
物語運輸株式会社 代表取締役CEO 五十嵐 勇
物語運輸株式会社は、日本の伝統工芸の文化と価値を世界に伝える企業です。独自の越境ECプラットフォームを軸に、商品企画から動画制作、現地体験までトータルで手がけ、伝統と革新を融合させた新たな価値を創造しています。今回は、代表取締役CEOの五十嵐 勇氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
伝統工芸の未来をつくる越境ECプラットフォーム
事業の内容をお聞かせください
「物語の力で日本の伝統文化を世界へ轟かせる」というミッションのもと、ものづくりに携わる職人たちの未来を見据えた事業を展開しています。
現在、日本だけのマーケットでは事業の継続が難しい状況になっています。そこで私たちは、職人たちが5年、10年、20年先も適切な収入を得て、仕事を続けられる仕組みづくりに取り組んでいます。具体的には、アメリカとヨーロッパを主要市場と位置づけ、日本の文化とそこに根ざした商品やサービスを海外の方々に知ってもらうことを軸に事業を展開しています。
主力事業は、越境ECプラットフォーム「ナラティブ・プラットフォーム」の運営です。通常の越境ECと異なり、商品企画の段階から参画しているのが特徴です。例えば、海外の生活様式に合わせて、電子レンジや食洗機に対応した器など、私たちが「NEW伝統工芸」と呼ぶ新しい商品開発を行っています。
販売においては、3分以内の動画を活用し、制作過程や職人の想いを丁寧に伝えています。商品価格は日本の2〜4倍に設定していますが、海外からの渡航費を考えれば妥当な価格帯として、一定の購買につながっています。
また最初の1年間は動画制作費やプロジェクト制作費を一切いただかずに進めていました。ですが、昨年10月からは、制作した動画のクオリティ自体にも価値を見出していただき、クライアント企業からプロジェクト制作費をいただく新たな収益源も確立しました。
しかし、私たちの目指すところは単なる商品販売ではありません。最終的には、ものづくりをしている会社や地域に実際に足を運んでいただき、現地での体験を通じて地方に直接お金が落ちる仕組みづくりを目指しています。そのため、動画内にも地域の文化や魅力を意図的に盛り込み、視聴者がその場所に行ってみたくなる仕掛けをしています。
また、行政との連携も始まっており、昨年は山口県長門市と協働し、萩焼で有名な地域のインバウンド向け動画を制作しました。このように、地方の魅力を海外の観光客に効果的に伝えるためのPR施策についても、行政と一緒に進めています。
このように、当社の強みは単なる収益追求ではなく、文化を残していくための手段として現在の取り組みを行っている点にあります。また、現地に足を運び、その思いを適切に説明させていただくことで信頼関係を築いている点も特徴の一つです。大企業の新規事業としてではなく、スタートアップならではの思いから始めたからこそ、多くの企業が私たちの取り組みに協力してくださっているのだと思います。
EC以外にも伝統工芸を知る・体験するなどのサービスを展開されているとお聞きしました。
主に3つの事業を展開しています。
1つ目は、日本の和食器の知識を学ぶ教育事業「うつわソムリエ」です。私自身がワインエキスパートの資格を持っていることもあり、器の資格がないことに着目しました。
和食器を知ることは、食文化だけでなく、日本各地の焼き物産地の理解にもつながります。昨年4月に本格的にスタートし、現在約100名の資格取得者がいます。飲食従事者をはじめ、ホームパーティーをする方や器に興味のある一般の方々にも受講いただいています。
2つ目は、インバウンド向けの体験型サービス「ジャパンカルチャースタジオ」です。金継ぎ、盆栽づくりなど日本文化を直接体験できるコンテンツを用意しています。主に旅行会社経由でVIP向けに、お客様のニーズに合わせたオーダーメイド型のプログラムを提供しています。
3つ目は、昨年11月にスタートした「盆栽ルクス」です。土の検疫の問題で海外輸出が難しい盆栽文化を広めるため、レンタルという形で商業施設やインバウンド向け施設に提供しています。今後は不動産会社との連携も視野に入れ、より多くの場所で日本文化に触れる機会を創出していく予定です。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
大学卒業後、プロダクトマネージャーとしてアプリ開発や新規事業の立ち上げに携わってきました。主に海外で戦うプロダクトの開発を行っていたのですが、GAFAをはじめとするグローバル企業との競争は非常に厳しいものでした。
また、中国企業での経験を通じて、海外市場との壁を強く実感する中で、日本固有の資産を活用することこそが勝ち筋になると考えるようになりました。
そこで着目したのが、日本の最後のフロンティアともいえる「ものづくり」「観光業」「食産業」の3分野です。特に地方創生は私の人生のテーマでもあり、これらの要素を全て内包しながら、デジタルを通して新しい価値軸を作ることを目指して創業しました。
さらに、私は10代、20代の頃から伝統工芸品、特に器を購入するなど、ものづくりへの関心が高く、職人との交流も大切にしてきました。この個人的な関心が、現在の事業の土台となっています。
つくり手の思いを丁寧に購入者に届ける
仕事におけるこだわりを教えてください。
「ものづくりファースト」で動くことにこだわっています。
そのため、全ての現場に必ず足を運び、私と動画クリエイター2名体制で全ての製造工程を見学させていただいています。先日も佐賀を訪れ、社長や職人の方々とじっくりとコミュニケーションを図ってきました。
ものづくりに関するインタビューや映像制作も、全て自社で行っています。これは、ものづくりの現場で働く方々に触れ、そこで感じた熱量をそのままデジタルコンテンツを通じて購入者に届けたいという思いからです。この工程を外注して簡略化することは、つくり手の方々へのリスペクトを欠くことになると私は考えています。誠心誠意向き合い、信頼関係を築くことを大切にしています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
マネタイズまでの過程が最大の壁でした。
私たちの取り組みは日本の未来を考える上で重要な意味を持ち、多くの方々から応援をいただいているのですが、資金面で苦労しました。これまで補助金や助成金は一切使わずに経営を続けてきましたが、新しい分野へのチャレンジのため、まずは実績を作っていく必要がありました。
また、日本のVCを含めた投資家からの理解を得ることも課題となっています。多くの方が関心を示してくださるものの、この分野ではまだIPOやエグジットの成功事例が少ないのが現状です。私たちがその先駆的な成功例となることで、道を切り開いていきたいと考えています。
ものづくり企業の課題を解決し、伝統を守る
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションは大きく3つあります。
1つ目は、10年先の未来への確かな展望です。サイバーエージェントやリクルートなどの成長企業での経験を通じて培った「世の中を読む力」を信じており、その先にある目標を達成したいという思いがあります。
2つ目は、日本のものづくりを担う中小企業や零細企業への強い使命感です。現在、多くのものづくりの企業が厳しい状況に直面しています。全国各地にはダイヤモンドの原石のような本当に素晴らしい商品があるのですが、ブランディング、マーケティング、DXといった部分が不足しています。これらの課題を解決することで、素晴らしい企業や製品を守り、継承・発展につなげていきたいと考えています。
そして3つ目は、日本の文化とものづくりへの熱い思いです。具体的な目標として、今後3年以内に47都道府県それぞれから、最低1社をグローバルで評価される企業に育てることを目指しています。現在、主に10人から50人規模で職人を雇用している企業と協働していますが、この取り組みを通じて地方の企業に新たな可能性を開くことができると思っています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
Made in Japanのクオリティの商品を世界に広め、世界中の人々の生活の一部に日本製品を届けたいです。
昨年までは陶磁器や漆器などのテーブルウェアを中心に展開してきましたが、今年は新たに伝統食、特に発酵食品の分野に挑戦しています。海外で人気の抹茶のように、日本の伝統食は世界でも十分通用すると思っています。
中長期的な展望としては、商品のプロデュースや企画だけでなく、会社のロールアップ戦略を考えています。地方の中小企業が抱える後継者不足や海外展開における人材・資金不足などの課題に対し、私たちが経営に参画することで解決策を提供したいです。海外売上の責任を担いながら、既存事業へのアドバイスも行うことで、より大きなスケールでの展開が可能になると考えています。
さらに、モノの販売だけでなく、体験型のジャパンカルチャースタジオや地方のオーベルジュなどへの展開も計画しています。東京や京都などの主要観光地は既に多くの外国人観光客が訪れていますが、次のセカンドプレイス、サードプレイスとなる場所を開拓することで、日本の観光産業の更なる発展に貢献したいです。
日本のものづくりを世界に広める仲間を募集中
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
最も重視しているのは、カルチャーフィットです。
企業理念や未来のビジョンに共鳴していただける方を求めています。具体的には、日本のものづくりへのリスペクトを持ち、その価値を世界基準で捉えながら貢献したいという思いのある方です。
また、私たちは現地に足を運んで職人との信頼関係を築く仕事をしていますので、そういった活動にも興味を持っていただける方が理想です。
現在、商品のプロデュース業務は私が担当していますが、今後は権限を移譲していきたいと考えています。スタートアップならではの環境で、さまざまなチャレンジができる段階にあります。特別な能力がなくても、カルチャーフィットして、やりたいことに対して実際に行動を起こせる方であれば、ぜひご縁をいただきたいと考えています。
▼採用情報の詳細はこちら
https://talent.direct.hipro-job.jp/talent/issue/7848/
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
自分の中の「好き」という要素を最も保てる領域でチャレンジすることをお勧めします。起業はハードシングスなので、人に熱量高く伝えられる分野でのチャレンジがベストです。
また、最後までやり抜く覚悟も重要です。私自身、30歳で起業しましたが、サラリーマンとして適切なプロセスを踏んで起業したことが、現在会社を経営できている要因の一つだと考えています。ただし、起業のタイミングは個人によって異なります。自分にとって適切な形で、適切なタイミングで起業を志す方々は、ぜひチャレンジすることをお勧めします。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:五十嵐 勇氏
サイバーエージェント、メルカリ、バイドゥでの経験後、リクルート在籍中に物語運輸株式会社を共同創業。 サブスクリプション事業やショップサービス事業の立ち上げ、ソフトウェア事業の牽引など、幅広い業務経験を活かして活動。 全国のレストラン巡りと陶磁器収集をライフワークとし、社会課題に取り組む決意を固める。
企業情報
法人名 |
物語運輸株式会社 |
HP |
|
設立 |
2022年8月 |
事業内容 |
物語を通じて作家・作品と出会うEコマース「ナラティブ・プラットフォーム(ナラプラ)」を提供 |
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