【#370】「読める力」が学びや生活を変える!子どもと本との出会いを幅広くコーディネートする「ヨンデミー」|代表取締役 笹沼 颯太(株式会社Yondemy)

株式会社Yondemy 代表取締役 笹沼 颯太
株式会社Yondemyは、子どもが読書にハマるオンライン習い事「ヨンデミー」を運営する会社です。現在はアプリを介したAIによる読書支援をメイン事業に据えていますが、さらに子どもと本との出会いや接点を増やすべく、自治体や図書館、書店などと手を取り合いながら取り組みを拡大しています。今回は、東京大学在学中に学生起業を果たした代表取締役の笹沼颯太氏に、事業への想いや今後の展望などをお伺いしました。
「子どもが本を読まない」流れは変えられる!
事業の内容をお聞かせください
メイン事業は、「子どもが読書にハマるオンライン習い事『ヨンデミー』」の運営です。本を読むことが苦手なお子様が読書習慣を身につけられるようなサービスを展開しています。
ヨンデミーで教師役を務めているのは、AIキャラクターです。このAIキャラクターには、以下の3つの役割があります。
- 本の紹介
- レッスン
- サポート
メインの役割は、お子様一人ひとりにマッチする本を紹介する部分です。ここでは、いかにお子様の「好み」と「レベル」に合ったものをおすすめできるかどうかが肝だと考えています。特にレベルに関しては、年齢や学年ではなく、独自の指標「ヨンデミーレベル」に基づいた紹介を行っている点が大きな強みです。
次にポイントとなるのが、AIキャラクターによる「レッスン」です。ここでは、1日1回、3〜5分程度で、具体的な本の楽しみ方をお伝えしています。
そして3つ目の役割は、お子様の読書に併走することです。「本を読むと褒める」といった形でお子様のモチベーションアップをサポートしています。
ヨンデミーのメインユーザーは小学生です。そもそもヨンデミーは「子どもが1人で本を読めるようになる」ことを目標としているため、基本的には小学校に入ってひらがなやカタカナが読めるようになってからが、ヨンデミーの本領が発揮されるタイミングだと考えています。
しかしヨンデミーでは年齢や学年ではなく読書の成長段階をベースとしていることから、結果的には5歳前後から15歳くらいまでの幅広い年齢のお子様にご利用いただいています。
読書に興味がない子どもを惹きつける工夫を教えてください
大事にしているのは、ゲーム性です。
ヨンデミーでは、先生のほかにもさまざまなキャラクターが登場し、ストーリー仕立てでレッスンが進みます。例えば、本の読み始めは「あなたは伝説の読書家に選ばれた」といったようなオープニングムービーで始まるんです。そして、お子様が本を読むことでキャラクターを救えます。そういったゲーム性やヒーロー感が、お子様の興味を惹きつけられる秘訣です。
また、ヨンデミーには現在、約2,000冊程度のブックデータが格納されています。このデータは、弊社メンバーが1冊1冊、すべて実際に読んで作り上げた独自データです。それゆえに、高いマッチ率を実現できています。
そしてヨンデミーは全国の図書館と連携しており、気になった本がすぐ手に入る環境を構築しています。最寄りの図書館を登録しておくと、アプリ上からオンラインで予約や近隣図書館からの取り寄せができるのです。さらに主要なECサイトや全国の書店とも連携しており、アプリ上から本を買うことも可能です。
加えて、アプリ内にあるお子様同士のコミュニティ「本の友」の存在も大きいでしょう。近いレベルのお子様たちの感想や読んでいる本などを知れるうえ、よいと感じる感想には、1日1つ、スターをつけられます。スターをもらったお子様はさらにモチベーションが上がるという流れです。
実際に元々は「本嫌い」のレベルにあったお子様が、ヨンデミーを始めて1年足らずである読書感想文コンクールの上位賞を受賞した実績があります。もと本嫌いのお子様が全国で表彰を受けたうえに、そのお子様と保護者様からお礼のお手紙をいただいたときには、社内が沸き立ちました。
ヨンデミーの事業を始めた経緯をお伺いできますか?
直接的なきっかけは、大学時代に私自身が家庭教師をしていたことにあります。国語を教えていたのですが、どこのご家庭に伺っても必ず、「先生は小さいころ、どのような本を読んでいましたか?」と質問されていました。
当時の私は現役東大生でしたので、はじめはテレビでよく見る「東大生が読んでいた本ランキング」のような感覚の質問だと思っていたんです。しかしよく話を聞いてみると、皆さん本当に困っていることがわかりました。
「本を読まない」ことは、国語が苦手、という話だけに留まりません。算数の文章題でもつまずきますし、理科や社会でも、教科書を読むのがつらいために自分で復習ができないといいます。全教科の教科書や参考書がすべてテキストであるため、「読めない」イコール「全教科で困る」ことを知ったのです。
さらに今は、小学生や中学生のころからスマホやタブレットが身近にあり、動画やアプリが教育にも多用されています。こうなると、元々本が好きではないお子様はもちろん、本来は本を好きになるはずだったお子様も動画やアプリに流れているのが現状ではないでしょうか。
ただ、その流れは変えられますし、変えられたなら、お子様たちの人生にも変化があると考え、この事業を始めました。
事業を始めるにあたっては、過去に英語で読書の指導をしていた経験があったため、ある程度の指導メソッドは理解していました。また、私の中高時代の先生がアメリカの有名な実践例を研究されていた関係から、有効な読書教育の手法があることも知っていたんです。
しかし問題は、実践方法でした。当時は有効な手法のほとんどが実店舗型の教室で提供されていましたが、少数精鋭の人手で実践される実店舗型では、なかなか成果が全国的に広まりにくいんです。
その状況から、「たくさんの本を知ったうえで、高いコミュニケーション能力をもって多くのお子様にハイクオリティな読書教育を届けるためには、「人」がボトルネックになる」と感じました。
「ならば人をAIに置き換えよう」とAI先生を作り、この先生に読書教育の全ノウハウを詰め込めばよいと考えて誕生したのが、ヨンデミーです。
価値があれば、お金はあとからついてくる
仕事におけるこだわりを教えてください。
価値があるものを作ることです。私は、「価値があれば、お金はあとからついてくる」と考えています。そして価値とは、ユーザーがサービスを受ける前と後の変化量のことだと思います。
この価値が大きければ大きいほど、ユーザーが対価として支払いたくなる金額も増えるわけです。お金を先にたくさん取るのではなく、大きな変化を提供することで納得してお支払いいただくことを大切にしていきたいと思っています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
一番つらかったのは、2022年頃にプロダクトをフルリニューアルした時期です。
事業立ち上げ当初こそ高い顧客満足度を実現できていましたが、資金調達をしてさらに伸ばそうとしたタイミングで、思うように成果が伸びなくなってしまいました。
その原因は、動画視聴習慣の広がりでした。いくらAIがよい本をおすすめしても、お子様たちは動画視聴を楽しむばかりで、なかなか本を読まない状況に陥っていたのです。
そこで改善策として取り入れたのが、先ほどお話ししたゲーム性です。これによって結果的には持ち直すことになるものの、そのためのフルリニューアルには1年近くかかりました。そのあいだは「売り上げは伸びない、資金は減っていく」状態で、かなりつらかったです。
学生のうちに起業されたそうですが、大変でしたか?
学生だからこそ応援していただけたという印象のほうが大きいです。
さらに、学生には学生ならではのつながりがあるため、インターン中心の組織が可能です。弊社も1年前は私を含めて役員・社員が4名、残り30名がインターンから成る組織で、学生が学生をマネジメントするような形で事業を進めていました。
これは、経営者視点でいえば機動力が高く、学ぶ意欲も高い組織です。スタートアップとしては非常にやりやすい形態で、弊社の事業にはフィットしていたと思います。
しかし学生視点でいうと、やはり学業と起業家の両立は自分との戦いです。だからこそ、まわりから応援していただけたのだと思います。
ただ、私が起業したのはコロナ禍で、授業自体もオンラインで割と融通が効きました。そうでなければ、退学していたと思います。事実、私の共同創業者は退学しています。
これから学生起業を考えている方は、こうした事実も含めて検討するとよいでしょう。
読書教育が持つ力を信じて進み続ける
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
読書教育への信念や信頼です。私自身、幼少期から非常に多くの本を読んできました。そしてその経験が、起業の際にも役立っています。
私は20歳で学生起業をするまで、起業の意志も、インターンの経験もありませんでした。ヨンデミーを立ち上げるために起業の勉強を始めたのですが、そこで、経営のことも、マーケティングのこともすべて、これまで読んできた本に書いてあったことに気づいたんです。つまり私は、大量の本を読んできたおかげで今ある程度の経営ができているわけです。
読書で自分自身も救われていますし、ほかの人たちも絶対本を読んだほうがよいと考えています。しかしその一方で、子どもたちはどんどん本を読まなくなっています。そのギャップを埋めたいという想いこそが、頑張れる理由です。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
現在はアプリを活用した習い事がメインの収入源になっていますが、今後は子どもと本の接点を増やせるようなプラットフォームを拡張させていきたいです。
また、ヨンデミーもより成長させたいと考えています。現在は無料アカウントも含めて2万件弱の契約数ですが、直近は約半年で倍以上の契約数増といった伸び方をしているため、今後も1年で3〜4倍増のペースを維持していきたいです。そして数年以内には、「小学校の1クラスに必ず数人はヨンデミーユーザーがいる」ところまで到達できればと思います。
私は、本が読めて動画教材も利用でき、いつでもAIが教えてくれる環境の整備が今後も進んでいくと、現在の学校のように1教科ずつを切り離して教える価値はなくなっていくのではないかと予想しているんです。そしてそういった環境が実現すると、「学びを楽しむ力」こそが大事になってくるはずで、そうなるとやはり、「大量に本を読める人」が強いと思っています。
読書を通じて、「学ぶ力」や「学ぶ意欲」のある子どもたちを数多く輩出できるよう教育のあり方自体を変えていくのが、今の私の理想です。そしてその理想が実現できたのちには、大人の読書も含めて「生涯教育としての読書」にも関わっていきたいと考えています。
やりたいなら、今やるべき!
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
「起業したいなら、できるだけ早くしたほうがよい」です。これは、私自身が起業する際に先輩からいただいたメッセージでもあります。
起業したら誰もが起業家1年生で、一から学ばなければならないことが山ほどあるんです。それは、社会人を何年も経験した人が起業した場合でも同じことで、学生で起業しようが社会人数年目で起業しようが誤差の範囲なら、絶対早いほうがよいと思います。
これを先輩に言われた当初は疑心暗鬼でしたが、実際に経験してみるとその通りでした。ですので、年齢に関わらず、「やりたいなら今やるべき」だと伝えたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:笹沼 颯太 氏
2018年 東京大学教養学部文科二類 入学
2020年 東京大学経済学部経営学科 進学
2020年 株式会社Yondemy 設立 代表取締役就任
2023年 東京大学経済学部経営学科 卒業
企業情報
法人名 |
株式会社Yondemy |
HP |
|
設立 |
2020年4月 |
事業内容 |
子どもが読書にハマるオンライン習い事『ヨンデミー』を運営 |
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