
株式会社SAMANSA 代表取締役 岩永 祐一
株式会社SAMANSAは、ショート映画に特化したサブスクリプション型配信サービスを提供しています。世界中から厳選した約500本の作品と自社制作コンテンツを通じて、短時間で人生を豊かにする体験を届けています。韓国・タイ・インドネシア・アメリカにも展開し、才能あるクリエイターの発掘とフェアな契約形態で業界に新風を吹き込んでいます。代表取締役の岩永 祐一氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
人生を豊かにするショート映画配信プラットフォーム
事業の内容をお聞かせください
10分程度で完結する映画のみを配信するサブスクリプション型のプラットフォーム「SAMANSA(サマンサ)」を運営しています。
現在、プラットフォーム上には約500本の作品があります。短編ならではの特性として、サスペンスやホラーの人気が高いです。基本的には映画作品がメインですが、ドラマやドキュメンタリーも少しあります。
作品選びでは、ストーリーに起承転結があるか、最初の1分で最後まで見たくなる引きがあるか、演出面やクオリティの高さなどを厳しく見ています。作品は、クリエイターからの応募もありますが、私たちから積極的に良い作品を探して声をかけることもあります。
ユーザー層は20代が6割、30代が2割ほどで、やや男性が多いです。英語作品が多いので、海外の社会問題に興味がある方や、芸術系に関心のある方、サブカルが好きな方などが多い印象です。
また、SAMANSAでは、見ることで何か学べたり、世界を知ったり、人間として成長できる作品の提供を目指しています。お客様も「ショート動画で時間を無駄にするのではなく、SAMANSAだと有意義な時間を過ごせる」といった声をよく聞きます。
また、海外展開も行っており、現在は韓国、タイ、インドネシア、アメリカに進出しています。アメリカで成功したら、他の英語圏やヨーロッパ、それからアジアではインドやベトナムなど、さらに多くの国々に広げていきたいと考えています。
月20本以上配信しているそうですが、制作から配信までの流れを教えていただけますか?
基本的には全て社内のメンバーで取り組んでいます。日本語と英語の翻訳だけでなく、予告や切り抜きの制作、各SNSへの配信まで、社内のメンバーがすべて担当しています。
作品が決定してから実際に配信されるまでは、約1〜2ヶ月で、2025年の春からは月に20〜30本の新作を配信予定です。
それに加え、2024年からは自社制作も始めています。現在完成しているのは4本で、これから制作が決まっているものが10本程度あります。
大手サービスは幅広い層に受け入れられる作品を重視する傾向があるため、SAMANSAだからこそ取り組めるテーマを扱うことで差別化を図っています。クリエイターと企画や脚本を集め、その中から私たちが「これは面白そうだな」と思うものを選んで作っていくといった流れです。
また当社では、世の中に出てきていない若い才能や、世界でまだ注目を浴びていないけれど才能のあるクリエイターを積極的に探しに行っています。芸能事務所の方が町で声をかけてスカウトするような作業を、私たちもしています。
クリエイターとの契約は、再生数ではなく1年間の版権料として一括でお支払いをしています。これは業界では珍しい形態で、一般的には再生数に応じた支払いが多いのですが、そうすると収入が安定しないことが多いです。そのため、クリエイター側に寄り添った契約形態にしています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
元々映画が好きで、高校生の頃から趣味で映像作品を作っていました。新卒では人材業界で営業職をしていたのですが、「いつか映像をやりたい」と思っていたので、退社したタイミングで渡米し、本格的に映画を学びました。
また、曾祖父が地元で映画の配給や、映画館の経営をしており、子どもの頃から映画が身近にありました。チャップリンのビデオが家にあったり、曾祖父が西部劇をよく見ていたりという環境で育ちました。
アメリカの映画学校を卒業後は、自分で監督をしていました。日本とアメリカを行き来しながら仕事をする中で、第一線で活躍している日本のクリエイターや監督でも「日本では環境的にいい映画が作れない」という話をよく聞きました。そこで、日本の映画業界をより良くできないかと思ったのが、起業するきっかけです。
ショート映画に特化した理由は、アメリカの映画学校で学んでいた時に、世の中に面白いショート映画が多いにも関わらず、見る方法がないと感じたからです。特に日本では全くありませんでした。また、TikTokなどが普及して若い人が短い動画を見るようになり、映画も短いものが受け入れられる時代がくると感じました。
出社時間もなし。自由な働き方を提供。
仕事におけるこだわりを教えてください。
こだわりは特にありません。「こうでなければならない」という固定観念も一切ないです。もちろん、お客様に提供するサービスの質には徹底的にこだわりますが、仕事の進め方に関する譲れない軸は特にないです。
むしろ、チームメンバーには自由に働いてほしいという考えを大切にしています。当社は決まった出社時間もなく、いつ仕事をしても、どんな方法で取り組んでもいいといった環境を整えています。
今後、事業がさらに成長するに従って、現在のやり方だけでは対応できなくなるでしょうから、変化が必要になると思います。しかし今は、自由な働き方を大切にしています。そう考えると、「自由であること」が私の唯一のこだわりかもしれません。
起業から今までの最大の壁を教えてください
1番インパクトがあったのが、2023年のYouTubeの仕様変更です。それまでの約1年間、当社ではYouTubeショートに集中して作品をバズらせていました。YouTubeショートに特化していた理由は、一番流入が見込めるプラットフォームだったからです。
それまではYouTube Shortsに上げていた予告編のコメント欄にに「こちらから続きを見れます」というURLを貼れていたのですが、突然できなくなってしまいました。たとえバズっても、サービスへの誘導ができなくなり、有料会員数も大幅に減少しました。この時は、非常に落ち込みましたし「もう終わった」と思いました。
この経験から、1つのプラットフォームに依存することのリスクを学びました。現在はInstagram、YouTube、X、TikTokなど複数のSNSでバズらせる戦略に切り替え、それぞれの特性に合わせて映像も調整しています。
さらに、航空機内での上映や、サブスクリプション以外のコンテンツ配給も開始しました。海外展開も同じ理由で取り組んでいます。日本市場だけでなく、アメリカでもバズるように配給戦略を立てています。
現在の流入元はさまざまで、この半年はXが好調です。安定的に流入があるのはInstagramで、動画によってはTikTokが一番といった場合もあります。
「他では見られないもの」を届ける
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
お客様からの評価です。
スタートアップとして資金調達をしていく中で、ほとんどの投資家からは「ショートフィルムのサービスが本当に伸びるのか」と疑問視されることがあります。
それでも継続できているのは、お客様が「SAMANSAが好き」「作品がいい」と言ってくれてるからです。良いものを提供していることには確信があるので、SAMANSAをさらに多くの人に広げていきたいという思いがモチベーションになっています。
お客様から声を聞く機会としては、上映イベントやアンケートなどがあります。また最近もユーザーアンケートとヒアリングを実施しました。Xに投稿されている感想を確認することもあります。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
グローバル展開です。特にアメリカでの展開に力を入れていく予定で、海外でしっかりと成功実績を作りたいと考えています。
もう1つは、オリジナル制作の強化で、本格的に取り組んでいく予定です。日本発のサービスでありながら、グローバルに受け入れられるコンテンツを作ることが、野望の一つです。
海外の類似サービスとの最大の違いは、コンテンツの独自性にあります。他のプラットフォームは主に配給会社からの買い付けに頼っているため、結果的に似たようなコンテンツになりがちです。
私たちのサービスが成長している最大の理由は、「SAMANSAにしかないもの」「他では見られないもの」を提供できているからだと思います。この独自性が私たちの強みであり、今後のグローバル展開とオリジナルコンテンツ制作の両面で発展させていきたいと考えています。
SAMANSAの映画作品はどのような方におすすめですか?
クリエイターの自由な表現に興味を持つすべての方に見ていただきたいです。
大作映画や長編作品と、SAMANSAにあるような短編作品の大きな違いは、制作の自由度にあります。大作映画は多くの場合、先に企画があって、プロデューサーが「この作品ならこの監督」とアサインする形で進みます。つまり「職業監督」としての側面が強いのです。
一方、SAMANSAで扱っている短編作品は予算も少なく時間も短いからこそ、監督が本当に作りたいものを自由に作れるといった特徴があります。一見するとわかりにくいけれど、監督が本当に表現したかったものが詰まった作品が多いです。クリエイターの自由度が非常に高く、表現の自由や作り手のメッセージ性が強く込められているのがショート映画の魅力です。
自分にしか実現できないことに挑戦する
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
私は高校生の頃から漠然と起業に興味を持っていましたが、行動に移しませんでした。それは、やりたいことがはっきりとは見つからなかったからです。何か明確なビジョンがないと成功しない予感がしました。
起業を目指す人には2つのタイプがあると思います。1つは、スタートアップを成功させるために最適な分野を戦略的に選ぶ人。もう1つは私のように、「映画しかない」と最初から対象が決まっている人です。
後者のタイプであれば、自分の好きなこと、一生をかけられることをまず見つけてください。それさえあれば何とかなります。自分が本当に納得できるもの、自分でなければ実現できないものを見つけることが何よりも大切です。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:岩永 祐一氏
慶應義塾大学 理工学部出身。大学卒業後はリクルート、Crevoでの勤務を経て、渡米。UCLA EXTENSIONにて映画演出を学び、帰国後はフリーランスの映像ディレクターとしても活動する。2021年にSAMANSAを創業。
企業情報
法人名 |
株式会社SAMANSA |
HP |
|
設立 |
2021年4月2日 |
事業内容 |
映画の企画、制作、配給及び配信 |
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