株式会社HELPUSH 代表取締役CEO 寺田 ユースケ

 

車椅子で日本一周に挑戦するなど、人気YouTuberとして活躍してきた寺田ユースケ氏。転居をきっかけに引きこもりになった自身の経験から、現在は外出に課題を抱える人たちのための外出支援サービスの開発に挑戦しています。今回は寺田氏に、サービスの構想やここに至るまでの経緯、さらに進み続けるモチベーションについてお聞きしました。

 

 最適経路のマップとサポーターとの待ち合わせ、2つのソリューションで外出を支援

事業の内容をお聞かせください

まだローンチ前で構想段階の内容もありますが、我々は現在、外出支援のサービスを展開しようと思っています。車椅子ユーザーをはじめとして、移動に課題を抱える人たちのために、手軽に利用できるアプリ「HELPUSH」をリリースする予定です。

 

「HELPUSH」のサービス内容はデジタルとリアルの2つの側面で考えています。そのうち1つは、アプリのマップ上で街中の「行き止まり」を可視化するサービスです。

 

私のような車椅子ユーザーにとって、たったの7cmの段差であっても越えることが難しく、そこで道は行き止まりになってしまいます。SNSなどで見つけた素敵なカフェに行きたいと思ったとき、健常者はGoogleマップで1分もあれば目的地までのルートを確認できると思いますが、我々は道に段差がないかをストリートビューで確認していく必要があり、外出前の準備に30分以上かかってしまうのです。

 

そのようなとき、「HELPUSH」のマップで車椅子ユーザーにとっての最短ルートを簡単に表示することができれば、この時間を5分程度まで短縮できるでしょう。

 

もう1つリアルの側面では、いざ外出するとなったときのサポーターを手配できるサービスも提供したいと思います。たとえ最適なルートが分かったとしても、外出時には予期しないトラブルが起きるものですが、助けてくれる人が1人いればあらゆる問題が解決できます。誰かが助けてくれると思うだけで不安は解消され、「また出かけたい」と思えるはずです。

 

このように、「HELPUSH」はマップとサポーターとの待ち合わせの2つを融合させたサービスにしたいと考えています。

 

また「HELPUSH」の利用者として想定しているのは、私のような車椅子ユーザーだけではありません。ベビーカー利用者や高齢者など、いずれは外出時に困難を抱えているすべての層へと対象を広げていく予定です。

 

さらには一般ユーザーだけでなく、企業や自治体とのコラボレーションも視野に入れています。鉄道会社と連携して沿線でサポートサービスを展開したり、不動産会社と協力してビルや駅前に待ち合わせスポットを設置したり、あるいは大企業の障害者雇用枠で働く人たちをユーザーとして取り込むことも構想中です。

 

そうしたtoBの戦略を成功させるには、どれだけ「HELPUSH」が一般ユーザーに浸透しているかが鍵になるでしょう。その足がかりとして、まずは一つひとつの街で地元メディアやインフルエンサーと共にムーブメントを起こし、「HELPUSH」なコミュニティを築いていきたいと思っています。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は先天性の脳性麻痺で、もうずっと車椅子で生活をしていますが、昔からバイタリティのある人間で、以前は吉本でお笑い芸人をしていたり、車椅子で日本一周の企画を立ち上げたり、YouTuberとして登録者数10万人を達成したりと、アクティブに生きてきました。

 

そんな中で結婚もして子どもも生まれ、車椅子とベビーカーで暮らしやすい街として、バリアフリーの行き届いた天王洲アイルに家族で住んでいました。しかしあるとき、妻の不在時にマンションで火災報知器が鳴ったことで、すべてが一変したのです。

 

エレベーターが止まってしまって、下に降りるのに車椅子もベビーカーも使えず、仕方なしに1歳の息子を偶然居合わせた人に預けて、私自身は這うようにして1階まで降りることになりました。この出来事がトラウマになり、私はもうマンションに住むことが怖くなってしまいました。

 

そこで長野県に移住して妻の実家の近くに住むことになりました。ただ、引越し先の町はあまりバリアフリー化が進んでおらず、外出を手助けしてくれる知り合いもいないため、私はすっかり引きこもり状態になってしまいました。

 

加えてビジネスの失敗やYouTubeの登録者数の減少も重なり、外出できないという鬱々とした状態に拍車がかかって精神的にかなり追い詰められました。そのとき、「バイタリティが高いと自負する自分でも、外出できないだけでこんなに病んでしまうのだ」と気づき、世の中には外出ができなくて苦しんでいる人が沢山いるはずということに思い当たったのです。

 

これは「仕組み」で解決しなくてはならない問題だと考え、起業家として「HELPUSH」の事業を人生をかけて展開していこうと決意しました。

 

 

 大切にしたいのは、多くの人を笑顔にすること

仕事におけるこだわりを教えてください。

起業家になってまだ4か月の新米ですが、仕事で大切にしたいのが「多くの人を笑顔にすること」です。

 

プロダクトもまだこれから作っていくところですが、軸になるのはユーザーファーストの考えです。アプリを実際に使ってみてユーザーがどう感じるのか、常にそこに焦点をあてていきたいと考えています。

 

「多くの人を笑顔にする」という目的のためには、経営者として今後は厳しい判断を繰り返していかなければならないでしょう。元々は自分が経営者になんてなれると思っていなかったので、そうした厳しい決断には正直なところ慣れていません。

 

それでも、自分の個人的な気持ちと、会社をどう守っていくかの2つをいかに切り離して考え、フェアで公平な透明性のある組織にしていきたいと思っています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

今直面しているのが、10月からの東京への単身赴任の問題です。2年間のプログラムに参加するため、妻と出会う前以来およそ8年ぶりの単身での挑戦となります。

 

車椅子ユーザーである私には、単身赴任には多くの物理的障壁が立ちはだかっています。まず新米起業家としてランニングコストを抑えるために、家賃の低いシェアハウスなどに住みたいと思っていますが、シェアハウスの多くは2階建てです。そのため、単身赴任しようにも住居がなかなか見つからずに苦戦しています。

 

うまく住居が見つかったとしても、1人暮らしは大学生以来ですし、起業家として事業を推進しながら体調管理もしていかなくてはならず、課題は山積みという状態です。

 

こうした状況の中でも、外出が困難な人たちのきっかけになれるような存在であるために、公の役割はしっかり果たしたいのです。まずは長野から東京に向かう際には、私自身が「HELPUSH」のサービスを利用して、車椅子ユーザーの移動の課題を解決してみせたいと考えています。

 

 

支援してくれる人たちに「関わってよかった」と思ってほしい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私は今日に至るまで、非常に多くの方に支えられてきました。私を支援してくださる方々に「関わってよかった、応援してよかった」と思ってもらいたいというのが、今の私の唯一の原動力です。

 

今一緒にチームとして活動してくれている人、ブレインストーミングに付き合ってくださったり、伴走支援してくれていたりする方々、それに芸人時代やホスト時代の知り合いも、声をかけてくれることがあります。そうして私を支えてくださっている方々の顔を思い浮かべると、絶対に「関わって損をした」と思わせたくないと、気持ちが奮い立つのです。思ってほしくない、頑張りたいと思えます。

 

これからアプリを世に出していけば、アプリのユーザーさんをがっかりさせたくないと思うことでも頑張れるでしょう。これまで私が歩んできた道、そしてこれから進んでいく道で出会う人たちに「応援してよかった」と思ってもらえる会社、事業にしていきたいと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

起業したての段階でこんなことを言っては、スケールが大きすぎると思われるかもしれません。ただ、私が目指しているのは「HELPUSH」を1つの文化としてグローバルに広めていくことです。

 

「HELPUSH」というのはただの「助け合い」とは、ちょっと違います。たとえば「僕たちもHELPUSHします」のように使ってもらえることもあり、動詞や社会記号として自然に世の中に浸透させられるものなのです。

 

我々はこの「HELPUSH」の概念を日本からさらに広げていき、アジア各国、ゆくゆくはシリコンバレーの方までも届けていける企業を目指しています。そしてこれまで話した内容は現時点の考えられる範囲での事業内容なので、1ヶ月後に、HELPUSHのビジョンを社会に届けるもっと良い方法があれば思い切って舵を切るつもりです。状況は日々アップデートされるので、過去にとらわれず、臨機応変に目指していきたいです。

 

 

失敗を恐れず、一歩踏み出すことの素晴らしさ

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私が反対にアドバイスをいただきたいくらいなのですが、自分自身の経験から何か言えるとすると、何よりも「やってみてから考えればいい」ということだと思います。

 

実際に動き出してみれば、間違いや課題に気づけるようになり、感情だけでなく制度で整えていくというステップに進めます。そのためにまずは一歩踏み出してみることが大切で、私自身もっと早くに踏み出していればよかったと思うことは少なくありません。

 

家に引きこもっていたときには、妻が私を外に連れ出してくれて、そこから先は仲間や尊敬する経営者の先輩が色々な場面で助けてくれました。背中を押されて外に飛び出したことで、人生が大きく開けた今の私があります。

 

そのため、失敗を恐れず一歩踏み出すことの素晴らしさを、もっと多くの人に伝えたいと感じています。

 

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:寺田 ユースケ

 

寺田ユースケ(本名:寺田湧将) 株式会社HELPUSH 代表取締役CEO/車椅子YouTuber「寺田家TV」(登録者9.5万人) 

 

1990年、愛知県名古屋市生まれ。先天性の障害により車椅子ユーザー。関西学院大学卒業後、英国留学を経て、車イス芸人・ホスト・ヒッチハイク日本一周・YouTuberなど多彩な活動で注目を集める。CAMPFIRE勤務や長野移住を経て、2025年に外出支援スタートアップ「株式会社HELPUSH」を設立、CEOに就任。東京都主催ASACや寺田倉庫「Creation Camp TENNOZ」に採択され、活動の場を広げている。著書『車イスホスト。』双葉社

 

企業情報

 

法人名

株式会社HELPUSH

HP

https://helpush.co.jp/

設立

2025年4月15日

事業内容

  • 外出支援プラットフォームの企画運営
  • PR企画、クリエイティブ企画制作およびマーケティング支援事業
  • ユニバーサルツーリズム推進およびプロデュース事業
  • インクルーシブデザイン事業

 

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