株式会社メンタルヘルステクノロジーズ 代表取締役社長 刀禰 真之介

株式会社メンタルヘルステクノロジーズは、企業のメンタルヘルスケアを総合的にサポートする企業です。企業における「保健室」のような存在として、予防から社会復帰までをワンストップでサポートし、大手企業や自治体・官公庁でも高い評価を獲得しています。さらに今年から医療現場の働き方改革を推進する看護補助スタッフ派遣事業も展開し、新たな価値創造に挑戦しています。日本経済への危機感から東南アジアでの市場開拓も視野に入れ進み続ける、代表取締役社長の刀禰 真之介氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

 

医療機関では難しいメンタル疾患の予防と社会復帰をサポート

事業の内容をお聞かせください

当社の事業は大きく2つあります。メインとなるメンタルヘルスソリューション事業と、今年からスタートしたメディカルワークシフト事業です。

 

メンタルヘルスソリューション事業では、企業に「保健室」のような機能を提供しています。学校の保健室のように、体調を崩した時の駆け込み寺として機能させることはもちろん、セーフティーネットとしての役割も担っています。

 

従来の産業医や産業保健師の業務受託だけでなく、企業それぞれの課題に応じたクラウド型メンタルヘルスケアサービスを提供しています。また、東京や名古屋など複数のメンタルクリニックの運営支援も行っています。

 

厚生労働省のデータによると、仕事における三大ストレス要因は「仕事量」「仕事の質」「職場の人間関係」です。働き方改革で長時間労働は是正傾向にありますが、仕事の質自体は年々高度化しています。

 

例えば、20年前は企業情報の収集に1〜2時間かかっていた作業が、今では一瞬でできるようになり、情報処理のスピードと量は格段に増えています。こうした環境の変化に合わせて、適切な休息も必要になってきているのです。

 

また、メンタルヘルスケアには大きく3つの領域があり、精神科病院、メンタルクリニック、企業のメンタルヘルス対策に分かれます。精神科病院は、主に統合失調症など重度の症状の方の治療が中心対象です。町のメンタルクリニックでは、不眠症や軽度の鬱、適応障害などの治療を主に行います。そして企業のメンタルヘルス対策は予防と職場へ復帰が中心です。当社では特に、医療機関では対応が困難な予防と職場への復帰を、シームレスにサポートしています。

 

もう一つのメディカルワークシフト事業は、今年2月に株式会社タスクフォースを約20億円で買収し新たな事業セグメントと位置づけました。事業内容は、主に大規模急性期病院向けに看護補助者を派遣することで、医療分野における働き方改革の推進を支援しています。医師は医師にしかできない仕事に、看護師は看護師にしかできない仕事に集中できるよう、入院患者さんの配膳・配茶、ベッドメイクなどを看護師に変わって補助しています。

 

中京地区を中心に大学病院など多くの医療機関と取引があり、将来的にはこれらの接点を活かした新たな事業展開も視野に入れています。本事業も、適切な業務分担による働き方の改善という点で、職場におけるメンタルヘルスケアの一環だと考えています。

 

導入企業が2,000社を超える「産業医クラウド」の詳細を教えてください

当社の主力サービス「産業医クラウド」は、企業が抱えるメンタルヘルス課題の解決を目指す総合的なプラットフォームです。現在2,000社以上にご利用いただいており、北海道から沖縄まで全国でサービスを展開しています。また質の高い産業保健サービスの提供にこだわっており、弊社グループで産業医業務を担当して頂く医師の採用通過率は約20%です。

 

このサービスの特徴は、産業医による役務提供だけでなく、複数のクラウド型メンタルケアサービスが契約に含まれており、安価で利用できる点です。例えば、専門医・産業医によるオンラインカウンセリング、医師への健康相談、社労士へのハラスメント相談などのメンタルヘルスケアをクラウド型サービスで提供しています。

 

それに加え、予防的な取り組みとして、オンラインでのヘルスマネジメントセミナーやメンタルヘルスに特化したeラーニングなども提供しています。さらに、AIを活用したリスク管理システムとして、ストレスチェックやメンタルヘルスのリスクが高い従業員を早期に発見できるAI診断システム「メンタルアラート」なども備えており、予防的なアプローチを重視しています。

 

こうした総合的なサービス展開により、大手企業の案件でも高い評価をいただいており、自治体・官公庁などでも採用されています。メンタルヘルス対策において、このような包括的なサービスを提供できる企業は他にはないと自認しています。ただし、お客様の要求水準は四半期ごとに高まっており、品質管理は常に重要なテーマとして取り組んでいます。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

きっかけは二つありました。一つは社員の健康管理に関する出来事です。

 

メンタルヘルスの問題を抱えた社員が、新しい薬への変更をきっかけに体調を大きく崩し、最終的に退職することになりました。この出来事から、精神科医である義理の妹と話す機会が増え、医師と一般の私たちでは医療の捉え方に大きく違いがあること、そしてその違いを理解し橋渡しすることの大切さに気づきました。

 

もう一つは、私自身の経験です。以前、金融業界で働いていた時に体を壊してしまい、危うくICUに入るところでした。幸い、医師である弟の適切な助言のおかげで後遺症もなく仕事に復帰できました。この経験を通じて、20年前に弟と「将来、医療とビジネスで何か一緒にできたらいいね」と話をしていたのを思い出し、ヘルスケア分野で起業しました。

 

「失敗したら金融業界に戻ればいい」という軽い気持ちで始めましたが、メンタルヘルスの予防や社会復帰支援という社会課題に気づき、この10年間で増加するメンタル疾患の現状を目の当たりにし、本格的に取り組むことを決意しました。

 

社員の失敗は経営者の責任である

仕事におけるこだわりを教えてください。

私の仕事へのこだわりは「期待値を超えること」と「人のせいにしないこと」の2つに集約されます。

 

「期待値を超えること」へのこだわりは、会社を始めてから気づきました。私は明治大学出身の叩き上げで、以前は海外の名門大学出身の方々とも一緒に働いていました。親戚には高学歴の親戚も多く、自分のことを「一般的な人間」だと思っていました。だからこそ「普通の私にできることは、誰にでもできるはず」と考えていました。

 

しかし、会社を始めて数年たってから、その考えが必ずしも正しくないことに気がつきました。この経験から、期待値を超えることの重要性を強く意識するようになったのです。

 

もう一つの「人のせいにしない」というこだわりは、ある転機から生まれました。以前は「なぜできないのか」と他者を責めてしまう時期もありましたが、ある先輩経営者から徹底的に自分の考え方の誤りを指摘されたことで、180度考え方が変わりました。

 

現在では、アルバイトや派遣スタッフを含む全てのメンバーのミスも、経営者である自分の責任だと考えています。むしろ「ミスが起こる仕組みを教えてくれてありがとう」といった気持ちで受け止め、次はどうすればミスが防げるかを考えるようにしています。

 

これら2つのこだわりは、組織の成長と健全性を支える重要な価値観として、日々の経営の中で大切にしています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

起業してから最も大きな壁となったのは、2015年頃の組織改革です。当時、社員が10人弱まで減少してしまい、組織をどのように再構築していくべきか、1年以上かけて真剣に考え直さなければならない時期がありました。

 

この転換期を乗り越えられたのは、人のせいにしていた自分の過ちを心の底から認識できたからです。そこから組織づくりを一から見直し、現在では組織評価を約8つの次元で立体的に行っています。実は、当社が提供している企業向けメンタルヘルス対策サービスは、この組織の課題に真摯に向き合った経験がきっかけになり生まれたものです。

 

現在、私たちのサービスは従来型の一般的な産業医マッチングとは一線を画しています。特に大手企業からは、現場で実務を担う40代の人事担当者やマネージャーの方々から企業と共に伴走する当社のサービスに対して高い評価をいただいています。一方で、変革を望まない保守的な経営者や管理職がいらっしゃるのもまた事実です。

 

また、企業規模が100人を超えると自然とメンタルヘルスの課題が見えてきます。この状況を理解し、積極的に取り組む経営者がいる一方で、まだ実感が薄い経営者もいらっしゃいます。

 

まだまだ乗り越えるべき課題はありますが、自社の組織改革を経験したことで、組織の健全性とメンタルヘルスの重要性を深く理解することができ、現在の事業の強みになっていると考えています。

 

メンタルヘルス業界の第一想起を獲得する

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

今のモチベーションについて率直にお話しすると、2015年以降、大きな壁に直面していない点です。日々の小さな課題は当然ありますが、むしろ今は壁を求めている状態かもしれません。

 

その上で私の原動力となっているのは、2030年以降の日本経済に対する危機感です。この時期以降、日本の経済成長は相当厳しくなると考えています。だからこそ、2040年頃の若い世代が「ここなら希望が持てる」と思えるような会社を作りたいと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

具体的な展望として、2つの目標があります

 

まず1つ目は、2030年までにメンタルヘルス分野における確固たるポジションを確立することです。現在でも認知度が高まってきていますが、まだ弊社をご存じない方が多くいます。「メンタルヘルス対策と言えば私たちの会社」と、ほとんどの企業に認知してもらえるようになることを目指しています。

 

2つ目は、東南アジアへの展開です。東南アジアは経済人口が増加傾向にあり、大きな可能性があります。人口減少が進む日本では経済成長に限界がありますから、東南アジアを含めた成長戦略にフォーカスしていく予定です。

ビジネスで最大のタブーは「不義理」をすること

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

不義理をしないことです。

 

資金繰りに困って逃げ出してしまうケースを数多く見てきました。数百万円程度の借金であれば、正直なところ「その方が生きてさえくれればいいか」と最近では割り切るようになりました。しかし、そういった方と一緒に仕事をしたいとは決して思えません。一度信頼を失うと、その関係を取り戻すことは極めて難しくなります。

 

不義理さえしなければ、失敗はたくさんしてもいいのです。失敗は次のキャリアの糧となりますから、恐れる必要はありません。むしろ、私自身、誰よりも多くの失敗をしてきました。それは単に、挑戦の回数が多かったということに過ぎません。ただし、常に会社の存続を意識しながら、致命的な打撃とならないよう細心の注意を払っていました。

 

その上で、私の中で一番大事なのは命と健康です。その次が信頼関係で、それからお金といった順番がいいのではと思っています。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:刀禰真之介 氏

株式会社メンタルヘルステクノロジーズ代表取締役社長。デロイトトーマツコンサルティング株式会社(現アビームコンサルティング)、UFJつばさ証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)株式会社、株式会社環境エネルギー投資などを経て、株式会社Miew(現メンタルヘルステクノロジーズ)を設立し、代表取締役社長に就任。その後、同社の100%子会社としてAvenirを発足し、代表取締役社長就任。

 

企業情報

法人名

株式会社メンタルヘルステクノロジーズ

HP

https://mh-tec.co.jp/

設立

2011年3月

事業内容

  • メンタルヘルスソリューション事業 (親会社、子会社)
  • メディカルワークシフト事業(子会社)
  • デジタルマーケティング事業(親会社、子会社)
  • メディカルキャリア⽀援事業(子会社)

 

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