【#000】デジタルアダプションの力で、日本のDXに“実装力”を｜代表取締役　井無田 仲（テックタッチ株式会社）

テックタッチ株式会社　代表取締役　井無田 仲

テックタッチ株式会社は、ノーコードでWebシステムの画面上に操作ガイドを作成・実装できるサービスを提供しています。主力サービスである「テックタッチ」は、企業のシステム導入・定着における課題を解決し、現場起点のDX推進を加速させています。、大企業からの依頼も多く、その実力は高く評価されています。代表取締役の井無田 仲氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

“使われるDX”へ ─現場と経営の橋渡しをするデジタルアダプションプラットフォーム

事業の内容をお聞かせください

デジタルアダプションプラットフォーム（DAP）と呼ばれる領域のサービスを提供しています。

世の中には様々なシステムがありますが、複雑で使いづらかったり、何から始めればいいかわからなかったりという悩みがあります。

現在、DX化の波により、企業が新しいシステムを導入するサイクルが早まっています。一方で、最新のソリューションを導入しようとしても現場で使いこなせずにDXがうまく進まないといった定着支援の課題を多くの企業が抱えています。

詳細はこちら。

そこで私たちは、現場の方々がシステムの使い方に迷ってもリアルタイムで自己解決できるよう、Webシステムの画面上に操作ガイドや吹き出しといったポップアップ機能を出せるような仕組みを提供しています。

これが当社の主力サービスである「テックタッチ」です。

最近では、AIを活用した業務支援やデータ活用機能も提供し始めました。より業務効率化や意思決定の高度化を実現するソリューションへと発展させています。

また、DAP以外にも最新のサービスとしてデータ戦略AIエージェント「AI Central Voice」があります。これは企業内の顧客の声や従業員のフィードバック、営業日報などの定性情報をAIで分析・活用するサービスです。

データ分析・戦略活用に特化することでAIの精度を高め、業務改善に役立つ具体的な示唆を提供し、意思決定をサポートするソリューションです。

日本企業におけるDX推進では、もう一つの大きな壁として「経営層と現場の意識の乖離」が挙げられます。特に大企業では、CxOがDXの活用方法やメリットを十分に理解できておらず、トップダウンでの導入が先行しがちです。

しかし、日本の企業文化は現場主義であるため、「目的が見えない取り組み」に対して現場が納得せず、結果として反発や形骸化につながることも少なくありません。

そのような中で、私たちは2つのパターンで支援しています。

1つは現場のユーザーの方々の業務を効率化させること。もう1つは、企業の中でデジタルを使って変革を進めようとしている推進者の方をサポートすること。

この両軸で支援することで、DXの成功確率を高めることに貢献したいと日々事業に取り組んでいます。

テックタッチを活用した具体的な成果・使用例を教えていただけますか？

経費精算や申請業務など、社内システムの入力ミスや不備が原因で差し戻しが頻発するという課題は、多くの企業に共通しています。

特に入力ルールが煩雑な場合、現場では正しい操作が分からず、経理部門や管理部門とのやり取りが繰り返されて業務負荷が高まります。

「テックタッチ」は、各社固有の運用ルールに沿って、入力画面上に適切なガイドや注意喚起を柔軟に設計できるため、申請者の迷いやミスを未然に防ぐことが可能です。

ある大手企業では、導入前に課題となっていた申請の差し戻し率が約80％も削減されました。現場での入力精度が向上したことで、申請から承認までのリードタイムも短縮され、業務全体の効率化につながっています。

他社にはない貴社の強みを教えてください

「テックタッチ」では、主に2つあると思っています。

1つ目は「日本のビジネス慣行に寄り添った製品設計」です。

日本企業では海外と違って、事業会社の中にエンジニアがいないことが多いため、ITの専門知識がなくとも使えるシンプルなUIを提供しています。

海外のパッケージシステムは機能が豊富な一方、操作が複雑な製品が多いのですが、テックタッチは非IT部門の方でも抵抗なく使える設計にしています。

2つ目は「深い業務知識に基づくサポート体制」です。

システム導入支援だけではなく、お客様の業務課題を特定し、コンサルティングから実装、活用まで支援しています。

様々なお客様と幅広い業務領域で実績を積み重ねてきたことで、財務や調達など各領域での専門的知見を活かしたアドバイスが可能です。

「AI Central Voice」の強みは、従来のAIでは困難だった分析精度と実用性の両立を実現している点です。

30種類以上の独自前処理モジュールを開発しており、顧客の声や従業員のフィードバック、営業日報などのテキストデータを高精度に整理・分析し、意思決定に直結する具体的な示唆を導き出すことができます。

また業界特化の学習モデルと多段階にわたる最適化を行い、企業ごとにオーダーメイドでのご提供も可能です。

事業を始めた経緯をお伺いできますか？

もともと私は金融業界に身を置いていました。

とても素晴らしい仕事ではあったのですが、世の中に新しい価値を届けているという実感を個人的に持ちづらく、また規制産業であるがゆえに、『会社のために人がいる』という構造に、どこか違和感がありました。

『人のために会社がある』という組織や事業のあり方に興味を持ったことが、起業を考える大きなきっかけでした。

お客様が実現したい世界を徹底的にサポートする

仕事におけるこだわりを教えてください。

課題にしっかり向き合い、解決策を出すことを大切にしています。これはプロダクト開発の面でもそうですし、社内の施策についても同様で、あらゆる場面で課題解決を重視しています。

日本のDXや日本企業のためという目標は最終的にはありますが、目の前にいるお客様がモチベーションになっています。私たちが何より大切にしているのは、「お客様が実現したい世界」を支援することです。

そういった意味でも、「お客様ファースト」であること、そして「課題解決を最優先にする姿勢」は、私たちの事業の根幹であり、決してぶれない価値観だと考えています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

最も困難だったのは、「市場そのものを創ること」でした。

当社が取り組んでいるのは、いわゆるブルーオーシャン領域であり、従来には存在しなかった概念や価値を提供しています。

その利点は明確で、既存の差別化競争に巻き込まれることなく、本質的な課題解決の価値をお客様に直接届けられる点にあります。

市場に新たな驚きや納得感を提供できることは、非常にやりがいのある取り組みです。

一方で、このアプローチには大きな挑戦も伴います。前例のない領域ゆえに、お客様が価値を理解し、導入を判断するまでに時間を要するのです。

とりわけ日本企業は事例重視の文化が根強く、常に「他社での導入実績は？」という問いがついて回ります。

創業から7年が経ちましたが、市場全体の認知が確立されるまでには、少なくとも10年近い時間軸が必要だと実感しています。

プロダクトの効果は数値として明確に表れており、顧客満足度も高い。それでもなお、組織として導入判断に至るまでには、想像以上に多くの壁が存在していました。

世の中にはない新しいサービスを生み出し続ける

進み続けるモチベーションは何でしょうか？

一番大きいのは、お客様の存在です。

新しいプロダクトを世に出したときに、それを喜んでくれるお客様がいる。そうした声に触れるたびに、『やってよかった』と思えますし、それが自分の大きなモチベーションになっています。

テックタッチのサービスは、事業としての収益基盤が徐々に整い、ようやく次のチャレンジに踏み出せるフェーズに入りつつあります。今後は、新たなプロダクトの開発にも本格的に取り組み、さらなる価値提供をめざしていきます。

次なる目標は、「新たなプロダクトを生み出し続ける会社」になることです。すでにお客様の基盤があり、安定した収益構造も整い、優秀な仲間も集まってきています。

今のフェーズは、まさに次のステージへの挑戦を楽しめる、とても面白い時期だと実感しています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください　

大手企業と共に事業を進める機会に恵まれてきたスタートアップとして、私たちはこのポジションに強い責任感と可能性を感じています。

加えて、創業以来こだわってきた“ブルーオーシャン”志向を大切にしながら、AI領域においても新しい価値を生み出していきたいと考えています。

AIを活用したビジネスには、技術的にも運用面でも多くのチャレンジがあります。

汎用性を重視すれば精度に課題が生じやすく、一方で特化型に振り切ると、非常に人的リソースに依存したモデルになりがちです。

私たちは、そうした両極の間にある新たなアプローチを模索し、再現性と柔軟性を両立させたソリューションを生み出すことに挑戦しています。

誰もが使いやすく、かつ業務現場で本当に役立つAIの形を、実践を通じて追求していきたいと思っています。

採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか？

当社は第2創業期に入ろうとしています。これからは複数の事業展開をしていく予定です。

そのような時に最も大切なのは、情熱とチャレンジ精神です。特に、私たちはAIのビジネスを展開しようとしているので、AIに興味がある人、好奇心旺盛な人に来ていただきたいです。

また、AIの分野は若い世代の感性や柔軟な発想が存分に力を発揮できる領域だと感じています。特に、好奇心や行動力、そして思考の鋭さといった資質が、そのまま成果につながりやすいのがこの世界の特徴です。

AIに関心があり、未知の課題にも前向きに挑んでみたいという方々に、ぜひ仲間に加わっていただけたら嬉しいです。

起業して成功することがゴール

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

今は起業家にとって追い風しかないタイミングです。

AIという基盤技術の進化は、今まさに社会や産業の構造そのものを大きく塗り替えようとしています。

かつてスマートフォンの登場がFacebookやTwitter（現：X）のような新たな大企業を生み出したように、今はAIをきっかけに次の時代を代表する企業が生まれる転換点にあると感じています。

起業という道は、決して平坦ではありません。

ある地点まで突き抜けるには粘り強さと強い意志が求められますが、確実にチャンスはあります。自らの力で事業を築き、成長を重ねていくなかでしか見えない風景が確かに存在します。興味がある人は是非挑戦してほしいです。

新しい時代の可能性に挑むことは、きっと人生にとってかけがえのない経験になるはずです。

本日は貴重なお話をありがとうございました！

起業家データ：井無田 仲氏

慶應義塾大学法学部、コロンビア大学MBA卒。


新生銀行、ドイツ証券などで投資銀行業務に従事、上場企業の資金調達/M&A案件を数多く手がける。

その後入社したユナイテッド社では、アプリ事業責任者、米国子会社代表としてアプリサービスのグロース/スケールを経験。

フリーランスを経て、2018年3月にテックタッチを日比野と共同創業。楽しい未来を創るために日々奔走中。

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