オシロ株式会社 代表取締役社長 杉山 博一
オシロ株式会社は、コミュニティ運営に特化したオウンドプラットフォーム「OSIRO」の開発・提供をおこなっています。単なるシステム提供にとどまらず、コミュニティ運営の独自のノウハウと最新技術を組み合わせ、継続的なコミュニティ構築と運営をサポートしています。世界での事業展開を視野に入れて進み続ける、代表取締役社長の杉山 博一氏に詳しくお話を伺いました。
クリエイターの持続可能な活動を実現するコミュニティ
事業の内容をお聞かせください
一言で言えば、コミュニティ創出を支援する事業を展開しています。
当社では「日本を芸術文化大国にする」をミッションに掲げており、その背景には私自身の経験が深く関わっています。アーティストを志し、夢半ばの30歳で諦めた経験、そして、32歳までデザイナーとして活動していた経験から、アーティストやクリエイター業で生計を立てる難しさを身をもって理解しています。そんな現状を変えるために、アーティストやクリエイターが継続的に活動できる環境づくりをしたいという想いから事業をスタートさせました。
具体的には、クリエイターと応援する人をつなぐコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」の開発・運用をしています。自身の原体験からクリエイターが継続的に活動するには、「お金」と「エール」どちらかでは不十分で、その両方が得られるサービスが必要だと感じたためです。アーティストやクリエイターが安心安全な場でファンからエールをもらい、そして安定した収入を得ながら創作活動に集中できる。そんなサービスを提供しています。
OSIROの特徴は、双方向の交流や多様性を重視し、お互いを認め合える場所を目指していることです。オーナーだけでなく、コミュニティに集ったファン同士でも活発に交流し、居心地がよく安心安全な「自分らしくいられる居場所」であることにこだわっています。これは「一人の運営者対特定多数のファン」という構図になるオンラインサロンとは大きく異なる点です。
OSIROの開発思想は「人と人が仲良くなる」です。クリエイターやアーティストの夢をみんなで実現したり、同じ熱量で趣味や興味を持つテーマについて熱く語り合えたりする場を提供するとともに、同じ趣味嗜好を持った人同士のコミュニケーションが盛り上がり、さらに仲良くなっていくような人間関係の質を深めることに長けています。
また、単にコミュニティプラットフォームを提供するだけでなく、コミュニティの設計から運営までサポートできる点が当社の強みです。アーティストやクリエイターの活動を持続可能にし、日本の芸術文化の発展に貢献するため、日々取り組んでいます。
社内コミュニティとしての導入相談が増えているそうですね。
これまでアーティストやクリエイターのために「人と人が仲良くなる」を追求してきましたが、その効能が実は社内コミュニティとしても活用できることがわかってきました。
最近、社内コミュニティとしての導入のご相談が増加しています。その増加の背景には、企業が抱える重要な課題があります。ビジネスパーソンを対象に行った10万人規模のアンケート調査によると、働く上での最大の悩みは「職場の人間関係」だと判明しています。
また、アメリカの名門大学の研究によれば、企業の業績向上には良好な人間関係が不可欠であるという研究結果も出ています。しかし、現在の日本企業に目を向けると、リモートワークの普及や少子高齢化が進んでいます。
加えて、従業員の多世代化という課題や、近年ではM&Aの増加により、異なる企業文化を持つ企業が合併することも増えてきています。そのような諸要因から、日本企業がエンゲージメントを向上させ、離職率を下げる難易度が上がってきているのが現状です。
そこで注目されているのが、当社のシステムの社内コミュニティとしての利活用です。例えば、当社では日報や社内報が、活発なコミュニケーションの場となっています。この仕組みは、500人規模から1万人以上の大企業まで、幅広いニーズに対応可能です。
元々はクリエイター向けに開発しましたが、企業のコミュニケーションや人間関係の改善にも大きな効果があることが実証されています。会社の規模が大きくなるほど難しくなる「人と人が仲良くなる」ことへの課題に、当社のシステムが解決策を提供し、社内を活性化させます。
左:ある社員の実際の日報本文 右:日報への社員からの実際のコメント
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
一言で言うと「天命」です。
以前私は、ニュージーランドに移住する予定でした。何度も渡航していたのですが、ニュージーランド行きの飛行機に乗れないという事件があったのです。それが「日本に残れ」とのメッセージ、「日本を芸術文化大国にする」という天命だと感じたのです。自分の使命、生かされている理由を40歳をすぎてはじめて自覚しました。
私は30歳までアーティストとして活動していましたが、その道を諦め、2年ほどはフリーランスのデザイナーの活動だけをしていました。
その後、32歳のときにオシロの前の金融の会社を二人で創業しました。その会社は2024年にIPOするまで成長しました。フリーランスのデザイナー時代は、自分の作品が死後残らないことにジレンマを感じてました。自分の死後も残るサービスや会社を創立することで、彫刻や建築物のような永続的な価値を残せるのではと考えるようになりました。
その後、さまざまなサービスを立ち上げてきましたが、「日本を芸術文化大国にする」という天命を受け、自分がその役割を担うべきだと強く感じたのです。
日本では30歳を境に、表現活動を諦めるクリエイターが数多くいます。その理由は、表現活動では生活ができないからです。まずはこのボトルネックを解消したいと思いました。クリエイター活動を継続できれば、どこかで芽が出るかもしれません。たとえ大きく成功しなくても、たくさん続けている人がいれば、日本は芸術文化大国に近づくのではと考えました。
ビジネスの成功には社内のカルチャーが必須
仕事におけるこだわりを教えてください。
仕事のこだわりは主に2つあり、「美意識」と「クリエイティブ」です。
まず、美意識については、オフィスの環境を美しく整えることもそうですが、経営の方針まで、すべてに美意識を取り入れたいと考えています。その理由は、私たちの思考が言葉となり、その言葉が行動を生み、その行動がプロダクトや事業となり、最終的には私たちの人生そのものを形つくっていくからです。
もう一つは、クリエイティブへのこだわりです。単に私たちがクリエイティブな仕事をするよりも、クリエイティブな業界の方を応援したい想いが強いです。なぜなら、日本のこれからを考えたときに、クリエイティブな力こそが世界で発展していくカギになると考えているからです。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大の壁は、実は「社内コミュニケーションの欠如」だったんです。
創業当初、社内の喧嘩が絶えませんでした。意見がぶつかり合うことが多く、スムーズに仕事が進まない状態も多々ありました。その中で社員から「対話を大事にしたい」と提案がありました。それから7年ほど社員全員で対話を学び、実践してきました。今では非常に良いダイアローグカルチャーが形成されています。
そういったことから得た学びは、「ビジネスはビジネスモデルだけでは成し遂げられない」ということです。ビジネスとカルチャーが両輪で回ることで、事業を成し遂げられます。
現在では社内の人間関係はとても良好になっていますが、その秘訣は社員一人ひとりが持つ「A面:仕事の部分」と「B面:趣味の部分」を分けて捉えることです。当社の社員は、月曜から金曜までずっと一緒にいるのにもかかわらず、週末も一緒に遊びに出かけるほど仲が良い。それが仕事でのコミュニケーションを円滑にすることもあれば、全く関係のないB面の趣味で一緒にいることもあります。
仲良くなるには対話が必要不可欠です。相手を知らないと価値観も尊重できないので、対話する文化を築くために「DIALOGUE BASE(ダイアログベース)」(相手が話しやすい環境をつくりスムーズに議論を進める)といったコアバリューを掲げてます。業務時間内には社員同士が対話する時間を設けていますし、月曜の朝は雑談から始まります。雑談は朝だけではなく、日々オフライン・オンライン問わずいたるところで生まれています。
世界中のアーティストの生き方を変える
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
私自身はモチベーションをコントロールしている感覚が全くありません。「天命を授かった」といった強い使命感に突き動かされているからです。
私は、業界の重鎮や経験豊富なプロフェッショナルたちから、厳しい指摘や批判を受けることがよくあります。普通ならへこたれてしまうかもしれませんが、「天命」を授かったといった強い使命感により、どのような困難も乗り越えられる力を与えてくれています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
最大の目標は「アーティストが自分の作品を販売せずとも食べていける仕組みをつくること」です。この構想は長年温めてきた夢です。決して諦めることなく追求し続けています。
次に、今の事業を海外に広げていきたいです。日本のクリエイターやIPのファンは、日本よりも海外の方が大きな可能性があると思っています。日本の人口は1億2,000万人、世界中の人口は80億人もいます。
世界の人口の中に、日本びいきの人が8億人はいるでしょう。日本のアーティストやクリエイターを応援してくれる人が世界には何倍もいるわけですから、海外展開をしていきたいと考えています。
さらに「オシロ」の仕組みは、コミュニティツールとしても世界中どこを探しても類を見ないものだと自負しています。世界中のアーティストやクリエイティブ産業の人々が求めているものだと確信しています。だからこそ、将来は世界ランキングに入り、AppleやAdobeのような世界的なサービスと肩を並べたいです。
それに加え、今の事業を育て海外支社をつくりたいと考えています。例えばイタリアやスペイン、フランスといった芸術文化の先進国に支社をつくって、平日はオシロの仕事をし、週末はその国の文化芸術に触れる、3ヶ月ごとに国を移動しながら、仕事と文化体験を両立する生活を思い描いています。
ただ、まずは日本でしっかりと基盤を固めたいと考えています。日本のクリエイターとIP文化をもっと盛り上げたいです。海外進出の具体的な時期は数年後と考えていますが、それまでに日本の事業基盤を確実なものにしたいと考えています。
「いつか」は来ない。今すぐ行動を。
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業したい人はたくさんいます。「いつか起業しようと思ってる」「今はまだ…」といった声をよく聞きます。そのような人に私が伝えたいのは「今すぐ始めてください」ということです。
起業は、思い切ってやってみるだけです。今すぐ始められない理由があるなら、正直に言って、起業に向いていないかもしれません。私自身、起業したくてやっているわけではありませんが、だからこそ客観的に判断できるのです。本当にやりたいなら、思い切って飛び込んでみてください。
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
クリエイターに熱狂的なサポートができる人を求めています。何かを目指していたけれど諦めた経験がある人は、クリエイターの想いを深く理解できるため大歓迎です
また、当社では「振り返り文化」を重視しています。振り返る力は成長に直結するため、この能力の有無で成長率に大きな差が出ます。自己成長を意識し、振り返りを実践できる人材を求めています。また業務上、編集力も必要となるため、出版社での編集経験者も歓迎しています。
一見するとSaaS企業のように見えるかもしれませんが、当社の事業はクリエイティブな要素が強いのが特徴で、単なるSaaSではなく、クリエイティブSaaSと勝手にカテゴライズしています。そのため、クリエイティブな面で活躍できる人材を求めています。
▼採用情報の詳細はこちら
https://osiro.it/company/recruit
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:杉山 博一氏
1973年生まれ。元アーティスト&デザイナー、2006年日本初の金融サービスを共同起業(2024年IPO)。2014年シェアリングエコノミープラットフォームサービス「I HAV.」をリリース、外資系IT企業日本法人代表を経て、2015年アーティスト支援のためのオウンドプラットフォームシステムを着想し開発、同年12月β版リリース。
企業情報
法人名 |
オシロ株式会社 |
HP |
|
設立 |
2017年1月23日 |
事業内容 |
オウンドプラットフォーム 「OSIRO」の開発 「OSIRO」を利用したサイトの企画、制作、運用、管理 |
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