株式会社HIL 代表取締役 小熊美嘉

超音波で体内の状態を“見える化”し、生活習慣の改善を促す「お腹ソムリエ」。視覚的フィードバックと点数評価によって、自発的な行動変容を生み出す仕組みを構築しています。開発者の想いを受け継いだ代表取締役・小熊美嘉氏に、その原点とグローバル展開を見据えた挑戦についてお話を伺いました。

 

失ってからでは遅いから。健康と向き合う新習慣「お腹ソムリエ」

事業の内容をお聞かせください

当社は、超音波(エコー)を活用したヘルスケアサービス「お腹ソムリエ」を提供しています。このサービスでは、皮下脂肪、筋肉、内臓脂肪といったお腹の状態を画像で可視化し、それをもとに生活習慣を数値化して評価します。

 

従来、体重計や体組成計、健康診断などによって健康状態を把握する方法が一般的でした。しかし、「お腹ソムリエ」ではエコーを用いることで、より直感的かつ視覚的に自分の生活習慣が体に与えている影響を確認することができます。

 

これにより、見えづらかった隠れ肥満などにもアプローチが可能です。

 

現在は、企業の健康経営支援や地域の健康イベントなどでサービスを展開しており、医療行為ではないため、医療従事者以外でも測定が可能です。

 

測定結果はその場で点数化され、印刷して提供されるため、自身の健康状態をその場で自覚し、行動変容につなげるきっかけになります。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は看護師として17年間、病棟や訪問看護の現場に携わってきました。

 

特に訪問看護では終末期の患者と向き合うことが多く、日常のささやかな願いが「もう一度叶えたいこと」になる現場を数多く見てきました。健康も同様に、失って初めてその大切さに気づく方が多くいます。そこで私は「予防医療」の重要性を痛感しました。

 

しかし予防医療の重要性を理解してもらうことは難しく、健康診断の結果を伝えても、「今はまだ元気だから大丈夫」と受け流されることもありました。

 

そんな中、イベントで「お腹ソムリエ」の運営を手伝う機会があり、体験者の多くが測定結果に真剣に向き合い、「どうすれば改善できるのか」と自ら質問する姿勢を目の当たりにしました。これこそが行動変容の鍵だと感じ、このサービスを広めたいと強く思いました。

 

もともと開発者が1人で運営されていた「お腹ソムリエ」は、コロナ禍の影響で事業終了を検討されていました。ですが、私はこのサービスを社会に残すべきだと感じ、事業を引き継ぎました。

ゼロからの挑戦。“伝わる仕組み”を創り続けてきた軌跡

仕事におけるこだわりを教えてください。

「今ある健康を守り、寿命を健康寿命とイコールにする」という信念を軸に、日常に埋もれてしまいがちな健康意識を掘り起こすような体験を提供することに力を注いでいます。

 

特に重視しているのは、「自分事として捉えられるかどうか」です。どれだけ優れた数値データを提示しても、心に響かなければ行動には結びつきません。

 

「お腹ソムリエ」では、体内の状態をリアルタイムで映し出し、その画像を見ながら丁寧に説明を行います。

 

たとえば「ここが筋肉です」「この部分が内臓脂肪です」と視覚的に伝えることで、現状を正確に理解しやすくなり、驚きや納得といった感情が自然と芽生えます。

 

こうした感情の動きが、次の行動を促す大きなきっかけになると考えています。

 

さらに、測定後にお渡しする結果票では、複雑な数値よりも直感的にわかりやすい「点数」を最も目立たせるよう設計しています。

 

点数が印象に残ることで、「どうしてこの点数なんだろう」「何を変えれば上がるのだろう」という問いが自然に生まれます。

 

そこから必要な生活習慣の見直しへと、自発的に思考が広がっていく仕組みです。

 

「お腹ソムリエ」はあくまでスタート地点だと位置付けています。得られた気づきを、トレーニングジムや食事指導などの次のステップに繋げられるよう、パートナーと連携しながら導線を設計しています。

 

単なる測定で終わらず、その後の変化を伴走する伴走者のような役割を果たせることが、このサービスの本質的な価値だと考えています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

最大の壁は、知名度も売上もゼロの状態から、どのようにサービスを広げていくかという点でした。コロナ禍で、対面型のサービス提供が一切できない状況で、事業活動自体が難しい期間が続いていました。

 

また、看護師出身である私にとって、経営やマーケティングの知識はゼロの状態でしたから、ビジネス用語も理解できず、何から学べばいいかもわかりませんでした。

 

とにかくピッチイベントなどに積極的に参加し、失敗しながら実践で吸収することを重ねてきました。

 

サービス自体も「医療」のイメージが強く、健康イベントで展開するためには「ヘルスケアサービス」としての表現に工夫が必要でした。

 

「お腹ソムリエ」というネーミングも、医療色を薄め、親しみやすさを意識して名付けられたものです。

人の心が動く瞬間を力に、世界に届けるサービスを目指して

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

最も原動力となっているのは、サービスを受けた方の反応です。

 

自身の体内画像を見て驚いた表情や、改善に向けて行動を始めたという報告をいただいたとき、目の前の人の感情という深いところまでしっかり届いているな、ということを実感します。

 

営業や広報活動が思うように進まないこともありますが、変化のきっかけになれたという実体験が積み重なることで、「このサービスをもっと広めたい」と強く思うようになりました。

 

また、仲間との連携も重要な要素です。自分が何を目指していて、今どこに向かおうとしているのかを常に共有することで、ビジョンへの共感と協力体制が生まれています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

まずは「お腹ソムリエ」のサービスをもっと広く世に知っていただき、より多くの人に予防医療や健康を自分事として捉えてもらえるようになることが当面の課題です。

 

そのうえで、今後は、企業や自治体、ウェルネスサービスなどと連携を深めていきたいと考えています。

 

また、評価プログラムにはAIを導入し、誰でも簡単に測定・解析できる仕組みの開発も進めています。

 

すでにWebアプリとしてのプラットフォームは整備されており、全国で測定者の育成も進めています。蓄積されたデータをもとに、職種や地域に特化した商品やサービスの開発も視野に入れています。

 

それから、将来的には、海外展開も目指していきたいです。

 

日本ではまだ予防医療に対する意識は低く、どうしても「病気が見つかってから対処すればよい」という考え方が根強いのですが、海外では逆で、予防医療に対する意識が高い国々が多く存在しています。

 

そうした国々へ、CTやMRIと違い手軽で、かつ放射線の影響もないエコーを用いた「お腹ソムリエ」は予防サービスとして広く展開できる可能性があると考えています。

想いだけじゃ届かない。でも、想いがなければ始まらない

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業の出発点は「これを社会に届けたい」という想いだと思います。

 

私自身、看護師としてしか働いたことがなく、起業には無縁の世界にいました。それでもここまで来られたのは、その想いを持ち続け、実際に行動に移してきたからです。

 

ただし、想いだけでは継続できません。だからこそ、積極的に発信し、仲間を巻き込むことが必要です。共感してくれる人とつながることで、想いが形になり、事業が前進していきます。

 

最初の1歩を恐れずに踏み出し、自分の信じるサービスを広める覚悟を持ってほしいと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:小熊美嘉

看護師として急性期病棟や訪問看護に従事し、多くの患者と関わる中で予防医療の重要性を実感。健康管理の新たなアプローチを模索し、2024年に株式会社HIL お腹ソムリエ研究所の代表に就任。超音波を活用した健康の「見える化」を推進している。

 

企業情報

法人名

株式会社HIL

HP

https://bodyscale.co.jp/

設立

2019年

事業内容

  • 超音波関連事業
  • 健康スポーツ支援事業
  • 医療健康サービス事業

 

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