタルファンド(以下、VCファンド)です。マイクロファンドの運営を特徴とし、創業初期から着実な成長を遂げる企業への投資に力を入れています。代表の大越 匠氏に、事業内容や今後の展望なども含めて、詳しくお聞きしました。

 

従来のベンチャーキャピタルとは異なるアプローチで、起業家の成長を支援

事業の内容をお聞かせください

当社は、スタートアップに投資をするVCファンドを運営しています。それ以外にも、最近はメディア事業なども始めております。

 

従来のベンチャーキャピタル(以下、VC)との違いは、投資先の選択にあります。一般的なVCは、基本的に創業初期の会社に投資をして、一定期間の赤字を抱えながら急成長する会社を支援します。

 

しかし、当社ではそういった企業には基本的に投資を行いません。

 

私たちが投資するのは、創業初期から着実に売上や利益を出している会社です。比較的堅実な事業を展開している、人材系のビジネスやコンサル、受託事業などを手がけている会社が多いです。

 

2024年9月時点で、公開している投資先は5社ほどですが、実際には12社に投資をしています。BtoBが8割、BtoCが2割の割合です。

 

私自身、元々BtoBの領域でキャリアを積んできたので、その分野の方が事業をイメージしやすいためBtoB領域の割合が高くなっています。

 

それに加え、当ファンドの特徴として、30代以下の起業家に投資するというポリシーを持っています。現在の投資先の起業家の平均年齢は32歳で、20代後半から30代前半の起業家に投資をしています。

 

つまり、我々は堅実な成長を遂げている若手起業家の事業を支援をしております。

 

どのように投資方針を決定されたのでしょうか?

投資方針を決めた背景には、私の経験と業界の課題認識がありました。

 

2022年〜2024年の期間でファンドサイズ50億円以上のファンドが組成されています。一般的にVCファンドは10年で3倍のリターンを目指すといわれています。仮に100億円のファンドの場合、10年後にリターンを300億円以上にしなければなりません。

 

そうなるとファンドのパフォーマンス担保するため、10億円未満の小規模イグジットは避ける傾向にあります。

 

多くのファンドが「ユニコーン・デカコーン・グローバル」と発信しているのは、実はファンドパフォーマンスを達成するための投資先の目線上げが目的の場合があります。

 

しかし、2022年末に発表された「スタートアップ育成5か年計画」の初期施策にエンジェル税制の改正とオープンイノベーション促進税制がありました。エンジェル投資家を増やし、事業会社によるM&Aを促進するというものです。

 

これらの施策によってスモールイグジットが増える可能性があるのではと考えました。

 

そこで当社では、比較的バリュエーションの低いタイミングで投資をし、ファンドサイズをできる限り小さくすることで、この流れに対応できると考えました。

 

さらに、安定した収益モデルを持つ企業に投資することで「会社がなくなるリスク」を抑えることにしました。

 

そのような堅実な事業を有し成長を目指す会社を「ソリッドベンチャー」と勝手にラベルしました。これにより、従来のVCモデルとは異なるアプローチで市場に挑戦しています。

 

VC以外の別事業についても教えてください

VC以外の事業は、現在2つあります。

 

一つ目は、メディア事業です。

 

堅実な事業をやっている起業家にフォーカスした、インタビューメディア「ソリッドベンチャーズ」です。まだローンチして日が浅いため投稿記事が少ないのですが、今後はストーリーを増やしていく予定です。

 

二つ目は、オンラインコミュニティの運営です。

 

「UooVo(ウーボ)」という招待制の起業家向けのオンラインコミュニティです。現在、約70人くらいの起業家の方々がSlack上でコミュニケーションを取っています。

 

このコミュニティを始めたきっかけは、個別に「この人とこの人を繋いでほしい」「先輩起業家と話したい」といった相談をよく受けていた背景があります。

 

しかし、相談が多くなりすぎて「一つのコミュニティにまとめよう」と思い、作成しました。

 

コミュニティ内では、事業会社からの連帯の話も多いため、そういった事業提携の話も積極的に進めています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

VCを始めたのは、元々VCにいたからです。

 

私のキャリアは、事業会社から始まり、前職のVCを経験し、今に至っております。

 

最初のキャリアの事業会社には12年ほど在籍していました。自分でできることは一通りやり切ったと思ったため独立をしようと考えていました。当初は、さまざまなお客様から引き合いがあって、個人コンサルタントとして個人事業主でやっていこうと思っていました。

 

ですが、そのタイミングで、前職のVCの代表から「既存投資先のグロースをやってみない?」と声をかけていただき、VCという職種に飛び込みました。

 

正直、VCやスタートアップはよくわからない領域でしたが「支援という意味合いとしてはやることは変わらないし、とりあえず飛び込んでみるか」という感じで始めたのが最初のきっかけになります。

 

VCの日常を過ごしていく中で、VCという仕事が自分の性格にとても合うと感じ一念発起で退職し、独立しました。

 

明確な判断基準を自分の中に持つ

仕事におけるこだわりを教えてください。

私のこだわりは「明確な自分の基準を持つこと」です。

 

VCの仕事は、究極的にはファンドに出資いただいている投資家の資産運用だと思っています。資産をいかに最大化させるかを常に考えています。

 

リスクとリターンのバランスを見極めることは大切で、取れるリスクは積極的に取りますが、同時にリスクの許容度にはしっかりと線引きをしています。

 

最近、個人投資家向けのイベントで話す機会があったのですが、多くのエンジェル投資家は明確な投資基準を設けていません。「いいかも」と思ったら投資する感覚です。ですが、当社ではかなり明確な基準を設けています。

 

例えば、過去の面談の数や、実際に投資した人たちの共通点を分析すると「ここには絶対に投資しない」といったラインが見えてきます。

 

逆に「こういう人は投資検討に上がりやすいけれど、最終的にはオファーは出さない」といったケースもあります。

 

明確な自分の基準を持ち、感覚だけではなく、データや経験に基づいて、どこまでリスクを取るか、どのような案件に投資するかを決めています。

 

今後予想される壁について教えてください

月並みですが、市場環境の不透明さだと考えています。

 

現在、グロース市場もプライムも含めて株価が乱高下していて、投資先のイグジットにも大きな影響を与える可能性があります。これは多くのVCが直面する壁です。

 

さらに、去年ぐらいから、元々VCファンドを運営していた人や上場企業の社長だった人たちが、こぞってスタートアップ支援の事業を始めています。

 

これは、いままでの正解とされていたVCのビジネスモデルに地殻変動が起きている兆しだと思っています。「このままでいいのか?」と違和感に気づいた人たちが、新しい領域にチャレンジをしているという認識をしています。

 

当社としても、スタートアップのM&AやIPO、早期セカンダリーなど、さまざまなファンドイグジット戦略を考えております。これらをどのように組み合わせていくべきか、真剣に考えなければいけません。

 

「ソリッドベンチャー」の概念を世の中に広める

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションになっているのは「VCの仕事の魅力そのもの」だと言えます。

 

私は、とても飽きっぽい性格です。一般的な企業だと、5年も働いたら絶対に飽きてしまうでしょう。ですが、VCは全く違います。その時々で盛り上がってる領域や、自分が興味を持ってる分野の起業家と出会えます。

 

さらに当社はシードステージの起業家に投資することが多く、会社の立ち上げ段階から関わることができます。これが非常に刺激的で面白く感じるところです。

 

単に投資するだけではなく、一緒に伴走しながら状況を把握したり、一緒に成長できます。さまざまな経験ができる上に、自分の興味や好奇心が日常の仕事になっており、「VCの仕事は、すごく面白い」という思いは、今もこれからも変わらないはずです。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

ソリッドベンチャーのようなテーマに特化したファンドや投資家がもっと増えて欲しいと思っています。

 

そうすれば、より多様な投資の選択肢が生まれます。勝手ながらファンドの立ち上げを考えている方々には、こういった特色ある領域にも目を向けてもらいたいです。

 

各ファンドがもっと個性的で独自の強みやビジョンを明確に伝えることができれば、起業家にとっても多様な選択肢が増えるはずです。

 

手前味噌ですが、例えば私たちは「ソリッドベンチャーに投資をする」ことを軸に差別化を図っています。

 

一般的なVCは、起業家に接触する方法として、SNSのDMやイベントなどを通じてコミュニケーションを取り、投資につなげていく「ソーシング」を日常業務の多くをとっていると思います。

 

しかし、当社ではソーシングはゼロです。「当社はソリッドベンチャーなんですが…」とコーポレートサイトやSNSを通じてインバウンドで直接連絡をいただきます。

 

月に40件ほど新規の面談の機会をいただいており、そこから当社のコンセプトや方針・条件などでマッチする企業に投資を決めていくといった流れになっています。

 

さらに、ソリッドベンチャーの考え方がありがたいことに定期的にSNSでシェアされ、それを見た方々からまた連絡をいただく好循環も生まれています。面談した方の知り合いをご紹介いただくケースも非常に多いです。

 

このように、当社独自の方法が確立されつつあります。今後もこのアプローチを磨きながら、ソリッドベンチャーの概念をさらに広め、より多くの優れた企業に投資していきたいと考えています。

 

起業初期の大規模な資金調達は危険

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

派手でなくて全然いいので自分ができることから始めるのがいいと思います。全く経験がない状態では「何がいいのか?」「ニーズは本当にあるのか?」という手触り感がないため一歩踏み出すことは難しいはずです。

 

であれば、今までの経験や自分が価値提供できる分野で始めるのがいいでしょう。「この分野なら自分や家族を養うことはできるかな」と目星がつくなら、すぐに起業してもいいと思います。

 

ただし、いきなりエクイティによる資金調達をするのは避けた方がいいと思っています。私自身、ファンドを運営していますが、初期段階では自己資本で進められるモデルが一番いいと信じています。

 

ただ、それでもなお事業を加速させるために外部資金を調達したいなら、エンジェル投資家から出資を募るのがいいです。

 

「きみに投資をするよ」「この事業を応援したい」と思ってくれる人から”応援出資”を受けるのがベストです。

 

その後事業が進捗して実績や売上げが立ち、さらに成長を目指したいときに、事業会社やVCから高いバリュエーションで資金調達する。そうすることで、フェアな企業価値で評価され効率的に事業を展開できると思います。

 

当社のVCファンドに興味のある起業家に向けて、メッセージをいただけますか?

自社をスモールビジネスや中小企業だと思っていても、実は大きな可能性を秘めているかもしれません。

 

当社の投資先にも、最初は「普通のコンサル会社です」とか「ただの人材ビジネスをしている会社です」というところがあります。

 

ですが、詳しく話を聞いていくと、「こういうクライアントのニーズがあって、このようなプロダクトをつくろうと思っています」といった話が出てきます。

 

「それ、とても面白いじゃないですか」と盛り上がり、市場性や事業のスピードを議論し、結果的に出資にいたることがあります。

 

自社をスモールビジネスや中小企業だと思っている起業家の多くは、エクイティでの資金調達について検討もしたことがなければ、そもそも知らないというケースがほとんどです。

 

もしいま新規事業のアイデアがあるなら、まずはラフに連絡してください。事業を加速させる方法について、いろいろとお話しできると思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:大越 匠 氏

2010年、新卒で㈱幕末(現イシン(株))へ入社。 ベンチャー経営者向けコンサル営業に従事。その後、新規事業を立ち上げ、事業企画&開発・販売を経験。自治体領域における新規事業開発としてサービス開発も実行。2022年7月Skyland Venturesへ参画。投資先支援や新規投資を担当。 2023年、スタートアップ投資を通して世の中のあらゆる課題を解決するエンジェルラウンド㈱を設立。 栃木県出身。横浜市立大学 国際教養学部 卒(生物系専攻)。

 

企業情報

法人名

エンジェルラウンド株式会社

HP

https://angel-round.com/

設立

2023年5月

事業内容

ベンチャーキャピタルファンドの運営、起業家コミュニティの企画・運営

 

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