【#565】つなぐ、楽しむ。誰もが気軽に使えるWEBサービスでPTAの負担を軽減し、参加したくなる活動へ|代表取締役CEO 上田 真実子(株式会社Comunii)

株式会社Comunii 代表取締役CEO 上田 真実子
「PTAを、もっと前向きで参加しやすい場に」そんな想いから生まれた、PTA向けWebサービスを提供する株式会社Comunii(コミュニー)。今回は、自身もPTA活動を経験した上田真実子代表取締役CEOに、事業の立ち上げに込めた思いや今後の展望について伺いました。
保護者が参加したくなるPTAを目指して
事業の内容をお聞かせください
PTAの情報発信や運営をサポートするWebサービスを提供しています。
共働き家庭の増加や社会情勢の変化により、保護者がPTA活動に参加しづらくなっている中で、誰もが気軽に参加できる仕組みづくりを目的に立ち上げました。
具体的には、PTA役員の方が簡単に募集サイトを作成できる機能や、保護者が普段利用している公式LINEからスムーズに会員登録できる仕組みを整えています。
サービスを通して解決したい課題は大きく2つあります。
一つ目は、運営体制の偏りです。コロナ禍を経て、PTAの運営体制は大きく変化しました。以前は自動的に加入し、会費を支払うことが当たり前のPTAも数多くありましたが、現在は加入手続きの整備が進みました。
一方で、会長や副会長などのコアメンバーに負担が集中し、適切な運営体制を整えられず、批判が寄せられるケースが増えています。こうした背景から、「運営の偏りを解消したい」という声が多く寄せられています。
二つ目は、非効率な運営です。保護者への連絡に紙を使用するなど、DX化が進んでいないところがまだ多くあります。共働き世帯が増え、PTA活動に割ける時間が限られてきた中で、こうした非効率な仕組みが運営の大きな負担となっています。
当社では事業開発にあたり、100名以上のPTA役員にインタビューを行い、現場の悩みを徹底的にヒアリングしました。導入いただいたPTAでは、一般会員の参加頻度が高まったほか、役員募集においても活用が進んでいます。
結果として負担の分散が進み、役員の人数を減らしながらも、希望制によるスムーズなPTA運営に役立つプロダクトとなりました。PTA活動に対して、参加前は「やりたい」と答える方が0%というアンケート結果がある一方で、実際に役員を経験した方の約7割が「やってよかった」と感じているデータがあります。
このギャップを埋めるため、活動内容をわかりやすく紹介する専用サイトを、スマートフォンで簡単に作成できる機能を設けました。保護者が活動の意義や楽しさを理解した上で納得して参加できるよう、PTA活動の意義や魅力の見える化を進めています。
他社では連絡や名簿管理を中心としたツールが主流ですが、当社は保護者に活動の魅力を伝える仕掛けを軸に据えています。効率化だけでなく、PTA活動に納得し、関わりたくなる前向きなものへと変えていきたいと考えています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?
きっかけは、勤務先のドコモグループで参加者を募集していた社内起業制度への応募でした。新規事業開発スキルを身につけたいと思い、挑戦を決めました。
事業テーマを考える中で思い出したのが、私自身のPTAの経験です。やむを得ず欠席したところ、くじ引きで私が広報委員長の役を引き受けることになりました。
1年間続ける中で、印象は大きく変わりました。広報委員のメンバーと協力して広報誌を制作したり、学校行事を取材したりするうちに、心の支えになる仲間ができました。
特に運動会での取材の日は忘れられません。子どもたちの演技をカメラ越しに見ながら涙があふれてきて、隣で同じように涙ぐむ仲間がいて、共通の体験を得たことで親密になりました。
当時のメンバーとは今でも顔を合わせることがあり、少し話すだけでも心が軽くなります。子育てや仕事で悩むことがあっても、同じ経験を共有した仲間の存在が励みになっています。
こうした原体験から、当社のサービスも、単なる名簿管理や連絡ツールにとどまらず、PTA広報活動の支援もサービスの中に取り込んで設計しています。これまで紙の広報誌は年に数回しか発行できず、労力のわりに届けられる範囲が限られていました。
そこで、LINEやスマートフォンを活用し、PTA会員の募集やお手伝いの募集のタイミングも含めて、より手軽に、より多くの人に情報を届けられる仕組みを作りたいと考えたことが、事業の原点です。

誰もが使いやすい仕組みづくり
仕事におけるこだわりを教えてください。
当社のサービスは、特別なIT知識がなくても、子育てをしながら気軽に使えることを大切にしています。シンプルで、マニュアルを見なくても直感的に操作できる設計を心がけています。
実際に利用されている方の多くは、初回に簡単な説明を受けるだけで自然に使い始め、困ることがほとんどありません。中でも喜ばれているサービスは、お手伝いを募集する「お手伝い募集機能」と、LINEを通じて学年やクラスを絞り込んで必要な情報を届ける「お知らせ配信機能」です。
この機能があることで、学校で配られたプリントがランドセルの奥に埋もれてしまっていたというストレスもなく、保護者自身が確認できるようになりました。アンケートでも「使いやすい」というお声をいただいています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
大きく二つあります。一つ目は資金調達です。社内起業制度の仕組み上、外部からの出資を受けて独立しなければ事業化できないため、まずはVCを探すところから始まりました。
社会課題としての意義は理解してもらえても、「事業として成立するのか」「継続的に成長できるのか」という点で厳しい目が向けられました。事業の成長ストーリーを明確に描き、共感していただけるVCと出会うまでの道のりは、非常に苦労しました。
二つ目は、仕事・子育て・起業準備の三足のわらじを履く生活です。本業ではNTTドコモグループで、法務担当者として契約実務を担当し、家庭では子どもの生活を支えながら、その合間を縫ってVCを回っていたので心身ともにハードでした。
同じく本業をもつCOOとは、優先順位だけは間違えないようにしようという考えを共有していました。まずは自分と家族の心身の安全を第一優先とし、睡眠と食事の時間は必ず確保するようにしていました。
また、すべてを完璧にこなそうとせず、重要度の高いものから取り組み、優先順位の低いものは思い切って手放す判断もしました。大変ではありましたが、この事業は私にとって心から興味のあるテーマでした。
仕事も子育ても新規事業も、それぞれが互いに影響し合う関係にあり、興味を持てる領域だからこそ、安定した気持ちで取り組むことができたのだと思います。

つながりが原動力。子育てを楽しめる社会を広げていく
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
日々顔を思い浮かべる、子育て仲間の存在です。共働きで忙しい環境に身を置く方々の負担を少しでも減らしながら、子育てに楽しさを感じられるようにしたい、という思いが私を動かしています。
もう一つは、地域で見かける光景です。たとえば小学校の運動会に行くと、保護者だけでなく、地域の方々も足を運び、子どもたちが成長する姿を見て励みにしています。広い意味で子育てを楽しめる大人が増える社会にしていきたいという思いも原動力になっています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
これまで築いてきたPTA関係者とのネットワークを生かしながら、サービスの普及をさらに進めていきたいと考えています。事業構想の段階から、PTA協議会などハブとなる方々とのご縁をいただいており、そのつながりを大切にしながら広げていく予定です。
現在はPTA運営の支援を中心に取り組んでいますが、今後はその枠を超え、保護者や地域の方たちのライフステージにも寄り添う事業を展開していきたいと考えています。
子育てや地域活動を通じて生まれる人とのつながりを、より広く、より長く楽しめる事業を展開していくことが目標です。
考えすぎず、まずは飛び込む
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
あまり考え込みすぎず、ふと気づいた課題が起業の種になりやすいと感じています。考え込みすぎるとうまくいかないので、思いついたタイミングを大切にしてほしいです。
今はスタートアップの支援が非常に手厚いです。何かモヤモヤしている起業の種を見つけたら、アクセラレーションプログラムなどをうまく活用し、まず飛び込んでみることが大事だと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:上田 真実子氏
- 法学部卒業後、NTTドコモおよびグループ会社にて、法人営業、法務、広報、グローバルチームの予算管理を経験。
- 2児の母。PTA役員経験あり。
- 2023年12月に、自らのPTA役員経験を踏まえた本事業について、ドコモグループ内の新規事業創出コンテスト「docomo STARTUP CHALLENGE 2023」で、オーディエンス賞とBRONZE賞をW受賞
企業情報
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法人名 |
株式会社Comunii |
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HP |
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設立 |
2024年12月4日 |
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事業内容 |
PTA向けWebサービス「Comunii for PTA」の企画・開発・販売・運営 |
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