
株式会社MESON CEO 小林 佑樹
株式会社MESONは、空間コンピューティング技術を活用した企業のプロダクト開発事業を行っています。直近では3Dプレゼンテーションツール「Immersive Pitch」をリリース。不動産や大型機器など実物の持ち込みが難しい商材のBtoB営業において、立体表示による理解促進と販売期間短縮を実現しています。CEOの小林 佑樹氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
空間コンピューティング技術で企業の可能性を拡大
事業の内容をお聞かせください
Apple Vision Pro(以下Vision Pro)などのデバイスを中心とした、空間コンピューティングのアプリケーション開発を主に行っています。
空間コンピューティングは、現実世界にデジタル情報を融合させ、その相互作用によって新しい体験を生み出す技術です。例えば、現実世界にバーチャルキャラクターを表示させたり、机の上にゲームを表示させてボードゲームのようなゲームをしたりと、さまざまな体験を可能にします。
現在の主要事業は、企業との共同研究や新規事業開発です。空間コンピューティングデバイスを活用した事業機会の拡大や、デバイス普及後の事業展開について、企業と一緒に研究開発を進めています。
また最近では「Immersive Pitch」という次世代3Dプレゼンテーションツールをリリースしました。不動産や自動車、大型機器などのBtoB営業において、実物を持ち込めないが故に商材の魅力を伝えきれないといった課題を解決するツールです。
商品を目の前に立体表示したり、内部構造をアニメーションで見せることで、顧客の理解促進と心を揺さぶる演出を可能にし、販売のリード期間の短縮に貢献します。
当社の強みは、単なるアプリケーション開発だけでなく、クライアント企業の事業理解に基づいた伴走型のパートナーシップです。スマートフォンの登場でPC中心のビジネスモデルが変化したように、新しいデバイスの普及は事業構造に大きな影響を与えます。変革期において、企業の未来に向けた事業提案ができることを価値として提供しています。
▼Immersive Pitch の参考動画はこちら
企業ではどのように活用されていますか?
「Immersive Pitch」は今年3月に正式リリースしたため、まだ本格導入の実績はありませんが、導入の一歩手前まで進んでいる企業が複数あります。
1つの例として、まだ建設途中のエンターテインメント施設での導入のご相談を頂いております。その企業様は来年に新たに大規模な商業施設を建設予定ですが、まだ建物は存在しません。そのため、スポンサー企業を募る際に、未完成のビルの中でどのようにロゴが掲示され、来場者からどう見えるかを効果的に訴求することが課題でした。
そこで当社の技術を活用し、「実際にこのエンターテインメント施設が完成したら、来場者はこのような体験ができます」「施設の中で来場者はあなたの企業ロゴをこのように見られます」というように、まだ完成前の施設にスポンサー候補のお客様を擬似案内することが可能です。こうすることで、スポンサー候補企業の理解と納得を得やすくなります。
大型の製品やプロジェクトは先行投資が必要であり、実物がない段階で営業活動を行わなければならないケースが多いです。そうした状況で、商品の魅力を効果的に伝え、疑似的な体験を提供することで法人営業の成功確率を高められます。
他社との差別化ポイントについて教えてください
差別化ポイントは2つあります。
1つ目は、単純な受託開発ではなく、お客様と一緒に未来構想や事業創造を行う「伴走型」のアプローチです。
空間コンピューティングは新しい技術のため、多くの企業は何ができるのか、未来がどうなるのかわからない状況です。アプリケーションの仕様だけを指定して作っても、その価値や使い方がわからないといったことになりかねません。そのため、私たちは一度作ってみて、それをもとに壁打ちするといった双方向のコミュニケーションを大切にしています。
2つ目は、3D空間での体験設計や情報の見せ方に関するナレッジの蓄積です。
2Dの紙やスクリーンであれば、上から下へ、左から右へといった情報整理の常識がありますが、3D空間では全く異なります。視聴者の後ろに情報を表示すれば見逃される可能性がありますし、重要な情報を表示している時に視聴者が別の方向を見てしまえば理解できなくなります。
視線誘導の方法や、インタラクションを促す工夫など、3Dユーザー体験のデザインについて、私たちは2017年から業界に携わり、重要なナレッジを蓄積してきました。この経験があるからこそ、3D体験の価値をお客様に効果的に訴求できる点が、他社との大きな違いだと考えています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
2017年にAppleがARKitという技術を発表したことが、起業するきっかけでした。その技術を見た時に「この技術は世界を変える」と感じ、可能性に賭けようと思ったのです。
私は理工系の大学・大学院で学び、プログラミングを長く行ってきました。学生時代、さまざまなWebアプリケーションなどを開発していましたが、一定の限界があると感じていました。スマートフォンに慣れている人は操作できても、私の親のようにデジタル機器に不慣れな人には、自由にアプリケーションを使ってもらうことは難しいと思っていたのです。
しかし、ARKitのデモで、iPadやiPhoneをかざすと画面を超えて机の上にストーリーが展開されているのを見て可能性を感じました。これが将来的に眼鏡型のデバイスになれば、私たちがまるで現実世界のモノを扱うように自然にデジタルサービスに触れられるようになると考えました。
デジタルに慣れていない人たちでもサービスを利用できるようになり、デジタルの恩恵を受けられるようになります。また、私たち作り手側も、より自由な表現やサービス設計ができるようになるといった可能性を感じました。
▼Apple ARKit発表時のデモ動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=S14AVwaBF-Y
人々の考え方や価値観に変化をもたらす
仕事におけるこだわりを教えてください。
MESONは「人々のまなざしを拡げる」というパーパスを掲げています。これは人々の現実世界に対する捉え方を一変させる新しい視点を発見することを目指しています。
仕事におけるこだわりもこのパーパスにも紐づいており、私たちが関わる前と後で、人の考え方や価値観に変化をもたらせるかどうかを大切にしています。
当社のアウトプットに触れた人たちが新しい考え方や価値観と出会えたとき、大きなやりがいを感じます。これは、社員が生み出すものにも求めているこだわりです。また組織内でも、社員が新しい価値観や考え方を得られているかどうかを重視しています。
会社を創業して間もない頃、神戸市が主催するイベントで制作したARコンテンツがあります。iPadをかざすとミニチュアの神戸の街が出現し、参加者が2030年の理想の街を作れるといったものでした。
普段は街づくりに興味のない大学生やお子さんが積極的に参加してくれ、市の再開発に関心を持つきっかけになりました。彼らが楽しそうに自身が住む街について話している様子は、まさに彼らのまなざしを拡げた最初の瞬間だと思っていて、個人的にもとても思い出深い出来事の1つでした。
▼参考動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=G_85RaxwTO0
起業から今までの最大の壁を教えてください
2022年に経験した経営体制の交代が自分にとって一番大きな壁でした。
元々COOとして会社を共同創業しましたが、共同創業者が経営を続けられなくなり、私が代表になりました。代表の役割への理解が不十分で、COOと代表では求められる振る舞いや責任が大きく異なることに苦労しました。
特に難しかったのは「決断する」ことです。決断すること自体は一瞬ですが、そこに至るまでの精神的な負担は想像以上に重いものでした。
転機を迎えたのは、会社の方針を明確に定め、全社員に伝え、自分自身もその方針に沿って決断できるようになった時でした。経営体制の交代から会社が低迷するまでの期間、決断を避けてきたことが最大の問題だったと気づき、改善したことで状況が好転しました。
世界を驚かせるテクノロジーを日本から生み出す
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションは意識していないのですが、会社を成長させたい理由としては、大きな技術革新の波に乗りたいという思いがあります。
iPhoneが登場した頃、私は高校生で起業の選択肢はありませんでした。ですが今、Vision Proなどの空間コンピューターがiPhoneと同じくらいのインパクトを与えると考えています。
当社は、日本において新しい波の中心にいます。この機会を最大限に活かし、空間コンピューターが普及する中で自社の存在感を示していきたいと考えています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
戦後の日本が科学技術によって世界を驚かせたように、私たちも空間コンピューティング技術を活用して、日本から世界を驚かせるようなテクノロジーやユースケースを生み出すことが長期的な展望です。
私たちの会社名「MESON」は「中間子理論」の英語名に由来しています。中間子理論とは、日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹が提唱した理論の名前です。
MESONを立ち上げた背景には、スマートフォンやインターネットの普及以降、日本のテクノロジー企業の国際的な存在感が薄れてきているといった危機感があります。SNSや動画メディア、さらには自動車産業においても、日本企業が海外企業に市場を奪われている状況です。
そうした中で、世界のテクノロジー分野での日本企業の存在感を再び高めたいと考えています。
貴社のサービスに興味がある企業へのメッセージをお願いします
今ここで私が説明しても、イメージが湧かないと思うので、まずは実際に体験していただきたいと思います。
お問い合わせいただければ、Vision Proを持ってお伺いします。まずは体験する機会を得ていただきたいです。
これは単に私たちが営業したいからだけではなく、Vision Proを装着する前と後では世界の見え方が全く変わるからです。100人以上の方にVision Proを体験してもらいましたが、中にはChatGPTよりも感動したと言う方もいます。
一度体験していただくことで、自分の事業が今後どのように発展していくべきかといったビジョンの見直しが可能になるでしょう。また、未来に思いを馳せることもできるようになります。まずはお気軽にお問い合わせください。
▼お問い合わせはこちら
https://business.form-mailer.jp/lp/1d1bd4f3274714
起業を神格化しないほうがいい
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業を特別視せず、キャリアの選択肢の1つとして考えてみてください。代表になる前は「起業は楽しいよ。チャレンジした方がいい」と言っていましたが、今は本当にやりたいことがあるなら起業という選択肢もあると考えるようになりました。
起業はすごいと思っている方には、起業を神格化する必要はなく、大企業に勤める、海外で働くなどさまざまな選択肢と同じ平面で捉えてほしいと思います。一方で、起業という選択肢を考えたことがない人には、1つの可能性として視野に入れてみてください。
自分が人生で何を達成したいのか、何を実現したいのかを考えた上で、起業がその手段として適しているかを判断することが大切です。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:小林 佑樹氏
東京大学大学院卒。大学院在学中に複数社スタートアップにてエンジニアとして開発に関わる。また株式会社リクルートホールディングスにて、インターン生として初めてNewRingに入賞し、新規事業立ち上げを経験。2017年9月1日株式会社MESONを設立。2022年9月1日株式会社MESONの代表取締役社長に就任。日本人デベロッパーとして世界で初めてApple Vision Proを体験。
企業情報
法人名 |
株式会社MESON |
HP |
|
設立 |
2017年9月4日 |
事業内容 |
拡張現実(AR)および仮想現実(VR)を含む空間コンピューティング技術を用いたサービス/プロダクトの企画、デザイン、開発 |
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