株式会社MiL 代表 杉岡 侑也

一般的な商品に比べて高価格帯ながらも、多くの子育て世帯から支持を集めている赤ちゃんからの食育ブランド「the kindest(カインデスト)」を展開する株式会社MiL。その理由は、同社が大切にする「Well-being」の理念にありました。すべての人のより豊かな毎日、そして「食」の市場全体の持続可能な発展に目を向ける代表の杉岡侑也氏に、事業へのこだわりや今後の展望をお伺いました。

「食」の市場全体を考える、子育て家族向け食育ブランド

事業の内容をお聞かせください

私たちは、子育て家族向けのライフスタイルブランド「the kindest(カインデスト)」を展開しています。食を中心とした子育て情報を自社メディアで発信しながら、ご家庭での食育を専門家がサポートするプログラムも提供しています。

 

また、離乳食をはじめとする子ども向けの食品も開発・販売しています。単なる食品としてではなく、子どもの発育と共にある悩みと伴奏するコンテンツと組み合わせて「より良い食体験を実現するサービス」として届けているのが特徴です。

 

子どもたちには、素材そのものの美味しさをしっかり味わってほしいと考え、味覚の発達段階に合わせて、管理栄養士、小児科医とともに企画を行い、工場とともに商品化まで時間をかけて開発します。そのため、商品によってはスーパーで売られているものの3〜4倍の価格になることもあります。

 

もちろんこの価格が決して安くはないことは理解していますが、それには理由があります。上記のような、美味しさや発育にとって最高とは何かを突き詰めることに加え、離乳食で使う鯛は、漁港から直接仕入れており、伝統産業を守るためにも、生産者が適正に収入を得られる価格で買い取る必要があると考えています。

 

過度な価格競争によって「食」に関わるあらゆる人たちの環境が厳しくなってきた現状を変えていくため私たちは「持続可能な食の仕組み」を大切にしながら、エシカルな観点から事業を進めています。

 

子どもが生まれるという人生の大きな転機に、ウェルネスについてよく考えるきっかけを作りたい。さらに、「これからの社会をどうしていきたいか」を考えるきっかけを届けることにもなればと思っています。

 

また、子育てに関する情報は流行に左右されにくく、継続的に価値を届けられる分野でもあります。自社メディアを通じて、ご家庭としっかりした関係性を築けており、現在も安定した売上を維持できています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

今の事業を始める前は、人材業界で働く人のキャリア支援や、より良い働き方をサポートする事業をしていました。「誰もが幸せに働ける社会をつくりたい」という想いが原点でした。

 

そんな中、私が26歳のときに、大手企業で起きた過労死のニュースが世間に大きな衝撃を与え、「働き方改革」という言葉が広まりました。社会全体がようやく本気でこの問題に向き合い始めたと感じたとき、自分が果たす前に、別の形で社会が変化したと思い、さらに深い課題に向き合うことを決めました。

 

次に取り組みたいと思ったのは、「どう生きていくのか」というもっと根本的な問いに向き合うことでした。今でこそ「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉が広く使われていますが、当時はまだあまり知られていませんでした。私は直感的に、それこそが自分のやるべき仕事だと感じていたのだと思います。

 

そんなときにヒントをくれたのが、保育士である妻の言葉でした。彼女は「人は子どもを持つと価値観が大きく変わる」と話してくれたのです。

 

たしかに、親になると「この子のために、もっと良い社会にしたい」と自然に考え方が変わります。その転機に寄り添うことで、人生や社会の在り方について深く考えるきっかけを届けられるのではと考えるようになりました。

 

はじめから「食」に注目していたわけではありませんが、毎日何度も訪れる「食事の時間」こそ、人の心や暮らしに大きな影響を与えるものです。だからこそ、日常の中に自然とウェルビーイングを感じられる仕組みを作ろうと思い、この事業を立ち上げました。

食事はWell-being実現のための1つの手段

仕事におけるこだわりを教えてください。

私たちは食品を扱う会社として、素材の良さや品質には当然こだわっています。でも、それ以上に大切にしているのが「Well-being(ウェルビーイング)」という考え方です。

 

私が考えるWell-beingには、大きく2つのポイントがあります。1つは、「日常の何気ない感動に気づけること」。特別な出来事がなくても、毎日の中には感動できる瞬間がたくさんあります。

 

たとえば、炊きたてのご飯の香りをふっと感じたり、丁寧に作られた料理の味にほっとしたり。そんな小さな感動を大切にできることこそ、豊かな人生につながると思っています。

 

もう1つは、「やりがいを持って何かに夢中になれること」です。何かに心を動かされ、それにのめり込んでいる状態もまたWell-beingです。

 

そして、そういった感情に気づけるようになるには、心と体が健康であることが欠かせません。だから私たちは、食の力で人々の健康を支え、Well-beingを感じられる土台づくりをしていきたいと考えています。

 

そして、感動ややりがいを見つけた人は、その体験を周りの人にも伝えたくなります。そうやって豊かな生き方が広がっていけば、子どもたちの未来の行動にも良い影響を与え、やがて社会全体も少しずつ良くなっていくはずです。

 

私たちは「食」の先にある、そんな長期的な価値や変化を見据えて、日々の仕事に取り組んでいます。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

今の事業について言えば、実は「これが最大の壁だった」と言えるような出来事はあまり覚えていません。

 

「学歴も実績も目立たない自分にとって、最初の起業こそが一番の壁だったのでは?」と思われるかもしれませんが、実はそのときもそれほど大きなリスクを感じてはいませんでした。

 

というのも、何かをすでに手にしている人ほど、それを失うことへの不安が大きいと思います。若い頃から高い学歴やキャリアを築いてきた人は、チャレンジによってそれを失うリスクを感じやすい。

 

でも当時の私には、まだ失うものがなかった。だからこそ、リスクを恐れずに起業できたのだと思います。もしも私に立派な肩書きやキャリアがあったら、逆に起業という選択はしなかったかもしれません。

何のバックグラウンドも無いからこそ、大企業と協働できる

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

他の人にとってはただのリスクに見えるようなことでも、自分にとって「面白い!」と感じられる瞬間があります。そして、「たとえ何かを犠牲にしてでもやりたい」と心から思えることこそが、自分の原動力になっていると感じます。

 

最近特に心が動いたのは、ある大手食品企業と出資・提携のご縁をいただいたときでした。

 

その企業は100年以上の歴史を持ち、何千億円もの資本を持つような、いわば日本を代表する企業です。こうした企業とご一緒する中で、改めて大企業の持つ知見や姿勢に対して、深い尊敬の念を抱きました。

 

同時に、「この資本や技術、研究の成果(シーズ)を活かして、まだ世の中にない新しい価値を生み出せるのではないか」と強く感じたのです。大企業が持っているシーズには、日本人の食生活全体を変える力がある。でも通常、こういった情報に外部からアクセスするのは非常に難しい。ましてやスタートアップならなおさらです。

 

ところが私は、もともと食品業界とは無縁のところから飛び込んできた人間です。何の前提知識も業界しがらみもないからこそ、逆に大企業にとって相談しやすい存在になれる可能性があります。そんな自分だからこそ見える価値があり、それを形にできたときに大きな意味があると感じています。

 

「これは自分にしかできない仕事だ」と思えるとき、私のモチベーションは一気に高まります。そうした瞬間を追い続けているのだと思います。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

私たちは現在、日本国内でこれから子どもが生まれる家庭のおよそ10%の方々に、離乳食や食育プログラム、自社メディアなどのサービスをご利用いただいています。

 

まだ限られた範囲ではありますが、その層にとっては“なくてはならない存在”として少しずつ定着し始めていると感じています。

 

たとえば、何か新しい商品やサービスを「子育て世帯に届けたい」と考えたときに、「the kindest」を通すことで、より効果的に届けられる—そんな未来がもうすぐそこまで来ていると思っています。

 

今後は、子育て世帯へのアプローチを考える企業と積極的に連携し、一緒に価値を届けていけるような取り組みも増やしていきたいと考えています。

 

もちろん、各社が自分たちのビジネスをそれぞれに進めることもできますが、同じ子育て層を支えたいという想いを持つ企業同士が手を組めば、より多くのご家庭のWell-beingに貢献できると信じています。

 

そうした企業連携を通じて、まずは国内での事業展開をさらに広げていきますが、その先には海外展開も視野に入れています。日本の「食」は世界から非常に高い評価を受けており、その品質やこだわりは大きな強みです。

 

私たちの取り組みをグローバルにも広げ、海外でも「the kindest」の価値を届けていきたいと思っています。この海外展開については、できるだけ早い段階で実現させたいと考えています。

起業の陰の部分にも目を向ける覚悟を

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業を考えている方に、もし「なんとなく」や「ちょっと試してみようかな」といった軽い気持ちで起業を考えているのであれば、正直しんどいので別の道をお勧めします。

 

表に出てくる成功者はキラキラと見えるかもしれませんが、その裏では多くの人が挑戦し、悩み、そして挫折しています。でも私は、特に若いうちは、時間とお金を使っていろんなことに挑戦し、自分の感性や視野を広げることが何より大切だと思っています。

 

そうして「これだけは絶対にやりたい」と心から思えるものに出会ったとき、その想いを原動力にして起業するのが一番良いタイミングです。そしてその時には、ぜひ強い覚悟を持って臨んでほしいと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:杉岡 侑也氏

大学受験に失敗し5年間フリーター。人生どん底から、環境に恵まれ社会人として復活した経験より、”人の可能性は無限大” を証明するため起業。2016年にコーチングを通した大学生のキャリア支援を行う株式会社Beyond Cafeを創業。2018年には2社目となる、中小企業支援、非大卒者のキャリア支援を行う株式会社ZERO TALENTを創業。数多くファウンダーとして事業の立上げを経験する中で、人の可能性を突き詰めるためには、身体と心のパフォーマンスを最大化させる重要性を痛感。その想いから、2018年、妻とシェフの3人でフード×ヘルスケアスタートアップ株式会社MiLを創業。

企業情報

法人名

株式会社MiL

HP

https://mil-inc.com/

設立

2018年1月11日

事業内容

ライフスタイルD2Cブランド ライフスタイルメディア OEM/ブランド立ち上げ支援

 

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