
PAPAMO株式会社 代表取締役CEO 橋本咲子
PAPAMO株式会社は、発達が気になる子どもや運動が苦手な子どもに向けて、オンラインで個別の運動・発達支援を提供する「へやすぽアシスト」を企画・運営しています。療育施設の不足や支援の偏りといった課題に向き合い、どこにいても継続的なサポートが受けられる仕組みづくりに取り組んでいます。今回は、代表の橋本咲子氏に、事業を始めたきっかけや今後の展望について、お話を伺いました。
待たせない。オンラインが切り開く支援の可能性
事業の内容をお聞かせください
我々は、発達が気になる子どもや運動が苦手な子どもに向けて、オンラインで発達支援や運動指導を行うサービス「へやすぽアシスト」を提供しています。たとえば、姿勢が崩れやすく授業中に長く座っていられない、縄跳びが苦手といった子どもに対し、理学療法士など運動発達の専門家が、1回50分の個別レッスンを行います。
オンラインでの運動指導はイメージしづらいかもしれませんが、縄跳びが連続して跳べなかった子が1ヶ月で跳べるようになったり、4年間自転車に乗れなかった子が1ヶ月で乗れようになるなど、成果がはっきりと現れます。
これまでに3万件以上のレッスンを通じて、どのように指導すれば成果が出るのかをデータに基づいて形にしてきました。その蓄積を活かして指導しているため、どんな子どもにも着実に変化を届けることができています。
また、子どもたちが夢中になれる仕掛けにも力を入れています。キャラクターやストーリー仕立てのゲーミフィケーションを取り入れ、運動が苦手でも楽しく取り組めるように工夫しています。
「へやすぽアシスト」では、入会前にヒアリングを実施し、子どもの特性や興味を丁寧に確認し、体験レッスンを行います。入会後は面談を通じて個別の目標を設定し、一人ひとりに合わせたカリキュラムを作成します。平均で約2年間の継続的なサポートを受けていただいています。
コーチには、地方に住んでいる方やママ、療育施設勤務者、サッカー経験者など、さまざまなバックグラウンドを持つ人がいます。生徒は、こうした多様なコーチの中から、自分に合ったコーチを選ぶことができます。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
創業前は対面型の運動教室を運営していました。当時、発達が気になる子どもが多く通っていて保護者の方になぜ当教室に来てくださるのかと伺うと、「療育施設は予約で埋まっていて空きがない」との声が寄せられました。
実際に市場を調べてみると、全国に発達が気になる子どもは約150万人いるとされる一方で、療育施設を利用できているのはわずか1割ほどにとどまっています。多くの子どもたちが支援を受けたくても受けられず、需要と供給のバランスがとれていない業界であることが分かりました。
子どもの発達を早期から支援することは大切なことで、適切な時期に介入できないと、その子の未来が大きく変わってしまいます。
また、現代の子どもたちは運動能力が低下しており、現在の10歳の子どもの運動能力は30年前の5歳児程度とも言われています。スマートフォンやゲームの普及、猛暑による外遊びの減少などが背景にあり、運動量も30年前の約3分の1にまで減少しているとされています。運動能力の低下は、姿勢の崩れや集中力低下など、学びの土台にも影響を及ぼします。
こうした課題の解決にもつなげるため、オンラインであれば待機することなく、全国や世界中どこに住んでいても支援を届けることができると考え、事業を立ち上げました。
子どもたちの「できた」を広げる。親子にかける魔法
仕事におけるこだわりを教えてください。
我々が最も大切にしているのは、親子に感動体験を届けることです。そのために掲げているのが、「親子に魔法をかけるプロ集団であれ」というコーチのクレドです。
できなかったことができた!という瞬間、子どもたちはとても生き生きとした表情を見せてくれます。自信がつくことで「もっとやってみたい」との気持ちが芽生え、その変化は親御さんのまなざしや接し方にも波及します。
我々は、こうした一連の変化を魔法と呼び、その魔法をかける存在でありたいと考えています。
我々のミッションは、「誰もが自分らしさを育めるインフラを作る」です。たとえば、運動が苦手で「僕には何もできない」と言っていた子どもが、縄跳びを跳べるようになり、自信がついたことで、ダンス教室へ通い始めるなど、難しいことにも挑戦するようになりました。
こうした「できた」経験は、子どもたちの可能性や自分らしさを広げる起点となります。
この体験を、発達が気になる子どもたちだけでなく、あらゆる子どもたちに届けていきたいと思っています。
また子どもや親御さんが自分らしさを広げていくように、支援を届ける側である我々自身にも、それぞれが自分らしさを拡張していける場でありたいと思っています。組織のメンバー一人ひとりが新たな挑戦を通じて成長できるよう、そんな環境づくりを大切にしています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大の壁は、資金が尽きそうになった時です。
当社はスタートアップとして外部資金を受け入れながら成長してきましたが、一定までは伸びたものの、広告費が全然下がらず、行き詰まりを感じていました。このままだと事業がスケールしないと方向転換を迫られた時、資金はあと10ヶ月分しかありませんでした。
そのような状況下で、改めて事業を届ける対象を明確にし、とにかくペインの深い層に振り切ることにしました。サービス内容も、そこに合わせて、当初集団レッスンだったところを、1対1に変更し、「縄跳びができない」「姿勢が悪い」といった個別具体のお困りごとにアプローチすることにしました。
悩みを抱えているユーザーに合わせ、事業内容を磨き上げることで、事業がぐっと伸びました。
その結果、次の資金調達に成功し、この壁を乗り越えることができました。
方向転換にあたっては、「ターゲットを絞ることでマーケットが小さくなるのでは?」「1対1の労働集約型のサービスは、世の中の流れとは真逆なのではないか?」等の怖さもありましたが、今振り返るといい意思決定だったと思います。
むしろ「オンラインの運動教室」から「オンラインの運動・発達支援事業」に抽象度をあげることができ、マーケットも広がりました。
目指すのは、迷わず支援ができ・受けられる社会の実現
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
ビジョンの実現こそが、我々が進み続けるモチベーションの一番の理由です。
我が子の発達に不安がある・運動が苦手、という悩みがあった際、どこで生まれ、どこに住んでいても、適切な支援が受けられる社会にしたいと考えています。私自身が島で育った背景もあり、住んでいる場所によって支援の有無が左右されないようにしたいと強く思っています。
困っているこの瞬間に、適切な支援を受けられると、本人だけでなく親御さんの未来も大きく変わります。
現在、当社のサービスは世界13カ国に広がっています。オンラインを通じて、場所にとらわれず誰もが必要な支援を受けられる社会の実現を目指すことが、我々の原動力の一つです。
もう一つのモチベーションは、支援を届ける側の未来を変えていくことです。
医療の分野では、長い歴史を通じて治療法が体系化されてきました。例えば、骨折などがわかりやすいですよね。一方で、子どもの発達や運動能力の分野は、人間の基礎に関わる領域でありながら、いまだ確立された方法が少ないのが現状です。
そこで我々は、数万件におよぶ指導の実績・データをもとに、発達支援を再現性のある手法として体系化することに挑んでいます。まるで新たな学問を築く気概で取り組んでいます。
将来的には、支援者が迷いなく「この子にはこの方法が合う」と判断でき、子どもたちと自信をもって向き合える環境を整えていきたいと考えています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
まずは、当社のサービス「へやすぽアシスト」をtoC向けに、世界中に展開していくことを目指しています。
特にアメリカでは、発達支援に悩む方が日本の10倍にのぼるとも言われており、自費の場合、1回あたりの支援に5万円ほどかかることもあります。当社のサービスは、その約10分の1の価格で提供できるため、経済的な理由で支援を受けにくかったご家庭にも、サービスを届けられると考えています。
さらに、toB領域への展開も進めていきます。現在、多くの療育施設が、子ども一人ひとりの特性に合った運動による発達支援を十分に提供しきれていない課題があります。当社の運動療育プログラムを導入いただくことで、より適切な支援を届けられると考えています。
また、オンライン療育への公費適用の実現も目指していきます。現在、対面による発達支援は公費の対象となる一方で、オンラインによる支援は制度上、自費扱いとなります。
すでにオンライン医療が一部保険適用となっている今、オンライン療育においても公費で支援を受けられるよう、国や自治体に働きかけを行っています。この制度が実現することで、これまで支援を受けることが難しかったご家庭にもサポートを届けられる社会が実現できると考えています。
将来的には、学校や学童など、運動が得意な子も苦手な子も集まる場に届けることも視野に入れています。現代の子どもたちは運動機能が低下している一方で、学校体育は長年大きな見直しがないとも言われています。究極的には、体育のあり方について考え直すきっかけになればと思っています。
幼少期から体の土台をつくることはとても大切なことなので、こうした取り組みを通じて、将来の健康維持や医療費の軽減にもつながると信じています。
「こうしたい」が動き出す。起業は仕組みを未来へつなぐこと
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業はとても面白く、やりがいのある挑戦だと思っています。自分が実現したい世界や、「世の中をこう変えたい」との思いを掲げることで、そこに共感してくれる仲間が集まり、大きなチャレンジに取り組むことができます。
私自身、人生は思っている以上に短いと感じています。限られた時間の中で、自分の取り組みが社会を少しでも良い方向へ動かすことができたなら、それがやがて仕組みとして残り、業界に少しでも良い変化をもたらすことができる。
その結果として、次の世代の子どもたちがより生きやすくなる。そんな未来に貢献できるのが起業の魅力だと思っています。
こうした思いを持つ仲間とともに、人生や魂をかけて取り組めることは、何物にも代えがたい経験です。もし少しでも起業に興味を感じているのなら、ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。
採用を強化されていると聞きました。どんな人材を求めていますか?
現在、当社ではすべてのポジションで積極的に採用を進めています。
今は、事業は大きく拡大していくフェーズにあり、社会的に意義のあるテーマに対して、経済性・スピード・スケールのすべてを妥協せず挑戦しています。この事業を伸ばしていく面白さに加えて、組織文化そのものを一緒につくりあげていく面白さも感じていただけるはずです。
まず大切なのは、私たちのビジョンに共感していただけることです。子育てや発達支援といった少し専門的な領域でもあるため、この分野に興味や関心を持ち、世の中を動かしていきたいという想いのある方とご一緒したいと考えています。
また、事業を作り、届ける立場である私たち自身も、自分らしさを大切にしています。自分が自分らしくあれること、仲間が仲間らしくいられること。お互いを尊重し合い、仲間が自分らしさを拡張することを応援できるような方にお会いできたら嬉しいです。
▽お問い合わせはこちらから
https://papamo.net/recruit/
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:橋本 咲子 氏
長崎県五島列島出身、早稲田大学商学部卒。
新卒で入社したアクセンチュア(戦略コンサル部門)で新規事業開発や事業ポートフォリオ戦略などに従事。 その後、GOB Incubation Partners株式会社にて、スポーツ教室事業や託児事業を立ち上げる。その際、運動が苦手な子どもや発達に不安を抱える親子が多く、療育施設が圧倒的に不足している実態を知る。2021年4月、PAPAMO株式会社を創業し、2022年にオンラインの運動・発達支援事業「へやすぽアシスト」をリリース。
企業情報
法人名 |
PAPAMO株式会社 |
HP |
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設立 |
2021年4月1日 |
事業内容 |
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