HIPSTER株式会社 代表 保倉 光貴
HIPSTER株式会社は、洗濯代行サービス「オーサムウォッシュ」を提供する企業です。特徴は、Web完結型の予約システムと、独自の配送ネットワークを活かした高い利便性です。東京23区では最短90分での緊急集荷にも対応し「すぐに集荷してほしい」といったニーズに応えています。「社会の不便を減らしていきたい」と語る同社の代表、保倉 光貴氏に事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
徹底的に「便利」を追求。Web完結の洗濯代行サービス
事業の内容をお聞かせください
個人と法人向けの洗濯代行サービスを展開しています。すべてWebで完結する予約システムを使い、洗濯物の集荷から配達までをワンストップで提供しています。
法人のお客様は、エステサロンやマッサージ店、美容クリニック、パーソナルジムなど、駅近のテナントに入っている店舗が中心です。最近では民泊施設からの依頼も増えています。
個人のお客様は都内23区在住で、特に単身世帯からの需要が多いです。「忙しい」「洗濯が面倒くさい」との理由で定期的にご利用いただいています。
また、ホテルやサービスアパートメントに一時的に滞在されている方からもご利用いただいています。現在は個人と法人の比率がちょうど半々くらいです。
取り扱い品目は、洗濯機・乾燥機で洗える物全般です。ダウンジャケットやドレスなどを主に扱う一般的なクリーニング店とは異なり、日常的な洗濯物を対象としています。また、街のクリーニング店のような取次店舗は持たず、工場から直接集配する形式を取っています。
当社のサービス面での特徴は、柔軟な対応力です。月額プランは35リットルの専用バッグ1個から受け付けており、単発プランは一般的なゴミ袋(45リットル)に入れるだけでOKで、専用バッグは不要ですぐに使えます。
定期的な利用から洗濯機故障時の一時利用までさまざまなニーズに対応できる柔軟性を重視しています。店舗では、従業員の欠勤で業務が回らない時の一時的な依頼から、そのまま定期利用に移行されるケースも多いです。
提供エリアは、東京23区を中心に、神奈川(川崎・横浜)、埼玉(大宮)、千葉(千葉市)の主要都市部をカバーしています。特に23区では、90分以内の緊急集荷サービスも提供していて、とても好評です。料金は通常の倍程度になりますが、多くのお客様にご利用いただいています。
実は、早く仕上がることよりも「早く集荷してほしい」といったニーズの方が高いです。例えば、夕方に洗濯物を出したいと思ったときに、翌朝まで待つよりもすぐに集荷してもらえる方が便利と感じる方が多いのです。
フードデリバリーのように「追加料金を払ってでも早く来てほしい」といったニーズが確実にあります。
競合他社との差別化について教えてください。
一つは「徹底的な利便性の追求」です。
コインランドリーを運営している会社の中にも、洗濯代行サービスを提供しているところがありますが、基本的にお客様がその場所まで足を運ぶ必要があります。私たちは「その面倒すらもを省きたい」という考えで、完全な宅配型のサービスを提供しています。そのため、お客様の層も自ずと異なってきます。
もう一つは「Web完結型の予約システム」です。
店舗に行って手続きをしたり予約をしたりする必要がなく、すべてスマートフォンで完結します。また、料金面でも他社より1〜2割ほど安く設定することで、より多くの方にご利用いただけるようにしています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私が洗濯代行サービスに着目したきっかけは、24歳のときのシンガポールとフィリピンでの経験です。シンガポールでは家事代行が一般的で、メイドさんが常駐するスタイルが多いです。「家事は自分ではしない」といった価値観が浸透していました。
また、フィリピンでは、マンションの1階に小規模な洗濯代行サービスがあり、朝に預けて夕方には仕上がる便利なシステムがあったのです。実際に私自身も洗濯機を買わずにこのサービスを利用していて、便利さを実感していました。
日本で洗濯代行サービスを始めようと思ったときには、「誰が使うんですか?」といった反応がほとんどでした。当時は洗濯代行自体の認知度も低く、サービスの価値を理解してもらうことも、資金調達も難しい状況でした。そこで、まずは説明よりも実践だと考え、できる範囲での小規模なスタートを切ることにしたのです。
最初の工場は、洗濯機3台と乾燥機1台、作業テーブル1台がギリギリ置ける程度の小さなスペースでした。趣味のような感覚で始めたこのサービスは、当時私は会社員をしながら並行してスタートしました。
Web内ですべてが完結する「利便性」に特化
仕事におけるこだわりを教えてください。
よく「洗濯へのこだわり」について質問されるのですが、実は私たちの強みはそこにはありません。同じ洗濯機と同じ洗剤を使えば、洗濯の品質自体はどこでもほぼ同じだと考えています。
私たちがこだわっているのは、「使い勝手」や「利便性」です。具体的には、Webのアプリケーションを通じたサービス体験の向上です。
フードデリバリーやタクシー配車のように、スマホで数回タップするだけで簡単に注文でき、進捗が分かり、決済まで完結する。そのような体験が、これからは多くのサービスでも求められるでしょう。
例えば、私たちのサービスでは、マイページから曜日固定の集荷予約を設定できたり、集荷プランの変更もすべてWeb上で完結できたりします。このような細かな機能の一つひとつが、お客様の利便性を高めていると自負しています。
サービスの仕様は私自身で考え、実装はエンジニアに任せる形で、常により使いやすいシステムを目指しています。
また、このような管理システムの構築は、前職のグリー株式会社での経験が大きく活きています。表側のお客様向け機能は誰もが重視しますが、社内の業務効率を支える仕組みは後回しにされ、従業員の負担増で乗り切ろうとされがちです。
しかし、事業が100件から1,000件へとスケールした際に、効率的に対応できるかどうかは、まさにこの仕組み次第なのです。従業員の負担を減らしミスを防ぎ、スケールに対応できる体制を整えることの重要性は、大手ITの事業会社で働かなければ得られない貴重な経験だったと感じています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
事業の初期段階で最も苦労したのは、小規模運営ならではの人材マネジメントでした。資金面については、フリーランスの収入や貯金をすべて投資する形で自己資金でスタートしたため、融資などの壁は感じませんでした。
しかし、小さな工場で始めた当初は、人員にまったく余裕がない状態でした。学生アルバイトの集配ドライバーを3人ほど雇用していましたが、突然の欠勤や雨天時の対応など、予期せぬ事態が度々発生しました。
予備の人員を確保していても、その人員までもが休んでしまうこともあり、その度に私自身が本業の仕事を早めに切り上げて現場に駆けつける必要がありました。そのような状況では当然、お客様への配送が大幅に遅れ、当たり前ですが厳しく怒られることもありました。
社会がより便利になる仕組みをつくる
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
世の中の「不便」を「便利」に変えていくことです。
一言でいえば、「人々の生活をより便利にしたい」という思いです。そしてその根底には、その「便利」を実現する仕組みづくりそのものへの純粋な楽しさがあります。
現在、私たちはBtoCのサービスを展開していますが、次のステップとしてBtoBtoCモデルに大きな可能性を感じています。具体的には、ホテルやサービスアパートメントとの連携です。
この構想の背景には、実際の市場ニーズがあります。特に都心部では、ホテルやサービスアパートメントの洗濯設備にはさまざまな課題があります。
限られた台数の洗濯機に順番待ちが発生するなど、旅行者やビジネス客も貴重な時間を洗濯に費やしたくないはずです。また、都内では水回りの設備投資にも大きなコストがかかるため、施設側も課題を抱えています。
このような状況を踏まえると、洗濯代行サービスの新しい展開に大きな可能性を感じています。人々の「不便」を解消し、より快適な生活をサポートできる仕組みをつくっていきたいと考えています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
洗濯代行を利用することが当たり前の社会をつくりたいと考えています。
現在、フードデリバリーの分野では、スマホのアプリを通じて簡単に出前を注文できるサービスが、人々の生活様式や価値観を大きく変えました。
以前から「出前」というサービスは存在していましたが、テクノロジーを活用して利便性を向上させることで、大きなインパクトを生み出すことができたのです。
洗濯代行の分野でも「洗濯は自分でするもの」という固定観念から、「面倒だから外注しよう」という新しい価値観に変わり、フードデリバリーを気軽に注文するような感覚で、洗濯代行サービスを利用することが当たり前になる、そのような認識に変えていきたいと思っています。
低コスト・スモールスタートから始める
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
「小さく始める」ことをおすすめします。
起業に際し、前職のグリー株式会社の成功事例を参考にしました。社長の田中さんは楽天時代に、趣味として一人でモバイルSNSを開発しました。
そのプラットフォームでユーザーベースが着実に成長し、その後ゲームを展開したことで大きな成功を収めることができたのです。当時の幹部の方が「田中さんが作ったSNSの基盤があったからこそ、仲間が集まったし、急成長できた」と振り返っていたことを覚えています。
また、いきなり大規模にビジネスを展開しても、自分たちの思いをユーザーに十分に伝えることは難しく、期待通りの反響を得られないことがほとんどです。そのため、小さく始めて着実に成長させていくアプローチが、事業の成功に繋がると考えています。
採用を強化されているそうですね。募集内容について教えてください。
事業拡大に伴い、主婦の方の採用を積極的に進めています。普段の洗濯物を扱っている経験を活かせるため、自然に業務に馴染んでいただいています。
当社では業務をできるだけシンプルにしていて、スマホで操作しながら進められる仕組みを整えています。また、接客業務もないので、落ち着いて作業に集中できます。
1日4-5時間の勤務で、家事や育児と両立しやすい環境を整えていますので、これからも主婦の方々に活躍していただきたいと考えています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:保倉 光貴氏
大学卒業後、(株)ドリコムマーケティング入社(携帯の法人営業と web マーケティングに従事。 その後、2010年よりシンガポール、フィリピンにてオンラインペイメントサービスのCS部門を担当。2013年に帰国後、グリー株式会社にてCS部門や新規事業の立ち上げに従事。在籍中に趣味でオーサムウォッシュを立ち上げ、2024年7月より代表に就任。
企業情報
法人名 |
HIPSTER株式会社 |
HP |
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設立 |
2016年10月3日 |
事業内容 |
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