株式会社V 代表取締役兼CEO 藤原光汰

収益化が難しいと言われるメタバースの市場で、株式会社Vは確実に売上を伸ばしている数少ない企業として注目を集めています。国内最大級のコミュニティを持ち、ユーザーカルチャーを掴んでいることが強みだと語る代表取締役兼CEOの藤原光汰氏。同社が現在企業支援のサービスに力を入れている理由について、藤原氏にお聞きしました。

 

メタバース市場で売上急成長、2年連続通期黒字を達成。その再現性あるノウハウを、顧客の事業戦略に導入

事業の内容をお聞かせください

現在弊社が注力しているのが、企業のメタバース領域への事業展開を支援するBtoBサービスです。

 

例えば食品メーカーやアパレルでも、最近ではメタバースの世界で新しい顧客接点を持ちたいと考える企業が増えています。そこで、弊社が各企業の商品や事業に適したプラットフォームの選定から、ユーザーが求める商品/ワールド/コミュニティの制作、そして自社が運営するメディア等のユーザー基盤を用いたマーケティングまでをお手伝いさせていただいております。

 

弊社は、以前から自社でもメタバースのワールド空間やアバター、アバター用の衣装を制作・販売してきました。一般的なメタバースプラットフォームのユーザーはアバターと服をそれぞれ購入し、自分自身のなりたい姿で生活を楽しんでいます。流通数が多い人気のアバターも存在し、ユーザーはより自身を魅力的にするために様々な洋服アイテムなどを自分のアバターに着せたりしています。

 

弊社はそうしたユーザーをターゲットとして、自社製品だけでなく、アニメIPやファッションブランドとコラボしたアバター用の衣装アイテム等を制作して販売しています。

 

洋服をはじめとしたこれらアバター向けの商品は、現在様々なECサイトで販売されています。日本でも多くの利用者がいるECサービスのひとつ「BOOTH」では、年間58億円ほどのアバター関連の売上があり、すでに一大市場になっていると言えるでしょう。

 

弊社はメタバースの主要プラットフォームで国内最大級のコミュニティを保有していますし、人気アニメやファッションブランドとのコラボレーションなども手がけ、メタバースの市場でしっかり売上をつくるノウハウを保持しています。

 

さらに東京都の主催するメタバースのコンテストで2年連続で優勝するなど、制作のクオリティ自体も高く評価していただいています。そうした弊社のノウハウを、再現性高くクライアントのメタバース事業展開に導入していくというのが、現在の主力事業です。

 

新たにメタバースの市場に参入したいという企業も多いのですが、実は一度メタバースに挑戦したものの、成果が出なかったために改善したいという企業からも、よくご相談をいただきます。そういったケースでは、そもそものプラットフォーム選定でやりたい企画や事業との相性が考慮されていないことが多い印象です。

 

自社で0からプラットフォームを立ち上げることは至難の業で、既存のプラットフォームも数多くありますが、実際にユーザーがいるプラットフォームはほんのひと握りです。

 

「VRChatやRobloxなどの一部の数千万人、数億人が利用するプラットフォームを活用すればたくさんの人に利用いただけるのではないか」と思って参入しても、ユーザーカルチャーとのローカライズが上手くいかないとトラクションを生み出すことはできません。そうしたユーザーカルチャーにフィットするプロダクト・サービス企画のご提案もさせていただきます。

 

基本的に弊社は「作って終わり」ではなく、クライアントの事業がメタバースの市場でグロースするところまでしっかりサポートさせていただくのが特徴です。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

創業当時は今とまったく違った、リアルのファッションテック事業を手がけていました。それが新型コロナウイルス拡大によって打撃を受け、新しい事業の方向を考える中で当時はまだ一般的ではなかったメタバースの領域に目を向けたのです。

 

私は元々、ゲームの世界でコミュニティを作ることを非常に得意としていました。メジャーなプラットフォームである「VRChat」や「Roblox」をはじめ、複数の人気ゲームで日本最大規模のコミュニティを築いています。

 

そうしてここ数年ほどゲームの世界のトレンドをずっと見てきましたが、そんな私にとってはメタバースの概念は目新しいものではなく、ソーシャルゲームやMMOの市場のリプレイスとも言えるものだと考えています。

 

昔はゲームといえば1人でやるものだったのが、やがてオンラインで友達と遊べるようになり、徐々にソーシャル要素が拡大し、「ゲームがSNS化」していったという流れの延長線上にメタバースの発展があります。以前からソーシャルゲームでもアバターやアイテムへの課金は当たり前に行われていましたし、メタバースでも同様のムーブメントが起こるはずと考えて、この事業へのピポットを決意しました。

 

誤算だったのが、メタバースがトレンドとして浮上するのは2030年頃になるだろうと予想していたのに対し、それよりずっと早くブームが来たことです。Facebookが社名をメタに変更して、一気にメタバースは注目を集めました。

 

そして参入を急ぐあまり、ユーザーカルチャーに十分フィットしていない商品・サービスをリリースする企業が後を絶ちませんでした。結果的に90%以上の企業は1円も収益を上げることができず、メタバースの領域で失敗事例が多く積み上がってしまいました。

 

幸い我々はメタバースよりもっと大きな不可逆ともいえる「ゲームのSNS化」という10年単位のトレンドを捉えているため、ここ数年短期的なトレンドとは関係なく売上成長ができております。

 

そのため、まずは自分たちが後から参入してくる企業のためのモデルケースになる必要があると感じました。そのためには多様な業界での成功事例の創出が重要だと考え、現在の事業に力を入れています。

 

自分たちの事業があったことで、社会にどれだけの差分が生まれたか

仕事におけるこだわりを教えてください。

自分たちの事業があることで社会に差分が生まれる、後から振り返ってみたときにその差がどれだけのものになるかという視点は大切にしています。今の事業で言うと、メタバースの世界にいる人たちに「株式会社Vがあってよかった」と心から思ってもらえるようにするということです。

 

私はどんな領域で事業をやっても、ある程度は形にできる自信があります。けれどその事業が世の中に長く価値を提供し続けられるものかどうかは、全く別の話だと思っています。メタバースの事業というと最新技術にばかり目が行きがちなのですが、その本質は他の領域でも当たり前とされていること、つまり「価値の創造」なのです。

 

だからこそ私は、メタバースの領域で持続的に続く価値とは何かを常に考えて事業に取り組んでいます。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

コロナ禍でそれまでの事業計画をすべて白紙にせざるを得なかったことは、やはり自分の中で大きな試練でした。事業を立ち上げてちょうど波に乗っていたところに、コロナという外的要因で大きくストップをかけられたのです。

 

事業が成功しているときには称賛してくれていた人たちも、状況が変わると手のひらを返すように離れていってしまいます。そうなると誰も助けてはくれないのですから、自分で何とかするしかありません。そのときに、ちゃんと持続可能で収益を上げられる仕組みを作るという、ビジネスの本質に立ち返ることになったのです。

 

そうしてメタバース事業へピボットしたことをはじめ、あらゆる面で試行錯誤を続けた結果、現在弊社は2期連続で通期黒字化を達成しています。一般的にメタバース領域は収益化が難しいと言われてきた分、我々はそのような領域でも収益性の高いものを作る実力があるのだという自信が得られました。

 

意外だったのは、事業の失敗から這い上がっていったときに、投資家をはじめとした周囲の人たちから不思議なほど高く評価されたことです。起業家としては生命力が強いことも評価の対象になる、というのは面白い発見でした。

 

この世界に代替の効かない価値を提供したい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

すでにお話ししたように、「ちゃんと価値があるものを、自分たちの手で作りたい」という根源的な想いが、私のモチベーションです。そのためには形になるまでやり通さなくてはなりません。

 

これまですでに幾度も事業での失敗を経験してきました。資金が尽きたり、事業を立ち上げられなかったり、組織が崩壊してしまったりと、起業家あるあるな試練をいくつかくぐり抜けてきたつもりです。ただ、どれだけ苦境に追い込まれても私はそこから必ず盛り返してきました。

 

そこには常に「この世の中に代替の効かない価値を提供したい」という想いがあり、それが私の起業家としての生命力の強さにもつながっているのだと思います。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

これまでオフラインのサービスが次々にインターネットへと移行してきましたが、次は既存のインターネットサービスをメタバースの世界へと移行させることができます。私は今そこに非常に大きな可能性と面白さを感じているので、積極的に力を入れていきたいと考えています。

 

一例を挙げると、先日メタバースで「スーパーカジュアル面談」という採用イベントが地上波のニュースでも取り上げていただき世間で話題になりました。定員の7倍近い応募が殺到して途中で受付を停止したほどの反響があり、実際に内定者も出るなど大きな反響をいただきました。この採用活動も昔はオフラインで行われていて、それが少しずつインターネット上に移行していったのです。

 

このように、「メタバースありき」の施策ではなく「メタバースを活用することで既存のサービスよりもこういう部分で便利である」というものでないと持続可能な価値にはなりにくいと考えています。

 

オフラインからインターネットに置き換えられたものは、今度はメタバース上に置き換えができるのです。今のタイミングであればあらゆるサービスが焼き回しし放題ですから、この先3年くらいで各種サービスのメタバースへの移行を一気に進めていくつもりです。

 

そうやってメタバース領域で成功事例を築いていくことには、この業界をもっと活性化させたいという狙いもあります。我々が、他社にも模倣しやすい成功事例を数字付きで示せば、この領域に参入したいと考える企業はもっと増えるでしょう。

 

真似したいなと思っていただいた際はぜひお声がけください(笑)。そうやってマーケットの土壌を整えることが、メタバースの事業で連続収益化を達成している弊社の役割だと思っています。

 

売上や企業価値に関しても、誰から見ても国内ナンバーワンのところまで持っていくつもりです。

 

成否を決めるのは「市場選択」「タイミング」「参入角度」

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

正直なところ、事業の成否は「市場選択」「タイミング」「参入角度」にかかっています。起業家の努力が重要というイメージがあるかもしれませんが、現実には哀しいくらいにこの3つで決まってしまうなと感じています。

 

そのため、起業をするときには市場規模や既存プレイヤーについて調べ、定量的なデータに基づいて判断をした方が良いです。

 

「自分の好きなことで起業したい」あるいは「最初の市場規模は小さいが、事業を立ち上げたあとは、近接領域に手を広げて成長させたい」と考える人は多いのですが、これから起業したいという人たちにはそういった構想はほぼほぼその通りにならないと思っていた方がいいかなと思います。

 

まずは徹底した市場調査を行い、あくまでも客観的な判断を下すことが大切です。そのうえで、自分がどう生きたいのかという視点も重ねて最終的に起業を決めればよいのではないでしょうか。

求める人物像について教えてください

我々のチームには非常に優秀なメンバーが揃っているので、メタバースの領域に関心がある人が働くのには最高な環境ではないかと思っています。「メタバースの市場でトップを取りたい」という意欲がある人はいつでも大歓迎です。それを実現できる優秀な人たちと一緒に働きたいと興味を持っていただけましたら、ぜひ弊社に応募してもらえると嬉しいです。

 

適性として重視しているのは、メタバースの世界のユーザーカルチャーを理解している人、あるいはこれから興味を持って理解できそうな人です。あと何より重要なのは、自分で局面を変えていける力だと思っています。

 

そういう人は会社の中に自分のポジションを自ら作っていってくれると考えているので、現時点で求人を出しているポストに関わらず、常に積極的に採用しています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:藤原光汰 氏

AIレシピ提案アプリを開発するスタートアップを共同創業。その後、株式会社バンクにて即時買取アプリ「CASH」と後払い旅行サービス「TRAVEL Now」の立ち上げを担当。19年にメタバース支援の株式会社Vを創業し、VRChat・Robloxで国内最大級のコミュニティを運営。24年9月にソニーグループ/スクウェア・エニックス/伊藤忠商事等から資金調達を実施。メタバース/XR領域で事業拡大中。

 

企業情報

法人名

株式会社V

HP

https://v-inc.jp/

設立

2019年4月22日

事業内容

  • メタバース/VR/XR等の先端技術領域における事業支援・開発
  • 自社サービスの開発・運営

沿革

2019年4月

当社設立。

2019年11月

日経クロストレンド「未来の市場をつくる100社」に選出。

2020年8月

複数ゲームプラットフォームにて、コミュニティ運営を開始。

2021年4月

企業のプロモーション・事業収益化を目的としたゲームコミュニティ、コンテンツの制作事業を開始。

2023年8月

米 VRChat 社と公式パートナーシップを締結。日本企業の中でも先駆けてVRChatビジネスの本格伴走体制を構築。

2024年9月

日本ベンチャーキャピタル、ソニーグループ、スクウェア・エニックス・ホールディングス、伊藤忠商事、FFGベンチャービジネスパートナーズなどを引受先とする資金調達を実施。

2024年10月

5億人超のグローバルユーザーを抱えるメタバースプラットフォーム「ZEPETO」の日本公式開発パートナーに認定。

2025年1月

東京都主催のメタバース展示会「TOKYODIGICONX」のコンテストで2年連続となる優勝を果たす。

 

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