ENELL株式会社 代表取締役 赤石太郎

ENELL株式会社は、水道インフラのオフグリッド化(自給自足)を実現する企業です。空気から水を生み出し、河川水や雨水を特殊な膜の活用技術と電気殺菌技術によって、無菌・不純物ゼロの飲料水に変える独自技術を開発しました。すでに世界へ技術提供を行い、世界の水問題解決を目指しています。代表取締役の赤石太郎氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

 

空気から水を作り、新しい水道インフラを提供

事業の内容をお聞かせください

私たちは今、巨大浄水施設と配管ベースの水道インフラに依存せず、自分がいるその場所を水源に変える「水の自給自足(オフグリッド)」という未来を目指しています。このビジョンを実現するため、私たちは4つの核心的なテクノロジーを開発しました。

 

第一に、従来の常識を覆す「無排水」の浄化技術です。本来、不純物を徹底除去する逆浸透膜(RO膜)は、浄化の過程で廃棄水を排出しますが、当技術は排水を出さない仕組みを実現しました。

 

この特性により、排水処理が困難な場所や、移動体への装置搭載も可能にしています。また、逆浸透膜は世界で最も目の細かいフィルターであるため、現代の課題となっているPFAS(有機フッ素化合物)までも完全に除去します。

 

第二に、塩素などの薬品を一切使わない「電気によるバクテリア殺菌技術」。殺菌にはUV-Cなどが使われるケースが多いが、UVの光が当たらない場所には作用しないという課題があるが、この方式では死角となる箇所がないために、河川水なども入れても無菌状態に転換できる。

 

第三に、たとえ空気に触れる環境であっても、長期間菌を発生させない驚異的な「長期無菌保存技術」を確立しました。

 

第四に、「空気から水を生成する技術」です。これは、空気中の水蒸気を温度差と圧力によって液体へ転換するもので、いわば装置の中で、雲ができる原理を再現しています。

 

これらの4つ技術を搭載し、置くだけでオフグリットインフラになる製品を3種類マーケットに出しています。一番小型製品の「無限水」でも、川の水や雨水も1日最大600Lまで飲料水へ転換でき、さらに空気から1日最大33Lの水を作る能力を備えています。普段使いをしながら、災害時には河川水や雨水、プールの水などのあらゆる水を安全な飲み水へと変えることが可能です。

 

さらに、災害時の運用面における圧倒的な省電力性も大きな特徴です。「浄化・殺菌・無菌保存機能」のみの稼働であれば消費電力はわずか30Wに抑えられています。

 

これは、市販の1500Wh程度の蓄電池1台で約50時間の連続稼働ができる計算です。付属のソーラーパネルを用いれば、空の蓄電池も10数時間でフル充電が可能なため、2台の蓄電池を交互に運用することで、水の供給が途切れることのない完全な自立型インフラを実現できます。



災害懸念以外にも、日本には水に関連する様々な問題があります。配管の老朽化は深刻です。また、発がん性が指摘される(有機フッ素化合物)が全国の河川や水道から検出され、過疎地域では人口減少に伴う水供が懸念されています。



海外では急速な人口増加に伴う水不足、綺麗な水にアクセスできない人が4人に1人存在し、疫病の蔓延による大きな経済損失の原因にもなっています。このように、世界中が水問題に直面している中で、さらにAI普及によるデータセンターのサーバー冷却水需要の急増が発生してます。

 

これらの課題に正面から取り組んでいるのがENELLです。

 

現在、弊社の製品はBCP対策目的で企業のオフィスに設置され、自治体や個人宅まで幅広く活用されています。また、ビルの工事現場での夏場の熱中症対策、災害時の給水ポイントなどにも使用され、全国で累計4,000台以上が導入されています。

 

インフラ型の大きい装置は空気から1日最大5トンの水を作り出します。現在はハウスメーカーや不動産デベロッパー、ゼネコンと協業し、この技術をビルトインした建物の開発を進めています。

 

また、当社の技術は様々な産業への応用が期待されています。インフラがない場所での宿泊事業、無人島のホテル、トレーラーハウス、人工透析や血液分析などの医療機器のバックアップ水源、陸上養殖、農業など、幅広い分野で活用が進みます。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

事業を始めるきっかけは、幼少期の経験にあります。

 

幼少期は長く病院で生活していました。その経験から大人になったら命を救える医者になりたいと思っていました。しかし家庭の事情で医者の道を諦め、起業の道を選びました。

 

2007年頃、テレビで中国やロシアが雲に薬を撒いて雨を降らせているのを見たことがきっかけで、知人である発明家と雲ができる原理を応用した空気から水を作る技術の研究開発を始めました。

 

大きな転機は、カンボジアにおいて自費で井戸を掘っている中村哲医師のインタビューでした。「医療支援より綺麗な水を提供すれば病気にならなくなる。医者は病気を治す前に、病気にさせないことの方が重要だ」という言葉に衝撃を受けました。

 

医者でなくても、衛生的な水によって世界中の子どもたちの命を救えることに気付きました。汚い水が原因で亡くなる子どもたちは今も1日6,000人近くいます。綺麗な水を作り出す技術で多くの命を救い、国を豊かにできると考え、この事業展開に邁進しています。

 

 

答えの見えないことをやり続ける

仕事におけるこだわりを教えてください。

できるまで誰よりも泥臭くやり続け、絶対に諦めないことです。

 

当社の事業は、過去に前例がなく、参考にできるものもありません。見えないものに向かって突き進むのは恐怖を伴いますが、人生は一度きりなので、どこまでやれるか挑戦したいと考えています。

 

本来であればインフラ事業は、資本力のある大企業が取り組むべきテーマで、資金が乏しいスタートアップが挑む分野ではありません。

 

IT事業なら開発したプログラムのバグを、短時間で修正できますが、水のインフラは、試作機の設計から始まり、試作機を製造し、半年間以上テスト稼働させて評価し、そこからマーケットモデルの本設計、製造、テスト稼働を行なって、ようやく市場に出すことができます。

 

さらに製品化後も、時間が経って初めて様々な問題が見えてきます。答えの見えないことをやり続ける恐怖と戦うことが、最も大変なことですが、こだわりでもあります。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

大手企業しかいない業界で、今までにない壁をどう乗り越えるかが課題でした。しかし途中から、壁が見えないということは、壁がないのと同じではと考えるようになりました。

 

iPhoneを作ったスティーブ・ジョブスも電話のプロではなく、そこに壁がなかったからiPhoneが生まれたのだと考えました。

 

水の分野は上水、中水、下水の3つに分かれますが、上水(口に入れられる安全な水)をオフグリッドで提供できる技術も事業者も、まだ他には聞いたことがありません。

 

水の市場は130兆円規模と巨大ですが、これからの人口増加と途上国のインフラ改良によって、さらに拡大をします。そのうちの半分以上が上水分野です。1%のシェア獲得でも1兆円近い売上となります。これだけ大きな市場でありながらも、オフグリッドという「点」の事業には、大企業からの参入は難しいと思います。

 

インフラは大規模で長期的な「面」の事業に対して、我々は「点」の事業のため、緊急性が高い課題に短期間、低予算で着手できることが国内・海外にも大きななニーズがある非常に魅力的な市場です。

 

 

世界を良い方向に変えていきたい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私の原動力は、世界を少しでも良い方向に変えたいという思いです。人生は一度きりだからこそ、もし挑戦できる機会があるのであれば、迷わず手を伸ばしたいと考えています。

 

海外、特にアジアやアフリカの一部地域では、今なお非常に厳しい生活環境が存在しています。現地では、安全な飲み水が確保できないだけでなく、氷や生水を口にすることすら危険とされる場所も少なくありません。

 

こうした環境では、日常的な衛生管理が難しく、健康や生活の質に大きな影響を及ぼしています。

 

もし世界中の人々が、安心して水を使える環境を手に入れることができれば、衛生状態は大きく改善され、病気の予防や生活の安定につながっていくはずです。

 

どこまで実現できるのかは分かりませんが、その可能性を信じ、これからも挑戦を続けていきたいと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

世界中の水問題を全て解決することです。

 

海外展開からの関心も強く、ライセンス提供モデルでの展開を行います。現在、11カ国からオファーをいただいており、協議をすすめています。

 

国ごとに、環境や経済状況も異なるため、その国の課題にあったものを、その国で製造することで現地の雇用も生まれ、新たな産業化につながります。現在のアジア・アフリカ地域では生成的な水にアクセスできないことが原因で疫病が発生し、大きな経済損失の原因にもなっています。これを解決することで、その国のGDPが5%ほど上昇するという試算もあります。

 

今後、水が原因で戦争が懸念されてていますが、水問題の解決はすれば平和への貢献につながると考えています。

 

 

失敗しても逃げずにやり続ける

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

失敗を恐れず、まずはやってみることが大切だと思います。多くの人は失敗そのものを避けようとしますが、逃げずに向き合い、一歩踏み出せば、状況は少しずつでも前に進んでいきます。

 

人生は一度きりですし、挑戦した結果として失敗したとしても、実際に失うものは限られています。

 

得られる経験や学びのほうが、長い目で見れば大きな価値になることも少なくありません。だからこそ、過度に恐れず、自分の可能性を信じて挑戦してほしいと思います

 

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:赤石太郎 氏

慶応義塾大学卒業。学生時代にプログラム解析事業を起業。26歳で売却し、建築分野にて2度目の起業。リノベーション事業から不動産管理システム開発まで行う。38歳のときに「公益社団法人 東京共同住宅協会」に理事職として就任。災害被災者へ空室賃貸物件を提供するプロジェクトを担当。東日本大震災の被災者に避難住居を提供したことで、災害におけるリアルなインフラ問題を知る。2007年から現在の水事業の研究開発を開始。世界中の水問題の解決を目的とした水インフラオフグリット事業を世界に広げることが使命と思っている。

 

企業情報

法人名

ENELL株式会社

HP

https://enell.jp/

設立

2018年12月

事業内容

分散型オフグリッド水インフラ事業の開発・提供

 

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