合同会社ラク育 代表 奥山 星奈

週末限定の託児サービスや企業向けイベント託児を展開し、託児所カフェの立ち上げも控える合同会社ラク育。0歳から小学生までを預かれる柔軟な仕組みと、急な利用にも対応できる即応性を強みに、子育て世代の新しい選択肢を生み出しています。「託児をスタバ感覚に」という思いを掲げ、母親目線でサービスをつくり続ける代表の奥山星奈氏に、事業を始めた背景やこだわり、今後の展望について伺いました。

 

親の「休みたい」を叶える。スタバ感覚の託児所づくり

事業の内容をお聞かせください

私たちは、託児所カフェの立ち上げを目指し、現在はその前段階として、週末限定の託児とイベント託児の事業を展開しています。

 

週末託児は、東京都内を中心に既存のキッズスペースを活用し、土日・祝日のみお子さまをお預かりしています。

 

イベント託児は、企業や団体と連携し、セミナーを開催するときなど主催者のお子様をお預かりしています。また今後は、プロバスケットボールチームと連携し、スポーツ観戦と託児を組み合わせたトライアルも予定しています。

 

セミナーや勉強会、地域の交流会などの場で、お子さまをお預かりする需要は大きいと感じています。イベントは、夕方以降の開催が多く、参加したくても諦めてしまう方が少なくありません。そこで弊社が託児を提供することで、子育て中の方も安心して参加できる環境を整えています。

 

サービスの特徴は、生後2か月の0歳児から小学生まで幅広く受け入れていることです。また、利用目的は仕事に限らず、美容室に行く、1時間だけお茶を楽しむなど、リフレッシュのためにご利用いただくこともあります。

 

私は「託児をスタバ感覚に」とよく表現していますが、保護者が少し休みたいと思ったときに、 気軽に立ち寄れる存在でありたいと考えています。

 

そして2026年2月には、託児所カフェをオープンする予定です。商店街の中に出店し、少しだけ預けたいと思ったときに利用できる場所を目指しています。かつて公園で自然に生まれていたような親子同士の交流をカフェで再現し、学生やシニアなど地域の方々も気軽に立ち寄れる拠点にしていきたいと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私自身の子育ての際に心身ともに限界に近い日々を過ごしていた経験がきっかけになっています。そこで、もっと親が頼れる場所や選択肢を増やしたいと思ったことが、ラク育を立ち上げた動機になりました。

 

最初は保育園の立ち上げ方をスマホで調べるところからスタートし、渋谷区主催のシブヤスタートアップユニバーシティに一期生として参加しました。

 

当時はベンチャーキャピタルの存在すら知りませんでしたが、人生で初めてVCの前でピッチをする機会をいただきました。さらに渋谷区賞を受賞したことで、事業として成立する可能性があるかもしれないと自信につながりました。

 

この経験をきっかけに会社を退職し、保育士資格を取得しながら、現在の形である週末限定での託児事業にたどり着きました。

 

 

親子に寄り添う視点で届ける柔軟なサービス

仕事におけるこだわりを教えてください。

私が一番意識しているのは、スピード感です。お客さまの声やスタッフの発案を受けて、必要だと感じたことは、まずは形にしています。

 

もう一つのこだわりは、母親目線を忘れないことです。保育の現場では、安全面を理由に利用者の要望が通らないことも少なくありません。

 

弊社では、保護者にとって「本当に助かる瞬間」を大切にしたいと考えています。

 

ある日、急な体調不良で子どもを預けたいという保護者からの依頼がありました。その際、スタッフから「近隣であれば送迎を有料で引き受けるのはどうか」という提案があり、私たちはその案を保護者様に実際にご提案しました。

 

この提案に対し、保護者様からは大変感謝の言葉をいただき、無事に解決に至ったことに心から安堵しました。

 

安全を軽視するわけではありませんが、安全だけを優先するあまり、保護者にとっての利便性や親切さが欠けてしまうと感じています。だからこそ、私たちは大手の託児サービスでは難しい部分に挑み、柔軟さを大切にすることにこだわっています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

一番印象に残っているのは、法人化を目指して体制づくりを進めていたときのことです。代表である私のもとに、初めて運営周りも担ってくれるメンバーが加わり、役員として迎え入れる方向で準備を進めていました。

 

しかし、考え方に相違が生じてしまい、結果的に退くことになりました。

 

当時はちょうど保育実習の期間と重なり、深夜まで実習日誌と事業運営を両立させていたため、とても苦しい日々でした。しかし、人が抜けてしまった分、運命的な出会いもあり、現在のCOOはその時に出会った方々の一人で、一緒に事業を進めています。

 

また、これまでは自己資金で事業を黒字転換して運営してきましたが、今後はさらにまとまった資金が必要です。資金調達やテナント確保といった課題にも取り組んでいく必要があると考えています。

 

 

日常に寄り添う託児から、次世代に残したい未来へ

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私の原動力は、お客さまの笑顔です。初めて利用されたときは疲れ切った表情をしていた保護者の方が、当サービスを日常に取り入れてくださるようになると、親子で笑顔を見せてくれるようになります。

 

その変化に立ち会えることが、何よりの励みになります。

 

弊社では、託児中に子どもたちが楽しく過ごした会話や出来事をLINEでご報告していますが、ご家庭に帰ってからその話題で盛り上がることもあるそうで、少しでも笑顔になれる体験をしてもらえることがとても嬉しいです。

 

また、私自身が年子の子育てに苦しんだ経験から、同じ状況を次の世代に引き継ぎたくないと感じています。わが子の時代に同じ苦しみがなくなるようにしたいという思いもモチベーションになっています。

 

育児の大変さは、母や祖母の世代から変わっていません。核家族化も進み、ワンオペ育児の苦労があるからこそ、自分の子どもが将来親になったときには、スタバ感覚で託児所に子どもを預けることができる社会を実現したいと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

まずは念願だった託児所カフェを一店舗立ち上げることが直近の目標です。ただ、当社のミッションは託児所カフェを全国に展開することではありません。

 

実際に手応えを感じているのがポップアップ託児です。既存のキッズスペースを活用し、週末だけオープンする形は固定費を抑えられ、初期費用もわずかで始められます。今後は認可保育園や、日曜・祝日に使われていない施設とも連携し、空き時間や空きスペースを活用していきたいと考えています。

 

たとえば商業エリアでも、認可保育園は休日休園となるケースが多く、そうした施設を開放できれば、多くの親子にとって大きな助けになるはずです。週末や延長利用を希望する保護者と、稼働できる保育士や空き施設をつなぐプラットフォームをいずれは運営したいとの構想もあります。

 

また、潜在保育士の活躍支援にも力を入れていきます。主任や園長クラスまで経験を積んだ方でも、出産や育児との両立が難しく現場を離れてしまうケースは少なくありません。週1回からでも現場に戻れる環境を整え、子連れ出勤も可能にしています。

 

保育士が子どもを理由にもう一度働くことを諦めることがなくなるようにすることが、当社の使命のひとつだと感じています。

 

 

できない理由より、できる方法を探す

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私の場合、経営者になりたい思いよりも、自分が子育ての中で感じた課題を解決するための手段として起業しました。

 

自分に足りないスキルもありますが、仲間やスタッフに補ってもらえていると実感しています。大切なのは、できない理由を探すことではなく、どうすればできるかを考え、具体的に行動に移すことだと思います。

 

私が起業した最初の一歩は、一から声をかけ、挑戦することから始まりました。当初は不安や困難もありましたが、諦めずに続ける気持ちがあったからこそ、今のビジネスに繋がったと感じています。

 

起業には根気と強い意志が必要だと実感しており、この根性がなければ成り立たないと思います。だからこそ、まずはできることから一歩踏み出すことが非常に重要だと考えています。

 

企業や団体の皆さまへメッセージをお願いします

弊社は、必要なときに、即席で必要な分だけ託児の場をつくることを強みとしています。

 

通常の事業者では数日前までの予約が必要になることも多いですが、私たちは人員体制を厚くしているため、直前のご利用にも柔軟に対応できます。

 

イベント託児も規模を問わず対応しており、大型のセミナーから地域の集まりまで幅広くカバーしています。社会全体で子育てを支える思いに共感してくださる企業・団体の皆さまと、一緒に取り組んでいきたいと考えています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:奥山 星奈

桜美林大学卒業後、学生時代からの夢だった客室常務員として2016年に新卒で航空会社に勤務。結婚出産をきっかけに新経済連盟の事務局に従事。新経連の仕事を通して、活躍している起業家やメガベンチャーの経営者と日常的に接点をもてる環境だったことが影響し、産休育休中に感じた「子育て負をなくしたい」という想いで初めてアクセラレーションプログラム「Shibuya Startup University」に参加。渋谷区賞を受賞した経験から本格的に起業を考え始める。2024年3月会社員を辞め、同年4月に保育の専門学校に入学。平日は保育学生として通学しながら、週末起業的にラク育を立ち上げる。既存のキッズスペースを活用した週末営業の託児所を3か所運営中。今年4月に法人化し、企業や行政と連携しイベント託児事業も行っている。来年2月には本番事業である託児所カフェをオープン予定。

 

企業情報

法人名

合同会社ラク育

HP

https://rakuiku-fwb.jp/

設立

2025年4月

事業内容

育児支援サービス、託児運営、イベント託児等

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