
株式会社デジロウ 代表者 池田 公也
SaaSやAIアプリケーションの開発で長年の実績がある株式会社デジロウ。同社が新たに開発したのが、医療現場の業務に特化したAIです。複雑な薬品名などの専門用語も理解し、スムーズに事務作業をこなすAIサービスに、病院からの期待も高まっています。今回は代表者の池田公也氏に、仕事におけるこだわりや進み続けるモチベーションについてお聞きしました。
医療業務に特化したAIが、医師の負担を軽減
事業の内容をお聞かせください
現在、弊社の事業の核となっているのは、病院向けのAI開発です。弊社には10年以上ソフトウェア開発を行ってきた実績があり、そのノウハウを活かして現在はAIの分野に注力しています。AIを活用することで、病院内の文書作成や情報の取得など、手間無く効率的に行えるサービスを新たに提供する予定です。
病院向けに特化したAIが必要な理由は、1つには医療従事者の働き方改革が挙げられます。医療従事者、特に医師は長時間勤務が当たり前の過酷な労働環境に置かれていて、彼らの抱えているタスクを早急に他へ振り分ける必要があるのです。
事務作業などはAIが担い、医師が患者とのコミュニケーションや、医療のコア業務に集中できる環境を作りたいと思っています。
こうした取り組みは、持続可能な社会保障制度の実現の観点においても重要です。人件費の高騰や将来的な保険制度の破綻を防ぎ、誰もが高度な医療を受けられる社会を維持するためにも、医療AIの発展は不可欠と言えるでしょう。
現時点で我々のシステムがサポートできるのは、医師や看護師の業務の中でも、主に事務作業の部分になります。具体的には、他の病院への紹介状のような文書の下書きや、病院職員からの質問に回答するチャットボットなどです。
AIは音声で話した内容を自動でテキスト変換してくれるため、タイプの手間も無くなり、業務負担を大きく減らすことができると病院の方々からも期待していただいています。
こうしたAIサービスは他の企業でも提供していると思いますが、医療の業務に特化しているのが弊社の強みです。我々のAIは病院と共同でシステムを開発しており、薬の名称など専門用語もスムーズに変換できるようチューニングされています。
現時点では、導入時にさらに各病院の専門性に合わせたカスタマイズが必要ですが、今後はすべての病院に対応できるAIの開発も検討しています。
また、将来的にはAIの機能や業務への適用範囲をさらに拡張していく予定です。事務作業だけでなく、診療に特化したAIなど様々な種類のAIを、医療現場に実装していくことを目指しています。
電子カルテシステムにAIがアクセスできるようにするなど、既存システムと連携させることでもAIの活躍の幅は一層広がるでしょう。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私の実家は建築系の事業を営んでおり、私も学生時代は家業を継ぐつもりで、建築の勉強をしていました。
その頃インターネットが登場し、そのあまりの便利さに衝撃を受けたのです。これからはITの時代になると確信し、建築の道は諦めて、ITの本場であるアメリカで学び直すことを決意しました。
アメリカ留学では、ITの知識と共に、スタートアップカルチャーとも言うべき現地の熱気を吸収することができました。当時の日本では今と違って起業は一般的な選択肢ではありませんでしたが、アメリカでは大学を卒業したら自分で会社を立ち上げるのは普通のことでした。日本とは異なる労働文化に魅了され、私もいつしか「起業」を視野に入れるようになりました。
帰国後3年間は会社勤めをして、その後独立してフリーランスとして5年間活動していました。医療の分野との出会いがあったのはその時です。3人程で活動している医療系スタートアップに、創業メンバーのような形で加わり、実際の病院や医療現場の課題を目の当たりにしました。
医療の分野は未だに紙や電話、FAXなどに依存していて、DXの遅れが目立ったのです。ここでITを活用できれば、非常に大きな変革を起こせるはずだと確信し、これをきっかけに「医療×IT」のビジョンを描くようになりました。
そして今、私が学生時代に経験したインターネットのように、AIが社会に大きなインパクトを与えようとしています。当時もその変化の波に乗って、Googleなどの新しい企業が一躍ビジネスの世界のトップに躍り出ました。
我々も「医療×AI」にフォーカスして、この機会をしっかりと掴みたいと考えています。

ITサービスを「国境を越えるビジネス」と捉える
仕事におけるこだわりを教えてください。
ITサービスを提供する企業として、日本国内に留まらず、あらゆる国と地域にサービスを届けたいという思いは持ち続けています。
ネットワークを通じて提供されるITサービスには、地理的な制約がありません。我々が日常的にアメリカ発のFacebookやAmazonを使っているように、日本のITサービスも海外に向けて提供することができるはずです。
しかし、現状では国内のスタートアップやベンチャー企業の多くは、こうしたITの特性を生かしきれていません。我々はITを「国境を越えるビジネス」と捉え、海外で利用されるサービスを開発することを目標に掲げています。
そのうえで、医療の領域に関わるものとして、安心・安全なサービスであることには特にこだわっています。安全性への配慮は、世界的にも日本が得意と認知されている分野です。
人の命にも関わる医療サービスでは、安心・安全に十分に配慮された「日本品質」のサービスは歓迎されるでしょう。
現状は、まず情報セキュリティやプライバシーの問題を重視したシステム設計を行っています。診療情報などは特にセンシティブな情報なので、現状での取り扱いは病院内のローカルネットワークのみに限定しました。
今後はクラウドでAIを使用する機会も増えると思いますから、クラウド環境でも安全に使える設計を検討しています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
コロナ禍での売上減は、会社の存続が危うくなるほどの出来事でした。
当時は医療向けAIサービスとはまったく無関係の、アンケートリサーチシステムを提供していました。展示会や街中でのイベント時のアンケート調査で使われるシステムなのですが、コロナ禍での外出自粛により、イベント自体が無くなってしまったのです。当然のことながら、この事業から上がる利益は実質ゼロになりました。
結果的には、補助金などを活用して会社は持ちこたえましたが、今のままの事業では成り立たないと考えさせられました。新規事業の必要性を痛感し、そこから業務支援のSaaSや、今の医療用AIシステムの開発に乗り出しました。
新型コロナウイルスの拡大は最大の壁でしたが、ある意味で今の事業へと結びつく最大の転機でもあったと思います。

変化の渦の中心で、主体的に世の中を動かしていきたい
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
世の中が大きく進化・成長するときに「自分が渦の中心にあって、主体的に世の中を動かしていきたい」という強い気持ちが、私のモチベーションになっています。
その背景にあるのは、私がまだ学生だったときのインターネットの登場です。それまでは大学の情報を調べたり、友人たちと連絡を取ったりするのにも、郵便や国際郵便が当たり前でした。それがインターネットが使えるようになって、それまで1ヶ月かかっていた調べ物や問い合わせが、ほんの一瞬でできるようになったのです。
今では「そんなこと当たり前」と思われるでしょうが、当時の私には衝撃的な経験でした。このとき「インターネットと同じくらいインパクトのある変化を、自分の手で作ってみたい」と感じたことが、今も私の原動力になっているのだと思います。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
現在の医療AI事業を成功させることは当然のこととして、私個人としては、次世代の人材育成にも貢献したいという思いを持っています。
今の時代、海外に留学する学生の数が少なくなっていると見受けられます。それはやはり円安の影響によって、私の時代のように気軽には留学できない事情もあるのでしょう。だからこそ、実際に海外留学を経験した私が、そこで得た知識や経験を若い人たちに手渡せるような活動をしていきたいと思うのです。
それによって留学を決意する学生が増え、さらにグローバルに活躍できる起業家の創出に繋がるようにと願っています。国が推し進める「スタートアップ育成5カ年計画」などもありますが、我々は実際にプレイヤーとして多くを経験してきましたし、今後はそれを活かして次世代を盛り上げていきたいです。

結果が出なくてもやり続けることで未来を拓く
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
一番大切なのは、結果が出なくてもやり続けることだと思います。
AIやインターネットのような新しいものは、世の中に広まるまでにかなり時間がかかります。そういった事業が数年で結果を出すのは、かなりのレアケースです。結果が出るまで10年かかることも珍しくありません。
ですから、結果が出ないからとすぐに諦めるのではなく、大きなテーマに取り組むときには長期的な視点を持つ必要があるでしょう。
これは、私が自分自身にも言い聞かせていることです。自分が本当にやりたい、大きなテーマがあるのであれば、10年や20年取り組むつもりでやるべきだと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:池田 公也 氏
ソフトウェア開発者、連続起業家。カリフォルニア大学サンディエゴ校でコンピューターサイエンスを専攻。卒業後、フリーランスのエンジニアを経て、2012年株式会社デジロウを設立。
企業情報
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法人名 |
株式会社デジロウ |
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HP |
https://www.digirow.com/ |
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設立 |
2012年6月1日 |
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事業内容 |
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