EXest株式会社 代表取締役 中林 幸宏

地方のガイドと旅前・旅中外国人旅行者をマッチングする「WOW U」や、地方の生産者を期間限定のオーナーになって応援できる「Pcket Owners」など、5つのプラットフォームを運営する「EXest株式会社」。人と人との出会いを繋ぎ、需要と供給をマッチングさせることで人生のプラスαになる体験を提供しています。

代表取締役を務める中林 幸宏氏は、大学卒業後にテレビ局に務めた経歴があり、EXest株式会社は2社目の起業。2023年7月に一度お話を伺っており、今回はこの一年の進歩状況や成功体験、これからの展望について詳しくお聞きしました。

 

インバウンドと地方再生の架け橋となるプラットフォームへ

現在力を入れている事業をお聞かせください

弊社では、訪日観光客とプロフェッショナルガイドのマッチングプラットフォーム「WOW U」や、日本各地の生産物の特定期間だけ権利上のオーナーになれる「Pcket Owners」など5つのサービスを展開しています。そのなかでもPcket Ownersの成長が著しく、利用されるお客様が非常に増えています。

 

またPcket Ownersだけでなく、WOW Uもインバウンド向けに海外のお客様へしっかり届けていきたいと考えております。実際、コロナ渦が明けたうえ円安も大きく進み、海外からの観光客が増加したことでWOW Uの需要も拡大してきている実感があります。

 

弊社はもちろん、日本の産業や観光業界全体が盛り上がっている雰囲気がありますし、私たちが連携しているガイド団体も手ごたえを感じているようです。労働集約的にガイドたちをマッチングしていたのを、私たちのサービスを使ってデジタル化していこうという動きもあります。特に、九州通訳・翻訳者・ガイド協会とはプラットフォームの開発から携わっていただき、プロのガイドである全国通訳案内士が使いやすいサービスを構築しています。

 

この一年でのビジョンや目標に対しての進捗をお伺いできますか?

スタートアップ時に設定した目標よりも、成果が上振れしていると感じています。以前はどちらかというとCtoCを中心に行っていましたが、今はBtoBなど新しい仕掛けが作られており、いい流れが来ているのではないかと思います。

 

起業当初よりインバウンドと地方創生の組み合わせを目標にしておりましたが、そこはぶれていません。様々な状況下の中、特に現在は日本全国各地の自治体様とやりとりをさせていただいております。そのなかでもガイドの育成や活用がキーワードになっており、育成については、弊社とは別の協会と連携し、活用の部分を弊社のプラットフォームに依頼する自治体様が増えています。

 

ガイドの個性を売りにしたツアーで他社と一線を画す

一年前から現在までの期間で感じた困難を教えてください。

2011年から急成長してきたインバウンド観光産業が、コロナにより一度止まってしまいました。そもそも、急拡大してきた市場のため、ブレーキをうまく踏むことができず、色々な意味で崩壊してしまったと言えるかもしれません。そんな状況ののち、再び市場が急激に広がってきています。弊社でも人員も減ってしまっているので、人員をどう増やしていくのかを悩んでいます。急に復活させることは厳しいので、非常に人手不足を感じています。

 

その人手不足の中に観光客が押し寄せてしまっているため、需要に対し供給がしっかり追いついていない、バランスを取れていないのが現在の課題です。

 

起業からこれまで最も成功した体験を教えてください

WOW Uで訪日外国人とマッチングさせる対象を、アクティビティではなくガイドに設定したことです。

 

基本的に弊社の競合他社は、アクティビティ付きガイドツアーを売っています。魅力的なアクティビティを会社が用意して、それを案内できるガイドを教育する。ある意味、ガイドの個性を無くして、そのアクティビティの研修を受ければ、誰でも80点以上のクオリティを担保するのが一般的で、これをガイド育成と呼んでいることが多いかと思います。

 

一方私たちは、ガイドの個性を主体として販売しています。「このガイドとならこんな体験ができる」を紹介し、ガイドと観光客をカスタムするため、ガイドの魅力が生きたツアーになります。

 

例えば、シイタケ農家さんを訪問して自分で原木からシイタケを取り、バーベキューをして味わう。従来のツアーとは違うやり方ですが、そのガイドにしかできないような出会いや経験があることから、満足度が高いと好意的な声が多いです。

 

コロナ渦で、多く競合他社が廃業したり買収されたりするなかで弊社が生き残れたのは、自分たちのビジョンを見失わず、目指す世界を常に意識しながら、人と人の繋がりを大切にしているからだと思います。

 

スケーラビリティが低いなら視点を変えて再度リリースする

企業内の文化や働き方に関する新たな取組みはあるのでしょうか?

これもコロナが関係しているのですが、外出や人との交流を制限されて鬱屈とした学生たちが、人間関係を求めている雰囲気があります。

 

弊社にもインターン生が20人程度いますが、地方大学の方が多く、大学生活がコロナで授業がオンラインだったり、入学したけれどほとんどサークル活動などを楽しめなかったりした学生たちが、インターンを通じて全国の学生同士で繋がっていた感じでした。

 

弊社は地域に密着したサービスをメインにしているので、地方に在住する学生がチームを組んで新たな取り組みをいろいろ仕掛けてくれています。

 

この一年で成長した点がありましたらお聞かせください 

観光業や農業などさまざまな事業に関わるなかで、同じ志を持つ団体に出会えたことが成長につながっています。

 

志があってもノンプロフィットで、「金銭面で支援して欲しい」という団体も多いのが現状です。しかし、私たちは、自分たちで自立して知恵やお金を出しながら挑戦を続けている団体に出会えたので、現在はその方々とアメリカ向けのイベントを準備している最中です。

 

このほかにも、インバウンドが復活した影響で海外の学生との交流も増え、サンフランシスコにある大学と連携するなど事業規模が拡大しています。海外の学生との交流は日本国内の学生にとっていい刺激にもなり、インターンを希望する学生も増えるので、いい循環が作れていると感じています。

 

今後挑戦していきたいことはあるのでしょうか?

Pcket Ownersに関してはこの3年間の実績を振り返って反省点などを生かし、作り直したシステムを先日リリースしたばかりです。

 

やはり「推し農家」を作るのは、なかなか難しいのが現状です。たとえば他サイトなら3,000円で購入できるサツマイモ3kgが、Pcket Ownersでは1万5,000円することがあります。

 

というのも、農家さんと農業体験ができたり、直接コミュニケーションが取れたりするなど付加価値がつくためです。もちろんそれだけの価値はあるのですが、ただサツマイモが欲しいだけの場合は当然安い方にいってしまいます。

 

これらを通して、私たちがやろうとしている事業は特定の客層には刺さるけれど、スケーラビリティが高くないと気づき、視点を変えようと思いました。農家さんは職人であってコミュニケーションの達人ではないことから、そこで金銭が発生するのは難しいことに気が付きました。現在は、まず農家さん自慢の農作物に起点を置くことを意識しています。

 

今現在、我々が注目しているのが、「少量多品種農家」です。少量多品種農家さんは、年間を通じてさまざまな品種を少しずつ栽培して出荷しています。

 

その農家さんと会員契約することで毎月農家さんが発信するオリジナル情報が届き、野菜を購入したり会員だけが参加できる体験イベントに参加できたりします。

 

イメージ、COSTCOやゴルフの会員権でしょうか。今は約20の農家さん、漁師さんにお声がけし、その農家さんの野菜や取れたものをどこよりも安く、新鮮に、そのストーリーや背景とともにお届けするサービスに進化しようとしています。

 

限定500名で無料で募集したいと思っておりますので、ぜひご興味ある方は私までご連絡ください。

 

最初は「この農作物が欲しいから」というものが入会する理由だとしても、交流を深めていくことで「この農家さんが好きだから応援しよう」の流れをPcket Ownersで作っていきたいと考えています。

 

 起業をしなければ成し遂げられない目標があるのが第一条件

他の起業家へメッセージをお願いします

起業をするなら、本当にやりたいことがあり、それが大手や中小企業ではできないなどの理由があるのが一義的だと思います。

 

弊社でも「起業をしたい」と話すインターン生はいますが、「なぜ起業がしたいのか」と質問しても明確な答えが返ってこないケースが少なくありません。起業のために安定した仕事をを放り出し、資金調達をするために多額の借金を背負うことがかっこいいと思うなら、やめた方が無難です。

 

起業すること自体は自己成長につながりますし、よい挑戦になるかもしれません。しかし、辛いことも多いので、それでも本当に起業したいと思える理由があれば挑戦するのも有りだと思います。起業をすると、投資家から「御社のソリューションによって解決される課題は何ですか」などのネガティブな質問をされることがあります。

 

しかし私はマイナスがゼロになるサービスだけでなく、ゼロがプラスになるサービスを作ることも大切だと考えています。起業する際もマイナスをゼロにするより、ゼロをプラスにするサービスの方が圧倒的に成功率が高いでしょう。

 

正直、弊社のPcket Ownersも世の中になくても困らないサービスです。それでも私は、「それがあったらハッピーになれる」そんなサービスを作れたら面白いと思いながら事業を展開しています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:​​中林幸宏 氏

早稲田大学を卒業後、広島テレビに入局。スポーツディレクターを経て、大阪支社、東京支社で外勤営業。大手クライアントの広島における広告宣伝に携わる。2013年、早稲田大学ビジネススクールに入学し、2015年MBAを取得。2016年12月に二社目となるEXest株式会社を設立。

 

企業情報

法人名

EXest株式会社

HP

https://www.exest.jp/

設立

2016年2月

事業内容

  • 訪日観光客とプロフェッショナルガイドとのマッチングプラットフォーム運営
  • 地元密着型メディア運営
  • 地元ガイドの教育活動
  • 地方創生事業
  • 広告代理事業
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