【#533】遺伝子と腸内環境、2つの切り口から新たなヘルスケアを提案|代表取締役 山路 恵多(株式会社KEAN Health)

株式会社KEAN Health 代表取締役 山路 恵多
高精度かつ手頃な価格の遺伝子検査サービス「chat GENE(チャットジーン)」を提供する、株式会社KEAN Health。2025年9月からは、腸内細菌検査キットの販売も開始し、ヘルスケアの新たな形を提案する企業として注目されています。今回は代表取締役・山路恵多氏に、同社の詳しい事業内容や、今後の展望についてお聞きしました。
個人の生活に密着した、遺伝子検査のニュースタンダード
事業の内容をお聞かせください
現在の主な事業は、遺伝子検査キットの製造と販売です。
自宅で採取した検体を送付するだけで、400項目の検査結果が届き、スマホでいつでも確認できます。疾患リスクはもちろんのこと、肌や髪の質、ダイエットなど美容に関する傾向も把握でき、遺伝的な性格診断も可能です。
さらにグレードの高い検査サービス「chat GENE Pro」では、独自のアルゴリズム分析による100項目が加わり、より高精度で自身の健康リスクを知ることができます。また個々のデータに基づいたAIによるアドバイスのサービスも付いていて、より一層生活に密着した遺伝子データの活用が実現します。
「chat GENE」は18歳以上の方であれば誰でもお気軽に利用いただけますし、近年注目されている健康経営やWell-beingの観点から、法人向けにもサービスを展開しております。
我々は遺伝子検査のニュースタンダードとして、多くの人がライフスタイルを見直すきっかけになるようにと願って、この事業に取り組んでいます。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私が遺伝子の領域に乗り出したきっかけは、現在の医療用医薬品の業界に違和感を覚えたことです。
私はかつて製薬会社で営業やマーケティングを担っていたのですが、そもそも医療用医薬品が患者さんの手元に届く過程で、営業やマーケティングが作用していること自体、心のどこかで「歪」だと感じていました。
本来であれば、医薬品は科学的根拠によってのみ処方されるというのが正しいあり方です。既往歴や家族の病歴、遺伝子データなどを入力して、AIが適切な治療法と薬の選択肢を提示するという世界が実現すれば、20年後にはこの業界のコマーシャル部門は不要になるはずだと考えました。
そのような未来を想像したとき、私は「遺伝子」という切り口からそこにアプローチしたいと思い、遺伝子解析を専門とするバイオサイエンス企業に転職をしました。
その後クリニカル事業の立ち上げを提案し、さまざまな意見をいただきましたが、まず臨床のデータから入ってヘルスケアに接続するという自分自身の構想に従いました。
その事業が順調にいったことで、計画通りにヘルスケアの事業も立ち上げ、最終的には元の会社からスピンアウトする形で独立を果たしました。

強い組織をつくるために「戦略よりも人」
仕事におけるこだわりを教えてください。
組織を立ち上げるときには、必ず自分よりスキルや経験のある人を採用すると心に決めていました。強い組織をつくるうえでは、戦略以上に「誰とやるか」が重要だと考えていたからです。
たとえばクリニカル事業を始めたときには、大手企業で部長職を務めていた自分より一回り年上の方に、自分のチームに加わってほしいとお願いしました。
現在の事業を立ち上げたときも同じです。広告代理店で総括部長をされていた、私よりもはるかに経験豊富な方に参画してもらえないかをお願いしました。
もちろん、自分よりスキルや経験がある人を採用することには葛藤もあります。本来なら経営者である自分が一番優秀でなければいけないのではないか、と悩んだこともありました。
それでも、自分にしかない強みも必ずあると信じ、それぞれが得意分野を活かして補い合えば良いと考えるようになりました。
私はもともと起業家を目指して勉強してきたわけではありません。だからこそ、完璧な戦略を練るよりも、スキルや経験に秀でた人を仲間に迎えることを優先するという選択が、今の組織づくりにつながっているのだと思います。

起業から今までの最大の壁を教えてください
起業後に苦労したこととして、私個人の問題と、もう一つプロダクトに関するものの2つの側面があります。
私自身について言えば、経営者という立場に心構えがなかなか追いつかなかった、という課題がありました。大きな親会社のもとで事業を動かしていたこともあり、当初は一事業部長という感覚でいたのです。
しかし、その意識のままでは人がついてきませんし、事業を大きく成長させることもできないだろうと危機感がありました。だからこそ、自分なりに試行錯誤しながら経営者としてのマインドを培っていく必要があったのです。
これは私にとって大きな苦労のひとつでした。
プロダクトに関して言えば、どうすればユーザーに価値を認識してもらえるかというのが一つの壁でした。我々が提供する遺伝子検査キットは科学的価値という意味では疑いのないものですが、それを生活者にとっての価値に結びつけるのは簡単なことではありません。
やはり単なる検査キットとして売ることには限界があり、自分の遺伝子を調べたいという顕在的なニーズを取り込むだけに留まっていました。
それでは新しい市場を開くことはできないと考え、ユーザーの生活を変える体験として伝えていくことに発想をシフトしました。分かりやすいストーリーを設計し、ユーザーが「検査キットを使うことで生活がプラスに変わる」とイメージしやすいように工夫しました。

Well-beingに貢献するというミッションが原動力に
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
現在、企業のミッションとして「人々が幸せであり続けるためのWell-beingをデザインすること」を掲げており、これが活動の大きなモチベーションとなっています。
世間一般で言われるWell-beingとは、身体的・精神的・社会的という3つの観点で総合的に満たされている状態ですが、私個人の考えとして、これらをすべて満たすのは簡単なことではないと思うのです。
それよりも、もっと主観的な自分だけのWell-beingを定義することで、本当の意味での幸福の最大化が実現すると考えています。
そのためには、本来自分とはどういう人間なのかをまず知ることが大切です。だからこそ、遺伝子検査は立ち位置として、単に健康リスクを把握したり、面白半分で経験したりするものでなく、「Well-beingをデザインする」というより高い目的と結びついているのです。
我々が提供する遺伝子検査が、人々が自分だけのWell-beingを見つけて生き生きとした生活を送っていく助けになるという考えが、今の私の原動力です。

今後やりたいことや展望をお聞かせください
この9月に、新しいプロダクトとして腸内細菌の検査キットをリリースしました。
遺伝子は生涯変わらないものですから、遺伝子検査も受けるのは一生に一度です。それに対して腸内環境は、日々の食事や睡眠、運動などあらゆるものが反映されます。そのため、この腸内検査の新製品は定期的なモニタリングを目的としており、対象者のコンディション変化を詳細に把握して生活改善につなげていくものです。
こうした腸内環境の検査の事業は大手食品会社などでも開発が進められていますが、遺伝子検査を専門としてきた弊社のプロダクトは、腸内細菌をより細かな分類で見ることができるのが特徴です。
この腸内検査と遺伝子検査の2つの切り口から、ヘルスケアと医療をシームレスに繋いでいきたいというのが、我々が目指すゴールとなっています。
また会社全体の展望としては、将来的に完全にデータビジネスへ移行することになると思います。これまでの事業で得た遺伝子や腸内環境のデータを、いかにビジネスに繋げていくかの構想もいろいろな企業を巻き込んで着々と進めています。

苦しくても「自分が経営者である」というマインドを
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
早い段階で、自分が経営者であるというマインドを持つことが重要だと伝えたいです。
経営者のマインドを持つというのは、非常に難しいことです。というのも、経営者として何か発言をしても、様々なステークホルダーがいる関係で、発言したとおりに進まないことが頻繁に起きるのです。
発言した翌日には、もうそれが嘘になっていることもあります。そうすれば信頼も無くなりますし、経営者としての力を失うことにもなります。
周りからの影響があって叶わない可能性があることを十分に理解しつつ、それでも経営者として意志を持って事業を動かしていかなくては、そもそも事業をやる意味すら無くなってしまうのです。
だからこそ、困難な状況であっても経営者としてのマインドを持つことを意識してほしいと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:山路 恵多 氏
イギリスの大学を卒業後、外資系製薬会社や外資系総合コンサルティング会社にて勤務。その後バイオテクノロジー企業へ転職。新規事業開発部門の立ち上げを行い、クリニカル領域において次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析サービスの開発に従事。2023年に株式会社KEAN Healthを設立。
企業情報
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法人名 |
株式会社KEAN Health |
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HP |
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設立 |
2023年5月 |
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事業内容 |
遺伝子検査サービスの開発・提供 |
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