株式会社不動産総合研究所 代表取締役 永見 日菜子
不動産業界に特化した人材サービスを展開する株式会社不動産総合研究所。代表取締役の永見日菜子氏は2024年の大学在学中に同社を立ち上げ、人材不足やミスマッチなどの業界全体の課題解決に乗り出しました。今回は永見氏に学生起業家として、さらに女性経営者としての目線で、起業を志す人へのアドバイスや今後の展望などをお聞きしました。
強みになるのは、不動産に特化した専門性の高さ
事業の内容をお聞かせください
当社は不動産業界に特化した求人・転職サイトを運営し、不動産業界の企業様と求職者の方のマッチングサービスを提供しています。現在は営業職のキャリア人材が中心ですが、事務職の方や新卒の方のマッチングも可能です。
大手から中小規模まで、数え切れないほどの人材サービスがありますが、不動産の業界に特化したもので大きなユーザーを抱えるサービスは多くありません。さらに不動産専門の人材事業だけにこれほど注力している企業は、少ないのではないかと考えています。
不動産デベロッパーから地場の不動産仲介業まで、求職者の方には幅広い業種をご紹介できますし、今後もあらゆる不動産業界の企業様とお取引させていただきたいと思っています。
求職者側の登録者数を増やす取り組みとして、私が業界の各種イベントに参加して名刺交換をしたり、未だ構想中ではありますが、セミナーを開いたり、YoutubeやSNSの発信も検討中です。
当社の事業はまだ立ち上げて間もない段階ですが、専門性の高さを強みとして、不動産業界の企業の方々、そしてこの業界で活躍したいと考えている求職者の方々の役に立ちたいと考えています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
実は学生時代には医者を志していて、自分が経営者になるとは考えていませんでした。
最初に起業を意識したのは、高校のときに先生から「お前は組織に属するのは向いていないから、起業したほうがいい」と言われたのがきっかけです。そのときは半信半疑で、大学に入ってからも一般企業への就職などを考えていましたが、大学でアルバイトやインターンシップを経験するうちに、確かに組織の中には自分のポジションが見出せないと感じることが増えました。
元々実家が不動産会社を経営していたこともあり、経営者として自由に働く父の姿にずっと憧れはありました。そうしたことを色々考慮した末に、まだ学生でしたが思い切って起業の道を選ぶことにしたのです。
実は会社を立ち上げた時点では未だ事業内容は定まっていなかったのですが、実家と同じ不動産の領域で起業することだけは決めていました。そこでまずは不動産業界の様々な方とお会いして課題をヒアリングしてみたのですが、その中で業界全体の人手不足の問題を知り、さらに不動産の事業に精通した人材サービスが少ないことで不便を感じている企業様が多いことにも気づきました。
業界が抱えるこれらの課題を解決するために立ち上げたのが、現在の不動産特化型の人材サービスです。
ベンチャーならではのフットワークの軽さ
仕事におけるこだわりを教えてください。
当社は不動産業界に特化したサービスですから、マッチング精度の高さにはこだわりがあります。
例えば、総合型の人材会社の場合、不動産業界に関する知識が十分ではない担当者が対応することもあります。このような場合、クライアント企業が本当に求めている人材、その企業で長く活躍できる人物像を理解することは難しいケースも考えられます。
当社ではクライアント企業が求める人材についてヒアリングし、私自身が業者会などに足を運んで、該当する人材に直に声をかけることも可能です。こうした地上戦を得意とするのは、フットワークの軽いスタートアップならではの強みかもしれません。
また求職者の方に対しても、ヒアリングを丁寧にしながら、本当にその方にマッチした職場を紹介することを徹底しています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最も悩んだポイントは、先輩経営者や株主などの外部の方々の意見と自分の意見とのバランスを取ることでした。
事業を進める中で、多様な経験や知識を持つ外部の方々からのご意見をいただくのは非常に貴重な機会でした。一方で、自分自身が考えた仮説や方向性が外部の意見と異なる場合、それらをどのように調整し、意思決定を行うべきか悩むことがありました。
学生で起業したため、知識や経験が不足していたこともあり、どの意見を優先するべきかを判断するのが難しく、結果として意思決定が遅れることもありました。このような状況が続く中で、自分の考えを明確に持ちつつ、外部の意見をどのように取り入れるかが大きな課題でした。
この状況を打開すべく、経営者として必要な知識の習得に取り組んでおり、相談する際には事柄に合わせて適切な相談先を選ぶよう心掛けています。
まだ課題はありますが、外部の方々の貴重な意見を尊重しながらも、自分自身の意見や仮説を基に冷静な判断を下せるようになってきたと感じています。
「自分にはこの道しかない」という覚悟がモチベーションを生む
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
在学中に起業をした頃は、正直なところ承認欲求だけがモチベーションでした。最初は「起業家として成功したい」という願望だけに突き動かされていました。それが起業して何か月か経ち、今では周囲の人達からの応援がモチベーションになっています。
特に株主の方々は、学生起業で経験値の少ない私を支えてくださる大切な存在です。業務の面でも精神的な面でもサポートしていただいています。そういった支援してくださる方々に喜んでもらいたい、ご期待に応えたい、その一心で事業に邁進しています。
また、組織に属するのは向いていないと言われてしまったことも、ある意味で起業家としてのモチベーションになっています。色々な経験をする中で、自分自身も「私は組織の中にはポジションを見いだせない。自分で事業をやるしかない」と感じたために、ここで頑張らないと後がないと思うようにしています。この道しかないという覚悟も、私の原動力の1つです。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
不動産専門の人材サービス事業でナンバーワンを取ることが、当社の最終的な目標です。そのうえで直近の目標としては、2026年までに月に50人以上のマッチング成立を目指しています。
それと同時に、私個人としては不動産業界での女性達の活躍も支援していきたいです。女性支援は、女性経営者の私だからこそやる意義がある仕事だと思っています。
不動産の人材業界では意外にも女性のニーズは多く、アパレルやCAなど接客の仕事を経験してきた女性達には十分活躍のチャンスがあります。当社のサービスを使っていただければ、きっとご希望に沿った転職先を見つけることができると思っていますので、未経験の方もぜひ登録していただきたいです。
さらにもう一つ、当社が力を入れたいと考えているのはDX化です。
業界の最大手企業などではマッチングにAIを導入している事例も見られますが、ほとんどの企業ではDX化が遅れている印象を受けます。労働集約型のビジネスモデルであれば、デジタル技術導入による効率化が事業の成否を分けます。当社は5年を目途にDX化を進め、不動産業界の中で革新的なソリューションを提供できる企業を目指します。
学生起業だからこそ、失うものは何もない
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
学生起業はハードルが高いと感じられるかもしれませんが、一歩踏み出せば、多くの人達からの支援が得られます。学生だからこそ失うものは何もないと言えますし、挑戦したいのなら挑戦しない理由はないと思います。
そのうえで、私と同じ不動産関連の事業を立ち上げたいと考える人には、ビジネスマナーをしっかりと身に付けることをお勧めします。不動産業界は一般的なベンチャーやスタートアップ企業に比べると、かなり厳格な社風です。学生のままの気構えで臨むとお叱りを受けることもあるでしょう。実際に私自身が何度かそういう経験をしました。
その一方で、不動産業界にはDX化において遅れをとっているという側面もあります。この10年の業界の動きを振り返っても、革新的な技術の導入事例はほとんどありませんでした。
さらに、不動産業界は後継者不足の問題も抱えています。経営者の高齢化が進んでおり、場合によっては新しいサービスの受け入れが難しいケースがあります。不動産業界の現場は、他業界に比べてアナログなオペレーションが行われていると言われることもあります。
私たち若手の起業家にとって、事業のチャンスがある業界だと思っています。また、もしもやりたいことがあるのなら、始めるのは早いほうがいいと思っています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:永見日菜子氏
九州大学在学中に不動産総合研究所を設立
企業情報
法人名 |
株式会社不動産総合研究所 |
HP |
|
設立 |
2024年6月25日 |
事業内容 |
不動産業界特化型求人サイト「宅建WORKS」 |
関連記事