株式会社グローバルトラストネットワークス 代表取締役社長 後藤 裕幸


日本の少子高齢化が進む中、外国人材の受け入れは避けられない社会課題となっています。株式会社グローバルトラストネットワークスは2006年の創業以来、外国人が日本で輝ける社会を目指し、生活から仕事まであらゆる面での支援サービスを展開してきました。2025年7月に20期目を迎える同社の代表取締役社長の後藤氏に、創業から現在までの歩み、そして今後の展望について、その熱い思いとともにお話を伺いました。

日本にいる外国人の生活全般を支援し、誰もが暮らしやすい日本社会をつくる

事業の内容をお聞かせください

当社は2006年の創業以来、外国人向けの総合支援サービスを提供しています。外国人が日本で暮らし始めると、不便に感じることが多いのが現実です。たとえば、銀行口座を簡単に開けなかったり、クレジットカードを作れなかったりします。

 

また、お金を借りることも難しく、賃貸物件を借りる際にもハードルがあり、仕事を見つけるのも一苦労です。さらに、病院に行っても外国語が通じず、すべて日本語で対応されるケースも多くあります。私はそのような「外国人が日本で生活しにくい」という社会課題を、ビジネスの形で解決しようと考えました。

 

前職ではマーケット分析を専門にしていたこともあり、成長し続ける「外国人マーケット」に早くから注目していました。私がこの分野に注目した当時、日本で働いている外国人は約40万人ほどでしたが、現在(2025年)は230万人を超えています。



当初の中核事業は「家賃保証サービス」でした。日本では、部屋を借りる際に保証人を立てるという独特の慣習があります。そこで、我々が保証人となることで、外国人の住まい探しをサポートしてきました。



その後、外国人向けの格安SIMサービス、生活相談、医療通訳、クレジットカードの支援、部屋探し、人材紹介、特定技能に関する登録支援業務など、事業は多岐にわたって広がっていきました。さらに、金融サービスの一環として、免許取得のサポートも行っています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は、日本に来た外国人が「日本に来てよかった」と思ってもらえる社会をつくりたいと願っています。そのためには、まず“当たり前のことが、当たり前にできる社会”を実現することが第一歩だと思い、今の事業を始めました。

 

私は今までに計3回起業をしています。初めての起業は大学2年生の時で、きっかけは留学生との交流でした。大学時代に自ら株式投資のサークルを立ち上げ、そのサークルにいる留学生の優秀さに驚かされました。なかでも印象的だったのは、当時中国や韓国から来ていた学生たちのモチベーションの高さや向上心、そして聡明さです。

 

今でこそアジア全体の存在感が高まっていますが、当時はまだ日本がアジアの中で圧倒的な経済的優位にあった時代です。そんな時代に私は彼らの可能性に気づき、「彼らと一緒に何かを始めたい」と強く思うようになったのです。

 

そして、海外の優秀な人材がもっと日本に来て活躍できる環境をつくることが、日本社会にとっても大きな意味があると感じるようになったのです。実際、シリコンバレーでは中国人やインド人の移民たちが中心となって数々のイノベーションを起こしています。

 

日本には残念ながら、チャレンジ精神や起業精神が根付きにくい一面があります。これらは同質的な集団の中からは生まれにくいものです。私は、異なる価値観が交わる多様な環境こそが、新しいものを生み出す源だと考えています。

 

そして、少子高齢化が進む日本においては、外国人の力がますます必要になってきます。実際、「2050年までに日本は外国人を1,000万人受け入れる必要がある」という試算もありました。

 

しかし、日本の制度や仕組みでは、その数の外国人を受け入れるのは到底難しい状況です。そもそも、日本の法律や制度は外国人の生活を前提に設計されていない部分が多く、実際に日本に来て嫌な思いをして帰国してしまう外国人をたくさん見てきました。こうした現実が、私が現在取り組んでいる事業の原点になっているのです。

成長フェーズごとに異なるリーダーシップを発揮

仕事におけるこだわりを教えてください

仕事へのこだわりは、事業のフェーズによって大きく変わるものだと思っています。

 

創業初期は自分自身がまるでドラクロワの“民衆を導く自由の女神”のように、先頭に立って旗を掲げて走り続ける必要がありました。同時に後ろを振り返って、皆がついてきているかをしっかり見ることも求められます。初めは実績もなく、経営者としての信頼も十分に得られていなかったため、「誰もついてきてくれないのではないか」という孤独や不安を感じる場面も多くありました。

 

それでも少しずつ仲間が増え、現在では社員数が460〜470名ほどの規模にまで成長し、組織としてのフェーズも大きく変わってきています。

 

このフェーズで私が意識しているのは、“自由の女神”ではなく、“羊飼い”のような立ち位置です。これは松下幸之助さんの考え方から学んだもので、前に出て引っ張るのではなく、後ろから見守りながら組織を導くことを意識し、役員たちが自律的に動ける環境を作るようにしています。

 

また、企業文化として特に大切にしているのは「失敗を責めない」という姿勢です。日本社会や企業では、失敗を避けようとする傾向が根強く、挑戦そのものが敬遠されることも少なくありません。

 

しかし我々はたとえ結果が伴わなかったとしても、挑戦したこと自体に意味があると捉えています。重要なのは、その経験をどう次に活かすかということです。そのような前向きな姿勢を尊重し、失敗を成長の糧とする文化を組織全体に根づかせていくことを大切にしています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

大変だったことや失敗した思い出ばかりです。成功体験と言えるのは、ごくたまに「よかった」と肩の力を抜ける瞬間があったことでしょうか。特に創業期は、本当に苦しかったと感じています。

 

我々の事業は「保証」という、信用と与信力が求められる分野です。しかし創業当初はベンチャー企業としてのスタートで、当然ながら十分な与信力もありませんでした。私個人としては何度も保証人を引き受けていたのにもかかわらず、法人になると誰からも信用されないという矛盾と向き合いながらの挑戦でした。

 

そして、東日本大震災(2011年)や直近ではコロナウイルスの蔓延といった、外的要因による大きな困難にも直面しました。社員や株主、周囲の人々が大きな不安を感じている中でどう組織を守り抜くかが問われました。

 

特にコロナ禍では、2020年4月の全体会議で「どんな状況でも誰も辞めさせない、だれ一人手放さない」という宣言からスタートし、社員全員と一丸となってこの難局を乗り越える覚悟を共有しました。当時は従業員数が250名に達しており、大きなプレッシャーの中での決断でしたが、その約束を守り通すことができました。

 

結果的には現在に至るまで一度も売上を落とすことなく、コロナ禍においても減収することはありませんでした。どのような時でも事業を右肩上がりに維持できているのは、大きな成果だと捉えています。

19歳の自分に胸を張れる生き方をしたい

進み続けるモチベーションは何でしょうか

私は19歳の時、引きこもり状態で自ら命を絶つことまで考えていました。しかし、その時に「どうせ死ぬつもりなら、一度きりの人生を自分の意思でやり直してみよう」と心に誓いました。

 

それからは、その時の自分に報いるために少しずつ自分のステージを上げて、理想に近づけるよう努力しています。これまで、取引先、株主、そして社員を始め、多くの人を巻き込んで事業を進めてきました。私を信じてくれている方々に対して、「やっぱりやめます」と言うことはできません。

 

「自分がいないほうが組織の成長につながる」と感じるようなフェーズが訪れたら、その時は身を引くことも考えています。ただ、現時点では私が関わることが事業にプラスの影響を与える」と思っているため、引き続きこのポジションに努めていきたいです。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

これから取り組みたいのは、日本の社会が抱える少子高齢化という課題を、多様性の力で乗り越えていく仕組みをつくることです。私は、人口は国境を超えて“リバランス”されるべきだと思っています。

 

いまや日本に強い関心を持つ外国人が世界中にいます。そうした人々が日本に安心して来ることができる環境を整えることが、日本社会の発展につながると考えています。

 

日本は高齢者の割合が高く、労働力が不足している一方で、海外には働く意欲のある若者が多いにもかかわらず、十分な仕事の機会がありません。働く意欲のある人が日本のように仕事のある国で活躍できる仕組みを整えれば、深刻な労働力不足の解消に役立つだけでなく、日本経済への貢献も期待できます。

 

実際に日本で長く暮らしている外国人は、年金や所得税、消費税などを納め、日本社会を支える重要な担い手となっています。中には日本に永住したいという人もいますし、母国に戻ってからも日本とのつながりを維持するケースもあります。こうした循環が広がれば、国籍を超えた新しい形の社会が実現できると信じています。

 

これからの日本社会は、多様なルーツを持つ人々が一緒に力を合わせて活躍する時代になると考えています。すでにスポーツ界では、外国人や外国にルーツを持つ選手たちが大きな活躍を見せ、日本人の多くが自然に彼らを応援しています。この流れは、経済や芸能の分野にも広がっていくでしょう。

 

そもそも私は総理大臣になるため、また、日本を変えたいという思いで東京に出てきました。その日本の未来をよりよくしたいという気持ちがすべての出発点となっているのです。

流行に飛びつかず、自分の信念に基づいた行動を

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします

今の時代は、若い世代の方が優位性を持っている時代です。特にAIなどのテクノロジーに自然と親しんできた世代には大きな可能性があります。大切なのは「今流行っているから」という理由だけでホットワードに飛びつくのではなく、自分の意思で何を選び、なぜ取り組むのかを明確にして動くことです。

 

例えば、今AIの世界で注目されているリーダーたちは、AIが軽んじられていた時代から、地道に研究を続けてきた人たちです。当時、あえて誰も見ていなかった分野を信じて突き進んだ人たちが今ようやく評価されています。

 

私自身も、2006年の時点で「これからの時代は、外国人が当たり前に活躍する社会になる」と発信していましたが、当時はただの変人扱いでした。しかし、震災やコロナなどさまざまな社会の変化を経て、ようやく今、社会全体がそうした方向に大きく動き出しています。

 

これから起業を目指す人には、「信念に基づいて動いてほしい」と伝えたいです。

 

IPOが難しくなるとも言われるこれからの時代、短期的なトレンドに流されるのではなく、「今この瞬間の先に、何があるのか」を長期的視点で考え、自分の使命感とマーケットの未来を重ね合わせていくことが、何より重要です。

 

そして何より、失敗を恐れないことが大切です。たくさん失敗してください。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:後藤 裕幸氏

熊本県生まれ。中央大学在学時にITベンチャーを起業、平成15年にアジア市場調査及び進出コンサルティング会社を設立し、平成18年4月にバイアウト。平成18年7月に外国人専門の株式会社グローバルトラストネットワークスを設立。「外国人が日本に来てよかったをカタチに」をビジョンに、住居・生活サポート・通信・クレジットカード・福利厚生・人材事業などを展開。外国人に特化した生活支援企業として社会課題解決に取り組む。

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企業情報

法人名

株式会社グローバルトラストネットワークス

HP

https://www.gtn.co.jp/

設立

2006年7月26日

事業内容

  • 外国人専門の賃貸住宅保証事業
  • 不動産賃貸仲介事業
  • 通信
  • 人材紹介
  • クレジットカード関連事業
  • 生活サポート事業 

 

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