株式会社itakoto 代表取締役社長 伊賀 都温

株式会社itakotoの主力事業は、遺言や感謝の気持ちを動画の形で残す「遺書動画」サービス。同社の伊賀都温代表が目指すのは、終活をカジュアルに、そして家族の会話の中に自然に取り入れられる「日本の文化」として根付かせたいとの強い思いでした。

 

アプリで気軽に遺書動画を撮影

事業の内容をお聞かせください

​​弊社の主な事業は、遺言や感謝の気持ちなどを動画の形で残す「遺書動画」サービスです。

 

遺書動画には2つの形があり、1つはスマートフォンで手軽に撮影できる無料アプリ「ITAKOTO」です。思いを込めた1〜3分程度のメッセージを録画し、リンクを大切な方に送ります。

 

もう1つの「ITAKOTO Premium」は、オーダーメイドで本格的に制作する遺書動画です。撮影にはインタビュアーが同席し、ご自身の人生を語っていただいたり、ご家族へのメッセージを残していただいたりして、20〜30分ほどの映像にまとめます。BGMや写真なども挿入し、編集も丁寧に行います。価格は20〜30万円ほどです。

 

もう一つの事業として、終活の大切さを知っていただくための終活イベント「イタコト展」を、葬儀会社や自治体と連携しながら全国各地で開催しています。

 

遺書動画と聞くと、最初はハードルが高いと感じる方も少なくないでしょう。このイベントでは100〜500人規模でよりカジュアルに、気軽に立ち寄れる雰囲気を大切にしています。イベントでは心のこりになった言葉やエピソードを展示するなど、来場者が自分の人生を見つめ直すきっかけになるように工夫しています。

 

当社が考えるターゲット層は40~50代です。この世代は、親の介護や子育てといった両世代への責任を担いながら、自身の老後や最期についても考え始める時期でもあります。そうした背景から、「終活」への関心が高まりやすい傾向にあります。

 

また、弊社会長のタレント・田村淳が実際に大学院で遺書の研究を行った上で立ち上げた会社と知り、興味を持ってくださり、実際に利用していただいているユーザー様もいらっしゃいます。

 

田村は大学院で「遺書」に関する研究を行い、「遺書を書くなどして自分の人生を振り返ることで、残りの人生がより豊かになる」というデータを得ました。この知見をもとに立ち上げた弊社のサービスは、終活に対するネガティブなイメージを払拭していきたいと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか。

私はもともと教育業界を志し、大学では法学部に入ったものの教職も履修いたしました。模擬授業の課題として作成したプリントが、担当教授から強く否定されたのです。ほかの学生が作った穴埋め問題が評価される一方で、自分が作った記述式問題が評価されなかったことに対し、「型にはめる教育」への違和感を強く感じたのです。

 

ちょうどその頃、高校時代の先輩から「一緒にやらないか」と声をかけられたことが、現在の事業に関わるきっかけとなりました。実は当社は、その先輩と田村会長が共同で立ち上げたもので、私はその流れの中で参画することになったのです。

 

大学1年生の頃には、別のスタートアップの立ち上げを手伝った経験もあり、当時から新しい挑戦に伴う熱量やスピード感に強く惹かれていました。その思いが再び呼び起こされたのが、このタイミングでした。

 

教員を目指した理由は、誰かの人生に影響を与えたかったからでした。しかし、今の事業に関わるなかで気づいたのは、「終活」もまた、教育とは異なるかたちで誰かの人生に深く関わることができるということです。そう気づいた瞬間から、この事業にのめり込んでいきました。

 

代表取締役に就任するにあたっては、もちろん田村淳会長の名前が先に出ることに対するプレッシャーもありました。ただそれ以上に「若者が終活について真剣に考えている」ことを世の中に示したいという気持ちが強くありました。

 

終活と聞くと、「高齢者のためのもの」という固定観念が根強く残っています。だからこそ、若い自分たちが本気で取り組むことで、「終活はすべての世代に関係のあるものだ」という新しい視点を広めていけるのではないかと考え、今この仕事に全力で向き合っています。

死を扱うサービスへの葛藤

仕事におけるこだわりを教えてください。

仕事におけるこだわりは、私自身が明るくいることです。

 

終活はまだ「暗いイメージ」がついていると思うので、まずは自分自身が明るく振る舞うように意識しています。もちろん真面目な話をするときもありますが、基本のスタンスとして、やはり明るさは大切だと思います。

 

プロダクト作りにおいてのこだわりは、お客様の要望に応えることです。アプリはどうしても画一的な部分がありますが、「ITAKOTO Premium」ではお客様の要望をじっくり聞き、唯一無二の作品を作ることができます。お客様の人生や想いがしっかり反映されるので、制作の過程自体がとても楽しく、やりがいを感じています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

最も大きな壁を感じたのは、「株式会社としての在り方」と「自分自身の価値観」との間にギャップを強く意識した瞬間でした。

 

実は私自身、儲けたい気持ちはそれほど強くありません。しかし株式会社の形を取る以上、利益を出さなくてはいけない現実があります。また、NPOではないため、慈善活動ではなく運営資金を捻出していく必要があり、その塩梅がとても難しいと感じてきました。

 

特にこの事業は「死」を扱うもので、押し売りは絶対にできません。サービスを始めた初期の頃は特に「この事業でお金をいただいていいのか」、「価値を感じてもらえるのか」と悩む時期もありました。

 

しかし、少しずつ事業が軌道に乗るにつれて、「このサービスには本当に意味がある」と実感できるようになり、今では自信を持って取り組めるようになりました。

イベントを心待ちにしてくれる人がいる

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

「待ってくれている人がいる」ことです。SNSに「イベントを楽しみにしています」や、「次はこの県でもやってくれませんか」などの声が届くと、自分たちの活動が誰かに認められたと実感でき、原動力になります。

 

ユーザー様からも、遺書動画を撮影した際に「話を聞いてくれてありがとう」と言ってもらえることがあります。深い話を重ねていく中でお客さまと自然と仲良くなることも多いですし、そこから生まれる信頼関係もやりがいにつながっています。

 

取引先の方から前向きなお声がけをいただけることも、本当にありがたく感じています。そうした周囲からの期待や信頼が、大きなモチベーションになっています。

 

田村淳会長から認めてもらえたことも、私にとっては非常に大きな出来事でした。入社からわずか1年で「次の代表を任せたい」と声をかけていただき、そこからの3年間、変わらず信頼し続けてもらえていることは、何よりの励みになっています。

 

少しミーハーに聞こえるかもしれませんが、「すごい人に認められた」という実感は、私のモチベーションを大きく支える原動力になっています。そして今、入社当初と比べても、「人の人生に関わる仕事」に携わる責任感や覚悟は、年々確実に強くなっていると感じています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

私の大きな野望は、「死」がタブー視されず、自然に話題に上る文化を日本に根付かせることです。イメージに近いのが「七五三」です。50歳になったら遺書動画を撮る習慣が当たり前となる、新しい文化として「第2の七五三」のような文化をつくりたいと本気で思っています。

 

たとえば「遺書動画を撮ったよ」と家族の食卓で話題になったり、「まだやってないの?そろそろやっとこうよ」と友人同士で気軽に話し合えたりなど、終活がもっとカジュアルで自然なものになる社会を目指しています。

 

先ほども述べたように、私は「儲けたい」気持ちよりも、「これをやったら世の中が変わる」と思える事業に携わりたいと考えています。お金持ちになることよりも、「田村淳と伊賀都温がこの文化を築いた」と、いつか教科書に載るような存在になることのほうが、ずっと自分のモチベーションになります。

 

新しい展開としては、メディア業界と深く関わりたいと考えています。テレビや出版でも「死」や「終活」を扱うコンテンツが増え、社会全体の意識が変わっていったらうれしいです。現在も葬儀業界、保険業界、司法書士や行政書士などの士業の方々とは連携していますので、引き続き協業していきます。

物語を読み、視野を広げよう

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私自身は起業していないので多くは語れませんが、「信念を持つこと」は大事です。自分の思いが100%相手に伝わることは、正直ほとんどありません。ときには誤解されてしまうこともあります。だからこそコミュニケーションをしっかり取ること、自分の意思を明確にして行動することが必要です。

 

ベンチャーの業界に入ると、どうしても走り続けてしまう人が多く、家族のことは後回し、終活を考える余裕もなく、結果的に後悔してしまうこともあることでしょう。ほんの少しでいいので、「立ち止まって自分を振り返る時間」や「家族のことを考える時間」を持ってほしいです。

 

この時間が人生をより豊かにすることを、声を大にして伝えたいです。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:伊賀 都温

中央大学在学中から複数ベンチャー企業の立ち上げやWebマーケティング業務に従事。その後、ITAKOTOに参画し、得意とするSNS運用にてTwitterアカウント「140文字の心のこり」を企画。2022年5月より当社代表取締役に就任。

 

企業情報

法人名

株式会社itakoto

HP

https://itakoto.co.jp/

設立

2019年11月1日

事業内容

ICTサービス・プラットフォーム事業

 

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