【#360】歯科医療のパラダイムシフトを牽引。予防重視の医療をAIとXR技術で変革する|代表取締役 宇野澤 元春(株式会社Dental Prediction)

株式会社Dental Prediction 代表取締役 宇野澤 元春
株式会社Dental Predictionは、歯科領域に特化したベンチャー企業です。予防医療の促進と歯科業界の技術力向上を通じて、全身の健康維持や医療費削減に貢献し、誰もが安心して歯科医療を受けられる社会の実現を目指しています。歯科医師でもある代表取締役の宇野澤 元春氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
質の高い歯科医療へと繋ぐ「AIを活用した歯科相談アプリ」
事業の内容をお聞かせください
私たちは歯科のベンチャー企業として、医療のパラダイムシフトに挑戦しています。
今、医療の重点は治療から予防へと大きく変わってきています。その中で歯科は、以前から予防医療を率先して行ってきた分野で、子どもからお年寄りまで予防的なケアで通院する点が特徴です。
さらに重要なのが、お口の中の健康状態が糖尿病や心筋梗塞、誤嚥性肺炎などと密接に関連していることです。このことは数十年前から研究で明らかになっていました。そこで私たちは、歯科からの全身疾患予防、健康寿命の延伸、地域医療格差の是正、そして医療費削減に取り組んでいます。
具体的な事業として、2つ展開しています。1つ目は、AIを活用した歯科相談サービスです。歯の治療に関することはもちろん、ホワイトニングやお子さんの歯並びなど、歯に関するお悩みをいつでもどこでも相談できます。相談後は、全国にある6万8,000件の歯科医院の中から、私たちが実際に視察し、設備や接遇などをチェックした上で信頼できる医院を紹介し、予約までできるシステムを提供しています。
2つ目は、歯科医療従事者向けの教育事業です。私たち医療者は常に学び続ける必要がありますが、現場での研修には限界があります。そこで特許取得済の3Dデータ解析技術を活用し、実際の患者さんの実際の患者さんのデータに基づいたオーダーメイドの3Dデータを作成する教育システムを開発しています。
時期によって2つの事業への注力度は変わりますが、いずれも歯科業界全体のレベルアップといった目的を持っています。当社は歯科医師とエンジニアが集まってできた会社であり、1つの分野だけで利益を追求するのではなく、歯科医療全体の質を高めていきたいと考えています。
「歯科の健康相談 mamoru」アプリの利用者数が、6万人を達成したそうですね
「歯科の健康相談 mamoru」では、歯科医院の検索機能に留まらず、質の高い医療を提供する歯科医院を厳選してご紹介しています。飲食店の口コミサイトのように、設備や技術力はもちろん、接遇もしっかりとした歯科医院を厳選して掲載しているのです。さらに、13ヶ国語にAIが対応しており、より多くの方々に優れた歯科医療へのアクセスが可能です。
この背景には、現在の歯科医療における大きな課題があります。実際、歯科での医療訴訟は医科よりも増加している状況で、単に技術的な問題といったことではなく、診療時のやり取りや「こんなはずじゃなかった」といった意思疎通がうまくできていないことに起因するケースが多いのです。
このような状況において、私たちの取り組みが評価され、昨年6月には株式会社ロッテベンチャーズ・ジャパンからの資金調達も実現しました。予防歯科の観点で私たちのサービスとの親和性が高く、現在、ガム事業との連携も進めております。
予防医療の重要性は年々高まっており、2022年の骨太方針では「国民皆歯科健診」が打ち出されるなど、国も予防医療に注力し始めています。私たちは、適切な予防により8〜9割の健康上の問題は防げると考えており、アメリカのように予防医療への投資を積極的に行う時代が日本でも本格的に始まると考えています。
▲撮影場所:WeWork KDX虎ノ門1丁目 3A会議室
教育事業の詳細をお聞かせください。
当社の教育事業「DenPre 3D Lab」は、従来の歯科医療教育が抱える課題を解決するために立ち上げました。
これまでの歯科医療の教育では、若手医師の研修においてマネキンや豚の骨を使用したシミュレーショントレーニングが一般的でした。しかし、特に豚の骨では人体の構造を100%再現できないため、実際の手術との差異が大きく、長らくその教育方法は変わっていませんでした。
さらに、歯科医師のキャリアパスを考えると、研修医から勤務医を経て開業というように、経験を積む機会が限られています。結果として、十分な訓練を受けないまま実際の患者さんに対して処置を行わざるを得ない状況が生まれ、医療事故のリスクも高まっていました。
そこで私たちは、CTデータから患者さんのオーダーメイドモデルを作成する特許技術を活用し、教育システムを開発しました。このシステムでは、3Dプリンティング技術を用いて患者さんの正確な口腔内構造を再現した模型を作成し、実際の手術と同じ感覚でトレーニングができます。さらに、AR技術を活用することで内部構造を可視化し、より詳細な術前シミュレーションが可能になったのです。
この教育システムにより、若手医師でも1つの症例に対して100回以上の練習が可能となり、経験豊富な状態で初めての手術に臨めます。従来のような先輩医師から厳しく指導されるOJTスタイルから脱却し、事前に十分な練習を積んでから実際の治療に取り組めるようになりました。
さらに、大手通信キャリアと連携し、5G技術を活用した遠隔教育システムの実証実験も成功させました。現在では、日本国内だけでなく、シンガポールやサウジアラビアなど、グローバルに展開している状況です。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は歯学部を卒業後、口腔がんや顎の骨折などを専門とする口腔外科医として、千葉大学医学部で勤務していました。歯科医師のキャリアは通常、勤務医か開業医の二択でしたが、私は新たな可能性を求めてアメリカへ留学することにしたのです。
その留学中、私の指導教授が歯科医師でありながら起業しており、私が卒業する頃には会社を売却していました。歯科医師にも起業といった選択肢があることを、この時初めて知ったのです。
3年後、日本に戻ってきた時、歯科医療の現場は全く変わっていませんでした。むしろ衰退していると感じたのです。そこで「起業しよう」といった思いではなく、「これがあれば歯科業界は良くなるはずだ」との考えから、2019年から準備を進め、2020年に起業しました。
つまり、事業ありきの起業だったんです。「これをすれば歯科業界にイノベーションを起こせる」「歯科医療のチェーン展開も可能になる」といった確信があり、その実現に向けた足掛かりとして事業を始めました。
▲撮影場所:WeWork KDX虎ノ門1丁目 3A会議室
長年の常識を疑い、新たな解決策を生み出す
仕事におけるこだわりを教えてください。
歯科医療における「当たり前」に疑問を持ち続けることです。
歯科の世界では、研修医や学生時代に「なぜこんなやり方をしているんだろう」「なぜこんな非効率的なことをしているんだろう」と疑問を感じる人が多いです。私も同じように感じていました。しかし、多くの歯科医師は勤務医から開業医へのキャリアパスを進めていく中で、その疑問を忘れていってしまいます。「誰かが解決してくれるだろう」と考え、結果として長年、課題は放置されてきたのです。
私たちは今、その課題に取り組んでいます。学生時代に「これは面倒だな」「こういうものがあれば便利なのに」と感じていた初心の気持ちを忘れず、新たな解決策を作り出していきたいと思っています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
全部が壁です。なぜなら、フェーズごとに異なる課題が次々と現れてくるからです。
最初はチームを作れるか、プロダクトを作れるかという壁。次にそのプロダクトがちゃんと動くかという壁。私たちの目指すゴールに向かってステップアップしていく中で、常に新しい壁に直面しています。
その中で、最も大きな壁はチーム作りです。組織のマネジメント経験がなかった私にとって、未知の領域でした。より多くの人にサービスを届け、価値を伝えていくために、どのようなチームを作っていくか、それが今の私たちの課題だと感じています。
▲撮影場所:WeWork KDX虎ノ門一丁目 3A会議室
多様な人材の力で歯科業界を変える
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
歯科医療の世界を、より良いものに変えていくことです。
私は歯科医師としてのキャリアに人生を賭けてきました。歯学部6年、研修医2年、大学院4年、そしてアメリカでの経験も含めて、15年間ずっと歯科医療を学び続けてきました。勤務医として働く道もありましたが、あえてこの道を選んだのは、歯科業界を変革したいという強い思いがあったからです。
また、起業への不安は、ほとんどありませんでした。今は医師や弁護士など、専門職の方が起業するのも一般的な時代です。それに私の場合「起業したい」より「やるべきことがある」との思いが先にありました。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
歯科業界は従来、歯科医師や歯科衛生士など、歯科医療従事者だけの世界でした。しかし私は、この業界にもっと優秀な人材に入ってきてほしいと考えています。
というのも、異なる視点や専門性を持った人材が加わることで、歯科業界が長年抱えてきた課題を解決できる可能性が広がると考えているからです。業務の効率化など、まだまだ改善の余地は大きいと感じています。
歯科は、医療業界の中でも地味な印象を持たれるかもしれません。しかし、私たちは「歯科ベンチャーで働きたい」「歯科分野でイノベーションを起こしたい」と思ってもらえるような、魅力的な会社やサービスを作っていきたいと考えています。
▲撮影場所:WeWork KDX虎ノ門1丁目 3A会議室
歯科医療の新しい時代を切り開く
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
私たちは、治療中心の医療から予防医療への転換という、新しい時代の幕開けに挑戦しています。国の事業にも携わらせていただいており、「予防医療の最先端を切り拓く」といったミッションがあります。新しい価値を創造することに情熱を持って取り組める方と、事業を作っていきたいと考えています。
その上で、重視しているのは、主体的に提案できることです。
「これをやれば、当社は予防医療分野でトップポジションを確立できます」といった具体的な提案ができる人材を求めています。それは財務面でも「この助成金に申請しましょう」、エンジニアであれば「この機能を実装しましょう」、マーケターであれば「この施策でいきましょう」のように、各専門分野で積極的な提案から実行までができる人材を求めています。
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業はすでにやりたいことが明確で、その延長線上にあるべきだと私は考えています。
起業の9割は、困難や苦労で埋め尽くされています。「とりあえず起業しよう」といった気持ちで始めても、成功する可能性は低いでしょう。起業を考えている方は、まず自分の専門性や経験を活かせる分野で、人生をかけられる事業テーマを見つけることをお勧めします。
▲撮影場所:WeWork KDX虎ノ門1丁目 3A会議室
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:宇野澤 元春氏
1985年生まれ。東京都出身。千葉大学医学部大学院で口腔癌遺伝子の研究に従事した後、ニューヨーク大学歯学部Advanced Program in Implant Dentistryに入学。在学中に同大学歯学部卒後研修同時通訳や海外学会・NYU School Researchで多数のAwardを受賞。同大学歯学部修了時、Outstanding Student Award(Class President)を受賞。帰国後2020年 株式会社Dental Predictionを設立。3Dデータ解析事業を展開し、5Gネットワークとの連携を推進。
企業情報
法人名 |
株式会社Dental Prediction |
HP |
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設立 |
令和2年6月17日 |
事業内容 |
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