株式会社eMobi 取締役COO 後藤 詩門

鎌倉や沖縄といった観光地で今注目を集めている電動トゥクトゥク「Emobi」。旅に新たな移動体験をもたらしてくれるモビリティサービスですが、株式会社eMoBiの取締役COO・後藤詩門氏は「弊社は観光客向けのアクティビティ会社ではありません」と語ります。今回は後藤氏が考えるEmobiという乗り物の可能性と、今後の展望についてお聞きしました。

 

移動体験にフォーカスした、新しい電動三輪車を開発

事業の内容をお聞かせください

弊社は、小型電動三輪車「Emobi」のレンタルサービスの事業を運営しています。

 

Emobiとは東南アジアなどで多く見られるトゥクトゥクのような乗り物で、車の免許があれば誰でも簡単に運転ができます。3人乗りでご家族や友人同士でお喋りしながら楽しく移動でき、ドアがないので綺麗な景色や風を直に感じられるのが魅力です。

 

弊社の事業の大きな特徴は、自社で設計・開発を行っていることです。それによって従来のモビリティの課題をクリアした、より使い勝手の良い乗り物を提供することができています。

 

例えば弊社のEmobiはバッテリー交換タイプなので、電池が切れたら交換用のバッテリーと取り替えるだけで、作業にかかる時間はたったの5秒です。

 

こうしたユーザー目線での利便性の高さから、現時点での主力は観光客向けのレンタルサービスですが、今後Emobiは通勤や日常での移動用としても日本で広めていけると考えています。

 

国内の観光地の多くは、レンタカー不足や交通の便が悪いといった移動課題を抱えています。自転車で広いエリアを回るのは大変という場合でも、Emobiなら1日で複数の観光スポットを回ることができ、移動の途中もTikTokやインスタ用の動画を撮影して、充実した旅が楽しめます。

 

特に鎌倉や沖縄といった定番の観光地で非常に好評を得ていて、人気のYouTuberの方にも動画で紹介していただきました。

 

現在は、新しくアプリをリリースして、アプリ上で予約をして鍵が無くてもアプリ操作でロックを解除できるという手軽なシステムを実現させました。手続きを簡略化させたため、より多くの観光客の方にEmobiを移動の選択肢として捉えてもらえるようになると期待しています。

 

一方で、我々は決して観光客向けのアクティビティを提供することを目的にした企業ではありません。目指しているのは持続可能な移動の仕組みを作ることで、Emobiはその目的のために開発した乗り物です。観光客向けのサービスから始めて事業をしっかり確立しつつ、今後は日々の生活でのさらなる普及を見込んでいます。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

起業については大学1年生のときから考えていました。元々私は自動車やモビリティが大好きで、人に夢を与える乗り物の存在にずっと憧れていました。

 

そんな中、3年生のときに友人から「電動の三輪車の事業を考えているから一緒にやらないか」と誘われて、休学をして事業立ち上げに取り掛かることになりました。

 

我々が創業したのは2020年12月でしたが、当時は電気自動車が一般にも普及し始めた頃で、電動の乗り物といえば四輪のEVというイメージが固定化していました。ですが、電動の乗り物には本当はそれ以上の可能性があり、より小型のEVならもっと便利で、移動という体験をさらに楽しくできるのではないかという思いがありました。

 

Emobiの「e」には、electric(電動)とemotional(感情に訴える)という2つの意味が込められています。Z世代の感覚で言うならば、まさに「エモい」乗り物を追求して行き着いたのが、トゥクトゥクの形態です。

 

加えて小型EVは環境負荷も小さく、今の時代にこそ求められている乗り物だという確信があったため、事業にすることに決めました。

 

合言葉は「イケてる三輪を文化にする」

仕事におけるこだわりを教えてください。

Emobiは「移動体験」という点にフォーカスして開発したプロダクトです。今もそこには非常にこだわりを持っていて、我々が目指すべきは既存の車の100倍優れた移動体験を作っていくことだと思っています。

 

それに加えて、我々が合言葉にしているのが「イケてる三輪を文化にしたい」ということです。電動三輪車は自動車よりも手軽で、自転車よりも遠くに行けて、誰かと一緒に移動体験を共有できて、しかも消費電力は少ないという非常に大きな可能性を持った乗り物です。

 

現時点では、我々が電動三輪車の名称でEmobiをマーケティングをしても、ユーザーの関心を引くことはできません。トゥクトゥクという誰もがイメージしやすい名前を使うからこそ興味関心を引き付け、観光地で利用が増えているのです。

 

しかし本音を言うと、トゥクトゥクのイメージに頼ることなく、「イケてる三輪といえばEmobi」とユーザーに思ってもらえるようにするのが目標です。そしてEmobiが観光に限らず生活のあらゆるシーンで移動に使われる、そんなカルチャーを作っていきたいと思っています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

弊社は開発から手がけているため、常に壁を感じています。海外の生産拠点とのやり取りを挟むので、自分たちの希望をそのまますべて叶えられるわけでもなく、車両開発の難しさを今も感じているところです。

 

ただし起業からの最大の壁と言うと、Emobiの最初の導入実績を作るところが一番苦労しました。現在こそJR東日本様にも導入していただいていますが、まだ実績が無かった頃には「本当に安全なのか?」や「企業としての信用性は大丈夫か?」など聞かれてばかりで、ゼロの実績を1にすることの難しさを痛感しました。

 

そこから個人のお客様や地方自治体、企業の方々に少しずつ導入していただいて、その実績が積み上げられたことで、JR様や大手ホテル様でも使っていただけるようになりました。

 

今でも覚えているのが、長崎の離島の企業様です。社長が東京に来られているときに、南房総で偶然Emobiの試乗会がありました。社長はそれを知って、南房総まで足をはこんでくださりEmobiに乗ってくださったそうです。そして突然私に電話がかかってきました。「今トゥクトゥクに乗っているんですが、今から会えませんか?」と言われ、非常に驚きました。

 

慌てて神楽坂まで飛んで行って、社長と15分程お話ししました。その後長崎に招待していただいて色々とお話し合いさせていただきました。社長がその場で「1台買います」と言ってくださいました。これが民間企業への導入の第1号でした。

 

あのとき、私が知らぬ番号からの電話を取っていなかったら、今のEmobiはなかったかもしれないと思うと、ビジネスとはご縁なのだと実感しています。

乗り物には夢を与える力がある、という確信

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私自身がモビリティの可能性を広げていく事業に非常に楽しさを感じていますし、今は「持続可能な移動の仕組みを作る」というビジョンを掲げているので、そうした社会的意義が感じれらるところもモチベーションに繋がっていると思います。

 

ただ一番のモチベーションとしては、やはり乗り物には夢を与える力があるという確信の部分だと思います。小さい頃家族でドライブをした思い出や、修学旅行で新幹線に乗った記憶など、ただ便利な移動手段という枠組みを超えた、時間と記憶をつなぐ存在としてモビリティの可能性を追求したいと考えています。

 

だからこそEmobiは特に移動の楽しさにフォーカスして開発した乗り物ですから、Emobiの移動体験を喜んでくれる人達がいるというのが、今の大きなやりがいになっています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

今は起業の世界を見渡しても交通ビジネスで起業する人はほとんどいません。それが何故かというとモビリティは開発にもお金がかかりますし、正直に言って儲けるのが難しい領域だからです。

 

しかし、「人間らしさ」は人と人との触れ合いでしか作れないというのが、私の個人的な考えです。そしてそこに一番起因するのが「移動」であるはずだと思っています。

 

だからこそ、まずはEmobiをもっと普及させることで、持続可能な移動の仕組みに貢献したいというのが私の野心です。

 

その一貫として、現在はBtoBの事業も精力的に拡大しています。特にホテル事業者様でEmobiを導入したいと言ってくださっているところが多く、毎月多くのお問い合わせをいただいている状態です。

 

やはりホテルはアクセスが非常に重要であるということもあり、車でしか行けない立地だと、それだけで宿泊先候補から外れてしまうケースが多く見られます。けれど、Emobiという手軽で魅力的な移動手段を持つと、宿を探している人たちの選択肢に入る確率が格段に上がることになるのです。

 

そうしたホテルでの利用を含め、今後は地方自治体の2次交通としてより大きな役割を担ったり、物流の業界に参入したりといった、BtoBサービスのさらなる拡大を図っていきたいです。

選ぶなら、自分が一生やり続けられる仕事を

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私は、自分がずっとやり続けられることを選んで起業するのが大切だと思っています。

 

もちろん世の中のトレンドを捉えて儲かりそうな事業を選ぶのも大事ですし、一番良いのはそこに自分が一生やり続けられる仕事が重なっていることだと思います。

 

今の時代ならインターネットを駆使して何か新しいサービスを提供しようと考える人は多いと思いますが、それが本当に自分のやりたいことなのかは一度考えてみて欲しいと思います。

 

私の場合は「持続可能な移動の仕組み」という社会課題が、自分自身のモビリティへの夢と重なったことで、Emobiの開発に行き着くことができました。この4年間大変な思いをしても続けてこられたのは、世間のニーズと自分のやりたいことがマッチしていたからだと思っています。

 

同じように、モビリティを始めとした「モノ」に関するビジネスに関わりたい、世の中の移動課題を解決したいと思っている人は、弊社で一緒に働いてもらえると嬉しいです。セールス、マーケティング、エンジニアと多様なポジションで現在働く仲間を募集中です。小さなスタートアップですが、JR様など大手企業とも協力関係にあって、事業規模としてのやりがいも感じてもらえると思います。ご興味ございましたら下記からお問い合わせください。

 

採用情報はこちら

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:後藤 詩門氏

 

企業情報

法人名

株式会社eMoBi

HP

https://www.emobi.co.jp/

設立

2020年12月

事業内容

電動トゥクトゥクを基軸としたモビリティ全般についての販売、サービス開発

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