スマイルホーム株式会社 代表取締役社長 長谷 佳美 / 代表取締役 長谷 万衣良

 

2019年、不動産事業へのIT活用に向けて創業したスマイルホーム株式会社は、AIが住まい探しをサポートするサービス「スワイプホーム」の開発・提供に取り組んでいます。多言語対応により物件探しから入居後の相談までをサポートするサービスは、5月1日に限定公開されました。。代表取締役で親子でもある長谷氏らに、事業内容や今後の展望などについてお話を伺いました。

 

AIを活用し、国籍を問わずスムーズな物件探しを実現

事業の内容をお聞かせください

長谷 佳美氏(以下 佳美氏):AIを活用し、入居者の方と賃貸不動産事業者の方をマッチングするウェブアプリを開発しています。国籍にかかわらず、日本の企業で働く方や、最近では政府の施策でスタートアップビザが急速に普及しているため、それを保持する方々にもアプリを普及させていきたいと考えています。

 

既存のサービスにもAIの導入が増えていますが、生きている情報が少ないことや、重複した情報が多いことなどの課題があります。弊社のアプリはそのような情報を極力減らすことに努めています。

 

また、オープンAIの活用で入ってきた言語と同じ言語で返信することが可能なことも強みだと考えています。さらに、細かな情報については管理会社などでの勤務経験が長い方の知見を引き出してナレッジとしてAIに学習させています。

 

長谷 万衣良氏(以下 万衣良氏):ほかにも、我々のAIは物件のデータベースと直接繋がっているため、チャット内での質問をベースにAIが自動で物件をおすすめできます。「あなたの希望する条件だったら、この家はどうでしょうか?」と、物件探しをチャットのなかで完結できるのは、1つの特徴だと思います。

 

アプリの具体的な使い方を教えていただけますか?

佳美氏:AIと会話をし、その内容と最初に設定していただく検索条件、そしてデート・アプリで使用されるような「スワイプ」行動によって、AIが理想の物件をより早く探し出します。この一連の流れは、他の情報サイトと区別される当アプリの特徴だと思います。

 

万衣良氏:スワイプで出てくる情報は物件の写真がメインですが、スクロールすると簡単な情報も確認できます。より詳しく知りたい場合は、AIエージェントやリアルエージェントに繋がることもできます。

 

また、忙しい方は、ご自分で検索せずにAIに条件出しをしてレコメンドを出してもらうことも可能です。

 

物件探しを完結するまでのその後の流れも、当アプリを使用してAIの力を借りつつ進行することができます。言語の壁を抱える方にとっては、スムーズなコミュニケーションに繋がるメリットがあると考えています。

 

佳美氏:現在はテストトライアル中であり事業の登録数は12社程度ですが、リリースしてからは増えていくと予想しています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

佳美氏:もともと固定マインドがなく、「できないことはあまりないだろう」という考えが起業に至った要因だと考えます。

 

私は、サラリーマン時代に素材メーカーでマーケティングを担当していましたが、化学や物理のバックグラウンドが全くありませんでした。そのときに専門家にはない新鮮な目線を評価された経験が、先に示した考えに繋がったと考えています。

 

また、できないことに挑戦していったり、社会課題を見つけて解決したりする闘志が起業家スピリットだと考えているため、現在の事業はそれに思い切り挑戦した結果とも捉えられます。

 

特に、「不動産×AI」の大きなきっかけになったのは、2015年から不動産事業者のお手伝いをしたことです。

 

最初のクライアントがノマドワーカーのアメリカ人だったのですが、当時の日本ではそのような職業に馴染みがなかったために、その方は審査に3ヵ月落ち続けてホテル暮らしを余儀なくされていました。

 

銀行口座を見せて「毎月定収入がある」と説明しても審査の通らない状況を目の当たりにし、「困っている外国人を助けたい」と思うようになりました。

 

また、日本の不動産事業者のDX化は世界的にも遅れており、業務上の課題が多く見られていました。そこで、ITの力を借りることで外国人と不動産事業者の架け橋になることを決意しました。

 

自身の経験も生かし、ユーザー視点を大切にしたサービスを提供

仕事におけるこだわりを教えてください。

佳美氏:「ユーザーの視点を、最優先すること」です。

 

企業は歴史や実績があるとユーザー視点を忘れ、自分本位になってしまう危険があります。しかし、ユーザーの立場になって物事を考えることが社会課題解決につながると思うため、常にユーザー視点を心がけています。

 

また実績があるからこそ、自分本位の判断に陥るリスクもあり、そこに注意を払うことを常に意識しています。

 

ユーザーの立場に立って物事を考えることで、本質的なニーズに気づき、社会課題の解決にもつながると信じています。

 

この考え方は、私のこれまでのキャリアの中で自然と培われてきたものでもあります。サラリーマン時代は外資系企業に在籍しており、多国籍なチームの中で働いていました。異なる文化や価値観の中で対話し、理解を深めながら仕事を進める経験は、今の仕事においても大きな財産です。

 

特に、外国籍の方に対する不動産サポートでは、文化的背景やニーズをくみ取った提案ができることが強みとなっています。

 

相手の立場に立つこと。それが私の仕事における、何よりのこだわりです。

起業から今までの最大の壁を教えてください。

佳美氏:弊社のスタッフは2名の従業員と、業務委託の方を含めた9名で構成されています。自ら率先して動く方々が多いため、人材には非常に恵まれていると考えています。

 

私たちは当初、開発の専門知識や社内にプログラマーがいなかったため、外部のパートナーに力を借りながら進める必要がありました。試行錯誤の連続で、理想とするプロダクトの完成には時間がかかりましたが、その過程で多くの学びと気づきがありました。思い描く形を実現するために、何度も仕組みを見直しながら、粘り強く改善を重ねていきました。

 

この状況を打開すべく、代表取締役である娘にIT関連の学校で半年学んでもらうことにしました。その後、私も同じ学校で学び開発の基本を理解できるようになったため、現在は自身で「どのように進めているか」を確認できます。

 

現在は、完全内製化に向けた自社開発を行っています。

 

一歩を踏み出し続ける根源にある、お互いの存在

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

佳美氏:「自分が諦めたとき」が失敗だと考えているのですが、それは「諦めずに進み続けていれば、失敗にならない」とも取れます。諦めて失敗で終えてしまうのが悔しいと思う気持ちは、モチベーションの1つです。

 

また、娘の存在も大きいと思います。娘なりの夢もある中、私に懸けて創業以来手伝ってくれているため、「『ここまできた』といえる景色を見せてあげたい」という感情がモチベーションにつながっています。

 

万衣良氏:私も、母がモチベーションです。母はすごくプラス思考で、障壁があったとしても違う切り口で考えていく姿勢をとても尊敬しています。また、マインドに対する対応も早く、それが今回のピボットに繋がったと考えています。

 

母の前向きさを見ているとついて行きたくなりますし、「ここまで来たからには、見るべき景色を見よう」と思っています。

 

また、周りの方にもよく言われるのですが、母とは相性がよいのでお互い頑張れるのかなとも思います。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

佳美氏:海外の様々な地域にアライアンスを取ることができるような提携会社と仕事をしていきたいと考えています。現在は外国籍の方が家を借りる際に大変なことが多々ありますが、そういうものが一切ない世界を、「住まい」を中心に作っていきたいです。

 

また、私自身も海外で仕事や生活を経験しており、外国の方の好みが分かるため、いずれは外国の方の住環境に合う住まいも作っていきたいとも考えています。

 

さらに、高齢者の方のサポートも考えています。今まで住んでいた広い家を売り払い、便利な場所の賃貸物件に住みたいと考える方は増えていますが、60歳を超えると賃貸契約をするのが難しいケースも少なくありません。

 

しかし、高齢者の方々でも元気に過ごしているのが実態です。高齢者向けの看護つき賃貸住宅を実現するのも、今後の展望の1つです。

 

年齢に囚われず、後悔しない気持ちでまず実行を

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

佳美氏:決して諦めないことです。起業すると、トラブルに巻き込まれる可能性は高くなります。金銭面のトラブルだけでなく、対人関係による精神的な負担、ハラスメントなども起こりかねません。

 

トラブルに巻き込まれて心が折れる瞬間は多くありますが、私はそんなときに、いつも友人からもらった「行動しているからトラブルが起きる。何もしない人には、何も起こらない」という言葉を思い出します。

 

これを聞いてからは、トラブルが起きても悲観的にならず、行動を起こしているから周りが動き、トラブルはその一環に過ぎないと考えるようになりました。

 

また、私は年齢を重ねてから起業しましたが、それを踏まえて起業するのに年齢が遅いということはないと考えています。そのため、いま起業を検討している方も恐れず「やりたいことをやろう」と実行に移し、後悔しない人生を歩んで欲しいです。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:長谷佳美

サンフランシスコ州立大学大学院中国学科卒業後、企業向けPR制作会社を友人と共同経営。その後、米国化学メーカーでアジア7か国のマーケティングを担当し、マーケティングエクセレンス賞や社長賞を受賞。2015年に退職し、不動産コンサルタントを開業。2019年にIT事業を展開するスマイルホーム株式会社を設立し、現在に至る。一男一女のシングルマザー。

 

企業情報

 

法人名

スマイルホーム株式会社

HP

https://jp.smilehome.tokyo/

設立

2019年

事業内容

不動産事業者向けSaaS、AI物件検索、多言語対応、仲介業務支援、入居サポート、民泊・旅館業管理など

問い合わせ

info@smilehome.tokyo

 

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